StudyMed医師国家試験

右と左で感覚が分かれる―交叉の位置が解き明かすBrown-Séquard症候群

第100回医師国家試験 G問題 第85問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第85問

一側下肢の運動麻痺,深部感覚障害と対側下肢の温痛覚障害とを生じるのはどれか。

  1. a.馬尾神経障害
  2. b.横断性脊髄障害
  3. c.中心性脊髄障害
  4. d.前脊髄動脈症候群
  5. e.Brown-Séquard症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脊髄のどこが障害されるとどんな症状が出るかを問う問題だ。注目してほしいのは、片側の下肢では運動と深部感覚、反対側の下肢では温痛覚と、左右で障害される機能が分かれていること。これを解くカギは、各伝導路が「どこで交叉するか」だよ。
医学生医学生
神経解剖の講義で伝導路は習いましたが、交叉の場所がいつも混ざってしまいます。
ドクタードクター
一緒に整理しよう。まず運動を担う外側皮質脊髄路、いわゆる錐体路はどこで交叉する?
医学生医学生
延髄の錐体交叉です。だから脊髄の中ではもう交叉した後で、同側の側索を下りてくる。
ドクタードクター
正解。だから脊髄で障害されると同側の運動麻痺になる。次に、振動覚や関節位置覚といった深部感覚を運ぶ後索-内側毛帯路は?
医学生医学生
後索を同側のまま上行して、延髄で交叉します。……ということは、脊髄レベルの障害なら深部感覚の障害も同側ですね。
ドクタードクター
そう。最後に温痛覚を運ぶ外側脊髄視床路。ここが最大のポイントだ。
医学生医学生
脊髄に入ってすぐ交叉するんでしたっけ。
ドクタードクター
後根から入って1〜2髄節上行する間に、中心管の前にある前白交連で交叉し、反対側の側索を上行する。つまり脊髄の中では、温痛覚だけが反対側の情報を運んでいるんだ。ここで脊髄の左右どちらか半分だけが壊れたら、どうなるかな。
医学生医学生
病変側では運動麻痺と深部感覚障害、反対側では温痛覚障害……まさに問題の症状です。脊髄半側障害、Brown-Séquard症候群ですね。
ドクタードクター
その通り。では他の選択肢がなぜ違うかも確認しよう。まず横断性脊髄障害。
医学生医学生
脊髄の断面全体が障害されるので、障害レベル以下の両側で運動も全感覚も障害されて、膀胱直腸障害も出ます。左右で感覚の種類が分かれることはないですね。
ドクタードクター
そう。外傷、横断性脊髄炎、腫瘍による圧迫などが原因になる。次は中心性脊髄障害。脊髄空洞症をイメージしてみて。
医学生医学生
中心管の周りが広がるから、そこを交叉する温痛覚線維が先にやられる……。でも、左右両方の線維が通るので両側性ですよね。
ドクタードクター
いいね。障害された髄節に一致して両側の温痛覚が帯状に失われ、その上下は保たれる「宙吊り型」の分布になる。後索は保たれやすいので深部感覚は残る。さらに外側脊髄視床路では仙髄由来の線維が最も外側にあるので、髄内病変が広がっても肛門周囲の感覚が残りやすい。これをsacral sparingという。頸髄の中心性損傷では、下肢より上肢の麻痺が強くなるのも特徴だ。
医学生医学生
前脊髄動脈症候群は、CBTの勉強で脊髄の血管支配図を何度も描きました。前脊髄動脈は腹側の約3分の2を栄養するんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。前角、錐体路、脊髄視床路が両側で障害されるので、両側の運動麻痺と温痛覚障害、膀胱直腸障害が出る。一方、後索は後脊髄動脈の栄養なので深部感覚は保たれる。大動脈解離や大動脈手術後などに急性発症することが多い。これも両側性で、左右に分かれるパターンではない。
医学生医学生
馬尾神経障害は、そもそも脊髄ではなく神経根の障害ですよね。
ドクタードクター
その通り。馬尾は脊髄円錐より下方の腰仙髄神経根の束で、末梢神経にあたる。神経根の段階では運動線維も感覚線維も交叉していないので、根の支配領域に一致した障害になり、左右で感覚の種類が解離することはない。サドル状の感覚障害、下肢の弛緩性麻痺と腱反射低下、膀胱直腸障害が典型で、腰部脊柱管狭窄症でみられる馬尾性の神経性間欠跛行もあわせて覚えておきたい。
医学生医学生
運動と深部感覚は同側、温痛覚は反対側。この原則さえ押さえれば解けるんですね。
ドクタードクター
そう。発展として、Brown-Séquard症候群では病変レベル自体にも所見が出る。後根の入力や前角が侵されるため、同側にその髄節の全感覚脱失の帯や、下位運動ニューロン障害を伴うことがある。病変より下の同側は錐体路障害なので、痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候陽性になるよ。
医学生医学生
原因としてはどんなものが多いんですか。
ドクタードクター
刺創などの外傷、髄外腫瘍などの圧迫性病変、椎間板ヘルニア、多発性硬化症などだ。ただ臨床では、教科書通りの純粋な半側障害はまれで、障害が両側に及ぶことも多い。それでも、運動麻痺と深部感覚障害は病変側に、温痛覚障害は反対側に強いという傾向を読み取れれば、病変の側と高さを推定して画像検査で確認する流れにつなげられる。

