片脚で立つと骨盤が落ちる?―中殿筋とTrendelenburg徴候の力学
第100回医師国家試験 G問題 第49問
国試問題にチャレンジ
片脚立位時に骨盤支持に最も重要な筋はどれか。
- a.内転筋
- b.中殿筋
- c.縫工筋
- d.半膜様筋
- e.大腿三頭筋
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
片脚立位では立脚側の股関節を支点として、体重が骨盤を遊脚側へ傾けようとするため、これに対抗する立脚側の股関節外転筋、特に中殿筋(上殿神経支配、腸骨翼外面から大転子へ)が骨盤を水平に保つ主役となります。内転筋は逆向きの作用、縫工筋は外転作用が弱く、半膜様筋は股関節伸展・膝屈曲の筋であり、大腿三頭筋という筋は存在しません。中殿筋の機能不全では遊脚側の骨盤が下がるTrendelenburg徴候が現れ、代償として体幹を患側へ傾けるDuchenne歩行がみられます。原因には発育性股関節形成不全、上殿神経麻痺、変形性股関節症などがあり、健側での杖使用は外転筋と股関節の負担軽減に役立ちます。筋の作用をてこの原理で理解しておくことは、歩容の観察やリハビリテーションの指導にも直結します。
解答・解説
正解はbです
片脚で立つと、体重を支える脚(立脚側)の股関節が支点となり、反対側(遊脚側)の骨盤と体幹の重みがこの支点を中心に骨盤を遊脚側へ傾けようとする。これに対抗して骨盤を水平に保つには、立脚側の股関節で「大腿骨に対して骨盤を外側へ引き寄せる」力、すなわち股関節外転筋群の収縮が必要になる。 股関節外転筋群の主役は中殿筋であり、小殿筋と大腿筋膜張筋がこれを補助する。中殿筋は腸骨翼の外面から起こり、大腿骨の大転子に付着する。片脚立位では、大腿骨側を固定点として骨盤側を引くことで、遊脚側の骨盤が下がらないように支えている。 したがって、設問の「片脚立位時に骨盤支持に最も重要な筋」は、股関節外転の主動作筋である中殿筋である。この筋の機能不全は、臨床的にはTrendelenburg(トレンデレンブルグ)徴候として現れる点も合わせて押さえておきたい。
選択肢考察
- ×a. 内転筋
内転筋群(長内転筋・短内転筋・大内転筋・恥骨筋・薄筋)は恥骨・坐骨から起こって大腿骨の内側(粗線など)に付着し、大腿を体の正中へ引き寄せる(内転させる)。片脚立位で骨盤が遊脚側へ落ちるのを防ぐには、反対の作用である外転が必要であり、内転筋は骨盤を水平に保つ主役ではない。
- ○b. 中殿筋
中殿筋は腸骨翼外面から起こり大腿骨大転子に停止する、股関節外転の主動作筋である(支配神経は上殿神経)。片脚立位では立脚側の中殿筋が収縮し、大転子を固定点として骨盤を引き下げる方向に働くことで、遊脚側の骨盤が下がるのを防ぎ、骨盤を水平に保つ。中殿筋の筋力低下や、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)などで大転子が高位となり筋が有効に働けない状態では、片脚立位で遊脚側の骨盤が下降するTrendelenburg徴候が陽性となる。
- ×c. 縫工筋
縫工筋は上前腸骨棘から起こり、大腿前面を斜めに横切って脛骨近位内側面に停止する人体で最も長い筋である(大腿神経支配)。股関節の屈曲・外転・外旋と膝関節の屈曲・内旋に働き、薄筋・半腱様筋とともに鵞足を構成する。股関節外転作用は弱く、片脚立位で骨盤を水平に保つ主たる筋ではない。
- ×d. 半膜様筋
