1つの胎盤を分け合う双子―血流の偏りが生む双胎間輸血症候群
第100回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
在胎28週の胎児。1絨毛膜2羊膜性双胎と診断されている。妊娠初期には2児の大きさにほとんど差を認めなかったが,次第に差を認めるようになり,大きい方の児に羊水過多と胎児水腫とを認めるようになった。 異常があると考えられるのはどれか。
- a.骨髄
- b.臍帯
- c.胎盤
- d.羊膜
- e.脱落膜
対話形式の解説
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ドクターまとめ
1絨毛膜双胎では2児が1つの胎盤を共有し、胎盤上の血管吻合を介した血流が一方向に偏ると双胎間輸血症候群(TTTS)が起こります。受血児は容量過剰から多尿・羊水過多、さらに心不全による胎児水腫をきたし、供血児は乏尿・羊水過少で発育不全となるため、異常の場は胎児の臓器ではなく胎盤です。臍帯・骨髄・羊膜・脱落膜の異常では、2児間の血流移動や片方の児だけに進む羊水過多・水腫を説明できません。診断は最大羊水深度8cm以上と2cm以下の併存、重症度はQuintero分類で評価し、根本治療は胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術です。妊娠初期に膜性を確実に診断し、1絨毛膜双胎を慎重に経過観察することが、TTTSや双胎貧血多血症、一児死亡後の合併症を早期に捉える鍵になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・1絨毛膜2羊膜性双胎(monochorionic diamniotic twin:MD双胎)である。2児が一つの胎盤を共有し、羊膜腔はそれぞれ別になっている。 ・妊娠初期には2児の大きさがほぼ同じであったが、経過とともに体格差が開いてきた。 ・大きい方の児に羊水過多と胎児水腫が出現した。
診断へのプロセス
1絨毛膜双胎では、共有する胎盤の表面や内部で2児の血管がつながっている(胎盤血管吻合)。吻合を通る血流が一方向に偏ると、一方の児(供血児 donor)から他方の児(受血児 recipient)へ血液が移り続ける。これが双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)である。 ・受血児:循環血液量が過剰となり、尿量増加から羊水過多をきたす。さらに容量負荷による心不全が進むと胎児水腫(皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液の貯留)に至る。体格は相対的に大きい。 ・供血児:循環血液量が減少し、腎血流が落ちて乏尿となり羊水過少をきたす。発育不全となり小さく、羊水がほとんどなく羊膜に張り付いたように見える(stuck twin)。 本症例は、1絨毛膜性であること、初期には差がなかったのに次第に体格差が生じたこと、大きい方の児に羊水過多と胎児水腫があることから、TTTSの受血児側に病態が進行した状態と判断できる。
設問の考え方
問われているのは「どこに異常があるか」、つまりTTTSの原因部位である。TTTSは胎児そのものの臓器の病気ではなく、2児が共有する胎盤内の血管吻合によって血流の不均衡が生じることが本質である。したがって異常の場は胎盤である。
選択肢考察
- ×a. 骨髄
胎児の骨髄の異常(造血障害など)では貧血による高拍出性心不全から胎児水腫が起こりうるが、1絨毛膜双胎の片方だけに次第に体格差・羊水過多・水腫が進むという経過は説明できない。本症例の受血児はむしろ多血・容量過剰の状態であり、骨髄の異常は考えにくい。
- ×b. 臍帯
臍帯の異常には、臍帯巻絡、臍帯下垂・脱出、過短臍帯・過長臍帯、卵膜付着、真結節などがある。これらは胎児機能不全や発育不全の要因にはなるが、2児間の血流移動を生じさせるものではなく、受血児の羊水過多や胎児水腫の原因とはならない。1絨毛膜双胎では卵膜付着が多く、2児の発育差(selective IUGR)に関与することはあるが、TTTSの本態は胎盤血管吻合であるので誤りである。誤答として選ばれやすい選択肢なので注意する。
