StudyMed医師国家試験

気管支をふさぐ白い腫瘍と「癌真珠」―中枢型肺癌を組織像で見極める

第99回医師国家試験 H問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第99回 H問題 第8問

70歳の男性。3か月前から咳嗽,喀痰および発熱があり来院した。胸部エックス線写真(A),右上葉中間幹分岐部の気管支鏡写真(B)および気管支鏡による病巣の生検組織H-E染色標本(C)を示す。 診断はどれか。

第99回 H問題 第8問の問題画像
  1. a.肺小細胞癌
  2. b.肺扁平上皮癌
  3. c.多発血管炎性肉芽腫症〈Wegener肉芽腫症〉
  4. d.肺結核
  5. e.肺真菌症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢男性の長引く咳・痰・発熱から、肺の病変の正体を突き止める問題だ。胸部エックス線、気管支鏡、生検組織という3つの画像がそろっているから、それぞれが何を語っているかを順に読み解いていこう。最終的な決め手は病理になるよ。
医学生医学生
3か月も発熱が続いているので、最初は結核や真菌のような慢性感染症かと思いました。
ドクタードクター
その発想は大事だね。上葉の病変で慢性の咳・痰・発熱となれば、結核は必ず鑑別に挙がる。ただ、まず胸部エックス線を見てほしい。右上肺野が均一に濃く、その下縁が持ち上がり、気管が右へ引き寄せられている。これは何を意味するかな。
医学生医学生
容積が減っているので、右上葉の無気肺でしょうか。
ドクタードクター
その通り。肺炎なら容積は保たれるけれど、無気肺では肺が縮むから周囲の構造が患側へ引っ張られる。では、なぜ上葉が縮んだのか。答えは気管支鏡にある。右上葉気管支と中間幹の分岐部に、表面がでこぼこで白い壊死物に覆われた腫瘍が内腔へ突き出して、気道をふさいでいるんだ。
医学生医学生
腫瘍が気管支を詰まらせて、その先がつぶれたということですね。発熱もそのせいですか。
ドクタードクター
そう。閉塞した気管支の末梢では痰が排出できず、感染が起こる。これが閉塞性肺炎で、咳・痰・発熱の原因と考えられる。抗菌薬で一時的によくなっても同じ場所で再燃を繰り返すのが特徴だよ。では生検組織を見よう。H-E染色では、ピンク色の豊富な細胞質をもつ大型の異型細胞が充実性の胞巣をつくり、その中心に角化物が玉ねぎの皮のように同心円状に重なった構造がある。
医学生医学生
病理実習で見た癌真珠です!角化があるなら扁平上皮癌ですね。
ドクタードクター
正解。肺扁平上皮癌は喫煙との関連が強く高齢男性に多い。太い気管支に発生する中枢型が多く、内腔に向かって増殖して無気肺や閉塞性肺炎を起こしやすい。画像・内視鏡・病理のすべてが典型像だ。ほかの選択肢も確認しておこう。まず小細胞癌はどうかな。
医学生医学生
小細胞癌も喫煙者の中枢に多いと習ったので、場所だけだと区別できない気がします。
ドクタードクター
鋭いね。発生部位は似ている。ただ小細胞癌は粘膜の下を這うように広がり、肺門・縦隔リンパ節の腫大で気管支を外から圧排する形が多く、今回のように内腔へ突出する腫瘤は典型的ではない。何より組織が違う。細胞質に乏しい小型細胞が密に詰まり、核どうしが押し合うnuclear moldingや細かい顆粒状のクロマチンを示す。豊富な好酸性の細胞質や角化は見られないんだ。
医学生医学生
多発血管炎性肉芽腫症は、肺に結節をつくる病気でしたよね。
ドクタードクター
そう。上気道・肺・腎を侵す壊死性肉芽腫性血管炎で、PR3-ANCAが陽性になることが多い。肺には空洞を伴う多発結節ができる。組織は壊死を伴う肉芽腫と血管炎で、癌細胞は出てこない。結核も同じで、乾酪壊死を囲む類上皮細胞やLanghans型巨細胞の肉芽腫が特徴だ。
医学生医学生
真菌症なら、アスペルギルスのY字に分岐する菌糸のような菌体が見えるはずですね。
ドクタードクター
その通り。真菌症は免疫低下や陳旧性結核の空洞などが背景になりやすく、組織では菌体とそれに対する炎症がみられる。今回の生検は悪性の扁平上皮細胞そのものだから、感染症や血管炎は否定できる。
医学生医学生
臨床像だけだと感染症に見えても、最後は組織で確定する、という流れですね。
ドクタードクター
まさにそれ。発展知識も押さえておこう。扁平上皮癌の病理では癌真珠のほかに、隣り合う細胞をつなぐ細胞間橋も重要で、免疫染色ではp40、p63、CK5/6が陽性になる。腫瘍マーカーはSCC抗原やCYFRA 21-1。中心が壊死して空洞をつくりやすく、PTHrP産生による高カルシウム血症を起こすこともある。
医学生医学生
小細胞癌はProGRPやNSE、SIADHやLambert-Eaton症候群でしたね。CBTの前にセットで覚えました。
ドクタードクター
いいね、対比で覚えると忘れにくい。画像でも、右上葉無気肺に肺門部の腫瘤が加わると、挙上した葉間裂が逆S字状になるGolden S signが知られている。臨床で特に注意したいのは、高齢の喫煙者で同じ部位の肺炎を繰り返すときだ。ただの肺炎と片づけず、閉塞性肺炎を疑って気管支鏡で中枢気道を調べることが大切だよ。
医学生医学生
呼吸器内科の実習で、肺炎が治りきらない患者さんに気管支鏡をしていた理由がよくわかりました。

