透明なレンズが瞳に浮かぶとき―術中写真で読み解く白内障手術の「今どこ?」
第111回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
白内障の手術場面を別に示す。 行っている操作はどれか。

- a.硝子体切除
- b.縮瞳薬注入
- c.水晶体前嚢切開
- d.水晶体乳化吸引
- e.眼内レンズ挿入
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
白内障手術は、散瞳下での角膜小切開、前嚢切開(CCC)、超音波水晶体乳化吸引、皮質吸引、眼内レンズ挿入という順序で進むため、術中写真で何が見えているかから段階を特定できます。散大した瞳孔領に透明な光学部とループ状の支持部をもつ人工物が見えれば、水晶体の除去は終わっており、眼内レンズ挿入の場面と判断できます。白内障手術は散瞳を保って行い、縮瞳薬は挿入後などに限って用いること、前部硝子体切除は後嚢破損などの合併症対応であることも押さえておきましょう。術後合併症として眼内炎や後発白内障(Nd:YAGレーザー後嚢切開で治療)などを知っておくことは、手術を受けた患者を診るあらゆる場面で役立ちます。
解答・解説
正解はeです
白内障手術の術中写真から、どの段階の操作かを読み取る問題である。
写真の所見
手術用顕微鏡下の眼で、開瞼器がかけられ、瞳孔は散瞳薬により大きく開いている。瞳孔領には、照明光を受けて光る透明な円形の光学部をもつ人工物が見え、その周辺から細いループ状の支持部(ハプティクス)が伸びている。右上方の角膜周辺部の切開創付近から器具が挿入されており、折りたたまれていた眼内レンズ(IOL:intraocular lens)を眼内に送り込み、展開させている場面と読める。
考え方
現在の標準的な白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)は、おおむね次の順で進む。 ①散瞳(術前点眼)→②角膜(または強角膜)小切開→③前房に粘弾性物質を注入して前房を保持→④水晶体前嚢切開(連続円形切嚢:CCC)→⑤ハイドロダイセクション(水晶体核と皮質の分離)→⑥超音波水晶体乳化吸引(核の除去)→⑦皮質吸引→⑧眼内レンズを水晶体嚢内に挿入→⑨粘弾性物質の除去→⑩創の閉鎖確認。 写真では眼内レンズそのものが眼内に見えているので、白濁した水晶体の除去(④~⑦)はすでに終わっており、最終段階に近い⑧の操作を行っていると判断できる。散瞳が保たれていること、硝子体を処理する器具や所見がないことも、他の選択肢を否定する根拠となる。
選択肢考察
- ×a. 硝子体切除
誤り。白内障手術で硝子体切除(前部硝子体切除)を行うのは、後嚢破損やチン小帯断裂により硝子体が前房側へ脱出した場合などの合併症対応時である。写真には硝子体切除用のカッターや脱出した硝子体は見られず、眼内レンズが眼内に送り込まれている場面である。
- ×b. 縮瞳薬注入
誤り。白内障手術は術野を広く確保するため、術前に散瞳薬を点眼し、灌流液にも散瞳を維持する薬剤を加えることがある。縮瞳薬(アセチルコリンなど)を前房内に注入するのは、眼内レンズ挿入後に虹彩を元の位置に戻したい場合などに限られる。写真の瞳孔は大きく散大したままであり、縮瞳操作の場面ではない。
- ×c. 水晶体前嚢切開
誤り。前嚢切開は、水晶体の前嚢を連続した円形に切り取る操作(CCC:continuous curvilinear capsulorhexis)で、チストトーム(細い針状の器具)や鑷子を用いて行う。これは水晶体内容を除去する前の早い段階の操作である。写真ではすでに眼内レンズが眼内に入っているため、前嚢切開は終了していると考えられる。
- ×d. 水晶体乳化吸引
誤り。水晶体乳化吸引は、超音波で振動するチップを用いて混濁した水晶体核を砕き(乳化し)、灌流しながら吸引除去する操作である。2~3mm程度の小切開から行えるため、創が小さく術後乱視や回復期間が少ないのが利点である。写真には超音波チップではなく眼内レンズが写っており、乳化吸引はすでに終わった後の場面である。
- ○e. 眼内レンズ挿入
正しい。瞳孔領に光を反射する透明な光学部とループ状の支持部をもつ眼内レンズが見え、角膜切開創から挿入器具を用いてレンズを眼内に送り込んでいる場面である。現在の眼内レンズの多くはアクリル製の軟らかい素材で、折りたたんだ状態でインジェクターから挿入され、眼内で広がって水晶体嚢内に固定される。水晶体の除去後に行う操作であり、白内障手術の後半に位置づけられる。
白内障とは
水晶体が混濁し、視力低下、霧視(かすみ)、羞明(まぶしさ)などを来す疾患である。最も多いのは加齢性白内障で、そのほか糖尿病、ステロイド薬の長期使用、外傷、アトピー性皮膚炎、先天性(風疹など)が原因となる。
手術の適応と方法
視機能の低下により日常生活に支障が出た場合に手術を行う。薬物で混濁を取り除くことはできず、根本的な治療は手術である。現在の標準術式は超音波水晶体乳化吸引術(PEA:phacoemulsification and aspiration)と眼内レンズ挿入術の組み合わせで、水晶体嚢を袋状に残してその中に眼内レンズを固定する。かつては水晶体核を大きな切開から娩出する嚢外摘出術が主流であったが、現在は小切開の乳化吸引術が主流である。
主な術中・術後合併症
・後嚢破損・硝子体脱出(前部硝子体切除を要することがある) ・術後眼内炎(重篤で、急激な視力低下・眼痛・前房蓄膿を来す) ・後発白内障(残存した水晶体上皮細胞の増殖による後嚢混濁。Nd:YAGレーザーによる後嚢切開で治療する) ・水疱性角膜症(角膜内皮細胞の障害による) ・嚢胞様黄斑浮腫
眼内レンズの基本
眼内レンズは中央の光学部と、それを嚢内で支える支持部(ハプティクス)からなる。単焦点レンズが標準であり、多焦点レンズや乱視矯正用レンズ(トーリックレンズ)もある。
POINT
・白内障手術の基本手順:散瞳 → 小切開 → 前嚢切開(CCC) → 超音波水晶体乳化吸引 → 皮質吸引 → 眼内レンズ挿入。 ・眼内に眼内レンズが見えていれば、前嚢切開と乳化吸引はすでに終了している。 ・白内障手術は散瞳下で行う。縮瞳薬は眼内レンズ挿入後などに限って使う。 ・硝子体切除は、後嚢破損による硝子体脱出など合併症への対応として行う。 ・後発白内障にはNd:YAGレーザー後嚢切開を行う。