まとめ

脊髄では、運動(外側皮質脊髄路)と深部感覚(後索)は同側を、温痛覚(外側脊髄視床路)は前白交連で交叉した後に反対側を走行します。そのため脊髄の半側が障害されると、病変側の運動麻痺と深部感覚障害、反対側の温痛覚障害が生じ、これがBrown-Séquard症候群です。横断性障害では両側の全感覚・運動障害、中心性障害(脊髄空洞症など)では宙吊り型の両側温痛覚障害とsacral sparing、前脊髄動脈症候群では深部感覚が保たれる両側の運動・温痛覚障害を示し、馬尾障害は末梢神経障害として根の支配に一致した症状を呈します。実際の症例では純粋な半側障害はまれですが、伝導路の交叉部位を理解しておけば、症状の分布から病変部位を推定する神経診察の基本的な推論に応用できます。

解答・解説

正解はeです

脊髄の障害部位と症状の対応を問う問題である。設問の症状は「一側下肢の運動麻痺と深部感覚障害」+「反対側下肢の温痛覚障害」という、左右で障害される感覚の種類が分かれる(解離する)パターンである。 これを理解するには、脊髄内の主要な伝導路がどこで交叉するかを押さえる必要がある。 ・運動(外側皮質脊髄路=錐体路): 延髄の錐体交叉で交叉した後、脊髄では同側の側索を下行する。→脊髄で障害されると同側の運動麻痺。 ・深部感覚(振動覚・関節位置覚)と識別性触覚(後索-内側毛帯路): 後根から入ると交叉せずに同側の後索を上行し、延髄で交叉する。→脊髄で障害されると同側の深部感覚障害。 ・温痛覚(外側脊髄視床路): 後根から入ると1〜2髄節上行する間に前白交連で交叉し、対側の側索を上行する。→脊髄で障害されると対側の温痛覚障害。 したがって、脊髄の左右どちらか半分だけが障害されると、病変側では運動麻痺と深部感覚障害、反対側では温痛覚障害が生じる。これが脊髄半側障害、すなわちBrown-Séquard症候群である。両側性の障害や、特定の索路だけを選択的に侵す病変では、このような左右の解離は生じない。

選択肢考察

  1. ×a.  馬尾神経障害

    馬尾は脊髄円錐(成人ではおおむね第1〜2腰椎の高さで終わる)より下方の腰仙髄神経根の束であり、中枢神経である脊髄ではなく末梢神経に相当する。神経根の段階では運動線維も感覚線維も交叉していないため、障害は神経根の支配領域に一致した運動・感覚障害となり、左右で感覚の種類が解離することはない。症状としては会陰部(サドル状)の感覚障害や疼痛、下肢の弛緩性麻痺・腱反射低下、膀胱直腸障害が典型で、腰部脊柱管狭窄症では馬尾性の神経性間欠跛行を生じる。

  2. ×b.  横断性脊髄障害

    横断性脊髄障害は、あるレベルで脊髄の断面全体が障害される病態である。そのため障害レベル以下の両側で、運動麻痺(対麻痺・四肢麻痺)、全感覚(温痛覚・触覚・深部感覚)の障害、膀胱直腸障害が生じる。左右差をもって感覚の種類が分かれることはない。原因として外傷、横断性脊髄炎、腫瘍による圧迫などがある。

