蛋白尿は「糸球体」から―病変の主座で見抜くアミロイド腎症
第100回医師国家試験 B問題 第44問
国試問題にチャレンジ
ネフローゼ症候群を呈するのはどれか。
- a.アミロイド腎症
- b.良性腎硬化症
- c.慢性間質性腎炎
- d.Bartter症候群
- e.Liddle症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ネフローゼ症候群は、糸球体の濾過障壁が障害されて尿蛋白3.5 g/日以上と血清アルブミン3.0 g/dL以下をきたす症候群で、成立には糸球体の高度な障害が前提となります。アミロイド腎症は糸球体のメサンギウムや係蹄壁にアミロイドが沈着する代表的な二次性ネフローゼの原因で、AL型・AA型があり、コンゴーレッド染色陽性と偏光下の緑色複屈折で診断し、腎は腫大傾向を示します。良性腎硬化症は細動脈病変、慢性間質性腎炎は尿細管間質病変で蛋白尿は軽度にとどまり、Bartter症候群とLiddle症候群は尿細管輸送体の異常として低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたしますが、ネフローゼとは無関係です。病変の主座から蛋白尿の量と性状を予測する考え方は、腎疾患の鑑別全般に役立ち、高齢者のネフローゼでは背景疾患の検索を忘れないことが臨床上重要です。
解答・解説
正解はaです
ネフローゼ症候群の原因となる疾患を選ぶ一般問題である。ネフローゼ症候群は、糸球体の濾過障壁(内皮細胞・基底膜・ポドサイト)が障害されてアルブミンなどの蛋白が大量に尿中へ漏れ出し、その結果として低アルブミン血症・浮腫・脂質異常症をきたす臨床症候群である。日本の成人の診断基準では、尿蛋白3.5 g/日以上(随時尿の尿蛋白/クレアチニン比3.5 g/gCr以上でも可)の持続と、血清アルブミン3.0 g/dL以下の2項目が必須条件であり、浮腫と脂質異常症(高LDLコレステロール血症)は参考所見とされる。 つまり、ネフローゼ症候群を呈するためには「糸球体に高度の障害が及ぶこと」が前提となる。選択肢を病変の主座で分けると、アミロイド腎症は糸球体へのアミロイド沈着が主体の糸球体疾患、良性腎硬化症は細動脈を中心とする血管病変、慢性間質性腎炎は尿細管・間質の病変、Bartter症候群とLiddle症候群は尿細管のイオン輸送体の遺伝性機能異常である。糸球体が主に障害され大量の蛋白尿をきたすのはアミロイド腎症であり、代表的な二次性(続発性)ネフローゼ症候群の原因疾患である。
選択肢考察
- ○a. アミロイド腎症
アミロイドーシスは、異常に折りたたまれた蛋白がβシート構造をもつ線維(アミロイド)となって臓器の細胞外に沈着する疾患である。腎臓では主に糸球体のメサンギウム領域や係蹄壁に沈着し、濾過障壁が破綻して高度の蛋白尿をきたすため、ネフローゼ症候群を呈することが多い。原因としては、形質細胞の異常による免疫グロブリン軽鎖由来のALアミロイドーシス(多発性骨髄腫に伴うものを含む)と、関節リウマチなどの慢性炎症で増加する血清アミロイドA(SAA)由来のAAアミロイドーシスが代表的である。診断は腎生検などの組織でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡での緑色の複屈折(アップルグリーン)で確認する。腎臓は腫大傾向を示すことが多く、進行すると腎不全に至る。
- ×b. 良性腎硬化症
良性腎硬化症は、長期間の本態性高血圧や加齢によって腎の細動脈に硝子化・内膜肥厚が生じ、腎血流が低下して糸球体が徐々に虚血性に硬化していく病態である。経過はゆっくりで、尿所見は乏しく、蛋白尿は認めても軽度(通常1 g/日未満)にとどまることが多い。糸球体の濾過障壁が大きく破綻するわけではないため、ネフローゼ症候群は呈さない。腎臓は萎縮し、表面は細顆粒状となる。高齢者の慢性腎臓病の原因として重要である。
- ×c. 慢性間質性腎炎
