紫斑があっても血は足りている―「貧血の3つの機序」で見抜く単純性紫斑
第100回医師国家試験 G問題 第82問
国試問題にチャレンジ
貧血を伴わないのはどれか。
- a.脾腫
- b.悪性腫瘍
- c.単純性紫斑
- d.骨髄異形成症候群
- e.遺伝性球状赤血球症
対話形式の解説
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医学生まとめ
貧血は「産生の低下」「破壊の亢進(溶血)」「喪失(出血)」の3つの機序で整理すると理解しやすくなります。骨髄異形成症候群は無効造血、遺伝性球状赤血球症は脾臓での血管外溶血、脾腫は脾機能亢進による血球破壊、悪性腫瘍は慢性炎症に伴う貧血・出血・骨髄浸潤・治療による骨髄抑制などで貧血をきたします。一方、単純性紫斑は小血管の脆弱性による皮膚内のごく少量の出血で、血小板数や凝固検査は正常であり、貧血は伴いません。ただしOsler病のように血管性でも出血を繰り返して鉄欠乏性貧血をきたす疾患もあるため、紫斑は血小板・凝固・血管の3分類とともに出血量の観点からも評価することが重要です。
解答・解説
正解はcです
貧血とは、血液中のヘモグロビン(Hb)濃度が基準値を下回った状態である(WHOの目安では成人男性13g/dL未満、成人女性12g/dL未満)。貧血が生じる機序は大きく次の3つに分けて考えると整理しやすい。
貧血の3つの機序
1. 産生の低下:造血幹細胞の異常(骨髄異形成症候群、再生不良性貧血)、骨髄への腫瘍浸潤、材料不足(鉄・ビタミンB12・葉酸)、鉄の利用障害(慢性炎症に伴う貧血)など。 2. 破壊の亢進(溶血):赤血球膜の異常(遺伝性球状赤血球症)、脾臓での過剰な捕捉・破壊(脾機能亢進症)など。 3. 喪失(出血):消化管出血、過多月経など。 本問では、各選択肢の病態がこの3つのいずれかに当てはまるかを考えればよい。脾腫・悪性腫瘍・骨髄異形成症候群・遺伝性球状赤血球症はいずれも上記の機序により貧血をきたしうる。一方、単純性紫斑は皮膚の小血管がもろいことによる皮下出血にすぎず、出血量はごくわずかで、血球数や凝固能にも異常がないため、貧血を伴わない。したがって正解はcである。
選択肢考察
- ×a. 脾腫
脾腫、特に門脈圧亢進症(肝硬変など)や血液疾患に伴う脾腫では、腫大した脾臓に血球が過剰にとどまり破壊される「脾機能亢進症」が起こる。その結果、赤血球が減って貧血を生じ、白血球減少や血小板減少を合併して汎血球減少を呈することも多い。貧血は通常、正球性正色素性である。したがって脾腫は貧血を伴いうる。
- ×b. 悪性腫瘍
悪性腫瘍では複数の機序が重なって貧血が起こる。代表的なのは慢性炎症に伴う貧血(ACD:anemia of chronic disease)で、炎症性サイトカイン(IL-6など)により肝臓でヘプシジンが増え、マクロファージなどに蓄えられた鉄が赤芽球へ供給されなくなる。このため血清鉄は低値、血清フェリチン(貯蔵鉄の指標)は正常〜高値となり、鉄欠乏性貧血(フェリチン低値)と区別される。そのほか、消化管癌などからの慢性出血による鉄欠乏、骨髄への腫瘍細胞の浸潤による造血障害、化学療法・放射線療法による骨髄抑制なども貧血の原因となる。したがって悪性腫瘍は貧血を伴いうる。
- ○c. 単純性紫斑
単純性紫斑は、主に若年〜中年の女性の下肢に、打撲の自覚なく小さな点状〜斑状の紫斑が繰り返し出現する疾患である。原因は明らかでないが、皮膚の小血管の壁がもろいこと(血管壁の脆弱性)が関与すると考えられている。血小板数、凝固系(PT・APTT)、出血時間などの検査はすべて正常で、紫斑は無治療で自然に消退する。出血は皮膚内のごく少量にとどまるため、貧血は生じない。よって本問の正解である。
- ×d. 骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(MDS:myelodysplastic syndromes)は、造血幹細胞に遺伝子異常が起こり、異常なクローンが増殖する疾患である。骨髄は正〜過形成であることが多いにもかかわらず、血球は成熟する途中でアポトーシスに陥り、末梢血へ十分に送り出されない(無効造血)。このため血球減少、特に貧血が高頻度にみられ、大球性貧血を呈することも多い。血球の形態異常(異形成:偽Pelger核異常、環状鉄芽球など)も特徴である。したがってMDSは貧血を伴う。
- ×e. 遺伝性球状赤血球症
遺伝性球状赤血球症(HS:hereditary spherocytosis)は、赤血球の膜骨格タンパク(スペクトリン、アンキリン、バンド3など)の遺伝的異常により、赤血球が柔軟性を失って球状になる疾患である。球状赤血球は脾臓の細い血管の網目を通り抜けにくく、脾臓で捕捉・破壊される(血管外溶血)。多くは常染色体顕性(優性)遺伝で、日本で最も多い先天性溶血性貧血である。貧血・黄疸・脾腫が三主徴であり、当然貧血を伴う。
紫斑をきたす疾患の整理
紫斑は皮膚・粘膜内への出血であり、原因は次の3つに分けられる。 1. 血小板の異常:免疫性血小板減少症(ITP)、白血病、再生不良性貧血など。点状出血が主体。 2. 凝固因子の異常:血友病、ビタミンK欠乏、DICなど。深部出血(関節内・筋肉内)や大きな斑状出血が多い。 3. 血管の異常:単純性紫斑、老人性紫斑、IgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)、壊血病(ビタミンC欠乏)、Osler病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)など。血小板数・凝固検査は原則として正常。 血管性の紫斑のうち、単純性紫斑と老人性紫斑は出血量が少なく、全身状態にも影響しないため貧血をきたさない。一方、Osler病は鼻出血や消化管出血を繰り返し、鉄欠乏性貧血をきたしうる点が異なる。
慢性炎症に伴う貧血(ACD)と鉄欠乏性貧血の比較
・血清鉄:どちらも低値 ・総鉄結合能(TIBC):鉄欠乏性貧血では高値、ACDでは正常〜低値 ・血清フェリチン:鉄欠乏性貧血では低値、ACDでは正常〜高値 悪性腫瘍では両者が合併することもある。
POINT
・貧血の機序は「産生低下」「破壊亢進(溶血)」「喪失(出血)」の3つで整理する。 ・脾腫→脾機能亢進による血球破壊(汎血球減少も)、悪性腫瘍→慢性炎症・出血・骨髄浸潤など、MDS→無効造血、遺伝性球状赤血球症→脾臓での血管外溶血。 ・単純性紫斑は血管壁の脆弱性による紫斑で、血小板・凝固検査は正常、貧血も起こさない。
