収縮のたびに遅れて落ちる心拍―重症妊娠高血圧症候群が告げる「今すぐ娩出」のサイン
第99回医師国家試験 H問題 第2問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。0経妊0経産。妊娠28週の妊婦健康診査まで異常は認めなかった。妊娠30週の妊婦健康診査で血圧150/100mmHg。尿蛋白1+。下肢の浮腫1+であった。入院して,安静と食事療法とを行ったが,症状は改善しなかった。妊娠34週に血圧180/120mmHg。尿蛋白2+。下肢の浮腫2+となった。また,2~3分間隔の子宮収縮を自覚した。この時の内診所見では,先進部は後頭部で子宮口は2cm開大,位置後方で,頸管は硬,展退30%,SP -2であった。超音波断層検査で児の推定体重は1,400gであった。この時点での胎児心拍数陣痛図を示す。 正しいのはどれか。

- a.高血圧は軽症に分類される。
- b.子宮頸管は熟化している。
- c.胎児発育は週数相当である。
- d.児頭が圧迫されている。
- e.急遂分娩が必要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠高血圧症候群は収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上で重症とされ、早発型は重症化しやすく、浮腫は現在の診断基準には含まれません。重症例では螺旋動脈のリモデリング不全による胎盤機能不全から胎児発育不全が生じ、陣痛のたびに胎児が低酸素となって遅発一過性徐脈が反復します。一過性徐脈は、早発型が児頭圧迫、遅発型が胎盤機能不全、変動型が臍帯圧迫と原因を区別して読むことが重要です。治療抵抗性の重症高血圧に胎児機能不全が加わり、Bishopスコアが低く経腟分娩まで時間を要する場合は、帝王切開による急速遂娩を行います。母体の重症度、頸管の熟化、胎児発育、胎児心拍数陣痛図を統合して分娩時期と方法を判断する力は、周産期医療の基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・初産婦(0経妊0経産)、32歳。妊娠28週までは異常なし。 ・妊娠30週: 血圧150/100mmHg、尿蛋白1+。妊娠20週以降に高血圧と蛋白尿が出現しており、妊娠高血圧腎症(妊娠高血圧症候群の一病型)にあたる。34週未満で発症しているので早発型である。 ・入院安静・食事療法でも改善せず、妊娠34週には血圧180/120mmHg、尿蛋白2+と増悪した。収縮期160mmHg以上・拡張期110mmHg以上のいずれも満たし、重症に分類される。 ・2〜3分間隔の子宮収縮を自覚しており、陣痛が発来しつつある(妊娠34週なので早産期)。 ・内診: 子宮口2cm開大、展退30%、SP(先進部の高さ)−2、頸管は硬、位置は後方。Bishopスコアは2点と低く、頸管は未熟である。 ・超音波: 推定児体重1,400g。妊娠34週の標準(おおむね2,200g前後)を大きく下回り、胎児発育不全(FGR)である。
胎児心拍数陣痛図の読み方
胎児心拍数の基線はおよそ150bpm前後で正常範囲にある。子宮収縮のたびに心拍数が低下し、その低下は収縮の始まりより遅れて始まり、最も低くなる時点(最下点)は収縮の頂点より後にずれ、収縮が終わってからようやく基線に戻っている。収縮ごとに繰り返す遅発一過性徐脈であり、最下点は70bpm前後と低下の程度も大きい。
病態のまとめと設問の考え方
重症の妊娠高血圧症候群では、胎盤の血管が十分に発達・拡張せず、子宮胎盤循環が障害される(胎盤機能不全)。慢性的な栄養・酸素の供給不足が胎児発育不全を起こし、さらに陣痛で胎盤への血流が一時的に途絶えるたびに胎児が低酸素状態になって遅発一過性徐脈が現れる。これは胎児機能不全(NRFS: non-reassuring fetal status、胎児の状態が良好であると言えない状態)を意味する。 母体は重症高血圧が治療抵抗性に進行しており、子癇や常位胎盤早期剥離、HELLP症候群などの危険も高い。胎児は子宮内でこれ以上の状態改善が期待できない。子宮口は2cmしか開いておらず頸管も未熟で、経腟分娩までには長い時間がかかるため、帝王切開による急速遂娩(急遂分娩)が必要な状況である。
選択肢考察
- ×a. 高血圧は軽症に分類される。
誤り。妊娠高血圧症候群では、収縮期血圧160mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上のいずれかを満たせば重症とされる。本例の血圧180/120mmHgは両方の基準を満たしており、明らかに重症である。なお妊娠30週時の150/100mmHg(140〜159/90〜109mmHgの範囲)は、かつて「軽症」と呼ばれていた範囲にあたる(現在の分類では重症に該当しないものは「重症でない」とされ、軽症という用語は用いられない)。
- ×b. 子宮頸管は熟化している。
