酸素を吸わせても青いまま―新生児チアノーゼは「肺」か「心臓」か
第100回医師国家試験 F問題 第3問
国試問題にチャレンジ
出生直後の新生児。体重2,700g。Apgarスコアは1分後6点。呼吸数40/分。心拍数132/分,整。全身にチアノーゼを認める。外表奇形を認めない。直ちに100%酸素の投与を開始したが全身のチアノーゼは改善しない。胸部エックス線写真で肺野に異常を認めない。 次に行う検査はどれか。
- a.血糖
- b.血清電解質
- c.心電図
- d.心エコー検査
- e.頭部単純CT
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児の中心性チアノーゼは、肺性・心性・その他(中枢神経疾患、代謝異常など)に分けて考えます。肺性では多呼吸などの呼吸障害や胸部エックス線異常を伴い、高濃度酸素で改善しやすいのに対し、心性では右左短絡のため100%酸素を投与してもチアノーゼが改善しません。呼吸障害がなく肺野が正常で酸素に反応しないチアノーゼは、チアノーゼ性先天性心疾患を強く示唆し、心内構造や短絡、動脈管の状態を直接評価できる心エコー検査が次に行うべき検査です。心電図では構造異常を確定できず、血糖・電解質異常や頭蓋内病変はこの病像を説明できません。動脈管依存性心疾患ではプロスタグランジンE1製剤による動脈管開存が救命につながるため、「酸素に反応しないチアノーゼ=まず心エコー」という判断は新生児診療の基本として重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・出生直後の新生児、体重2,700g(正期産児としてはやや小さめだが極端な低出生体重ではない)。 ・Apgarスコア1分後6点:軽度の新生児仮死に相当する(7点以上が正常、4〜6点が軽症仮死、3点以下が重症仮死)。 ・呼吸数40/分、心拍数132/分・整:新生児の基準範囲(呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分)内であり、呼吸窮迫の所見や不整脈はない。 ・全身性(中心性)チアノーゼがあり、100%酸素を投与しても改善しない。 ・外表奇形なし、胸部エックス線写真で肺野に異常なし。
鑑別へのプロセス
新生児の中心性チアノーゼは、大きく呼吸器疾患(肺性)、心疾患(心性)、その他(中枢神経疾患、低血糖・低カルシウム血症などの代謝異常、メトヘモグロビン血症など)に分けて考える。 ・肺性チアノーゼ:呼吸窮迫症候群、新生児一過性多呼吸、胎便吸引症候群、気胸などでは多呼吸・陥没呼吸などの呼吸障害を伴い、胸部エックス線写真に異常がみられることが多い。また肺胞低換気や換気血流不均衡が主因なので、高濃度酸素投与で酸素化は改善しやすい。 ・心性チアノーゼ:心内または大血管レベルで右左短絡があり、静脈血が肺を通らずに体循環へ流れ込むため、吸入酸素濃度を上げても動脈血酸素飽和度はほとんど上がらない。呼吸障害は目立たず、肺野も正常(あるいは肺血流減少で明るい)ことが多い。 本症例は、呼吸数が正常で呼吸障害がなく、肺野にも異常がなく、100%酸素投与でもチアノーゼが改善しない。これはチアノーゼ性先天性心疾患を強く示唆する所見である(100%酸素投与に対する反応をみるこの方法は高酸素負荷試験と呼ばれる)。Apgarスコアの軽度低下は、仮死そのものよりもチアノーゼで皮膚色の点数が下がったことを反映していると考えられ、呼吸・心拍が保たれていることから仮死によるチアノーゼとは考えにくい。 なお、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)も肺野が比較的正常で酸素投与に反応しにくいチアノーゼを呈するが、これも心エコー検査で心構造の異常の有無、動脈管・卵円孔での右左短絡を評価して鑑別する。
設問の考え方
先天性心疾患が疑われる新生児で、診断を確定し治療方針(動脈管を開いておくためのプロスタグランジンE1投与の要否、緊急カテーテル治療・手術の要否)を決めるために最も重要な検査は、非侵襲的に心臓の形態と血流を直接評価できる心エコー検査である。
選択肢考察
- ×a. 血糖