まとめ

高齢男性の長引く咳・痰・発熱に右上葉の無気肺を伴う場合は、中枢気道の腫瘍による閉塞性肺炎を疑います。気管支鏡で内腔へ突出する不整な腫瘍を認め、生検で癌真珠(角化)を伴う大型異型細胞の胞巣があれば肺扁平上皮癌と診断できます。扁平上皮癌は喫煙関連で中枢型が多く、細胞間橋やp40陽性、SCC・CYFRA上昇、空洞形成、PTHrPによる高カルシウム血症が特徴で、小型細胞・nuclear moldingを示す小細胞癌や、肉芽腫を示す結核・血管炎、菌体を示す真菌症とは組織像で区別します。同じ部位で肺炎を繰り返す喫煙者では中枢型肺癌を想起し気管支鏡を行う、という臨床判断につながる重要な問題です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・70歳男性。3か月前から咳嗽、喀痰、発熱が続いている。高齢男性で亜急性〜慢性の呼吸器症状が続く場合、肺癌、とくに中枢気道の病変による閉塞性肺炎を念頭に置く。 ・胸部エックス線写真(A):右上肺野に濃い均一な陰影があり、その下縁が挙上している。気管は右へ偏位しており、右上葉の容積減少(無気肺)を示す。右肺門部の腫瘤が上葉気管支を閉塞して無気肺を起こしている像として解釈できる。 ・気管支鏡写真(B):右上葉気管支と中間幹の分岐部に、表面が凹凸不整で白色調の壊死物に覆われた腫瘍が内腔に向かって突出し、気道を閉塞している。 ・生検組織H-E染色標本(C):豊富な好酸性(ピンク色)の細胞質を持つ大型の異型細胞が充実性の胞巣をつくり、中央に同心円状に角化物が層をなす癌真珠(角化真珠)がみられる。これは扁平上皮への分化(角化)を示す所見である。

診断へのプロセス

①中枢の太い気管支に発生し、②内腔へ向かって増殖して気道を閉塞し、無気肺や閉塞性肺炎(咳・痰・発熱の原因)をきたし、③組織で角化(癌真珠)や細胞間橋を示す――これらはすべて肺扁平上皮癌に典型的である。発熱は腫瘍により気管支が閉塞し、その末梢に感染が起きた閉塞性肺炎によるものと考えられる。

設問の考え方

画像と気管支鏡所見から中枢型肺癌を疑い、最終的には生検組織の「角化(癌真珠)」で扁平上皮癌と確定する。病理所見が決め手となる問題である。

選択肢考察

  1. ×a.  肺小細胞癌

    小細胞癌も中枢の太い気管支周囲に発生しやすく、喫煙との関連が強い点では扁平上皮癌と共通する。しかし小細胞癌は主に粘膜の下を這うように進展し、肺門・縦隔のリンパ節腫大を伴って気管支を外から圧迫する形をとることが多く、本例のように内腔へ突出する腫瘤は典型的ではない。組織学的には、細胞質がほとんどない小型の円形〜紡錘形の細胞が密に増殖し、核どうしが押し合う像(nuclear molding)や細かい顆粒状のクロマチン(salt-and-pepper)を示す。本例のように豊富な好酸性の細胞質と角化を示す大型細胞とは明らかに異なるため否定できる。

  2. ○b.  肺扁平上皮癌

    肺扁平上皮癌は喫煙との関連が強く、高齢男性に多い。肺門部の太い気管支(区域気管支より中枢)に発生する中枢型が多く、気管支の内腔へ向かって増殖して気道を狭窄・閉塞させるため、無気肺や閉塞性肺炎を起こしやすい。本例では、胸部エックス線での右上葉無気肺、気管支鏡での右上葉気管支入口部の内腔を閉塞する白色の不整な腫瘍、生検での癌真珠(角化)を伴う大型異型細胞の胞巣と、画像・内視鏡・病理のすべてが扁平上皮癌として典型的である。

