StudyMed医師国家試験

二つの機序で説明できるか―肝硬変の身体所見を「理屈」で仕分ける

第100回医師国家試験 G問題 第81問

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第100回 G問題 第81問

肝硬変でみられないのはどれか。

  1. a.黄疸
  2. b.腹水
  3. c.女性化乳房
  4. d.腹壁血管怒張
  5. e.表在リンパ節腫脹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肝硬変でみられない所見を選ぶ問題だ。肝硬変の症状はたくさんあって丸暗記しがちだけれど、実は二つの機序で整理するとすっきり理解できる。その二つが何か、思い浮かぶかな。
医学生医学生
肝臓の働きが落ちることと、門脈の圧が上がることでしょうか。
ドクタードクター
その通り。「肝機能の低下」と「門脈圧亢進」だ。肝硬変は、慢性的な肝障害で肝細胞の壊死と再生が繰り返され、線維化と再生結節で肝臓の構造が作り変えられた終末像。肝臓の仕事が減るうえに、硬くなった肝臓を血液が通りにくくなる。この二本柱で選択肢を一つずつ説明できるか試してみよう。まず黄疸は?
医学生医学生
肝細胞がビリルビンを取り込んで抱合して排泄する力が落ちるので、肝機能低下で説明できます。
ドクタードクター
正解。代償期ではあまり目立たないけれど、非代償期に入ると明らかになる。黄疸の程度は肝予備能を評価するChild-Pugh分類の項目にも入っているね。次は腹水。
医学生医学生
アルブミンが作れなくなって膠質浸透圧が下がるから、ですよね。
ドクタードクター
それも大事だけど、腹水は二本柱の両方が関わる所見なんだ。門脈圧亢進で腹部臓器の毛細血管内圧が上がるし、肝臓からのリンパ液も増えて漏れ出す。さらに内臓の血管が拡張して有効循環血漿量が減ると、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化され、腎臓でナトリウムと水が溜め込まれる。だから治療では塩分制限とスピロノラクトンのような抗アルドステロン薬が基本になるんだ。
医学生医学生
消化器内科の実習で、腹水穿刺を見学したときに指導医の先生が二次性高アルドステロン症の話をしていました。そういうつながりだったんですね。
ドクタードクター
いい経験をしているね。では女性化乳房はどうかな。
医学生医学生
これは正直、なぜ肝臓の病気で起こるのかピンと来ていなかったです。
ドクタードクター
男性でもアンドロゲンから末梢でエストロゲンが作られていて、普段は肝臓で代謝・不活化されている。肝硬変ではその不活化が落ちるから、相対的にエストロゲン作用が強くなる。その結果、女性化乳房、精巣萎縮、体毛の減少が起こり、同じ理屈で手掌紅斑やくも状血管腫も出る。つまりこれも肝機能低下の一部なんだ。
医学生医学生
解毒の延長と考えればいいんですね。腹壁血管怒張は門脈圧亢進のほうでしょうか。
ドクタードクター
その通り。門脈の流れが悪くなると、血液は肝臓を迂回して体循環に戻る側副血行路を作る。食道・胃静脈瘤や痔核もそうだし、肝円索の中の臍傍静脈が再開通すると、臍を中心に放射状に怒張した静脈が見える。これがメドゥーサの頭だ。
医学生医学生
OSCEの腹部診察の練習で、腹壁静脈の血流方向を確かめる方法を習いました。
ドクタードクター
それは鑑別にとても役立つ。門脈圧亢進では臍から遠ざかる遠心性の流れになるけれど、下大静脈閉塞だと下から上へ向かう流れになる。さて、最後に残った表在リンパ節腫脹はどうだろう。
医学生医学生
肝機能低下でも門脈圧亢進でも説明できない気がします。リンパ節が腫れるのは、感染症や癌の転移、悪性リンパ腫のようなときですよね。
ドクタードクター
その通り。だから肝硬変で「みられない」のは表在リンパ節腫脹だ。頸部や腋窩、鼠径部のリンパ節腫大は、感染症への反応、悪性腫瘍の転移、悪性リンパ腫や白血病、サルコイドーシスや膠原病などで起こるもので、肝硬変そのものの所見ではない。
医学生医学生
逆に、肝硬変の患者さんでリンパ節が腫れていたら、別の病気を探さないといけないということですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床での注意点だ。肝硬変で説明できない所見を見つけたら、肝細胞癌以外の悪性腫瘍や感染症、リンパ系疾患を疑って検索する。ほかにも押さえておきたい知識がある。門脈圧亢進で脾腫が起こると脾機能亢進になり、さらに肝臓でのトロンボポエチン産生も落ちるから、血小板減少は肝硬変の早い段階から出やすい重要なサインなんだ。
医学生医学生
血小板が少ない慢性肝炎の患者さんは線維化が進んでいる可能性がある、と講義で聞いたのはそのためですね。
ドクタードクター
そう。そして肝硬変は肝細胞癌の発生母地だから、定期的な画像検査と腫瘍マーカーの測定が欠かせない。終末期には肝性脳症、食道静脈瘤破裂、特発性細菌性腹膜炎、肝腎症候群といった合併症にも注意が必要だ。羽ばたき振戦を見たら肝性脳症を考える、というのも身体診察で大切なポイントだよ。
医学生医学生
所見を一つ見たら、肝機能低下と門脈圧亢進のどちらで説明できるか考える。どちらにも当てはまらなければ別の原因を探す。この考え方で整理します。

