StudyMed医師国家試験

「アクセル」と「ブレーキ」で解く消化管ホルモン―セクレチンはなぜ胆汁を増やすのか

第100回医師国家試験 G問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第100回 G問題 第42問

消化管ホルモンと作用の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.ガストリン ―― 胃液分泌抑制
  2. b.グルカゴン ―― 膵液分泌促進
  3. c.コレシストキニン ―― 胆汁分泌抑制
  4. d.セクレチン ―― 胆汁分泌促進
  5. e.ソマトスタチン ―― 膵液分泌促進

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は消化管ホルモンの作用を問う基本問題だ。丸暗記で挑むと「促進」と「抑制」が頭の中で入れ替わりやすいテーマだから、食べ物が胃から十二指腸へ進む流れに沿って、各ホルモンがどこで何を合図に出るのかを考えると整理しやすい。まずは胃から始めよう。ガストリンはどんなホルモンだったかな。
医学生医学生
生理学の講義で「胃酸を出すホルモン」と習いました。なので胃液分泌抑制という組合せは逆ですよね。
ドクタードクター
その通り。ガストリンは胃の幽門前庭部や十二指腸のG細胞から、食物中のペプチドやアミノ酸、胃の伸展、迷走神経刺激を合図に分泌される。胃底腺のECL細胞からヒスタミンを放出させて壁細胞を刺激するのが主な経路で、壁細胞への直接作用もある。胃の中が強い酸性になると分泌が抑えられる、負のフィードバックも大事なポイントだ。
医学生医学生
ECL細胞を経由するから、H2受容体拮抗薬が胃酸を抑えられるんですね。
ドクタードクター
いいつながりだね。では次の段階。酸性の胃内容物が十二指腸に入ってきたら、体はまず何をしたいと思う?
医学生医学生
酸で十二指腸の粘膜が傷まないように、中和したいはずです。
ドクタードクター
そう、そこで登場するのがセクレチンだ。十二指腸のS細胞から、おおむねpH 4.5以下の酸が届くと分泌される。膵臓の導管上皮に働いて重炭酸イオンに富む大量の膵液を出させ、酸を中和する。同時に胃酸分泌やガストリン分泌にはブレーキをかける。
医学生医学生
でも胆汁分泌促進というのはピンときません。胆汁を出すのはコレシストキニンだと思っていました。
ドクタードクター
多くの人がそこで迷うんだ。ここは「胆汁を作る量」と「胆嚢から押し出すこと」を分けて考えよう。セクレチンは膵導管と同じ仕組みで胆管上皮細胞にも作用し、重炭酸イオンと水の分泌を増やす。結果として胆汁の量が増える。これを利胆作用という。だからセクレチンと胆汁分泌促進の組合せが正解になる。
医学生医学生
なるほど、セクレチンは胆汁の生成量を増やし、胆嚢を収縮させて出すのはCCKということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。そのコレシストキニン、CCKを見てみよう。十二指腸や空腸上部のI細胞から、脂肪酸やアミノ酸を合図に分泌される。胆嚢を収縮させ、Oddi括約筋を弛緩させて胆汁を十二指腸へ流し込む。つまり胆汁の排出を促す方向に働くから、胆汁分泌抑制は誤りだ。さらに膵腺房細胞に働いて消化酵素に富む膵液を出させ、胃からの排出を遅らせる作用もある。
医学生医学生
臨床実習の消化器内科で、胆石の患者さんが脂っこい食事のあとに右季肋部痛を起こすと聞きました。あれもCCKで胆嚢が収縮するからですか。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。脂肪摂取でCCKが出て胆嚢が強く収縮し、結石が胆嚢頸部に嵌頓すると胆石発作になる。生理学の知識が症状の説明にそのまま使える良い例だね。では残りの2つ。グルカゴンが膵液分泌を促すというのはどうだろう。
医学生医学生
グルカゴンは膵島のα細胞から出て血糖を上げるホルモンなので、膵外分泌とは関係ないように思います。
ドクタードクター
正しい。主な作用は肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生で、膵液分泌を促す作用はない。むしろ膵外分泌や消化管運動は抑える方向に働く。消化管平滑筋を弛緩させるので、内視鏡や消化管造影で蠕動を止める目的に使われることもあるよ。
医学生医学生
ソマトスタチンは「なんでも抑える」ホルモンと覚えています。だから膵液分泌促進も誤りですね。
ドクタードクター
その覚え方で十分通用する。視床下部、膵島のδ細胞、消化管のD細胞などから出て、ガストリン、セクレチン、CCK、インスリン、グルカゴン、成長ホルモンなどの分泌を広く抑え、胃酸・膵液・胆汁の分泌や消化管運動も抑制する。類似薬のオクトレオチドは、神経内分泌腫瘍によるホルモン過剰症状の治療などに用いられる。
医学生医学生
整理すると、胃ではガストリンがアクセル、十二指腸に酸が来たらセクレチンで中和、脂肪が来たらCCKで胆汁と酵素、全体のブレーキがソマトスタチン、という流れですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。膵液も2つの成分に分けておくといい。導管細胞からの水と重炭酸イオンは主にセクレチン、腺房細胞からの消化酵素は主にCCKと迷走神経が促す。発展としては、インクレチンのGIPとGLP-1も押さえておこう。どちらもブドウ糖依存性にインスリン分泌を促し、GLP-1は糖尿病治療薬の標的になっている。空腹期の強い消化管収縮を起こすモチリンも頻出だ。
医学生医学生
臨床で消化管ホルモンが問題になる病気というと、Zollinger-Ellison症候群でしょうか。
ドクタードクター
代表例だね。ガストリン産生腫瘍、つまりガストリノーマによって胃酸が過剰に出て、難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢を起こす。普通のG細胞ならセクレチンで分泌が抑えられるのに、ガストリノーマではセクレチン投与で血中ガストリンが逆に上昇する。この性質を利用したのがセクレチン負荷試験だ。正常の作用を知っているからこそ、その逆の反応が診断の手がかりになる。

