StudyMed医師国家試験

揺れる視界の正体は「ずれた水晶体」―前眼部写真からMarfan症候群を見抜く

第99回医師国家試験 H問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第99回 H問題 第27問

12歳の女児。2週前から右眼の視力の変動があり来院した。右眼の前眼部写真を別に示す。 考えられるのはどれか。

第99回 H問題 第27問の問題画像
  1. a.Hurler症候群
  2. b.Marfan症候群
  3. c.Sturge-Weber症候群
  4. d.von Recklinghausen病
  5. e.Wilson病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子どもの視力の変動という訴えと前眼部写真から、背景にある全身疾患を推定する問題だ。眼の所見を一つ読み取れれば、選択肢の全身疾患がつながってくる。まずは写真で何が見えるかが勝負だね。
医学生医学生
瞳孔の中に、弧を描く線のようなものが見えます。最初は角膜の傷かと思いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。それは水晶体の辺縁、つまり赤道部なんだ。本来は虹彩の裏に隠れていて、散瞳しても普通は見えない。それが瞳孔領に見えているということは、水晶体が本来の位置から上方へずれている、つまり水晶体偏位(亜脱臼)の所見だ。
医学生医学生
眼科の講義で、水晶体は毛様体小帯でつり下げられていると習いました。それが切れたり弱くなったりするということですか。
ドクタードクター
その通り。毛様体小帯、いわゆるZinn小帯が脆弱になると水晶体が動揺したりずれたりする。瞳孔領に水晶体のある部分とない部分が混ざると屈折が安定しないから、視力が変動したり、強い近視化や乱視、単眼複視が起きたりする。今回の訴えはこれで説明できるんだ。
医学生医学生
でも12歳で、外傷の話もありません。なぜ小帯が弱くなるんでしょう。
ドクタードクター
そこが診断の核心だね。外傷のない若年者の水晶体偏位では、小帯の異常をきたす全身疾患を考える。代表はMarfan症候群とホモシスチン尿症で、偏位の方向が手がかりになる。Marfan症候群は上方、特に上耳側、ホモシスチン尿症は下方、下鼻側にずれることが多い。
医学生医学生
今回は上方なので、Marfan症候群ですね。毛様体小帯の成分と関係があるんでしょうか。
ドクタードクター
鋭い。Marfan症候群はフィブリリン-1をコードするFBN1遺伝子の変異による常染色体優性遺伝の結合組織疾患だ。毛様体小帯はフィブリリンが主成分だから、ここが弱くなる。患者の半数以上に水晶体偏位がみられ、改訂Ghent基準では大動脈基部拡張と水晶体偏位がそろえば家族歴がなくても診断できるほど重要な所見なんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢も、眼に特徴的な所見がある疾患ばかりですよね。Hurler症候群は角膜混濁でしたか。
ドクタードクター
正解。Hurler症候群はムコ多糖症I型の重症型で、角膜実質にムコ多糖が沈着して角膜が濁る。粗な顔貌や骨変形、肝脾腫、発達遅滞を伴う。ちなみにX連鎖劣性のHunter症候群では角膜混濁がみられないのが鑑別点だ。
医学生医学生
Sturge-Weber症候群は、顔のポートワイン母斑と脳の石灰化の病気ですね。小児科の実習で、けいれんの患者さんの頭部CTでtram-track状の石灰化を見せてもらいました。
ドクタードクター
よく覚えているね。眼の所見としては緑内障と脈絡膜血管腫が代表的で、特に母斑が上眼瞼に及ぶと緑内障に注意する。von Recklinghausen病、つまり神経線維腫症1型では、虹彩表面の小さな褐色の過誤腫であるLisch結節が特徴で、視神経膠腫も合併しうる。
医学生医学生
Wilson病はKayser-Fleischer角膜輪ですね。CBTの勉強でひまわり白内障もセットで覚えました。
ドクタードクター
完璧だ。角膜周辺部のDescemet膜に銅が沈着してできる輪だね。こうして見ると、角膜混濁、緑内障、虹彩の結節、角膜輪と、どれも水晶体偏位とは結びつかない。
医学生医学生
疾患ごとに眼のどの部位に所見が出るかを整理しておくと、写真問題に強くなりそうです。
ドクタードクター
その通り。そしてMarfan症候群と診断したら、眼科だけで終わらせないことが臨床では何より大事だ。生命予後を左右するのは心血管病変で、大動脈基部拡張、大動脈弁閉鎖不全、そして主な死因である大動脈解離、さらに僧帽弁逸脱症がある。
医学生医学生
循環器内科を回ったとき、若い高身長の方が定期的に心エコーで大動脈径を測っていました。あれがMarfan症候群のフォローだったんですね。
ドクタードクター
そうだね。β遮断薬やARBで大動脈拡張の進行を抑え、拡張が進めば予防的に大動脈基部置換術を行う。激しい運動や接触の多いスポーツも制限する。骨格では高身長、くも状指、漏斗胸、側弯、Steinberg徴候やWalker-Murdoch徴候、ほかに自然気胸もみられる。眼では水晶体偏位のほか強度近視や網膜剝離にも注意が必要だ。
医学生医学生
ホモシスチン尿症もMarfan様の体型でしたよね。見分けるポイントは偏位の方向以外にもありますか。
ドクタードクター
ホモシスチン尿症は常染色体劣性遺伝で、知的障害や血栓症を伴うのが大きな違いだ。逆に低身長・短指で小球状水晶体を伴うWeill-Marchesani症候群も水晶体偏位をきたす。体型と随伴症状まで含めて考えると鑑別がしやすくなるよ。