まとめ

肝硬変の症状・身体所見は「肝機能の低下」と「門脈圧亢進」の二つの機序で整理できます。肝機能低下ではビリルビン処理能の低下による黄疸、アルブミン合成低下による浮腫・腹水、凝固因子低下による出血傾向、エストロゲン不活化の低下による女性化乳房・手掌紅斑・くも状血管腫、解毒能低下による肝性脳症がみられます。門脈圧亢進では食道・胃静脈瘤、臍を中心とした腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、脾腫と血小板減少が生じ、腹水はRAA系の活性化も含めて両方の機序が関与します。表在リンパ節腫脹はどちらの機序からも説明できず、感染症や悪性腫瘍の転移、リンパ系腫瘍などを示唆するため、肝硬変患者で認めた場合は別の原因を検索する必要があります。所見を病態の仕組みに結びつけて理解することは、暗記の負担を減らすだけでなく、説明できない所見から隠れた疾患に気づく臨床力にもつながります。

解答・解説

正解はeです

肝硬変は、慢性的な肝障害によって肝細胞の壊死と再生が繰り返され、線維化と再生結節によって肝臓の構造が改築された終末像である。原因としてはB型・C型肝炎ウイルス、アルコール、非アルコール性脂肪性肝疾患(MASLD/NAFLD)、自己免疫性肝疾患などがある。 肝硬変で出現する症状・身体所見は、大きく二つの機序に整理すると理解しやすい。

1. 肝機能(合成・解毒・代謝)の低下

・ビリルビン処理能低下 → 黄疸 ・アルブミン合成低下 → 浮腫・腹水 ・凝固因子合成低下 → 出血傾向 ・エストロゲン不活化の低下 → 女性化乳房、手掌紅斑、くも状血管腫、精巣萎縮 ・アンモニアなどの解毒能低下 → 肝性脳症(羽ばたき振戦など)

2. 門脈圧亢進

・側副血行路の発達 → 食道・胃静脈瘤、腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、痔核 ・脾腫 → 汎血球減少(特に血小板減少) ・腹水の増悪 表在リンパ節腫脹は、上のどちらの機序からも説明できない。リンパ節が腫れるのは、感染症に対する反応、悪性腫瘍の転移、悪性リンパ腫などのリンパ系腫瘍、膠原病などの場合であり、肝硬変に特徴的な所見ではない。したがって「みられない」ものとして選ぶのは表在リンパ節腫脹である。

選択肢考察

  1. ×a.  黄疸

    みられる。肝細胞の障害によってビリルビンの取り込み・抱合・排泄が十分に行えなくなり、血中ビリルビンが上昇して皮膚や眼球結膜が黄染する。代償期では目立たないか軽度であることが多いが、非代償期に入ると明らかになり、肝不全や肝細胞癌の合併では高度の黄疸となる。黄疸の程度は肝予備能の評価(Child-Pugh分類の血清ビリルビン値)にも用いられる。

  2. ×b.  腹水

    みられる。非代償性肝硬変の代表的な所見であり、複数の機序が関与する。①アルブミン合成低下による血漿膠質浸透圧の低下、②門脈圧亢進による腹腔内臓器の毛細血管内圧の上昇、③肝臓で産生されるリンパ液の増加と肝表面からの漏出、④内臓血管の拡張による有効循環血漿量の減少がレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を活性化し、腎でナトリウムと水が貯留すること(二次性高アルドステロン血症)、などである。治療では塩分制限、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン)とループ利尿薬、トルバプタン、アルブミン補充などが用いられる。