半膜様筋は坐骨結節から起こり、脛骨内側顆の後内側に停止するハムストリングスの一つである(坐骨神経の脛骨神経部支配)。作用は股関節の伸展と膝関節の屈曲・内旋であり、骨盤の前後方向の傾きには関与し得るが、片脚立位で骨盤の左右方向の傾き(遊脚側の下降)を防ぐ主役ではない。なお鵞足を構成するのは縫工筋・薄筋・半腱様筋であり、半膜様筋は鵞足には含まれない。
- ×e. 大腿三頭筋
大腿三頭筋という筋は存在しない。「三頭筋」の名をもつ下肢の筋は下腿三頭筋(腓腹筋の内側頭・外側頭とヒラメ筋)であり、足関節の底屈に働く。大腿にあるのは大腿四頭筋(大腿直筋・外側広筋・中間広筋・内側広筋)と大腿二頭筋であり、名称の取り違えを狙った選択肢である。
片脚立位の力学
片脚立位では、立脚側の股関節(大腿骨頭)を支点としたてこが成り立つ。体重は支点の内側(遊脚側寄り)にかかり、骨盤を遊脚側へ傾けようとするモーメントを生む。これと釣り合うのが、支点の外側にある股関節外転筋(主に中殿筋)の張力である。体重のかかる点までの距離に比べて外転筋のてこの腕は短いため、外転筋は大きな力を出す必要があり、その結果股関節には体重の数倍の荷重がかかる。杖を患側と反対の手に持つと、この外転筋の負担と股関節への荷重を減らすことができる。
Trendelenburg徴候とDuchenne(デュシェンヌ)歩行
Trendelenburg徴候: 患側で片脚立位をとらせると、健側(遊脚側)の骨盤が下がる現象。股関節外転筋の筋力低下または機能不全を示す。 Trendelenburg歩行: 歩行時に患側の立脚期ごとに反対側の骨盤が下がる歩容。 Duchenne歩行: 骨盤の下降を代償するため、患側の立脚期に体幹を患側へ傾ける歩容。体幹を傾けて重心を支点に近づけ、外転筋に必要な力を減らしている。
Trendelenburg徴候をきたす主な原因
・発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼): 大転子が高位となり中殿筋の起始と停止が近づいて筋が弛み、有効な張力を出せない。 ・上殿神経麻痺: 中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋が麻痺する。殿部への筋肉注射などが原因となり得る。 ・変形性股関節症、大腿骨頸部骨折後など、股関節の疼痛や頸体角の変化で外転筋のてこが短くなる病態。 ・筋ジストロフィーなどの筋疾患による近位筋の筋力低下。
股関節の主な運動と筋
・屈曲: 腸腰筋(主動作筋)、大腿直筋、縫工筋 ・伸展: 大殿筋、ハムストリングス(半腱様筋・半膜様筋・大腿二頭筋長頭) ・外転: 中殿筋(主動作筋)、小殿筋、大腿筋膜張筋 ・内転: 長内転筋・短内転筋・大内転筋、薄筋、恥骨筋 ・外旋: 梨状筋などの深層外旋六筋、大殿筋
鵞足
脛骨近位内側面に並んで停止する縫工筋・薄筋・半腱様筋の腱を鵞足と呼ぶ。これらの腱と脛骨の間の滑液包炎(鵞足炎)は膝内側痛の原因となる。
POINT
・片脚立位で骨盤を水平に保つのは立脚側の股関節外転筋であり、その主役は中殿筋(上殿神経支配、腸骨翼外面から大腿骨大転子へ)である。 ・中殿筋の機能不全 → 片脚立位で遊脚側の骨盤が下がる(Trendelenburg徴候)。代償として体幹を患側へ傾ける歩容がDuchenne歩行である。 ・原因の代表は発育性股関節形成不全、上殿神経麻痺、変形性股関節症など。 ・大腿三頭筋は存在しない(下腿三頭筋・大腿四頭筋・大腿二頭筋と区別する)。
