「いつも同じ場所に出るあざ」の正体―固定薬疹の4つの特徴とSJS/TENとの境界線
第99回医師国家試験 H問題 第29問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。解熱薬の内服後,右前腕内側に境界明瞭な暗赤色斑が出現したため来院した。以前にも同じ薬を内服し同様の症状がみられた。右前腕の写真を別に示す。 この疾患で誤っているのはどれか。

- a.同一部位に繰り返し生じる。
- b.皮膚粘膜移行部に生じやすい。
- c.水疱を生じることがある。
- d.軽快後に色素沈着を生じる。
- e.視力障害を伴う。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
特定の薬剤を飲むたびに同じ部位に境界明瞭な暗赤色斑が再燃する場合は固定薬疹を考えます。病変部に残る組織常在型メモリーT細胞が再曝露で活性化することが「同一部位への再発」の機序とされ、口唇・外陰部などの皮膚粘膜移行部に好発し、水疱やびらんを伴うことがあり、治った後に色素沈着を残して再発のたびに濃くなりやすいのが特徴です。一方、視力障害などの眼病変は固定薬疹ではなく、Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症といった重症薬疹で問題となる所見です。原因として解熱鎮痛薬や市販の感冒薬が多いため、OTC薬を含めた服薬歴の聴取と、原因薬の特定・回避の指導が再発予防の鍵となります。薬疹の型ごとの特徴と重症度を見分ける力は、日常診療で薬を処方するすべての医師に欠かせません。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
21歳の女性が解熱薬を内服した後に、右前腕の内側に境界がはっきりした暗赤色の斑が現れた。さらに、過去にも同じ薬を飲んだときに同様の症状が出た既往がある。写真では、前腕に境界が比較的鮮明な類円形の暗赤色〜黒褐色の紅斑・色素斑がみられる。
診断へのプロセス
(1) 特定の薬剤の内服と皮疹出現に時間的な関連がある、(2) 同じ薬剤で同様の皮疹を繰り返している、(3) 皮疹は境界明瞭な類円形の暗赤色斑で、色素沈着を伴う、という3点がそろえば、固定薬疹(fixed drug eruption)と診断できる。固定薬疹は、原因薬剤を摂取するたびに「前回と同じ部位」に皮疹が再燃するのが最大の特徴であり、本症例の病歴はこれに一致する。解熱鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェンなど)は代表的な原因薬である。
設問の考え方
本問は「誤っているのはどれか」を問う形式である。固定薬疹の特徴(同一部位への再発、皮膚粘膜移行部の好発、水疱形成の可能性、治癒後の色素沈着)を押さえたうえで、固定薬疹とは無関係な症状を選べばよい。視力障害などの眼病変は、Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症といった重症薬疹で問題となる所見であり、局所に限局する固定薬疹の特徴ではない。
選択肢考察
- ×a. 同一部位に繰り返し生じる。
記述は正しい。固定薬疹は、原因薬剤を摂取するたびに前回と同じ場所に皮疹が再燃するのが名称の由来でもある最大の特徴である。病変部の表皮・真皮境界部に常在する記憶型のCD8陽性T細胞(組織常在型メモリーT細胞)が、薬剤の再曝露で活性化して局所の表皮細胞を傷害するためと考えられている。再発のたびに新たな部位が加わって皮疹数が増えることもある。本症例でも同じ薬で同様の症状を繰り返しており、この特徴に合致する。
- ×b. 皮膚粘膜移行部に生じやすい。
