StudyMed医師国家試験

水が増えたら心臓が叫ぶ―体液量を減らすNa利尿ペプチドの仕組み

第100回医師国家試験 G問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第50問

体液量が増加すると血中で上昇するのはどれか。

  1. a.デヒドロエピアンドロステロンサルフェート〈DHEA-S〉
  2. b.カテコラミン
  3. c.バソプレシン
  4. d.レニン活性
  5. e.Na利尿ペプチド

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体液量が増えたときに血中で増えるホルモンを選ぶ問題だ。体液量の調節には「増やす(保持する)方向」と「減らす方向」の系があって、どちらに属するかを整理できれば一気に解ける。まずは、体液量を保持する方向に働く系を挙げてみようか。
医学生医学生
生理学の講義で習ったレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系と、バソプレシンですね。あと交感神経も血圧を保つ方向でしょうか。
ドクタードクター
その3つで合っている。どれも循環血液量の減少や血圧低下を感知して働く系だ。では、体液量が増えた状態では、これらはどうなるかな。
医学生医学生
負のフィードバックで抑えられるので…むしろ下がる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ひとつずつ確認しよう。レニンは腎臓の傍糸球体細胞から出るけれど、分泌の刺激は何だったかな。
医学生医学生
輸入細動脈の灌流圧低下と、緻密斑に届くNaClの減少、それから腎交感神経のβ1刺激です。CBTの前に必死で覚えました。
ドクタードクター
完璧だね。体液量が増えれば腎灌流圧もNaClの到達量も増えるから、レニン活性は低下する。後で話すANPもレニン分泌を抑える。次にバソプレシンは?
医学生医学生
バソプレシンは浸透圧で動くイメージが強くて、体液量とはあまり関係ないと思っていました。
ドクタードクター
主な刺激は確かに血漿浸透圧の上昇だ。ただ循環血液量の減少や血圧低下も、圧受容器を介した非浸透圧性刺激として分泌を増やす。体液量が増えればこの刺激が減り、心房の伸展受容器からの抑制も働くから、分泌は低下する。
医学生医学生
カテコラミンも同じ考え方で、圧受容器への伸展が増えれば交感神経が抑えられて、上がらないということですね。
ドクタードクター
そう。では、体液量を減らす方向に働くのは何だろう。
医学生医学生
Na利尿ペプチドです。名前の通りNaと水を尿に出させる…ということは、これが正解ですね。
ドクタードクター
正解。体液量が増えると静脈還流が増え、心房や心室の壁が引き伸ばされる。この伸展が直接の刺激となって、心房からはANP、心室からはBNPが分泌される。作用は糸球体濾過量の増加、集合管でのNa再吸収抑制、レニンとアルドステロンの分泌抑制、血管拡張だ。心臓自身が「水が多すぎる」と感じてホルモンを出していると考えるとわかりやすい。
医学生医学生
残りのDHEA-Sは副腎のアンドロゲンでしたよね。体液量とは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。DHEA-Sは副腎皮質の網状層でつくられる副腎性アンドロゲンで、ACTHの影響を受け、年齢によって変化する。体液量の調節系には属さないから、体液量の増加で上がることはない。
医学生医学生
BNPって「脳性」なのに心室から出るんですね。循環器内科を回ったとき、心不全の患者さんでBNPを毎回チェックしていました。
ドクタードクター
最初にブタの脳から見つかったから「脳性」の名前が残っているけれど、主な産生部位は心室筋だ。BNPやその不活性断片NT-proBNPは心不全の診断や重症度評価に広く使われる。腎機能が低下していても上がりやすい点には注意が必要だよ。
医学生医学生
心不全で体液が過剰なら、レニンは下がっているはずですよね。
ドクタードクター
そこが臨床の落とし穴なんだ。心不全では体全体の水は多くても、心拍出量が落ちて腎臓からみた有効循環血液量は減っているから、RAA系はむしろ亢進していることが多い。だから治療ではACE阻害薬やARB、さらにネプリライシン阻害薬とARBの合剤であるARNIが使われる。ネプリライシンはNa利尿ペプチドを分解する酵素だから、それを阻害してANPやBNPの作用を高めるという発想だね。急性心不全ではANP製剤のカルペリチドを使うこともある。
医学生医学生
「総体液量」と「有効循環血液量」を分けて考えないといけないんですね。
ドクタードクター
その通り。基本は「保持系は体液量減少で上がり、Na利尿ペプチドは体液量増加で上がる」。そのうえで病態ごとの例外を押さえておくと、検査値の読み方がぐっと深まるよ。

