けいれんの裏に潜む心停止―心室細動には何よりも先に電気ショック
第99回医師国家試験 H問題 第11問
国試問題にチャレンジ
55歳の男性。スポーツジムで筋力トレーニング中に突然意識を消失し,全身けいれんがみられたため救急車で搬入された。救急車内での心電図モニターの波形を示す。 まず行うべき処置はどれか。

- a.リドカイン静注
- b.カテコラミン静注
- c.気管挿管
- d.電気的除細動
- e.ペースメーカー挿入
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
突然の意識消失とけいれんは、てんかんだけでなく心室細動などの致死性不整脈による心停止でも起こり、P・QRS・Tの区別がない不規則な波形が連続していれば心室細動と判断します。心室細動と無脈性心室頻拍はショック適応リズムであり、除細動が1分遅れるごとに救命率が大きく低下するため、非同期の電気的除細動を最優先し、ショック後は直ちに胸骨圧迫を再開します。アドレナリンや抗不整脈薬(アミオダロン、リドカインなど)は除細動の補助であり、気管挿管のために除細動や胸骨圧迫を遅らせてはならず、ペースメーカーは徐脈性不整脈の治療で心室細動には無効です。脈のある頻拍に対する同期下カルディオバージョンとの違いや、運動中の心停止の背景となる冠動脈疾患・心筋症の検索も含めて理解することで、院内外の蘇生場面で迷わず行動できる力につながります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
55歳の男性が筋力トレーニング中に突然意識を失い、全身けいれんを起こした。救急車内の心電図モニターでは、P波・QRS波・T波の区別がつかない、振幅も周期も不規則な波形が連続しており、心室細動(ventricular fibrillation:VF)である。
病態の考え方
VFでは心室筋がばらばらに興奮して震えているだけで、有効な心拍出が得られない。つまり脈を触れない心停止の状態である。脳血流が途絶すると数秒で意識を失い、しばしば脳虚血によるけいれんを伴う。このため「突然の意識消失+けいれん」をみたら、てんかん発作だけでなく致死性不整脈(VFや無脈性心室頻拍)による心停止を必ず考える。運動中に起きた中年男性の突然の虚脱であり、背景に急性冠症候群などの虚血性心疾患や肥大型心筋症などの器質的心疾患が潜んでいる可能性もある。
設問の考え方
VFや無脈性心室頻拍(pulseless VT)は電気ショックが有効な「ショック適応リズム」である。除細動が1分遅れるごとに救命率は約7〜10%ずつ低下するとされ、治療の成否は除細動までの時間でほぼ決まる。したがって、薬剤投与や気道確保よりも先に、できるだけ早く電気的除細動を行うことが最優先となる。除細動器の準備が整うまでは胸骨圧迫を絶え間なく続け、ショック後はリズムを確認せず直ちに胸骨圧迫から心肺蘇生(CPR)を2分間再開する。
選択肢考察
- ×a. リドカイン静注
リドカインはNaチャネル遮断作用をもつClass Ib群の抗不整脈薬で、心室性不整脈に用いられる。しかし心停止アルゴリズムでは、電気ショックを複数回行っても停止しない難治性のVF・無脈性VTに対して、アミオダロンの代替薬として検討される位置づけにすぎない。薬剤単独でVFを停止させる効果は乏しく、最初に行う処置ではない。
- ×b. カテコラミン静注
カテコラミン(アドレナリン)は心停止時に冠灌流圧・脳灌流圧を高める目的で使用される。心静止や無脈性電気活動(PEA)のようなショック非適応リズムでは可能な限り早期に投与するが、VFでは電気ショックを優先し、ショックで停止しない場合に静脈路・骨髄路を確保して投与する。除細動より先に行う処置ではない。
- ×c. 気管挿管
意識障害で気道が保てない患者では気道確保が必要になり、蘇生中に気管挿管などの高度な気道確保を行うこともある。しかし、VFに対して挿管を優先すると除細動が遅れ、さらに胸骨圧迫の中断も長くなって救命率を下げる。現在の蘇生ガイドラインでは、気道確保はバッグ・バルブ・マスク換気で代用しつつ、除細動と質の高い胸骨圧迫を最優先とする。
- ○d. 電気的除細動
VFを停止させる最も確実な治療は電気的除細動である。心筋全体を同時に脱分極させて無秩序な興奮をいったんリセットし、洞結節などの正常なペースメーカーから調律が回復するのを期待する。VFではR波が判別できないため、QRSに同期させない非同期モードで通電する(二相性波形では機種の推奨エネルギー、通常120〜200 J、単相性では360 J)。救命率は除細動までの時間に強く依存するため、まず行うべき処置である。
- ×e. ペースメーカー挿入
ペースメーカーは、完全房室ブロックや洞不全症候群などによる症候性の徐脈性不整脈に対して、心臓を電気刺激して心拍数を補う治療である。心室が無秩序に興奮しているVFにペーシングをしても有効な収縮は得られず、適応がない。
心停止の4つのリズムと初期対応
・ショック適応:心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(pulseless VT)→ 速やかに電気ショック1回、直後にCPR 2分を再開 ・ショック非適応:無脈性電気活動(PEA)、心静止(asystole)→ CPRを継続し、アドレナリンを早期に投与、原因検索
VF・無脈性VTに対する二次救命処置の流れ
1. 胸骨圧迫(深さ約5 cm・6 cmを超えない、テンポ100〜120回/分、圧迫の中断を最小限に)を開始し、除細動器を装着 2. 電気ショック1回 → 直ちにCPRを2分間 3. 2分ごとにリズムを確認し、VF/VTが続けば再度ショック 4. 静脈路・骨髄路を確保し、アドレナリン1 mgを3〜5分ごとに投与 5. ショックで止まらない難治性VF/VTには抗不整脈薬(アミオダロン、代替としてニフェカラント・リドカイン)を考慮 6. 高度な気道確保(気管挿管や声門上器具)は、胸骨圧迫の中断を最小限にして行う 7. 並行して原因(急性冠症候群、電解質異常、低酸素など)を検索し治療する
除細動とカルディオバージョンの違い
・除細動(defibrillation):非同期で通電。VF、無脈性VTが対象 ・同期下カルディオバージョン:QRS波に同期して通電。脈のある心室頻拍、心房細動、心房粗動などが対象。T波の受攻期に通電するとVFを誘発する危険があるため同期させる
運動中の突然死の背景疾患
中高年では冠動脈疾患(急性心筋梗塞など)が最も多く、若年者では肥大型心筋症、先天性冠動脈奇形、QT延長症候群などのイオンチャネル病が重要である。蘇生後には原因検索を行い、再発予防として植込み型除細動器(ICD)の適応を検討する。
POINT
・突然の意識消失+けいれんでは、致死性不整脈による心停止を考える ・VFの心電図:P・QRS・Tの区別がない、不規則で無秩序な波形 ・VF・無脈性VTには最優先で電気的除細動(非同期) ・除細動の遅れ1分ごとに救命率は約7〜10%低下する ・ショック後はリズム確認をせず直ちにCPR 2分を再開 ・抗不整脈薬(アミオダロン、リドカイン)やアドレナリンは除細動の補助。気管挿管のために除細動や胸骨圧迫を遅らせない ・ペースメーカーは徐脈性不整脈の治療でありVFには無効
