StudyMed医師国家試験

高血圧なくして始まらない―妊娠高血圧症候群の4病型と「妊娠蛋白尿」の落とし穴

第116回医師国家試験 E問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第116回 E問題 第10問

妊娠高血圧症候群の病型分類に含まれないのはどれか。

  1. a.妊娠高血圧
  2. b.妊娠蛋白尿
  3. c.高血圧合併妊娠
  4. d.妊娠高血圧腎症
  5. e.加重型妊娠高血圧腎症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊娠高血圧症候群の病型分類の問題だ。着眼点はただ一つ、この症候群の定義の出発点が何か、ということ。それがわかれば、仲間外れの選択肢は自然に見えてくるよ。
医学生医学生
妊娠高血圧症候群というと、高血圧と蛋白尿がセットのイメージがあります。
ドクタードクター
多くの人がそう覚えているね。でも、2018年に日本産科婦人科学会が改訂した定義では、「妊娠時に高血圧を認めた場合」を妊娠高血圧症候群とする。つまり高血圧が必須で、収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上が基準だ。高血圧がなければ、この症候群には入らない。
医学生医学生
だとすると、高血圧を伴わない妊娠蛋白尿は分類に含まれない、ということですか。
ドクタードクター
その通り、妊娠蛋白尿が正解だ。歴史的な経緯を知っておくと納得しやすい。昔は「妊娠中毒症」と呼ばれ、高血圧・蛋白尿・浮腫のどれか一つでもあれば該当とされていた。2005年に妊娠高血圧症候群へ名称と定義が変わったときに高血圧が必須になり、蛋白尿単独や浮腫は外されたんだ。
医学生医学生
産婦人科の講義で、浮腫が診断基準から消えたという話を聞きました。蛋白尿単独も同じ流れなんですね。
ドクタードクター
そうだね。では残りの4つの病型を整理しよう。覚え方のコツは2つの軸だ。一つは高血圧が妊娠前または妊娠20週未満からあったのか、20週以降に初めて出たのか。もう一つは蛋白尿や臓器障害、子宮胎盤機能不全を伴うかどうか。
医学生医学生
20週以降に初めて高血圧が出て、ほかに何もなければ妊娠高血圧ですか。
ドクタードクター
正解。妊娠高血圧は20週以降に初発し、分娩後12週までに正常化する高血圧のみの病型だ。そこに蛋白尿が加われば妊娠高血圧腎症になる。2018年改訂の大事な点は、蛋白尿がなくても、肝機能障害・腎機能障害・脳卒中や神経障害・血液凝固障害といった母体の臓器障害、あるいは胎児発育不全や臍帯動脈血流波形異常などの子宮胎盤機能不全があれば、妊娠高血圧腎症と診断できるようになったことだ。
医学生医学生
腎症という名前なのに、蛋白尿がなくても診断されることがあるんですね。名前に引っ張られそうです。
ドクタードクター
そこは国際的な定義に合わせた変更なんだ。名前より中身で覚えよう。では、妊娠前から高血圧があった場合はどうなるかな。
医学生医学生
それが高血圧合併妊娠ですね。もともと本態性高血圧の人が妊娠した場合でしょうか。
ドクタードクター
そう。妊娠前または20週未満から高血圧があり、加重型を発症していないものだ。本態性だけでなく、腎疾患などによる二次性高血圧も含まれる。これも2018年改訂で正式に病型へ組み入れられた。そして、既存の高血圧に20週以降に蛋白尿や臓器障害、子宮胎盤機能不全が加わったり、もともとあった高血圧や蛋白尿が増悪したりしたものが加重型妊娠高血圧腎症だ。蛋白尿だけを呈する腎疾患に20週以降に高血圧が加わった場合もここに入る。
医学生医学生
既存の病態に妊娠で新しい問題が「加重」される、ということですね。整理すると、20週の前か後か、高血圧だけか何かが加わるかで4つに分かれる。
ドクタードクター
完璧だ。ここからは臨床の話。妊娠蛋白尿は分類には入らないけれど、一部は後から高血圧が出て妊娠高血圧腎症に進展することがある。だから「分類外だから安心」ではなく、血圧の推移をきちんと追う必要があるんだ。
医学生医学生
産科の実習で、妊婦健診のたびに血圧と尿蛋白を必ずチェックしていた理由がわかりました。重症の基準も知っておくべきですか。
ドクタードクター
ぜひ押さえておこう。収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上で重症、また妊娠高血圧腎症で臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴う場合も重症として扱う。発症時期では34週未満の早発型のほうが母児の予後が悪い傾向がある。子癇、HELLP症候群、脳卒中、肺水腫、PRESといった重篤な合併症にもつながりうる。
医学生医学生
治療は降圧薬が中心ですか。
ドクタードクター
降圧薬や、子癇予防の硫酸マグネシウムはあくまで対症療法で、妊娠高血圧腎症の根本的な治療は妊娠の終結、つまり分娩なんだ。母体と胎児の状態を天秤にかけながら分娩時期を判断するのが、産科診療の難しさであり腕の見せどころだよ。