  3. ×c.  女性化乳房

    みられる。男性でも副腎や精巣由来のアンドロゲンから末梢でエストロゲンが作られており、通常は肝臓で代謝・不活化される。肝硬変では肝での不活化が低下し、相対的にエストロゲン作用が優位になるため、男性で乳腺が発達する女性化乳房、精巣萎縮、体毛の減少などがみられる。同じ機序で手掌紅斑やくも状血管腫も生じる。なお、腹水治療に用いるスピロノラクトンも抗アンドロゲン作用により女性化乳房を起こしうる。

  4. ×d.  腹壁血管怒張

    みられる。肝硬変では肝内の血流抵抗が増して門脈圧が上昇し、門脈血は肝臓を迂回して体循環へ流れ込む側副血行路を発達させる。その一つが、肝円索内の臍傍静脈が再開通して臍周囲の腹壁静脈へ流れるルートであり、臍を中心に放射状・遠心性に怒張した静脈がみられる(メドゥーサの頭)。下大静脈閉塞による腹壁静脈怒張では血流が下から上へ向かうため、血流方向の確認が鑑別に役立つ。

  5. ○e.  表在リンパ節腫脹

    みられない(肝硬変に伴う所見ではない)。表在リンパ節(頸部、腋窩、鼠径部など)の腫脹は、細菌・ウイルスなどの感染症に対する反応性腫大、悪性腫瘍のリンパ節転移、悪性リンパ腫や白血病などのリンパ系・血液腫瘍、サルコイドーシスや膠原病などで生じる。肝機能低下や門脈圧亢進からは説明できない所見であり、肝硬変患者でこれを認めた場合は、肝細胞癌以外の悪性腫瘍や感染症、リンパ系疾患など別の原因を検索する必要がある。

代償期と非代償期

・代償期: 肝臓の構造は肝硬変に変化しているが、残った肝機能で日常生活が維持でき、自覚症状に乏しい時期。 ・非代償期: 肝機能の低下や門脈圧亢進によって、黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症、出血傾向、消化管出血(食道・胃静脈瘤破裂)などが出現した時期。

肝硬変の主な身体所見

・皮膚: 黄疸、手掌紅斑、くも状血管腫、皮膚の色素沈着、出血斑 ・内分泌: 女性化乳房、精巣萎縮、月経異常 ・腹部: 腹水、腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、脾腫、肝臓の萎縮(特に右葉)と辺縁の鈍化・硬化 ・神経: 羽ばたき振戦、意識障害(肝性脳症) ・その他: ばち指、下腿浮腫、筋肉量の減少(サルコペニア)

検査所見の特徴

血小板減少(脾機能亢進と肝でのトロンボポエチン産生低下)、アルブミン低下、プロトロンビン時間延長、総コレステロール・コリンエステラーゼ低下、ビリルビン上昇、アンモニア上昇、γグロブリン上昇、線維化マーカー(IV型コラーゲン7S、ヒアルロン酸、M2BPGiなど)の上昇、Fib-4 indexの上昇など。

予後・合併症

肝細胞癌の発生母地として重要であり、定期的な画像検査と腫瘍マーカー測定を行う。終末像として、肝不全、肝腎症候群、食道静脈瘤破裂、特発性細菌性腹膜炎、播種性血管内凝固(DIC)などがみられる。

肝予備能の評価

Child-Pugh分類は、血清ビリルビン、血清アルブミン、腹水、肝性脳症、プロトロンビン時間の5項目を点数化し、A・B・Cの3段階で評価する。

POINT

・肝硬変の所見は「肝機能低下」と「門脈圧亢進」の二つの機序で整理する。 ・肝機能低下: 黄疸、腹水・浮腫、出血傾向、女性化乳房・手掌紅斑・くも状血管腫(エストロゲン不活化低下)、肝性脳症。 ・門脈圧亢進: 食道・胃静脈瘤、腹壁静脈怒張(メドゥーサの頭)、脾腫・血小板減少、腹水。 ・表在リンパ節腫脹は感染症、悪性腫瘍の転移、リンパ系腫瘍などを示唆し、肝硬変の所見ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。