StudyMed医師国家試験

薬より先にやるべきこと―飲みすぎと太りすぎが招く脂質異常への処方箋

第99回医師国家試験 G問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第99回 G問題 第50問

36歳の男性。健康診断で脂質異常症を指摘され来院した。父親に心筋梗塞がある。喫煙歴はない。飲酒歴は日本酒3合/日,10年間。身長169cm,体重85kg。血圧136/86mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.8g/dL,クレアチニン0.7mg/dL,総コレステロール189mg/dL,トリグリセリド420mg/dL,HDL-コレステロール31mg/dL,AST 34U/L,ALT 56U/L。心電図に異常はない。 対応として適切なのはどれか。3つ選べ。

  1. a.飲酒制限
  2. b.摂取エネルギー制限
  3. c.運動療法
  4. d.β遮断薬投与
  5. e.HMG-CoA還元酵素阻害薬投与

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健診で脂質異常を指摘された30代男性に、最初に何をすべきかを問う問題だ。注目してほしいのは、脂質のどの項目が異常なのか、そしてその背景にある生活習慣。まず、この人の体格と飲酒量をどう評価する?
医学生医学生
BMIを計算すると約30なので肥満ですね。日本酒3合を毎日というのも多いと思います。
ドクタードクター
その通り。日本酒1合には純アルコールが約20g含まれるから、1日60g以上の多量飲酒だ。次に脂質を見てみよう。総コレステロールは高くないけれど、ほかの項目はどうかな。
医学生医学生
トリグリセリドがかなり高くて、HDLコレステロールが低いです。LDLはFriedewald式で計算すればいいですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴。Friedewald式はトリグリセリドが400mg/dL以上だと使えない。その場合はnon-HDLコレステロール、つまり総コレステロールからHDLを引いた値を使う。この人では150台後半で、境界域にとどまる。つまり脂質異常の中心は高TG血症と低HDL血症なんだ。
医学生医学生
血圧も少し高めで、ALTも上がっています。生化学の講義で習ったメタボリックシンドロームの話につながりそうです。
ドクタードクター
いい着眼点だね。内臓脂肪がたまるとインスリン抵抗性を介して高TG・低HDL・血圧上昇が重なってくる。日本の診断基準では腹囲が必須項目で、この問題には記載がないけれど、BMI 30近い男性なら基準を超えている可能性が高い。さらに多量飲酒は肝臓でのTG合成とVLDLの分泌を増やすから、高TG血症と脂肪肝の大きな原因になる。ALT優位の上昇も、肥満とアルコールによる脂肪肝で説明できる。
医学生医学生
原因が肥満とお酒なら、治療もまずそこからですね。
ドクタードクター
そう。脂質異常症も高血圧もメタボリックシンドロームも、一次予防では生活習慣の改善が第一歩で、3〜6か月続けても目標に届かない場合に薬物療法を考える。だから正解は飲酒制限、摂取エネルギー制限、運動療法の3つになる。飲酒制限については、男性なら純アルコール20〜30g/日、日本酒1合程度までが目安で、TGが著明に高ければ禁酒が望ましい。
医学生医学生
エネルギー制限は、どのくらい体重を落とせばいいんでしょう。
ドクタードクター
まずは3〜6か月で現体重の3%以上の減量を目標にするのが現実的だ。高TG血症には、特に砂糖や果糖を含む菓子・清涼飲料水とアルコールを控え、青魚などのn-3系脂肪酸を増やすことが効果的だよ。
医学生医学生
運動はTGにも効くんですか。体重を減らすためだけかと思っていました。
ドクタードクター
有酸素運動は骨格筋のリポ蛋白リパーゼ活性を高めてTGを下げ、HDLを上げる作用もある。インスリン抵抗性や血圧の改善にもつながる。中等度の有酸素運動を1日30分以上、週150分以上が目安だ。この人は心電図に異常はないけれど、父親に心筋梗塞があるから、胸部症状に気をつけながら無理のない強度から始めよう。
医学生医学生
では、β遮断薬はどうして不適切なんですか。血圧が高めなので使えそうにも見えました。
ドクタードクター
血圧は高血圧の基準である140/90mmHgに届かない高値血圧の段階だから、まずは生活習慣の修正で対応する。それにβ遮断薬は合併症のない高血圧の第一選択ではないし、TG上昇、HDL低下、インスリン抵抗性の悪化、体重増加といった代謝面の不利益があり、メタボリックシンドロームの人には選びにくい薬なんだ。
医学生医学生
スタチンは、父親の心筋梗塞を考えると早めに使った方がいい気もしますが。
ドクタードクター
家族歴は確かにリスクだね。ただスタチンは主にLDLを強力に下げる薬で、この人の異常の中心である高TG・低HDLとは狙いがずれている。それに原因が生活習慣にはっきりあるのだから、初診でいきなり薬を出すのは適切でない。改善しても目標に届かなければ、LDLが高ければスタチン、TG主体ならフィブラート系薬や選択的PPARαモジュレーター、n-3系脂肪酸製剤などを検討する。ただし家族性高コレステロール血症や冠動脈疾患の既往がある二次予防では、早くから薬物療法を行う点は区別しておこう。
医学生医学生
原因を見極めて、まず生活習慣で手を打つ。そのうえで足りなければ異常の型に合わせて薬を選ぶ、という流れですね。
ドクタードクター
そういうこと。臨床でもう一つ覚えておきたいのは、TGが1,000mg/dL前後以上になると急性膵炎のリスクが高まること。多量飲酒が続けばそこに近づきかねない。そして家族歴は、患者さんに生活習慣改善を本気で続けてもらう動機づけとしても使える。ただ「お酒を控えて」と言うより、具体的な目標量と理由を一緒に伝えることが大切なんだ。
医学生医学生
外来実習で、指導医の先生が検査値を一緒に見ながら減酒の目標を決めていたのを思い出しました。
ドクタードクター
そういう関わり方が継続につながるんだよ。数値の改善を次の受診で一緒に確認できれば、患者さんのやる気も続きやすい。