まとめ

妊娠高血圧症候群は2018年の日本産科婦人科学会の定義で「妊娠時に高血圧を認めた場合」とされ、高血圧(140/90 mmHg以上)の存在が必須です。病型は妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠、加重型妊娠高血圧腎症の4つで、高血圧が妊娠20週未満から存在したか20週以降の初発かと、蛋白尿・臓器障害・子宮胎盤機能不全を伴うかの2軸で整理できます。高血圧を伴わない妊娠蛋白尿や浮腫は、旧「妊娠中毒症」の名残であり分類に含まれませんが、妊娠蛋白尿は妊娠高血圧腎症へ進展しうるため血圧の経過観察が欠かせません。2018年改訂で蛋白尿がなくても臓器障害や子宮胎盤機能不全があれば妊娠高血圧腎症と診断できるようになった点も重要です。定義と病型を正確に理解することは、重症化の早期察知や分娩時期の判断といった周産期管理の基盤となります。

解答・解説

正解はbです

妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)は、日本産科婦人科学会により2018年に定義・分類が改訂され、「妊娠時に高血圧を認めた場合」を妊娠高血圧症候群とする、と定められた。つまり本症候群の診断の出発点は「高血圧(収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上)があること」であり、高血圧を伴わない病態は本症候群に含まれない。 病型は次の4つである。 ・妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE) ・妊娠高血圧(gestational hypertension:GH) ・加重型妊娠高血圧腎症(superimposed preeclampsia:SPE) ・高血圧合併妊娠(chronic hypertension:CH) この4病型は「高血圧が妊娠前または妊娠20週未満から存在したか、妊娠20週以降に初めて出現したか」と「蛋白尿や臓器障害・子宮胎盤機能不全を伴うか」という2つの軸で整理すると覚えやすい。選択肢のうち、高血圧を前提としない「妊娠蛋白尿」だけがこの分類に含まれず、正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  妊娠高血圧

    4病型の一つである。妊娠20週以降に初めて高血圧が出現し、分娩後12週までに正常化するもののうち、妊娠高血圧腎症の定義(蛋白尿・臓器障害・子宮胎盤機能不全のいずれか)を満たさない、つまり高血圧のみを呈する病型をいう。

  2. ○b.  妊娠蛋白尿

    妊娠20週以降に高血圧を伴わずに蛋白尿のみを認める状態を指すが、妊娠高血圧症候群は高血圧の存在を前提とするため、病型分類には含まれない。これが正解である。かつての「妊娠中毒症」の概念では、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかがあれば対象とされたが、2005年に妊娠高血圧症候群へ名称と定義が改められた際に高血圧が必須となり、蛋白尿単独や浮腫は除外された。ただし、妊娠蛋白尿の一部は後に高血圧を合併して妊娠高血圧腎症へ進展することがあるため、血圧の推移を注意深く追う必要がある。