慢性間質性腎炎は、尿細管と間質に慢性の炎症・線維化が生じる疾患で、鎮痛薬の長期使用、痛風(尿酸)、鉛などの重金属、Sjögren症候群、膀胱尿管逆流などが原因となる。病変の主体が糸球体ではないため蛋白尿は軽度であり、しかも糸球体性のアルブミンより尿細管性の低分子蛋白(β2ミクログロブリン、α1ミクログロブリンなど)が中心である。尿濃縮力低下による多尿や尿細管性アシドーシスなどの尿細管機能障害がみられるが、ネフローゼ症候群とはならない。
- ×d. Bartter症候群
Bartter症候群は、Henleループ上行脚太い部分のNa-K-2Cl共輸送体(NKCC2)やそれに関わるチャネルの遺伝子異常により、ループ利尿薬を常に服用しているような状態になる疾患である。ナトリウムとクロールの喪失から循環血液量が減少し、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が亢進する(続発性アルドステロン症)。低カリウム血症・代謝性アルカローシスを示すが、血圧は正常〜低めで、尿中カルシウム排泄が増加する。尿細管の輸送異常であり、糸球体障害による高度蛋白尿はきたさないため、ネフローゼ症候群とは関係ない。
- ×e. Liddle症候群
Liddle症候群は、皮質集合管(遠位ネフロン)の上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)の機能獲得型変異による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。ENaCが分解されずに過剰に働くため、ナトリウム再吸収とカリウム排泄が亢進し、高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたす。アルドステロンが過剰であるかのような所見を示すが、実際にはレニン・アルドステロンはともに低値であり、偽性アルドステロン症の一つとされる。治療にはENaC阻害薬のトリアムテレンやアミロライドが有効で、スピロノラクトンは無効である。尿細管の輸送異常であり、ネフローゼ症候群は呈さない。
ネフローゼ症候群の原因の整理
・一次性(原発性):微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎など ・二次性(続発性):糖尿病性腎症、アミロイドーシス、ループス腎炎、悪性腫瘍に伴う膜性腎症、薬剤(金製剤、D-ペニシラミン、NSAIDsなど)、B型・C型肝炎ウイルスなどの感染症
病変の主座と尿蛋白の性状
・糸球体疾患:アルブミン主体の蛋白尿で、しばしば高度(ネフローゼ域)になる。 ・尿細管間質疾患:低分子蛋白(β2ミクログロブリンなど)主体で軽度にとどまる。 ・血管性疾患(腎硬化症):軽度の蛋白尿で、尿所見は乏しい。
低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたす遺伝性尿細管疾患
・Bartter症候群:Henleループ上行脚(NKCC2など)の異常。血圧は正常、高カルシウム尿症。 ・Gitelman症候群:遠位曲尿細管のNa-Cl共輸送体(NCC)の異常。血圧は正常、低カルシウム尿症、低マグネシウム血症。 ・Liddle症候群:集合管ENaCの機能亢進。高血圧、低レニン・低アルドステロン。
アミロイドーシスの診断
コンゴーレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡で緑色の複屈折を示す。生検部位としては腎のほか、腹壁脂肪、消化管粘膜などが用いられる。
POINT
・ネフローゼ症候群は糸球体障害による高度蛋白尿の症候群である(尿蛋白3.5 g/日以上+血清アルブミン3.0 g/dL以下が必須)。 ・アミロイド腎症は二次性ネフローゼ症候群の代表的原因である(AL型・AA型、コンゴーレッド染色陽性)。 ・良性腎硬化症・慢性間質性腎炎は蛋白尿が軽度で、ネフローゼにはならない。 ・Bartter症候群・Liddle症候群は尿細管の輸送体異常で、低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたすが、ネフローゼとは無関係である。
