内か外か、上か下か―穿刺手技を支える脈管の「位置関係」
第100回医師国家試験 G問題 第40問
国試問題にチャレンジ
脈管の走行で正しいのはどれか。
- a.内頸静脈は総頸動脈の内側を走行する。
- b.鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を走行する。
- c.胸管は右鎖骨下静脈に合流することが多い。
- d.肋間動脈は肋骨上縁を走行する。
- e.大腿静脈は大腿動脈の外側を走行する。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
頸動脈鞘の中では総頸動脈が内側・内頸静脈が外側を走り、鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間で前斜角筋の前を、鎖骨下動脈は前斜角筋の後ろを通ります。胸管は乳び槽から後縦隔を上行して左静脈角に注ぎ、下半身と左上半身のリンパを集めるため、腹部悪性腫瘍のVirchow転移は左鎖骨上窩に現れます。肋間の血管・神経は肋骨下縁の肋骨溝を上から静脈・動脈・神経(VAN)の順に走るので、胸腔穿刺は肋骨上縁から行い、鼠径部では内側から大腿静脈・大腿動脈・大腿神経の順に並びます。これらの位置関係は中心静脈カテーテル挿入や胸腔穿刺の安全な実施と、動脈誤穿刺・気胸・乳び胸などの合併症予防に直結するため、手技の場面と結びつけて理解しておくことが重要です。
解答・解説
正解はbです
本問は、頸部・胸部・鼠径部の主要な血管やリンパ管の位置関係を問う解剖学の問題である。これらの位置関係は解剖学の知識として重要なだけでなく、中心静脈カテーテル挿入(内頸静脈・鎖骨下静脈・大腿静脈穿刺)、胸腔穿刺、動脈穿刺などの手技を安全に行うための基礎となる。 考え方としては、各部位で「どの構造が内側・外側・上・下にあるか」を手技と結びつけて覚えておくとよい。 ・頸部:総頸動脈が内側、内頸静脈が外側(いずれも頸動脈鞘の中)。 ・鎖骨下:鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を通り、前斜角筋の前を走る。 ・胸管:左の静脈角に注ぐ。 ・肋間:肋間静脈・動脈・神経は肋骨の下縁に沿う。 ・鼠径部:内側から静脈・動脈・神経の順に並ぶ。 これに当てはめると、正しい記述は鎖骨下静脈についての選択肢のみである。
選択肢考察
- ×a. 内頸静脈は総頸動脈の内側を走行する。
誤り。内頸静脈は総頸動脈の外側(やや前外側)を走行する。両者は迷走神経とともに頸動脈鞘に包まれ、鞘の中では総頸動脈(上方では内頸動脈)が内側、内頸静脈が外側、迷走神経がその間の後方に位置する。内頸静脈穿刺では、総頸動脈の拍動を触れてその外側を狙うのが基本であり、内外を取り違えると動脈誤穿刺の原因となる。
- ○b. 鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間を走行する。
正しい記述である。鎖骨下静脈は第1肋骨外側縁で腋窩静脈から続き、鎖骨と第1肋骨の間を通って内側へ進み、前斜角筋の前方を走行したのち、胸鎖関節の後方で内頸静脈と合流して腕頭静脈となる。なお鎖骨下動脈は前斜角筋の後方(前斜角筋と中斜角筋の間)を通るため、静脈は動脈より前下方に位置する。鎖骨下静脈穿刺では、鎖骨の下から針を鎖骨下面に沿わせて進め、鎖骨と第1肋骨の間の静脈を狙う。針を深く向けすぎると胸膜を貫いて気胸を起こすことがある。
- ×c. 胸管は右鎖骨下静脈に合流することが多い。
誤り。胸管は通常、左の静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)に注ぐ。胸管は腹部の乳び槽に始まり、横隔膜の大動脈裂孔を通って後縦隔を上行し、途中で正中を越えて左側へ移り、左頸部で弓状に曲がって左静脈角に開口する。下半身全体と、左上半身(左上肢・左頭頸部・左胸部)のリンパを集める。右上半身のリンパは右リンパ本幹を経て右静脈角に注ぐが、胸管は右側には合流しない。左頸部の手術や左鎖骨下静脈穿刺で胸管を損傷すると乳び漏や乳び胸を起こしうる。
- ×d. 肋間動脈は肋骨上縁を走行する。
誤り。肋間動脈は肋骨の下縁にある肋骨溝に沿って走行する。肋骨溝の中では上から肋間静脈・肋間動脈・肋間神経の順に並ぶ(Vein・Artery・Nerve の頭文字で VAN と覚える)。そのため胸腔穿刺や胸腔ドレーン挿入は、肋骨の上縁に沿って針を進め、下縁を走る血管・神経を傷つけないようにする。
- ×e. 大腿静脈は大腿動脈の外側を走行する。
誤り。鼠径靱帯の直下(大腿三角)では、内側から大腿静脈・大腿動脈・大腿神経の順に並ぶ(内側から VAN)。したがって大腿静脈は大腿動脈の内側にある。大腿静脈穿刺では、鼠径靱帯より下で大腿動脈の拍動を触れ、そのやや内側を穿刺する。
中心静脈カテーテル挿入部位と解剖の要点
・内頸静脈:頸動脈鞘内で総頸動脈の外側を走る。胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭がつくる三角の頂点付近が穿刺の目安となる。合併症として動脈誤穿刺、気胸などがある。現在は超音波ガイド下の穿刺が推奨されている。 ・鎖骨下静脈:鎖骨と第1肋骨の間、前斜角筋の前方を走る。固定しやすく感染が比較的少ない一方、気胸や、圧迫止血が難しいための出血が問題となる。 ・大腿静脈:鼠径靱帯の下で大腿動脈の内側を走る。手技は容易だが、感染や血栓症が比較的多いとされる。
リンパの還流
・胸管:乳び槽(第1〜2腰椎の高さ付近)に始まり、大動脈裂孔を通って後縦隔を上行し、左静脈角に注ぐ。下半身と左上半身のリンパを集める。 ・右リンパ本幹:右上肢・右頭頸部・右胸部のリンパを集め、右静脈角に注ぐ。 ・左静脈角付近のリンパ節(ウィルヒョウ〈Virchow〉リンパ節)への転移は、胃癌など腹部悪性腫瘍が胸管を介して転移したものとして知られる。
肋間の神経血管束
・肋骨下縁の肋骨溝を、上から静脈・動脈・神経の順に走る。 ・胸腔穿刺・ドレナージは肋骨上縁に沿って行う。
POINT
・内頸静脈は総頸動脈の外側を走る。 ・鎖骨下静脈は鎖骨と第1肋骨の間、前斜角筋の前方を走る(鎖骨下動脈は前斜角筋の後方)。 ・胸管は左静脈角に合流する。 ・肋間動静脈・神経は肋骨下縁を走るため、胸腔穿刺は肋骨上縁から行う。 ・鼠径部では内側から大腿静脈・大腿動脈・大腿神経の順(VAN)に並ぶ。