まとめ

体液量が増加すると静脈還流が増えて心房・心室の壁が伸展し、心房からANP、心室からBNPというNa利尿ペプチドが分泌されて、Na利尿・血管拡張・RAA系抑制により体液量を減らす方向に働きます。一方、レニン、アルドステロン、バソプレシン、カテコラミンは体液量減少や血圧低下で活性化する「保持系」であり、体液量増加ではむしろ低下し、副腎網状層由来のDHEA-Sは体液量調節に関与しません。BNPやNT-proBNPは心不全の診断・重症度評価に用いられ、ネプリライシン阻害薬を含むARNIやANP製剤のカルペリチドは心不全治療に応用されています。ただし心不全では有効循環血液量の低下によりRAA系が亢進していることが多く、総体液量と有効循環血液量を区別して考えることが大切です。体液量調節系を「増やす系」と「減らす系」に整理しておくことは、脱水や心不全の検査値を読み解く基盤になります。

解答・解説

正解はeです

体液量(とくに細胞外液量・循環血液量)は、からだが一定に保とうとする重要な量であり、増えすぎれば減らす方向、減りすぎれば保持する方向のホルモンが働く。本問は、体液量が増加したときに「どのホルモンが増えて、どれが減るか」を問うている。 体液量を保持する(増やす)方向に働く系: レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)、バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)、交感神経系(カテコラミン)。これらは循環血液量の減少や血圧低下を感知して活性化する。したがって体液量が増加した状態では、負のフィードバックにより抑制され、血中濃度はむしろ低下する。 体液量を減らす方向に働く系: ナトリウム利尿ペプチド(心房性ナトリウム利尿ペプチド〈ANP〉、脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉)。体液量が増えると静脈還流が増えて心房・心室の壁が引き伸ばされ、この伸展刺激によって心筋細胞から分泌される。腎臓でのNa・水の排泄を促し、体液量を元に戻そうとする。 このように「体液量の増減を感知する場所」と「そのホルモンが体液量をどちらへ動かすか」を整理すれば、体液量増加で上昇するのはNa利尿ペプチドであると判断できる。DHEA-Sのように体液量の調節系に属さないものは、そもそも体液量の変化で大きく動かない。

選択肢考察

  1. ×a.  デヒドロエピアンドロステロンサルフェート〈DHEA-S〉

    DHEA-Sは主に副腎皮質の網状層で産生される副腎性アンドロゲンで、テストステロンやエストロゲンの前駆体となる。分泌はACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の影響を受け、年齢とともに変化する(思春期前後に上昇し、成人期以降は加齢とともに低下する)が、体液量の調節には関与せず、体液量の増加によって上昇することはない。

  2. ×b.  カテコラミン

    カテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン)は副腎髄質や交感神経終末から放出される。循環血液量の減少や血圧低下を動脈圧受容器が感知すると交感神経が興奮し、血管収縮・心拍数増加などで循環を維持しようとする。体液量が増加して圧受容器への伸展刺激が増す状態では、交感神経活動はむしろ抑制され、カテコラミンは上昇しない。なお、カテコラミン過剰(褐色細胞腫など)では血管収縮により血管内容量が相対的に減少しているため、腫瘍摘出後には急激な血管拡張による低血圧を防ぐ目的で十分な補液が必要となる。