まとめ

若年者の視力変動に加え、前眼部で本来見えないはずの水晶体辺縁が瞳孔領に見えれば水晶体偏位を考えます。外傷のない若年者の上方偏位はMarfan症候群を強く示唆し、FBN1変異によるフィブリリン-1の異常で毛様体小帯が脆弱化することが原因です。下方偏位ならホモシスチン尿症を考え、Hurler症候群は角膜混濁、Sturge-Weber症候群は緑内障・脈絡膜血管腫、神経線維腫症1型はLisch結節、Wilson病はKayser-Fleischer角膜輪と、眼所見で疾患を整理しておくと鑑別に役立ちます。Marfan症候群と診断したら、大動脈基部拡張や大動脈解離など生命予後に直結する心血管病変の評価と管理につなげることが重要です。眼の小さな所見から全身疾患を見抜き、命に関わる合併症の管理へ結びつける視点は、どの診療科でも求められる力です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・12歳の女児。2週前から右眼の視力が変動する。 ・右眼の前眼部写真(散瞳下):瞳孔領の下方〜側方に、本来は虹彩に隠れて見えないはずの水晶体の辺縁(赤道部)が弧状の線として見えている。水晶体は上方(写真では鼻側上方)へずれており、瞳孔領の一部には水晶体のない部分がある。すなわち水晶体偏位(亜脱臼)の所見である。

診断に至るプロセス

水晶体は毛様体小帯(Zinn小帯)という細い線維によって毛様体からつり下げられ、眼内の定位置に保たれている。この小帯が脆弱になったり断裂したりすると、水晶体が本来の位置からずれる(偏位・亜脱臼)。水晶体が動揺したり、瞳孔領に水晶体のある部分とない部分が混在したりするため、屈折状態が変化して視力が変動し、強い近視化・乱視・単眼複視などが生じる。本症例の「視力の変動」はこれで説明できる。 外傷の既往がない若年者の水晶体偏位では、毛様体小帯の異常をきたす全身疾患を考える。代表はMarfan症候群とホモシスチン尿症であり、偏位の方向が鑑別の手がかりとなる。Marfan症候群では上方(典型的には上耳側)へ、ホモシスチン尿症では下方(下鼻側)へ偏位することが多い。本症例は上方への偏位であり、選択肢の中ではMarfan症候群が最も考えられる。

設問の考え方

選択肢はいずれも特徴的な眼所見をもつ全身疾患である。各疾患の代表的な眼所見(角膜混濁、緑内障・脈絡膜血管腫、虹彩小結節、角膜輪部の銅沈着など)を整理しておき、「水晶体偏位」に対応するものを選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  Hurler症候群

    誤り。Hurler症候群はムコ多糖症Ⅰ型の重症型で、α-L-イズロニダーゼ欠損によりデルマタン硫酸とヘパラン硫酸が蓄積する常染色体劣性遺伝の疾患である。眼所見としては、角膜実質へのムコ多糖の沈着による角膜混濁が特徴的で、網膜変性や視神経萎縮を伴うこともある。粗な顔貌、骨変形(多発性異骨症)、肝脾腫、精神運動発達遅滞などを示す。なお、X連鎖劣性遺伝のHunter症候群(ムコ多糖症Ⅱ型)では角膜混濁がみられないのが鑑別点である。水晶体偏位は本症の典型所見ではない。

  2. ○b.  Marfan症候群

    正しい。Marfan症候群は、細胞外マトリックスのミクロフィブリルを構成するフィブリリン-1の遺伝子(FBN1)変異による常染色体優性遺伝の結合組織疾患である。毛様体小帯はフィブリリンを主成分とするため脆弱化し、患者の半数以上に水晶体偏位(多くは上方・上耳側)がみられる。水晶体偏位は本症の診断に重要な所見であり、改訂Ghent基準では大動脈基部の拡張と水晶体偏位があれば家族歴なしでも診断できる。本症例のような若年者の上方偏位と視力変動は本症に合致する。診断後は、大動脈基部拡張・大動脈解離・僧帽弁逸脱症などの心血管病変の評価が生命予後のうえで重要となる。