まとめ

消化管ホルモンは、食物の到達を合図に分泌されて次の段階の消化を準備し、手前の段階にはブレーキをかけるという流れで理解すると整理しやすくなります。ガストリンは胃酸分泌を促進し、セクレチンは十二指腸の酸を合図に重炭酸イオンに富む膵液と胆汁の分泌を促して胃酸分泌を抑えます。コレシストキニンは胆嚢収縮とOddi括約筋弛緩で胆汁を排出させ、酵素に富む膵液分泌を促します。ソマトスタチンは消化管ホルモンや消化液分泌を広く抑え、グルカゴンの主作用は血糖上昇で膵液分泌促進作用はありません。セクレチンの利胆作用とCCKの胆嚢収縮作用を区別しておくことは、胆石発作やZollinger-Ellison症候群のセクレチン負荷試験など、臨床の理解にも直結します。

解答・解説

正解はdです

本問は、代表的な消化管ホルモン(および関連する膵ホルモン)の分泌部位・分泌刺激・主な作用を問う問題である。 整理のコツとして、消化管ホルモンは「食物がその部位に届いたことを合図に分泌され、次の段階の消化を準備し、手前の段階の働きはブレーキをかける」と捉えるとよい。 ・胃の幽門前庭部から出るガストリンは、胃自身での消化(胃酸分泌)を促す。 ・十二指腸に酸性の胃内容物が入ると、セクレチンが分泌されて重炭酸イオン(HCO3−)に富む膵液・胆汁を出させて酸を中和し、同時に胃酸分泌を抑える。 ・十二指腸に脂肪やアミノ酸が入ると、コレシストキニン(CCK)が分泌されて胆囊を収縮させ、消化酵素に富む膵液を出させる。 ・ソマトスタチンはこれらを広く抑制する「ブレーキ役」である。 この枠組みで各組合せを確認すると、セクレチンと胆汁分泌促進の組合せが正しい。セクレチンは胆管上皮細胞に作用して重炭酸イオンと水の分泌を増やし、胆汁の量を増加させる(利胆作用)。

選択肢考察

  1. ×a.  ガストリン ―― 胃液分泌抑制

    誤り。ガストリンは胃の幽門前庭部や十二指腸のG細胞から分泌され、胃液(特に胃酸)の分泌を促進する。主な機序は、胃底腺のECL細胞(腸クロム親和性細胞様細胞)からのヒスタミン放出を促し、そのヒスタミンが壁細胞を刺激することである。壁細胞への直接作用もある。分泌刺激は食物中のペプチド・アミノ酸、胃の伸展、迷走神経刺激などで、胃内が強い酸性になると分泌が抑えられる(負のフィードバック)。ほかに胃粘膜の増殖を促す栄養作用ももつ。

  2. ×b.  グルカゴン ―― 膵液分泌促進

    誤り。グルカゴンは膵ランゲルハンス島のα細胞から分泌されるホルモンで、主な作用は肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生の促進による血糖上昇である。膵外分泌(膵液分泌)を促す作用はなく、むしろ膵外分泌や消化管運動を抑制する方向に働く。消化管の平滑筋を弛緩させる作用があるため、消化管の造影検査や内視鏡検査で蠕動を抑える目的に用いられることがある。

