StudyMed医師国家試験

膿疱から一気に広がる痛い潰瘍―壊疽性膿皮症が教える「腸を診よ」のサイン

第99回医師国家試験 G問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第99回 G問題 第6問

36歳の男性。両側下腿の潰瘍を主訴に来院した。10日前から両側下腿に小膿疱が出現,集簇・融合して,その後潰瘍を形成,急速に拡大した。潰瘍の辺縁は堤防状に隆起し,圧痛と自発痛とがある。関節痛を伴う。体温37.2℃。血液所見:赤血球452万,Hb 14.0g/dL,Ht 42%,白血球9,800(桿状核好中球7%,分葉核好中球67%,好酸球2%,好塩基球1%,単球3%,リンパ球20%),血小板19万。下腿の写真を別に示す。 合併症の好発臓器はどれか。

第99回 G問題 第6問の問題画像
  1. a.中枢神経
  2. b.肺
  3. c.腸管
  4. d.肝臓
  5. e.腎臓

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、下腿にできた急速に拡大する潰瘍の正体を見抜き、そこから合併しやすい臓器を答える問題だ。注目点は「膿疱から始まったこと」「辺縁が堤防状に盛り上がっていること」「強い痛み」、そして皮膚以外の症状として関節痛がある点。まずは潰瘍の正体から考えよう。
医学生医学生
10日で急に広がる潰瘍で微熱もあるので、最初は細菌感染、たとえば蜂窩織炎や壊死性筋膜炎を考えてしまいました。
ドクタードクター
感染をまず疑うのは臨床的に正しい姿勢だよ。ただ、壊死性筋膜炎なら高熱やショック傾向など全身状態が急激に悪くなるのが普通だ。今回は微熱程度で、白血球も軽度増加にとどまる。それより形態に注目してほしい。膿疱が集まって融合し、潰瘍化して、その辺縁が土手のように隆起している。これは壊疽性膿皮症に特徴的な経過なんだ。
医学生医学生
名前に「膿皮症」と付いているので、細菌感染症の一種だと思っていました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。壊疽性膿皮症は感染症ではなく、好中球が皮膚に過剰に集まって組織を壊す無菌性の炎症で、Sweet病と同じ好中球性皮膚症の仲間だ。典型的には辺縁が紫紅色で、潰瘍の縁が下掘れ状になり、下腿に好発する。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、潰瘍辺縁がえぐれたような写真を見せてもらったのを思い出しました。あれが壊疽性膿皮症だったんですね。
ドクタードクター
そう。ではここからが本題。壊疽性膿皮症の約半数は何らかの基礎疾患を持っている。その代表が何か分かるかな。
医学生医学生
関節痛があることもヒントですよね。消化器内科の講義で、潰瘍性大腸炎の腸管外合併症に皮膚病変や関節炎があったと習いました。
ドクタードクター
その通り。最も多い基礎疾患は炎症性腸疾患で、特に潰瘍性大腸炎、次いでCrohn病だ。内臓疾患を反映して出てくる皮膚病変をデルマドロームと呼ぶけれど、壊疽性膿皮症は潰瘍性大腸炎の代表的なデルマドロームなんだ。関節痛も腸炎関連関節炎として説明がつく。だから合併症の好発臓器は腸管になる。
医学生医学生
中枢神経はどうでしょう。皮膚と中枢神経というとBehçet病が浮かびます。
ドクタードクター
いい連想だね。皮膚症状と中枢神経症状の組み合わせなら神経Behçet病を考えるけれど、壊疽性膿皮症そのものの合併としては一般的ではない。肺についても、ごくまれに無菌性の好中球浸潤が肺に及ぶ報告はあるものの、好発とは言えない。
医学生医学生
肝臓は、潰瘍性大腸炎に原発性硬化性胆管炎が合併すると習ったので少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いね。ただそれは腸疾患側の合併症で、壊疽性膿皮症に直接結びつく臓器ではない。腎臓も同様で、皮膚病変と腎障害の組み合わせならIgA血管炎や全身性エリテマトーデスを考える。なお、下腿の急速な壊死に肝障害や腎障害が並ぶようなら、壊死性筋膜炎による敗血症を疑うべきだ。
医学生医学生
つまり、壊疽性膿皮症を見たら腸を調べに行く、ということですね。
ドクタードクター
そう。腹痛、下痢、血便を問診し、必要なら大腸内視鏡を行う。ほかの基礎疾患として、関節リウマチ、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの血液疾患、PAPA症候群のような自己炎症性疾患も覚えておこう。
医学生医学生
診断を確定する特異的な検査はあるんでしょうか。
ドクタードクター
残念ながらなくて、臨床像に加えて感染症、血管炎、悪性腫瘍などを除外して診断する。生検では真皮の著明な好中球浸潤がみられる。ここで臨床的に大事なのがパテルギーで、外傷や手術、生検のような小さな刺激で病変が誘発・悪化する現象だ。Behçet病でもみられるね。
医学生医学生
感染と思い込んでデブリードマンをすると、かえって悪化させてしまうわけですね。
ドクタードクター
まさにそこが落とし穴。治療はステロイドの外用・全身投与やシクロスポリンなどの免疫抑制薬が中心で、近年は抗TNF-α抗体も使われる。そして基礎疾患の治療が皮膚病変の改善にもつながる。皮膚だけを見ずに、全身を診る意識が大切だよ。