誤り。頸管の熟化の程度はBishopスコア(子宮口開大度、頸管展退度、児頭の高さ、頸部の硬さ、子宮口の位置の5項目、計13点満点)で評価する。本例は、開大2cm(1点)、展退30%(0点)、SP−2(1点)、硬さ: 硬(0点)、位置: 後方(0点)の合計2点である。一般に9点以上で熟化、4点以下では未熟と判断され、本例の頸管は未熟である。そのため陣痛誘発や経腟分娩の完遂には時間がかかることが予想される。
- ×c. 胎児発育は週数相当である。
誤り。妊娠34週の胎児体重はおおむね2,200g前後が平均であり、推定体重1,400gは基準範囲を大きく下回る。胎児発育不全(FGR)である。重症妊娠高血圧症候群では胎盤機能不全が起こるため、FGRを合併しやすい。胎盤機能不全によるFGRでは、脳への血流を優先するため頭部よりも腹部の発育が遅れる非対称性のパターンをとることが多い。
- ×d. 児頭が圧迫されている。
誤り。児頭の圧迫で生じるのは早発一過性徐脈で、子宮収縮とほぼ同時に心拍数が緩やかに下がり始め、最下点が収縮の頂点と一致し、収縮の終わりとともに回復する鏡像のような波形となる。迷走神経反射による生理的な変化で、分娩が進み児頭が骨盤内に深く下降した時期にみられることが多い。本例の徐脈は最下点が収縮の頂点より遅れる遅発一過性徐脈であり、胎盤機能不全による胎児低酸素を示す。また、児頭はSP−2とまだ高い位置にあり、産道で強く圧迫される段階ではない。
- ○e. 急遂分娩が必要である。
正しい。子宮収縮のたびに遅発一過性徐脈が繰り返し出現しており、胎児は低酸素状態にある(胎児機能不全)。背景には治療に反応しない重症妊娠高血圧症候群と胎児発育不全があり、胎盤機能の回復は見込めない。妊娠34週であれば児の体外生存も十分期待できる。母体側でも子癇や常位胎盤早期剥離などの危険が高く、妊娠を継続する利益はない。子宮口開大2cm・Bishopスコア2点と経腟分娩までに時間を要するため、帝王切開による急速遂娩(急遂分娩)が適応となる。
妊娠高血圧症候群(HDP)
・定義: 妊娠時に高血圧(140/90mmHg以上)を認める場合をいう。かつては「妊娠中毒症」と呼ばれ、浮腫も診断要素に含まれていたが、現在は浮腫は診断基準に含まれない。 ・病型: 妊娠高血圧腎症(妊娠20週以降の高血圧に蛋白尿、または臓器障害を伴う)、妊娠高血圧(高血圧のみ)、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠。 ・重症: 収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上、あるいは妊娠高血圧腎症で母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴う場合。現在は蛋白尿の多寡だけでは重症と判定しない。 ・発症時期: 妊娠34週未満の発症を早発型、34週以降を遅発型とする。早発型は重症化しやすい。 ・病態: 胎盤形成の過程で螺旋動脈のリモデリング(血管の拡張)が不十分となり、胎盤の虚血から血管内皮障害が全身に及ぶと考えられている。 ・合併症: 子癇、HELLP症候群(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)、常位胎盤早期剥離、肺水腫、胎児発育不全、胎児機能不全。 ・治療: 根本的な治療は妊娠の終了(分娩)である。重症高血圧に対しては降圧薬(ニフェジピン、ラベタロール、ヒドララジンなど)を用い、子癇の予防に硫酸マグネシウムを投与する。
一過性徐脈の種類
・早発一過性徐脈: 収縮と同時に緩やかに下降し、最下点が収縮の頂点と一致する。児頭圧迫による迷走神経反射で、通常は問題ない。 ・遅発一過性徐脈: 収縮より遅れて緩やかに下降し、最下点が収縮の頂点より遅れる。子宮胎盤循環の不全による胎児低酸素を示し、繰り返す場合は胎児機能不全として対応する。 ・変動一過性徐脈: 収縮との関係が一定せず、急速に下降し急速に回復する。臍帯圧迫による。 ・遷延一過性徐脈: 基線から15bpm以上の低下が2分以上10分未満続く。
Bishopスコアの配点
・子宮口開大度: 0cm=0点、1〜2cm=1点、3〜4cm=2点、5cm以上=3点 ・頸管展退度: 0〜30%=0点、40〜50%=1点、60〜70%=2点、80%以上=3点 ・児頭の位置(SP): −3=0点、−2〜−1=1点、0=2点、+1以上=3点 ・頸部の硬さ: 硬=0点、中=1点、軟=2点 ・子宮口の位置: 後方=0点、中央=1点、前方=2点
POINT
・妊娠高血圧症候群の重症は、収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上。 ・重症妊娠高血圧症候群は胎盤機能不全を起こし、胎児発育不全と遅発一過性徐脈(胎児機能不全)の原因となる。 ・遅発一過性徐脈は胎盤機能不全、早発一過性徐脈は児頭圧迫、変動一過性徐脈は臍帯圧迫。 ・Bishopスコアは5項目13点満点。低値は頸管未熟を示す。 ・胎児機能不全で経腟分娩まで時間を要する場合は、帝王切開による急速遂娩を行う。