まとめ

肥満に高トリグリセリド血症・低HDLコレステロール血症と血圧高値が重なる場合はメタボリックシンドロームを疑い、多量飲酒は肝臓でのTG合成を促進して高TG血症や脂肪肝を悪化させます。TGが400mg/dL以上ではFriedewald式でLDLコレステロールを計算できないため、non-HDLコレステロールで評価します。一次予防では飲酒制限、摂取エネルギー制限、運動療法といった生活習慣の改善が治療の第一歩で、3〜6か月で目標に達しない場合に脂質異常の型に応じた薬物療法を検討します。β遮断薬は脂質や糖代謝に不利な作用があり、スタチンは主にLDLを下げる薬なので、本例で最初に選ぶ対応ではありません。異常値の型と原因を見極めて治療の順序を組み立てる考え方は、生活習慣病全般の診療の基本となります。

解答・解説

正解はa, b, cです

所見の整理

・36歳男性。健診で脂質異常を指摘された。父に心筋梗塞の既往がある(家族歴)。喫煙なし。 ・飲酒は日本酒3合/日を10年間。日本酒1合(180mL)には純アルコール約20~22gが含まれるので、1日約60gを超える多量飲酒である。 ・身長169cm、体重85kg → BMI=85÷(1.69×1.69)≒29.8kg/m²。日本肥満学会の基準(BMI 25以上)で肥満(肥満1度)に該当する。 ・血圧136/86mmHg:高血圧の基準(140/90mmHg以上)には達しないが、「高値血圧」(130~139/80~89mmHg)の範囲にある。 ・脂質:総コレステロール189mg/dLは高くないが、トリグリセリド(TG)420mg/dLと著明高値、HDL-コレステロール31mg/dLと低値。TGが400mg/dL以上のためFriedewald式(LDL-C=TC-HDL-C-TG/5)でLDL-コレステロールを推定することはできない。non-HDLコレステロール(TC-HDL-C)は189-31=158mg/dLである。 ・ALT 56U/LとAST 34U/Lの軽度上昇(ALT優位):肥満やアルコールによる脂肪肝が疑われる。尿糖陰性、腎機能正常、心電図正常。

