StudyMed医師国家試験

食べていないのに太る―甲状腺機能低下症が教える「二次性肥満」の見抜き方

第100回医師国家試験 G問題 第86問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第86問

肥満をきたすのはどれか。

  1. a.肝硬変
  2. b.食道アカラシア
  3. c.アルコール依存症
  4. d.甲状腺機能低下症
  5. e.Zollinger-Ellison症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体重増加・肥満をきたす疾患を選ぶ問題だ。体重は「どれだけ食べて吸収したか」と「どれだけエネルギーを使ったか」のバランスで決まる。さらに水分などが体に貯まれば、それも体重に上乗せされる。選択肢を見るときは、摂取・吸収、エネルギー消費、体内への貯留の3つの観点で整理してみよう。
医学生医学生
肝硬変は腹水でお腹が膨らむので、体重が増える病気として選びたくなりました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいポイントだね。確かに非代償期の肝硬変では腹水で体重計の数字は増えることがある。でもそれは水分の貯留で、脂肪組織が増える肥満とは別物なんだ。むしろ肝臓での蛋白合成が落ち、食欲不振や吸収障害も加わって、筋肉が痩せていく低栄養状態に陥りやすい。
医学生医学生
消化器内科の実習で、お腹は大きいのに手足がすごく細い患者さんを見ました。あれがまさにそうなんですね。
ドクタードクター
その観察は大事だよ。体重だけでなく体組成を見る習慣をつけよう。では食道アカラシアはどうだろう。
医学生医学生
Auerbach神経叢の障害で下部食道括約筋が緩まない病気ですよね。食べ物が通らないなら、やせる方向だと思います。
ドクタードクター
その通り。嚥下困難や逆流で摂取量が減るから、典型的には体重減少をきたす。アルコール依存症も同じ方向だ。カロリーの多くを飲酒で賄って食事が減るうえ、胃腸粘膜障害や慢性膵炎、肝障害で栄養の吸収・利用が妨げられる。
医学生医学生
ビタミンB1欠乏でWernicke脳症になる、と精神科の講義で習いました。それも栄養障害の一つですね。
ドクタードクター
よく結びつけたね。Zollinger-Ellison症候群はどうかな。
医学生医学生
ガストリノーマで胃酸が出すぎて、難治性の潰瘍ができる病気です。下痢もあった気がします。
ドクタードクター
そう。大量の胃酸が小腸を酸性にして膵酵素を失活させるから、慢性下痢や脂肪便が起こる。潰瘍の痛みや出血も加わって、体重は減る方向に働くんだ。残るのが甲状腺機能低下症で、これが正解になる。
医学生医学生
代謝が落ちるから太る、というイメージですが、食欲も落ちるんじゃなかったでしたっけ。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。実際、食欲はむしろ低下することが多い。それでも体重が増えるのがこの病気の特徴だ。甲状腺ホルモンは全身の細胞の酸素消費と熱産生を高めて基礎代謝を支えているから、不足するとエネルギー消費が大きく落ちる。さらに皮下や組織間質にムコ多糖類が沈着して水分を抱え込み、圧痕を残しにくい粘液水腫を生じる。これも体重増加に寄与するんだ。
医学生医学生
つまり、消費が減ることと、ムコ多糖類と水が貯まることの二本立てで増えるんですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。ほかの症状として、寒がり、皮膚乾燥、便秘、徐脈、嗄声、アキレス腱反射の弛緩相遅延、無気力などがある。OSCEの神経診察で反射を取るときも、戻りがゆっくりなら頭の片隅に置いておくといい。
医学生医学生
ちなみに、肥満の原因になる病気はほかにどんなものがありますか。
ドクタードクター
肥満は、過食と運動不足による原発性肥満と、病気や薬が原因の二次性肥満に分けられる。二次性の代表は、中心性肥満や満月様顔貌を示すCushing症候群、低血糖を避けようと過食するインスリノーマ、視床下部の障害、Prader-Willi症候群など。薬剤ではステロイドやオランザピンなどの抗精神病薬、インスリンやスルホニル尿素薬も体重を増やしやすい。
医学生医学生
逆に、甲状腺機能亢進症や悪性腫瘍、コントロール不良の糖尿病は体重が減る側ですね。
ドクタードクター
そう、対にして覚えると整理しやすい。臨床で大事なのは、二次性肥満は原因を治療すれば改善しうる点だ。体重増加を「食べすぎ」と片付けず、むくみや寒がり、便秘がないかを問診し、必要ならTSHを測る。なお甲状腺機能低下症の体重増加は通常それほど大きくなく、ホルモンを補充すれば体重が減ることが多いよ。

まとめ

体重は摂取・吸収とエネルギー消費のバランス、そして体内への水分などの貯留で決まります。甲状腺機能低下症では基礎代謝の低下に加え、ムコ多糖類の沈着による粘液水腫が生じるため、食欲が落ちていても体重が増加し、二次性肥満の代表的な原因となります。一方、食道アカラシアは通過障害、アルコール依存症は摂取不足と吸収障害、Zollinger-Ellison症候群は難治性潰瘍と下痢によりやせの方向に働き、肝硬変の腹水による体重増加は体液貯留であって肥満ではありません。二次性肥満にはCushing症候群、インスリノーマ、視床下部性肥満、Prader-Willi症候群、ステロイドなどの薬剤性もあります。原因を治療すれば改善しうる二次性肥満を見逃さない視点は、日常診療で体重変化を評価するうえでの基本です。