  3. ×c.  コレシストキニン ―― 胆汁分泌抑制

    誤り。コレシストキニン(CCK)は十二指腸・空腸上部のI細胞から、脂肪酸やアミノ酸・ペプチドの刺激で分泌される。胆囊を収縮させるとともにOddi括約筋を弛緩させ、胆汁を十二指腸へ排出させる。つまり胆汁の排出を促進する方向に働く。さらに膵腺房細胞に作用して消化酵素に富む膵液の分泌を促し、胃内容物の排出を遅らせる作用ももつ。

  4. ○d.  セクレチン ―― 胆汁分泌促進

    正しい組合せである。セクレチンは十二指腸のS細胞から、酸性の胃内容物が十二指腸に入ること(おおむねpH 4.5以下)をきっかけに分泌される。主な作用は、膵導管上皮に働いて重炭酸イオンに富む大量の膵液を分泌させ、胃酸を中和することである。同じ機序で胆管上皮細胞からの重炭酸イオンと水の分泌も促すため、胆汁の量が増える(胆汁分泌促進)。加えて、ガストリン分泌と胃酸分泌を抑える作用をもつ。なお胆囊を収縮させるのは主にCCKの作用であり、セクレチンは胆汁の「生成量」を増やすホルモンと理解するとよい。

  5. ×e.  ソマトスタチン ―― 膵液分泌促進

    誤り。ソマトスタチンは視床下部、膵島のδ細胞、消化管のD細胞などから分泌され、ほかのホルモンや消化液の分泌を広く抑制する。ガストリン・セクレチン・CCK・インスリン・グルカゴン・成長ホルモンなどの分泌を抑え、胃酸分泌・膵液分泌・胆汁分泌、消化管運動も抑制する。したがって膵液分泌は促進ではなく抑制される。この性質を利用して、類似薬(オクトレオチド)が消化管神経内分泌腫瘍によるホルモン過剰症状の治療などに用いられる。

主な消化管ホルモンのまとめ

・ガストリン:分泌細胞は胃前庭部・十二指腸のG細胞。刺激はペプチド・アミノ酸、胃の伸展、迷走神経。作用は胃酸分泌促進、胃粘膜の増殖促進。胃酸(低pH)とソマトスタチンで抑制される。 ・セクレチン:十二指腸のS細胞。刺激は十二指腸内の酸。作用は重炭酸イオンに富む膵液分泌、胆汁(重炭酸イオン・水)分泌の促進、ガストリン・胃酸分泌の抑制。 ・コレシストキニン(CCK):十二指腸・空腸のI細胞。刺激は脂肪酸・アミノ酸。作用は胆囊収縮、Oddi括約筋弛緩、消化酵素に富む膵液分泌、胃排出の遅延。 ・GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド):十二指腸・空腸のK細胞。ブドウ糖・脂肪で分泌され、インスリン分泌を促す(インクレチン)。 ・GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1):小腸下部・大腸のL細胞。ブドウ糖依存性のインスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出遅延。インクレチンの一つで、糖尿病治療薬の標的にもなっている。 ・モチリン:十二指腸・空腸のM細胞。空腹期の消化管の強い収縮運動(伝播性消化管収縮運動)を引き起こす。 ・ソマトスタチン:D細胞・膵δ細胞など。ほぼすべての消化管ホルモンと消化液分泌を抑制する。

膵液の二つの成分

・水と重炭酸イオン(導管細胞から):主にセクレチンで促される。 ・消化酵素(腺房細胞から):主にCCKと迷走神経(アセチルコリン)で促される。

臨床との関連

・ガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)ではZollinger-Ellison症候群を起こし、難治性・多発性の消化性潰瘍や下痢を生じる。診断にはセクレチン負荷試験(ガストリノーマではセクレチン投与で血中ガストリンが逆に上昇する)が用いられてきた。

POINT

・ガストリン:胃酸分泌を促進する。 ・セクレチン:重炭酸イオンに富む膵液と胆汁の分泌を促進し、胃酸分泌を抑制する。 ・コレシストキニン:胆囊を収縮させOddi括約筋を弛緩させて胆汁排出を促し、酵素に富む膵液分泌を促す。 ・ソマトスタチン:消化管ホルモン・消化液の分泌を広く抑制する。 ・グルカゴン:血糖上昇が主作用で、膵液分泌を促す作用はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。