  3. ×c.  多発血管炎性肉芽腫症〈Wegener肉芽腫症〉

    多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は、上気道(鼻・副鼻腔)、肺、腎臓の3領域を主に侵す壊死性肉芽腫性血管炎で、PR3-ANCA(C-ANCA)が陽性となることが多い。肺病変は多発する結節影で、しばしば空洞を形成する。組織では壊死を伴う肉芽腫と血管炎がみられる。本例では上気道・腎の症状の記載がなく、生検で角化を示す異型上皮細胞(癌細胞)がみられているため否定できる。

  4. ×d.  肺結核

    肺結核も上葉に好発し、慢性の咳・痰・発熱をきたすため臨床的には鑑別に挙がる。しかし組織では、中心に乾酪壊死を伴い、類上皮細胞やLanghans型巨細胞が取り囲む類上皮細胞肉芽腫がみられ、癌細胞や角化はみられない。気管支結核では気管支内腔に病変を形成することもあるが、本例の生検像は悪性の扁平上皮細胞そのものであり否定できる。

  5. ×e.  肺真菌症

    肺真菌症(アスペルギルス症、クリプトコックス症など)は、免疫が低下した宿主や、陳旧性結核の空洞など既存の肺病変がある患者に起こりやすい。組織では菌体(アスペルギルスのY字状に分岐する隔壁のある菌糸、クリプトコックスの莢膜を持つ酵母など)や、それに対する炎症・肉芽腫がみられる。本例の生検像には菌体はなく、角化を伴う癌細胞がみられるため否定できる。

肺癌の組織型と特徴

・腺癌:肺癌で最も多い。末梢に好発。女性や非喫煙者にもみられる。EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのドライバー遺伝子異常が見つかりやすく、分子標的薬の対象となる。腫瘍マーカーはCEA。 ・扁平上皮癌:喫煙との関連が強い。中枢型(肺門型)が多いが、末梢に発生することもある。気道内腔に向かって発育し、無気肺・閉塞性肺炎をきたしやすい。腫瘍の中心部が壊死して空洞を形成しやすい。腫瘍マーカーはSCC抗原、CYFRA 21-1。副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)の産生による高カルシウム血症を起こすことがある。喀痰細胞診で見つかりやすい。 ・小細胞癌:喫煙との関連が強い。中枢に好発し、増殖が速く、早期からリンパ節転移や遠隔転移をきたす。化学療法・放射線療法への感受性が高い。腫瘍マーカーはProGRP、NSE。ADH不適合分泌症候群(SIADH)、異所性ACTH産生(Cushing症候群)、Lambert-Eaton筋無力症候群などの傍腫瘍症候群を伴いやすい。 ・大細胞癌:末梢に多く、増殖が速い。

扁平上皮癌の病理所見

・角化:細胞質内の角化(ピンク色の均一な細胞質)や、同心円状に角化物が重なる癌真珠。 ・細胞間橋:隣り合う腫瘍細胞をつなぐ細い突起(デスモソームに相当)。 ・免疫染色では、p40、p63、CK5/6が陽性となる(腺癌はTTF-1、Napsin A陽性)。

中枢型肺癌と無気肺

・右上葉の無気肺では、上葉が縮んで小葉間裂が上方へ挙上し、右上肺野に濃い陰影を生じる。気管は患側(右)へ引き寄せられる。 ・肺門部に腫瘤があると、挙上した小葉間裂の外側は下に凹み、肺門側は腫瘤で下に凸となり、全体として逆S字状になる(Golden S sign)。中枢型肺癌による右上葉無気肺を示す所見として知られる。 ・無気肺の末梢に感染が起こると閉塞性肺炎となり、抗菌薬で一時的に改善しても再燃を繰り返す。高齢の喫煙者で同じ部位の肺炎を繰り返す場合は、中枢型肺癌を疑って気管支鏡検査を行う。

POINT

・肺扁平上皮癌:喫煙・高齢男性、中枢型が多い、内腔へ発育し無気肺・閉塞性肺炎、空洞形成、高カルシウム血症(PTHrP)、腫瘍マーカーはSCC・CYFRA。 ・病理で癌真珠(角化)と細胞間橋を見たら扁平上皮癌。 ・小細胞癌:細胞質の乏しい小型細胞、nuclear molding、ProGRP・NSE、SIADHなどの傍腫瘍症候群。 ・右上葉無気肺+肺門部腫瘤 → Golden S sign(中枢型肺癌)。 ・高齢者で同じ部位の肺炎を繰り返すときは閉塞性肺炎を疑い、気管支鏡で中枢気道病変を検索する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。