病態の考え方

肥満(内臓脂肪蓄積が推定される)を基盤に、高TG血症・低HDL-C血症、血圧高値が重なっており、メタボリックシンドロームが強く疑われる病態である(日本の診断基準では腹囲測定が必須項目で、本例では腹囲の記載はないが、BMI 29.8の男性では腹囲85cm以上である可能性が高い)。さらに多量飲酒は肝臓でのTG合成を促進し、高TG血症と脂肪肝の大きな要因になっている。

設問の考え方

本例の脂質異常(高TG・低HDL)、血圧高値、肝機能異常は、いずれも肥満と多量飲酒という生活習慣に起因する部分が大きい。脂質異常症・高血圧・メタボリックシンドロームの管理はいずれも生活習慣の改善(食事療法・運動療法・節酒・禁煙・減量)が第一歩であり、一定期間(おおむね3~6か月)生活習慣改善を行っても管理目標に達しない場合に薬物療法を検討する。したがって、まず行うべき対応は飲酒制限、摂取エネルギー制限、運動療法の3つである。父親の心筋梗塞という家族歴は冠動脈疾患のリスクを高める要素であり、生活習慣改善を確実に実行させる動機づけとしても重要である。

選択肢考察

  1. ○a.  飲酒制限

    適切。1日に日本酒3合(純アルコール約60g以上)は明らかな多量飲酒である。アルコールは肝臓での脂肪酸合成とVLDL(超低比重リポ蛋白)の産生を増やし、高TG血症の重要な原因となる。またアルコールは高エネルギー(1gあたり約7kcal)で肥満を助長し、血圧上昇や脂肪肝(ALT上昇)の原因にもなる。節酒によりTG値・血圧・肝機能の改善が期待できる。目安として、男性は純アルコール20~30g/日(日本酒1合程度)以下に抑えるよう指導する。TGが著明高値(500mg/dL以上など)の場合には禁酒が望ましい。

  2. ○b.  摂取エネルギー制限

    適切。BMI約29.8の肥満があり、内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性を介して高TG血症・低HDL-C血症・血圧上昇をもたらしていると考えられる。食事療法の基本は総エネルギー摂取量の適正化であり、目標体重(年齢に応じBMI 22~25程度)と身体活動量から算出したエネルギー量に制限し、まずは3~6か月で現体重の3%以上の減量を目指す。高TG血症に対しては、特に糖質(砂糖・果糖を含む菓子・清涼飲料水など)とアルコールの過剰摂取を控え、青魚などn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取を増やすことが有効である。

  3. ○c.  運動療法

    適切。有酸素運動(速歩、ジョギング、水泳、自転車など)はエネルギー消費を増やして減量を助けるだけでなく、骨格筋のリポ蛋白リパーゼ活性を高めてTGを低下させ、HDL-Cを増加させる。インスリン抵抗性や血圧の改善効果もある。中等度強度の有酸素運動を1日合計30分以上、できれば毎日(少なくとも週150分以上)行うことが勧められる。本例は心電図に異常がなく、運動を開始する上で大きな支障は見当たらないが、冠動脈疾患の家族歴があるため、胸部症状の有無に注意して無理のない強度から始める。

  4. ×d.  β遮断薬投与

    不適切。血圧136/86mmHgは高血圧の基準(診察室血圧140/90mmHg以上)に達しておらず、「高値血圧」の段階であるため、まずは減量・減塩・節酒・運動などの生活習慣の修正で対応する。仮に降圧薬が必要になったとしても、β遮断薬は合併症のない高血圧の第一選択薬ではない。さらにβ遮断薬(特にβ1選択性の低いもの)は、TGの上昇、HDL-Cの低下、インスリン抵抗性の悪化、体重増加など、代謝面で不利な作用を示すことがあり、メタボリックシンドロームの患者には選びにくい薬である。