  3. ×c.  バソプレシン

    バソプレシン(ADH)は下垂体後葉から分泌され、腎集合管の水の再吸収を促して体内に水を保持させるホルモンである。主な分泌刺激は血漿浸透圧の上昇であり、次いで循環血液量の減少・血圧低下(圧受容器を介する非浸透圧性刺激)やアンジオテンシンⅡでも分泌が増える。体液量が増加した状態では、これらの刺激が減るうえ心房の伸展受容器からの抑制も働くため、分泌は低下する。

  4. ×d.  レニン活性

    レニンは腎臓の傍糸球体装置(輸入細動脈の傍糸球体細胞)から分泌され、RAA系の起点となる。分泌を促すのは、輸入細動脈の灌流圧低下、緻密斑に届くNaCl量の減少、腎交感神経(β1受容体)刺激であり、いずれも循環血液量の減少時に起こる。体液量が増加すれば腎灌流圧とNaCl到達量が増え、さらにANPもレニン分泌を抑えるため、血漿レニン活性は低下する。

  5. ○e.  Na利尿ペプチド

    Na利尿ペプチドには主に心房から分泌されるANPと、主に心室から分泌されるBNPがある。体液量が増えると心房・心室への静脈還流が増え、心筋が引き伸ばされる(壁伸展・内圧上昇)ことが直接の分泌刺激となるため、血中濃度が上昇する。作用は、糸球体濾過量の増加、腎集合管でのNa再吸収抑制によるNa利尿・利尿、レニン・アルドステロン分泌の抑制、血管拡張であり、増えた体液量を減らす方向に働く。心不全や腎不全による体液過剰で高値となり、BNP・NT-proBNPは心不全の診断・重症度評価に用いられる。

体液量調節にかかわる主なホルモン

・RAA系: 体液量減少で活性化。アンジオテンシンⅡは血管収縮・アルドステロン分泌促進・口渇・ADH分泌促進をもたらし、アルドステロンは集合管でNa再吸収(とK・H分泌)を促す。 ・バソプレシン(ADH): 浸透圧上昇で強く、体液量減少でも分泌される。集合管のV2受容体を介してアクアポリン2を管腔側膜に移動させ、水の再吸収を増やす。 ・交感神経系(カテコラミン): 血圧・循環血液量低下を圧受容器が感知して亢進する。 ・Na利尿ペプチド(ANP・BNP): 心房・心室の伸展で分泌。上記3系と拮抗し、体液量を減らす。

ANPとBNPの比較

・ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド): 主に心房筋で産生され、心房の伸展で分泌される。半減期が短い。治療薬としてカルペリチドが急性心不全に用いられる。 ・BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド): 最初にブタの脳から見つかったため「脳性」の名があるが、主な産生部位は心室筋である。心室の壁応力の増大で産生が増える。前駆体から切り出される不活性断片NT-proBNPとともに、心不全の診断・予後評価のバイオマーカーとして広く測定される。腎機能低下でも上昇しやすい。 ・両者はネプリライシン(中性エンドペプチダーゼ)で分解される。ネプリライシン阻害薬(サクビトリル)とARBの合剤(ARNI)は慢性心不全の治療に用いられる。

体液量の状態と検査値の傾向

・体液量過剰(心不全、腎不全、過剰輸液など): ANP・BNP上昇、レニン活性・アルドステロン低下(ただし心不全では有効循環血液量低下によりRAA系が亢進していることが多い点に注意)。 ・体液量減少(脱水、出血など): レニン活性・アルドステロン・ADH・カテコラミン上昇、ANP・BNP低下。

POINT

・体液量増加 → 心房・心室の伸展 → ANP・BNP(Na利尿ペプチド)分泌増加 → Na利尿・血管拡張・RAA系抑制で体液量を減らす。 ・レニン、アルドステロン、バソプレシン、カテコラミンは体液量減少で上昇する「保持系」であり、体液量増加では低下する。 ・ANPは主に心房、BNPは主に心室から分泌される。BNP・NT-proBNPは心不全のマーカー。 ・DHEA-Sは副腎網状層由来のアンドロゲンで、体液量調節とは無関係。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。