  3. ×c.  Sturge-Weber症候群

    誤り。Sturge-Weber症候群は、三叉神経第1枝(眼神経)領域を含む顔面の毛細血管奇形(ポートワイン母斑)、同側の軟膜血管腫(けいれん、片麻痺、知的障害の原因となり、頭部画像でtram-track状の石灰化を示す)を特徴とする神経皮膚症候群である。眼所見としては緑内障(特に母斑が上眼瞼に及ぶ場合)と脈絡膜血管腫が代表的である。水晶体偏位はみられない。

  4. ×d.  von Recklinghausen病

    誤り。von Recklinghausen病(神経線維腫症1型:NF1)はNF1遺伝子変異による常染色体優性遺伝の神経皮膚症候群で、カフェオレ斑、皮膚の神経線維腫、雀卵斑様色素斑などを示す。眼所見としては、虹彩表面の小さな褐色の過誤腫である虹彩小結節(Lisch結節)が特徴的で、視神経膠腫や眼瞼の蔓状神経線維腫もみられる。水晶体偏位は本症の典型所見ではない。

  5. ×e.  Wilson病

    誤り。Wilson病は銅輸送ATPase(ATP7B)の異常による常染色体劣性遺伝の銅代謝異常症で、肝臓・脳・角膜などに銅が沈着し、肝障害や錐体外路症状をきたす。眼所見としては、角膜周辺部(Descemet膜)への銅沈着による褐色〜緑色の輪であるKayser-Fleischer角膜輪が特徴的で、ひまわり白内障がみられることもある。水晶体偏位は生じない。

水晶体偏位(水晶体亜脱臼・脱臼)

毛様体小帯の断裂・脆弱化により水晶体が正常位置からずれた状態である。原因は外傷が最も多いが、若年者で外傷がなければ全身疾患を考える。 ・Marfan症候群:上方(上耳側)偏位が多い。常染色体優性遺伝。 ・ホモシスチン尿症:下方(下鼻側)偏位が多い。シスタチオニンβ合成酵素欠損による常染色体劣性遺伝で、Marfan様体型に加えて知的障害、血栓症を伴う。 ・Weill-Marchesani症候群:小球状水晶体を伴い、低身長・短指を示す(Marfan症候群と対照的な体型)。 症状は視力低下・視力変動、単眼複視、強い近視化や乱視である。前方へ脱臼すると瞳孔ブロックによる急性緑内障をきたすことがある。

Marfan症候群の概要

・原因:FBN1変異(常染色体優性遺伝、約25%は新生突然変異)。TGF-βシグナルの過剰な活性化も病態に関与する。 ・心血管系:大動脈基部拡張、大動脈弁閉鎖不全、大動脈解離(主な死因)、僧帽弁逸脱症。 ・眼:水晶体偏位、強度近視、網膜剝離。 ・骨格:高身長、指趾が細く長い(くも状指)、指極(両腕を広げた長さ)が身長より長い、漏斗胸・鳩胸、脊柱側弯、関節の過伸展。Steinberg徴候(母指を握り込むと母指の先が手の尺側縁から突き出る)やWalker-Murdoch徴候(手首を反対側の母指と小指で握ると両者が重なる)がみられる。 ・その他:自然気胸、硬膜拡張、皮膚線条。 ・治療・管理:β遮断薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)による大動脈拡張の進行抑制、定期的な心エコーによる大動脈径の評価、拡張が進めば予防的な大動脈基部置換術を行う。激しい運動や接触を伴うスポーツは制限する。

選択肢の疾患と特徴的な眼所見の整理

Hurler症候群:角膜混濁。 Marfan症候群:水晶体偏位(上方)。 Sturge-Weber症候群:緑内障、脈絡膜血管腫。 神経線維腫症1型:Lisch結節(虹彩小結節)、視神経膠腫。 Wilson病:Kayser-Fleischer角膜輪、ひまわり白内障。

POINT

・若年者の視力変動+前眼部で水晶体辺縁が見える → 水晶体偏位。 ・水晶体偏位は上方ならMarfan症候群、下方ならホモシスチン尿症を考える。 ・Marfan症候群はFBN1変異(常染色体優性遺伝)で、眼(水晶体偏位)・心血管(大動脈基部拡張、解離)・骨格(高身長、くも状指)に異常をきたす。 ・眼所見との対応:Hurler=角膜混濁、Sturge-Weber=緑内障・脈絡膜血管腫、NF1=Lisch結節、Wilson=Kayser-Fleischer角膜輪。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。