  3. ×c.  高血圧合併妊娠

    4病型の一つである。高血圧が妊娠前、または妊娠20週未満の時点ですでに存在し、加重型妊娠高血圧腎症を発症していないものをいう。2018年の改訂で、それまで分類の外に置かれていた本病型が正式に妊娠高血圧症候群に組み入れられた。本態性高血圧のほか、腎疾患などによる二次性高血圧もこれに含まれる。

  4. ×d.  妊娠高血圧腎症

    4病型の一つである。妊娠20週以降に初めて高血圧が出現し、分娩後12週までに正常化するもののうち、①蛋白尿を伴う場合、②蛋白尿がなくても肝機能障害・腎機能障害・脳卒中や神経障害・血液凝固障害といった母体の臓器障害を伴う場合、③蛋白尿がなくても胎児発育不全・臍帯動脈血流波形異常・死産などの子宮胎盤機能不全を伴う場合をいう。2018年の改訂で、蛋白尿がなくても②③を満たせば本症とされるようになった。

  5. ×e.  加重型妊娠高血圧腎症

    4病型の一つである。妊娠前または妊娠20週未満から存在した高血圧や腎疾患に、妊娠20週以降に新たな病態が加わるものをいう。具体的には、①既存の高血圧に妊娠20週以降に蛋白尿や臓器障害が加わる場合、②既存の高血圧と蛋白尿のいずれかまたは両方が妊娠20週以降に増悪する場合、③蛋白尿のみを呈する腎疾患に妊娠20週以降に高血圧が加わる場合、④既存の高血圧に妊娠20週以降に子宮胎盤機能不全が加わる場合が該当する。

診断の基準値

・高血圧:収縮期血圧140 mmHg以上、または拡張期血圧90 mmHg以上 ・重症:収縮期血圧160 mmHg以上、または拡張期血圧110 mmHg以上。妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症で母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴う場合も重症として扱う ・蛋白尿:24時間蓄尿で300 mg/日以上、または随時尿の蛋白/クレアチニン比0.3 mg/mg・Cr以上。蓄尿や比の測定ができない場合は試験紙法で2回以上連続して陽性(1+以上)を参考にする

発症時期による分類

・早発型:妊娠34週未満で発症 ・遅発型:妊娠34週以降で発症 早発型のほうが母児の予後が悪い傾向にある。

歴史的経緯

・かつては「妊娠中毒症」と呼ばれ、高血圧・蛋白尿・浮腫のいずれかがあれば該当とされた ・2005年に「妊娠高血圧症候群」へ名称と定義が変更され、高血圧が必須となった(浮腫や蛋白尿単独は除外) ・2018年の改訂で、高血圧合併妊娠が病型に加えられ、蛋白尿がなくても臓器障害や子宮胎盤機能不全があれば妊娠高血圧腎症と診断できるようになった。これは国際的な定義(ISSHPなど)に合わせたものである

関連する重篤な病態

子癇(妊娠20週以降に初発するけいれん発作で、てんかんなど他の原因によらないもの)、HELLP症候群(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)、脳卒中、肺水腫、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)などは、妊娠高血圧症候群に関連して生じうる重篤な合併症である。

根本的治療

妊娠高血圧腎症の根本的な治療は妊娠の終結(分娩)である。降圧薬や子癇予防のための硫酸マグネシウムは対症的に用いられる。

POINT

・妊娠高血圧症候群は「妊娠時に高血圧を認めた場合」と定義され、高血圧が必須 ・病型は妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠の4つ ・妊娠蛋白尿(高血圧を伴わない蛋白尿)や浮腫は含まれない ・高血圧の境界は妊娠20週:20週未満から存在すれば高血圧合併妊娠・加重型、20週以降の初発なら妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症 ・2018年改訂で、蛋白尿がなくても臓器障害や子宮胎盤機能不全があれば妊娠高血圧腎症

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。