記述は正しい。固定薬疹は全身どこにでも生じうるが、口唇・口囲、外陰部(陰茎亀頭など)、肛囲といった皮膚粘膜移行部が好発部位である。そのほか手足や体幹にもみられる。口唇や陰部に繰り返す皮疹をみた場合、単純ヘルペスとの鑑別が必要となるが、固定薬疹では薬剤摂取との関連と治癒後の色素沈着が手がかりとなる。
- ×c. 水疱を生じることがある。
記述は正しい。固定薬疹では表皮細胞の傷害(表皮基底層の液状変性や表皮細胞の壊死)が起こるため、炎症が強いと紅斑の中央に水疱が形成され、破れてびらんとなることがある。特に粘膜部ではびらんとして現れやすい。多発して広範囲に水疱を生じる「汎発性水疱性固定薬疹」は、中毒性表皮壊死症との鑑別を要する重症型として知られる。
- ×d. 軽快後に色素沈着を生じる。
記述は正しい。表皮基底層の傷害によりメラニンが真皮に落ちる(色素失調、メラノファージへの貪食)ため、紅斑が消退した後に褐色〜灰黒褐色の色素沈着を残すことが多い。再発を繰り返すたびに色素沈着は濃くなる傾向がある。ただし、色素沈着を残さないタイプの固定薬疹もまれに存在し、必発ではない。
- ○e. 視力障害を伴う。
誤った記述であり、これが正解である。固定薬疹は限局性の皮膚・粘膜病変であり、全身症状や眼病変は通常伴わず、視力障害をきたすことはない。視力障害が問題となる薬疹は、Stevens-Johnson症候群(SJS、皮膚粘膜眼症候群)や中毒性表皮壊死症(TEN)であり、これらでは偽膜形成を伴う結膜炎や角膜上皮障害が起こり、瞼球癒着やドライアイ、視力低下などの後遺症を残すことがある。
固定薬疹の概要
・定義: 特定の薬剤を摂取するたびに、同一部位に境界明瞭な円形〜楕円形の紅斑(ときに水疱)が生じる薬疹。 ・発症時期: 感作が成立した後は、再摂取から数十分〜数時間以内(多くは24時間以内)に出現する。 ・症状: 灼熱感やかゆみを伴う境界明瞭な暗赤色〜紫紅色斑。消退後に褐色〜黒褐色の色素沈着を残す。単発のことも多発することもある。 ・好発部位: 口唇、外陰部、肛囲などの皮膚粘膜移行部、手足。 ・原因薬: 解熱鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)、総合感冒薬、抗菌薬(テトラサイクリン系、サルファ剤など)、催眠鎮静薬、アリルイソプロピルアセチル尿素など。市販の感冒薬が原因になることも多く、詳細な服薬歴聴取が重要である。 ・機序: 病変部の表皮に常在するCD8陽性の組織常在型メモリーT細胞が、薬剤再曝露により活性化し、表皮細胞を傷害する(遅延型過敏反応の一型)。このため同一部位に再燃する。 ・病理: 表皮基底層の液状変性、表皮内の個細胞壊死、真皮のメラノファージ(色素失調)。 ・診断: 病歴が最も重要。原因薬の特定には、病変部で行うパッチテスト(病変部で陽性になりやすい)や、慎重な内服誘発試験が用いられる。 ・治療: 原因薬の中止・回避が基本。局所にはステロイド外用薬を用いる。
視力障害をきたしうる重症薬疹
・Stevens-Johnson症候群(SJS): 発熱と粘膜(眼・口唇・外陰部)のびらんを伴い、表皮剥離(水疱・びらん)が体表面積の10%未満にとどまるもの。 ・中毒性表皮壊死症(TEN): 表皮剥離が広範囲に及ぶ最重症型。国際的に用いられる分類(Bastuji-Garin分類)では、体表面積の30%を超えるものをTEN、10〜30%をSJS/TEN overlap(移行型)とする。なお、日本の診断基準ではoverlapを設けず、10%以上をTENとしている。 ・いずれも眼病変(偽膜性結膜炎、角膜上皮欠損)が重要で、急性期からの眼科的管理が視力予後を左右する。
POINT
・同じ薬で同じ部位に繰り返す境界明瞭な暗赤色斑 → 固定薬疹。 ・好発部位は口唇・外陰部などの皮膚粘膜移行部。 ・水疱・びらんを伴うことがあり、治癒後に色素沈着を残し、再発ごとに濃くなる。 ・原因薬として解熱鎮痛薬・感冒薬が多い。 ・眼病変・視力障害はSJS/TENの特徴であり、固定薬疹ではみられない。