新生児の低血糖は無呼吸、振戦、けいれん、哺乳不良などとともにチアノーゼを呈することがあり、仮死児では血糖の確認自体は日常的に行われる。しかし低血糖によるチアノーゼは無呼吸・低換気などに伴うもので、呼吸が安定し肺野が正常な状態で100%酸素にも反応しない持続的な全身チアノーゼを説明できない。本症例で次に優先すべき検査ではない。
- ×b. 血清電解質
低カルシウム血症や低ナトリウム血症などの電解質異常は、けいれんや無呼吸を介してチアノーゼを呈することがある。しかし新生児の低カルシウム血症(早発型は生後2〜3日頃、晩発型は生後1週前後)などは出生直後から起こることは少なく、しかも酸素投与に反応しない全身チアノーゼの説明にはならない。次に行う検査として適切ではない。
- ×c. 心電図
心拍数132/分・整で不整脈は疑われない。心電図では心房・心室の肥大や軸偏位などから疾患を推測する手がかりは得られるが、新生児期はもともと右室優位の所見を示すため解釈が難しく、心臓の構造異常(大血管の位置、弁の閉鎖、短絡の部位と方向など)を確定することはできない。先天性心疾患の診断には心エコー検査が優先される。
- ○d. 心エコー検査
呼吸障害がなく肺野が正常で、100%酸素でも改善しない全身チアノーゼからチアノーゼ性先天性心疾患が最も疑われる。心エコー検査はベッドサイドで非侵襲的に行え、心内構造(大血管転位、ファロー四徴症、三尖弁閉鎖、総肺静脈還流異常など)、右左短絡の部位、動脈管の開存状態、肺高血圧の有無を評価できる。動脈管依存性の疾患であればプロスタグランジンE1製剤で動脈管を開存させるなど緊急治療の判断に直結するため、次に行うべき検査である。
- ×e. 頭部単純CT
頭蓋内出血などの中枢神経病変では、けいれんや無呼吸、意識レベル低下、筋緊張異常などに伴ってチアノーゼをみることがある。しかし本症例ではそのような神経症状の記載がなく、呼吸・心拍は安定しており、チアノーゼのみが持続して酸素に反応しない病像とは合わない。また新生児の頭蓋内評価はまずベッドサイドでの頭部超音波検査が行われ、移動と放射線被曝を伴うCTをこの段階で行う理由はない。
チアノーゼの基礎
チアノーゼは毛細血管血中の還元ヘモグロビンがおよそ5g/dL以上になると皮膚・粘膜が青紫色に見える状態である。口唇・舌・体幹にみられる中心性チアノーゼは動脈血の酸素飽和度低下を意味し、手足の末端だけの末梢性チアノーゼ(出生直後の手足のチアノーゼ=先端チアノーゼは生理的なことが多い)とは区別する。
高酸素負荷試験(hyperoxia test)
100%酸素を吸入させて動脈血酸素分圧(PaO2)を測る。肺疾患では PaO2 が大きく上昇することが多いのに対し、チアノーゼ性心疾患では右左短絡のため PaO2 がほとんど上がらない(おおむね100〜150mmHgを超えない)。ただし、新生児遷延性肺高血圧症でも上昇が乏しいことがあり、最終的な鑑別は心エコー検査による。
新生児期にチアノーゼを呈する主な先天性心疾患
・完全大血管転位症:新生児期のチアノーゼ性心疾患の代表。 ・総肺静脈還流異常症:特に肺静脈狭窄を伴う型は胸部エックス線でうっ血像を示す。 ・ファロー四徴症、純型肺動脈閉鎖、三尖弁閉鎖症、重症肺動脈狭窄など肺血流減少型:動脈管が閉じると急激にチアノーゼが悪化する(動脈管依存性肺循環)。 ・左心低形成症候群、大動脈縮窄・離断など:動脈管依存性体循環で、動脈管閉鎖によりショックとなる。 動脈管依存性の疾患ではプロスタグランジンE1製剤を投与して動脈管を開存させる。高濃度酸素は動脈管閉鎖を促したり、肺血管抵抗を下げて肺血流を過剰にしたりすることがあるため、心疾患が確定したら酸素投与は慎重に調整する。
Apgarスコア
心拍数、呼吸、筋緊張、反射(刺激への反応)、皮膚色の5項目を各0〜2点で評価し、生後1分と5分に判定する。7〜10点が正常、4〜6点が軽症仮死、0〜3点が重症仮死である。
POINT
・呼吸障害がなく肺野が正常で、100%酸素投与でも改善しない中心性チアノーゼ → チアノーゼ性先天性心疾患を疑う。 ・肺性チアノーゼは呼吸障害と胸部エックス線異常を伴い、酸素投与で改善しやすい。 ・先天性心疾患の確定診断と治療方針の決定には心エコー検査が第一選択。 ・心電図では心臓の構造異常を確定できない。 ・動脈管依存性心疾患にはプロスタグランジンE1製剤を用いる。