  5. ×e.  HMG-CoA還元酵素阻害薬投与

    不適切。HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は肝臓でのコレステロール合成を抑え、主にLDL-コレステロールを強力に低下させる薬である。本例では総コレステロール189mg/dLと高くなく、TGが400mg/dL以上のためLDL-Cを計算できないものの、non-HDL-Cも158mg/dLと著しい高値ではない。本例の脂質異常の中心は高TG血症と低HDL-C血症であり、これは肥満と多量飲酒に起因するため、まず生活習慣の改善を行うべきである。生活習慣改善を3~6か月続けても管理目標に達しない場合に、リスク(家族歴など)を評価したうえで薬物療法(LDL-C高値ならスタチン、高TG血症が主体ならフィブラート系薬や選択的PPARαモジュレーター、n-3系多価不飽和脂肪酸製剤など)を検討する。初診時からいきなりスタチンを投与するのは適切でない。

メタボリックシンドロームの診断基準(日本、2005年)

必須項目:内臓脂肪蓄積(ウエスト周囲径 男性85cm以上、女性90cm以上。内臓脂肪面積100cm²以上に相当) 上記に加え、以下のうち2項目以上: ・脂質:TG 150mg/dL以上 かつ/または HDL-C 40mg/dL未満 ・血圧:収縮期130mmHg以上 かつ/または 拡張期85mmHg以上 ・血糖:空腹時血糖110mg/dL以上 (各項目は薬物治療中の場合も該当とする)

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)

・LDL-C 140mg/dL以上:高LDLコレステロール血症(120~139mg/dLは境界域) ・HDL-C 40mg/dL未満:低HDLコレステロール血症 ・TG 150mg/dL以上:高トリグリセリド血症(随時採血では175mg/dL以上) ・non-HDL-C 170mg/dL以上:高non-HDLコレステロール血症(150~169mg/dLは境界域) ※LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)で求めるが、TGが400mg/dL以上や食後採血の場合は、non-HDL-Cまたは直接法によるLDL-Cを用いる。

治療の原則

・脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームのいずれも、治療の基本は生活習慣の改善である。 ・食事:総エネルギーの適正化、飽和脂肪酸・コレステロールの制限、糖質・アルコールの過剰摂取の抑制、食物繊維・n-3系脂肪酸の摂取、減塩。 ・運動:中等度以上の有酸素運動を1日30分以上、週150分以上を目安に。 ・節酒・禁煙。 ・一次予防では生活習慣改善を3~6か月行い、それでも管理目標に達しない場合に薬物療法を考慮する(ただし家族性高コレステロール血症や冠動脈疾患の既往がある二次予防では早期から薬物療法を行う)。

アルコールと脂質

アルコールは肝臓でのTG合成を促進し、VLDLの分泌を増やして高TG血症を招く。HDL-Cは少量飲酒で上昇することがあるが、多量飲酒では肝障害や肥満を通じて代謝全体が悪化する。高TG血症が著明(1,000mg/dL前後以上)になると急性膵炎のリスクが高まる。

POINT

・肥満(BMI≧25)+高TG血症・低HDL-C血症+血圧高値→メタボリックシンドロームを疑う(日本の基準では腹囲が必須項目)。 ・治療の第一歩は生活習慣の改善(摂取エネルギー制限、運動療法、節酒、禁煙、減量)。 ・多量飲酒は高TG血症・脂肪肝・血圧上昇の原因となる。 ・薬物療法は生活習慣改善で目標に届かない場合に考慮する。スタチンは主にLDL-Cを下げる薬。 ・β遮断薬はTG上昇・HDL-C低下・インスリン抵抗性悪化をきたしうる。 ・TG≧400mg/dLではFriedewald式でLDL-Cを計算できない→non-HDL-Cを用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。