- ○c. 胎盤
1絨毛膜双胎では2児が一つの胎盤を共有し、胎盤上に動脈-動脈(AA)、静脈-静脈(VV)、動脈-静脈(AV)の血管吻合が存在する。特に深部にある一方向性のAV吻合を通る血流が、反対方向の吻合で打ち消されずに偏ると、供血児から受血児へ血液が一方的に流れ込む。その結果、受血児は容量過剰となり多尿による羊水過多、さらに心不全から胎児水腫を生じる。本症例の異常の場は胎盤であり、これが正解である。治療として胎児鏡下に胎盤表面の吻合血管をレーザーで凝固・遮断する方法(胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術)が行われることからも、原因が胎盤にあることが理解できる。
- ×d. 羊膜
羊水過多は羊水の産生(主に胎児尿)と吸収(胎児の嚥下など)のバランスの乱れで起こり、羊膜そのものの異常が羊水過多や胎児水腫の原因となることは通常ない。本症例の羊水過多は受血児の多尿によるものである。なお、1絨毛膜2羊膜性双胎では2児の羊膜腔を隔てる隔膜は羊膜2枚のみから成るが、これは正常な構造であり異常ではない。
- ×e. 脱落膜
脱落膜は妊娠により変化した子宮内膜であり、その欠損や形成不全は絨毛が子宮筋層へ直接侵入する癒着胎盤の原因となる。しかし脱落膜の異常が2児間の血流不均衡や羊水過多、胎児水腫をきたすことはないので誤りである。
双胎の膜性と合併症
・2絨毛膜2羊膜性(DD)双胎:胎盤が別々(癒合していても血管吻合はほぼない)。TTTSは起こらない。 ・1絨毛膜2羊膜性(MD)双胎:胎盤を共有し血管吻合がある。TTTSは MD双胎の約10%前後にみられる。 ・1絨毛膜1羊膜性(MM)双胎:隔膜がなく、臍帯相互巻絡のリスクが高い。 膜性診断は妊娠初期(おおむね妊娠14週まで)の超音波検査で行うのが最も正確で、隔膜の付着部の形(DDではλサイン、MDではTサイン)、隔膜の厚さ、胎嚢の数などで判定する。
TTTSの診断
わが国では、MD双胎で一方の児に羊水過多(最大羊水深度 8cm以上)、他方の児に羊水過少(最大羊水深度 2cm以下)が同時にみられる場合に診断される。体重差は診断の必須条件ではない。
重症度分類(Quintero分類)
・Stage I:羊水過多・過少はあるが、供血児の膀胱が確認できる。 ・Stage II:供血児の膀胱が確認できない。 ・Stage III:血流異常(臍帯動脈の拡張期途絶・逆流、静脈管の逆流、臍帯静脈の波動など)を認める。 ・Stage IV:いずれかの児に胎児水腫を認める。 ・Stage V:一方または両方の児の胎内死亡。 本症例は受血児に胎児水腫があるので Stage IV に相当する。
治療
・胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP):吻合血管を凝固して2児の循環を分離する根本的治療で、おおむね妊娠16〜26週未満が適応とされる。 ・羊水除去:受血児の羊水を除去して子宮内圧を下げ、切迫早産や症状を緩和する対症療法。 ・適応週数を過ぎた場合や胎児の状態が悪化した場合は、胎外生活が可能であれば娩出を検討する。
関連する病態
・双胎貧血多血症(TAPS):細い AV吻合を介した緩徐な輸血で、羊水量の差はないが一方が貧血、他方が多血となる。 ・一児死亡:1絨毛膜双胎では一児が死亡すると、吻合を介して生存児の血液が死亡児側へ急激に流れ込み、生存児に低血圧・脳障害(多嚢胞性脳軟化症など)や死亡が起こりうる。
POINT
・TTTSは1絨毛膜双胎に特有で、原因は共有胎盤の血管吻合(特に一方向性の動静脈吻合)による血流不均衡である。 ・受血児:多血・容量過剰、多尿→羊水過多、心不全→胎児水腫、体格は大きい。 ・供血児:貧血・循環血液量減少、乏尿→羊水過少(stuck twin)、発育不全。 ・診断は MD双胎で羊水過多(最大羊水深度 8cm以上)と羊水過少(2cm以下)の併存。 ・根本治療は胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術。