まとめ

膿疱から始まり急速に拡大する有痛性潰瘍で、辺縁が堤防状に隆起し下腿に好発する場合は、壊疽性膿皮症を考えます。壊疽性膿皮症は感染症ではなく好中球性皮膚症に属する無菌性炎症で、約半数に基礎疾患があり、最も多いのが潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患であるため、合併症の好発臓器は腸管です。関節炎や血液疾患(骨髄異形成症候群、白血病)も基礎疾患となり、診断は感染症・血管炎などを除外して行います。パテルギーにより外傷や不用意なデブリードマンで悪化するため、治療はステロイドや免疫抑制薬と基礎疾患のコントロールが柱です。皮膚病変を内臓疾患のサインとして読み解くデルマドロームの視点は、皮膚科に限らず全身を診る臨床力の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・36歳男性。両側下腿の潰瘍。 ・10日前に小膿疱が出現し、それが集まって融合し、潰瘍化して急速に拡大した。 ・潰瘍の辺縁は堤防状に隆起し、圧痛・自発痛が強い。 ・関節痛を伴う。微熱(37.2℃)。 ・白血球9,800と軽度増加し、好中球優位(桿状核+分葉核で74%)。貧血・血小板異常はない。 ・写真では下腿に境界明瞭な潰瘍があり、辺縁が土手のように盛り上がっている。

診断へのプロセス

膿疱から始まり、短期間で痛みの強い潰瘍へ急速に拡大し、潰瘍辺縁が堤防状に隆起(しばしば紫紅色で、辺縁が下掘れ状になる)する経過は、壊疽性膿皮症(pyoderma gangrenosum)に特徴的である。壊疽性膿皮症は感染症ではなく、好中球が皮膚に過剰に集まって組織を破壊する好中球性皮膚症の一つであり、下腿が好発部位である。 鑑別として、細菌感染による潰瘍や壊死性筋膜炎(高熱・全身状態不良・急速な組織壊死を伴う)、血管炎、静脈うっ滞性潰瘍、Behçet病の皮膚病変などがあるが、微熱にとどまり全身状態が比較的保たれていること、膿疱から堤防状辺縁をもつ潰瘍への進展という形態から、壊疽性膿皮症が最も考えられる。

設問の考え方

壊疽性膿皮症の約半数は何らかの基礎疾患を伴い、その代表が炎症性腸疾患(とくに潰瘍性大腸炎、次いでCrohn病)である。本症例で関節痛を伴うことも、炎症性腸疾患の腸管外合併症(腸炎関連関節炎)と整合する。したがって合併症の好発臓器は腸管である。皮膚潰瘍を診たら、腹痛・下痢・血便などの消化器症状を確認し、必要に応じて大腸内視鏡を行う。