  3. ×c.  中心性脊髄障害

    中心性脊髄障害(脊髄空洞症、髄内腫瘍、頸髄の中心性損傷など)では、脊髄中心管の周囲を交叉する温痛覚線維(前白交連)が先に障害される。その結果、障害された髄節に一致した両側性の温痛覚障害が帯状に生じ、それより上下の感覚は保たれる「宙吊り型(宙づり型)」の分布をとる。後索は保たれやすく深部感覚は残るため、解離性感覚障害となる。また、外側の脊髄視床路では仙髄由来の線維が最も外側に位置するため、髄内病変が拡大しても肛門周囲の感覚が残りやすい(sacral sparing)。これは髄内病変を示唆する所見である。頸髄の中心性損傷では、下肢より上肢の運動麻痺が強くなる。いずれも両側性であり、設問の左右解離のパターンとは異なる。

  4. ×d.  前脊髄動脈症候群

    前脊髄動脈は脊髄の腹側約3分の2を栄養する。この血流が途絶すると、前角・側索(錐体路)・脊髄視床路が両側で障害され、障害レベル以下の両側の運動麻痺(対麻痺や四肢麻痺)、両側の温痛覚障害、膀胱直腸障害が生じる。一方、後索は後脊髄動脈で栄養されるため保たれ、振動覚・関節位置覚などの深部感覚は障害されない(解離性感覚障害)。障害は両側性で、発症は急性であることが多い。大動脈解離や大動脈手術後などが原因となる。左右で症状が分かれる設問のパターンとは異なる。

  5. ○e.  Brown-Séquard症候群

    Brown-Séquard症候群は脊髄の半側(左右どちらか半分)の障害である。障害側では錐体路が障害されて同側の運動麻痺(痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候)が生じ、後索が障害されて同側の深部感覚障害が生じる。一方、温痛覚を伝える脊髄視床路はすでに交叉した後の線維が走っているため、反対側の温痛覚障害が生じる。これは設問の症状とよく一致する。さらに病変レベルでは、後根の入力や前角が侵されることにより、同側の全感覚脱失の帯や下位運動ニューロン障害を伴うことがある。原因は外傷(刺創など)、脊髄髄外腫瘍などの圧迫性病変、椎間板ヘルニア、多発性硬化症などである。実際の症例では純粋な半側障害はまれで、障害が両側に及ぶことが多いが、錐体路障害と深部感覚障害は病変側に、温痛覚障害は反対側に強いことが特徴である。

脊髄の主な伝導路と交叉部位

・外側皮質脊髄路(運動): 延髄の錐体交叉で交叉 → 脊髄では同側の側索を下行 ・後索-内側毛帯路(深部感覚・識別性触覚): 脊髄では交叉せず同側の後索を上行 → 延髄で交叉 ・外側脊髄視床路(温痛覚): 脊髄に入って1〜2髄節上行する間に前白交連で交叉 → 対側の側索を上行

脊髄障害の型と症状

・横断性障害: 障害レベル以下の両側の運動麻痺・全感覚障害・膀胱直腸障害 ・半側障害(Brown-Séquard症候群): 同側の運動麻痺・深部感覚障害、対側の温痛覚障害 ・中心性障害(脊髄空洞症など): 宙吊り型の両側温痛覚障害、深部感覚は保たれる、sacral sparing ・前脊髄動脈症候群: 両側の運動麻痺・温痛覚障害・膀胱直腸障害、深部感覚は保たれる ・後索障害(亜急性連合性脊髄変性症、脊髄癆など): 深部感覚障害、Romberg徴候陽性、感覚性運動失調

円錐・馬尾障害

脊髄円錐障害ではサドル状感覚障害と膀胱直腸障害が主体で、下肢の運動麻痺は目立ちにくい。馬尾障害では神経根性の疼痛、下肢の弛緩性麻痺、腱反射低下が加わり、左右差を示すことも多い。いずれも末梢神経(下位運動ニューロン)障害の性質をもつ。

POINT

・脊髄では、運動と深部感覚は同側、温痛覚は反対側を走る ・同側の運動麻痺+深部感覚障害、対側の温痛覚障害 → Brown-Séquard症候群(脊髄半側障害) ・宙吊り型の温痛覚障害(深部感覚は保たれる) → 中心性脊髄障害(脊髄空洞症) ・両側の運動麻痺+温痛覚障害(深部感覚は保たれる) → 前脊髄動脈症候群 ・障害レベル以下の両側全感覚・運動障害 → 横断性脊髄障害

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。