高血圧なくして始まらない―妊娠高血圧症候群の4病型と「妊娠蛋白尿」の落とし穴
第116回医師国家試験 E問題 第10問
国試問題にチャレンジ
妊娠高血圧症候群の病型分類に含まれないのはどれか。
- a.妊娠高血圧
- b.妊娠蛋白尿
- c.高血圧合併妊娠
- d.妊娠高血圧腎症
- e.加重型妊娠高血圧腎症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠高血圧症候群は2018年の日本産科婦人科学会の定義で「妊娠時に高血圧を認めた場合」とされ、高血圧(140/90 mmHg以上)の存在が必須です。病型は妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠、加重型妊娠高血圧腎症の4つで、高血圧が妊娠20週未満から存在したか20週以降の初発かと、蛋白尿・臓器障害・子宮胎盤機能不全を伴うかの2軸で整理できます。高血圧を伴わない妊娠蛋白尿や浮腫は、旧「妊娠中毒症」の名残であり分類に含まれませんが、妊娠蛋白尿は妊娠高血圧腎症へ進展しうるため血圧の経過観察が欠かせません。2018年改訂で蛋白尿がなくても臓器障害や子宮胎盤機能不全があれば妊娠高血圧腎症と診断できるようになった点も重要です。定義と病型を正確に理解することは、重症化の早期察知や分娩時期の判断といった周産期管理の基盤となります。
解答・解説
正解はbです
妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)は、日本産科婦人科学会により2018年に定義・分類が改訂され、「妊娠時に高血圧を認めた場合」を妊娠高血圧症候群とする、と定められた。つまり本症候群の診断の出発点は「高血圧(収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上)があること」であり、高血圧を伴わない病態は本症候群に含まれない。 病型は次の4つである。 ・妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE) ・妊娠高血圧(gestational hypertension:GH) ・加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia:SPE) ・高血圧合併妊娠(chronic hypertension:CH) この4病型は「高血圧が妊娠前または妊娠20週未満から存在したか、妊娠20週以降に初めて出現したか」と「蛋白尿や臓器障害・子宮胎盤機能不全を伴うか」という2つの軸で整理すると覚えやすい。選択肢のうち、高血圧を前提としない「妊娠蛋白尿」だけがこの分類に含まれず、正解となる。
選択肢考察
- ×a. 妊娠高血圧
4病型の一つである。妊娠20週以降に初めて高血圧が出現し、分娩後12週までに正常化するもののうち、妊娠高血圧腎症の定義(蛋白尿・臓器障害・子宮胎盤機能不全のいずれか)を満たさない、つまり高血圧のみを呈する病型をいう。
- ○b. 妊娠蛋白尿
妊娠20週以降に高血圧を伴わずに蛋白尿のみを認める状態を指すが、妊娠高血圧症候群は高血圧の存在を前提とするため、病型分類には含まれない。これが正解である。かつての「妊娠中毒症」の概念では、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかがあれば対象とされたが、2005年に妊娠高血圧症候群へ名称と定義が改められた際に高血圧が必須となり、蛋白尿単独や浮腫は除外された。ただし、妊娠蛋白尿の一部は後に高血圧を合併して妊娠高血圧腎症へ進展することがあるため、血圧の推移を注意深く追う必要がある。
- ×c. 高血圧合併妊娠
4病型の一つである。高血圧が妊娠前、または妊娠20週未満の時点ですでに存在し、加重型妊娠高血圧腎症を発症していないものをいう。2018年の改訂で、それまで分類の外に置かれていた本病型が正式に妊娠高血圧症候群に組み入れられた。本態性高血圧のほか、腎疾患などによる二次性高血圧もこれに含まれる。
- ×d. 妊娠高血圧腎症
4病型の一つである。妊娠20週以降に初めて高血圧が出現し、分娩後12週までに正常化するもののうち、①蛋白尿を伴う場合、②蛋白尿がなくても肝機能障害・腎機能障害・脳卒中や神経障害・血液凝固障害といった母体の臓器障害を伴う場合、③蛋白尿がなくても胎児発育不全・臍帯動脈血流波形異常・死産などの子宮胎盤機能不全を伴う場合をいう。2018年の改訂で、蛋白尿がなくても②③を満たせば本症とされるようになった。
- ×e. 加重型妊娠高血圧腎症
4病型の一つである。妊娠前または妊娠20週未満から存在した高血圧や腎疾患に、妊娠20週以降に新たな病態が加わるものをいう。具体的には、①既存の高血圧に妊娠20週以降に蛋白尿や臓器障害が加わる場合、②既存の高血圧と蛋白尿のいずれかまたは両方が妊娠20週以降に増悪する場合、③蛋白尿のみを呈する腎疾患に妊娠20週以降に高血圧が加わる場合、④既存の高血圧に妊娠20週以降に子宮胎盤機能不全が加わる場合が該当する。
診断の基準値
・高血圧:収縮期血圧140 mmHg以上、または拡張期血圧90 mmHg以上 ・重症:収縮期血圧160 mmHg以上、または拡張期血圧110 mmHg以上。妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症で母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴う場合も重症として扱う ・蛋白尿:24時間蓄尿で300 mg/日以上、または随時尿の蛋白/クレアチニン比0.3 mg/mg・Cr以上。蓄尿や比の測定ができない場合は試験紙法で2回以上連続して陽性(1+以上)を参考にする
発症時期による分類
・早発型:妊娠34週未満で発症 ・遅発型:妊娠34週以降で発症 早発型のほうが母児の予後が悪い傾向にある。
歴史的経緯
・かつては「妊娠中毒症」と呼ばれ、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかがあれば該当とされた ・2005年に「妊娠高血圧症候群」へ名称と定義が変更され、高血圧が必須となった(浮腫や蛋白尿単独は除外) ・2018年の改訂で、高血圧合併妊娠が病型に加えられ、蛋白尿がなくても臓器障害や子宮胎盤機能不全があれば妊娠高血圧腎症と診断できるようになった。これは国際的な定義(ISSHPなど)に合わせたものである
関連する重篤な病態
子癇(妊娠20週以降に初発するけいれん発作で、てんかんなど他の原因によらないもの)、HELLP症候群(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)、脳卒中、肺水腫、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)などは、妊娠高血圧症候群に関連して生じうる重篤な合併症である。
根本的治療
妊娠高血圧腎症の根本的な治療は妊娠の終結(分娩)である。降圧薬や子癇予防のための硫酸マグネシウムは対症的に用いられる。
POINT
・妊娠高血圧症候群は「妊娠時に高血圧を認めた場合」と定義され、高血圧が必須 ・病型は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠の4つ ・妊娠蛋白尿(高血圧を伴わない蛋白尿)や浮腫は含まれない ・高血圧の境界は妊娠20週:20週未満から存在すれば高血圧合併妊娠・加重型、20週以降の初発なら妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症 ・2018年改訂で、蛋白尿がなくても臓器障害や子宮胎盤機能不全があれば妊娠高血圧腎症