選択肢考察

  1. ×a.  中枢神経

    中枢神経病変は、壊疽性膿皮症の合併として一般的ではない。皮膚症状と中枢神経症状の組み合わせで想起すべきは神経Behçet病(Behçet病の特殊病型)などであり、本問の合併臓器としては不適切である。

  2. ×b.  肺

    壊疽性膿皮症では、ごくまれに肺などに無菌性の好中球浸潤(皮膚外病変)をきたす報告はあるものの、好発する合併症とはいえない。基礎疾患として肺疾患が多いという関連もない。

  3. ○c.  腸管

    壊疽性膿皮症の基礎疾患として最も多いのが炎症性腸疾患であり、とくに潰瘍性大腸炎の皮膚合併症(デルマドローム:内臓疾患を反映して出現する皮膚病変)として知られる。Crohn病にも合併する。腸炎の活動性と皮膚病変が並行することもあるが、独立して経過することもある。関節痛を伴う本症例も、炎症性腸疾患関連の関節炎として説明しやすい。

  4. ×d.  肝臓

    肝臓は壊疽性膿皮症そのものの好発合併臓器ではない。潰瘍性大腸炎に原発性硬化性胆管炎が合併することはあるが、それは腸疾患側の合併症である。なお、下腿の急速な皮膚・軟部組織壊死で肝障害や腎障害などの多臓器障害を伴う場合は、壊死性筋膜炎による敗血症を考える。

  5. ×e.  腎臓

    腎病変は壊疽性膿皮症の典型的合併症ではない。皮膚病変と腎障害の組み合わせでは、IgA血管炎や全身性エリテマトーデスなどの全身性疾患、あるいは壊死性筋膜炎の敗血症に伴う急性腎障害などを考える。

壊疽性膿皮症の概要

・好中球性皮膚症(Sweet病などと同じ群)に属する、無菌性の炎症性潰瘍性疾患。原因は不明だが、好中球機能や自然免疫の異常が関与すると考えられている。 ・臨床像:膿疱・丘疹・結節で始まり、急速に拡大する有痛性潰瘍となる。潰瘍辺縁は堤防状に隆起し、紫紅色調で下掘れ状になるのが典型。下腿に好発する。 ・パテルギー(針反応):外傷や手術、生検などの小さな刺激で病変が誘発・増悪する現象がみられる。このため不用意なデブリードマンや植皮は悪化の原因となる。Behçet病でもみられる現象である。 ・診断:特異的な検査はなく、臨床像と、感染症・血管炎・悪性腫瘍などを除外することによる除外診断。生検では真皮の著明な好中球浸潤を認める。

主な基礎疾患

・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病):最も多い。 ・関節リウマチなどの関節炎。 ・血液疾患(骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病、IgA型単クローン性γグロブリン血症など)。 ・PAPA症候群(化膿性関節炎・壊疽性膿皮症・痤瘡)などの自己炎症性疾患。

治療

・副腎皮質ステロイド(外用・全身投与)、シクロスポリンなどの免疫抑制薬。 ・近年は抗TNF-α抗体(アダリムマブなど)も用いられる。 ・基礎疾患の治療が皮膚病変の改善につながる。

潰瘍性大腸炎の主な腸管外合併症

皮膚(壊疽性膿皮症、結節性紅斑)、関節(末梢関節炎、強直性脊椎炎)、眼(虹彩炎、ぶどう膜炎)、肝胆道(原発性硬化性胆管炎)など。

POINT

・膿疱から急速に拡大する有痛性潰瘍、辺縁が堤防状に隆起、下腿好発 → 壊疽性膿皮症。 ・壊疽性膿皮症は炎症性腸疾患(とくに潰瘍性大腸炎)のデルマドロームとして重要 → 合併臓器は腸管。 ・ほかに関節炎、血液疾患(骨髄異形成症候群・白血病)も基礎疾患となる。 ・パテルギー(外傷で誘発・増悪)があるため、安易なデブリードマンは避ける。 ・治療はステロイド・免疫抑制薬、基礎疾患の治療。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。