解答・解説

正解はdです

体重増加・肥満をきたす疾患を選ぶ問題である。 体重は「摂取エネルギー」と「消費エネルギー」のバランス、さらに体液や組織間質に蓄積する物質の量によって決まる。したがって各選択肢について、(1) 食事摂取や消化吸収が妨げられるか、(2) 基礎代謝やエネルギー消費が増えるか減るか、(3) 水分やムコ多糖類などが体内に貯まるか、という観点で整理すると判断しやすい。 消化管の通過障害(食道アカラシア)、慢性的な栄養障害や吸収不良(アルコール依存症、肝硬変)、難治性潰瘍と慢性下痢(Zollinger-Ellison症候群)は、いずれも摂取・吸収の低下や消耗を通じて体重減少(やせ)の方向に働く。 一方、甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモン不足により基礎代謝が低下し、エネルギー消費が減る。さらに皮下などの間質にムコ多糖類(グリコサミノグリカン)が沈着して水分を抱え込み、粘液水腫(myxedema)と呼ばれる圧痕を残しにくい浮腫を生じる。食欲はむしろ低下することが多いにもかかわらず体重は増加するのが特徴であり、これが肥満をきたす疾患として選ばれる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    肝硬変では肝臓でのアルブミンなどの蛋白合成が低下し、食欲不振や消化吸収能の低下も加わって、筋肉量の減少を伴う蛋白・エネルギー低栄養状態(サルコペニアを含む)に陥りやすい。つまり体組成としてはやせの方向に進む。なお非代償期には腹水が貯留して腹部が膨隆し、見かけ上の体重が増えることがあるが、これは水分の貯留であり脂肪組織が増える肥満とは異なる。

  2. ×b.  食道アカラシア

    食道アカラシアは食道壁内のAuerbach神経叢(筋層間神経叢)の障害により、下部食道括約筋(LES)が嚥下時に弛緩しにくくなり、食道の蠕動も失われる疾患である。食物が胃へ送り込まれにくいため嚥下困難や食物の逆流が生じ、摂取量が減って体重減少をきたす。肥満とは逆方向である。

  3. ×c.  アルコール依存症

    アルコール依存症では、エネルギー源の多くを飲酒で賄って食事摂取が減ることに加え、アルコールによる胃腸粘膜の障害、慢性膵炎による膵外分泌機能低下、肝障害などで栄養素の吸収・利用が妨げられる。その結果、蛋白・エネルギー低栄養やビタミンB1(チアミン)欠乏などの栄養障害をきたし、体重は減少しやすい。

  4. ○d.  甲状腺機能低下症

    甲状腺ホルモンは全身の細胞の酸素消費と熱産生を高め、基礎代謝を維持している。このホルモンが不足すると基礎代謝とエネルギー消費が低下し、摂取量がむしろ減っていても体重が増える。加えて皮膚や組織間質にムコ多糖類が沈着して水分を保持し、粘液水腫を生じることも体重増加に寄与する。ほかに寒がり、皮膚乾燥、便秘、徐脈、嗄声、アキレス腱反射の弛緩相遅延、無気力などを伴うのが典型である。

  5. ×e.  Zollinger-Ellison症候群

    Zollinger-Ellison症候群は、膵臓や十二指腸に生じるガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)により胃酸が過剰に分泌される疾患である。再発を繰り返す難治性の消化性潰瘍(十二指腸や空腸など非典型的部位にもできる)による心窩部痛や吐血・下血に加え、大量の胃酸が小腸内を酸性にして膵酵素を失活させるため、慢性の下痢や脂肪便を生じる。これらにより体重は減少する方向に働く。

肥満の分類

肥満は、過食と運動不足を主因とする原発性(単純性)肥満と、特定の疾患や薬剤が原因となる二次性(症候性)肥満に分けられる。二次性肥満は原因の治療で改善しうるため、見逃さないことが重要である。

主な二次性肥満の原因

・内分泌性: 甲状腺機能低下症、Cushing症候群(中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩)、インスリノーマ(低血糖を避けるための過食)、成長ホルモン分泌不全症、性腺機能低下症、偽性副甲状腺機能低下症(Albright遺伝性骨異栄養症)など ・視床下部性: 視床下部の腫瘍・炎症・外傷による満腹中枢の障害 ・遺伝性: Prader-Willi症候群、Laurence-Moon-Bardet-Biedl症候群など ・薬剤性: 副腎皮質ステロイド、抗精神病薬(オランザピンなど)、インスリン、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬など

体重減少をきたす代表的病態

・摂取不足: 食道の通過障害(アカラシア、食道癌)、神経性やせ症、うつ病 ・吸収障害: 慢性膵炎、炎症性腸疾患、吸収不良症候群 ・代謝亢進: 甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、慢性感染症 ・その他: コントロール不良の糖尿病、副腎皮質機能低下症(Addison病)、褐色細胞腫

甲状腺機能低下症の体重増加の特徴

体重増加の程度は通常それほど大きくなく、増加分には脂肪だけでなく水分やムコ多糖類の沈着によるものが多く含まれる。甲状腺ホルモン補充で基礎代謝が回復すると、体重は減少することが多い。

POINT

・甲状腺機能低下症は基礎代謝の低下と粘液水腫により、食欲低下にもかかわらず体重増加をきたす。 ・二次性肥満の代表: 甲状腺機能低下症、Cushing症候群、インスリノーマ、視床下部性肥満、Prader-Willi症候群、薬剤性(ステロイドなど)。 ・食道アカラシア、アルコール依存症、肝硬変、Zollinger-Ellison症候群はいずれも摂取・吸収障害や消耗によりやせの方向に働く。 ・肝硬変の腹水による体重増加は体液貯留であり、肥満ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。