立ち上がった瞬間に襲う息苦しさ―造影CTで「詰まり」と「張り」を読む肺血栓塞栓症
第99回医師国家試験 G問題 第17問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。文筆業。突然の呼吸困難と胸痛とのため救急車で搬送された。本日は一日中机に向かい原稿を書いていた。原稿が出来上がり椅子から立ち上がった直後に呼吸困難と胸痛とが出現した。身長156cm,体重85kg。脈拍120/分,整。血圧90/50mmHg。意識軽度混濁。顔面蒼白。血液所見:白血球12,500,血清FDP 50μg/mL(基準10以下),Dダイマー15.0μg/mL(基準1.0以下)。CK 40U/L(基準10~40)。CRP 3.1mg/dL。胸部造影CTを示す。 この患者で認めるのはどれか。2つ選べ。

- a.上行大動脈瘤
- b.下行大動脈解離
- c.肺動脈拡大
- d.肺動脈内造影欠損
- e.胸水貯留
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
長時間の座位や肥満などで下肢に深部静脈血栓ができ、立ち上がりや歩行開始をきっかけに遊離して肺動脈を閉塞するのが急性肺血栓塞栓症です。Dダイマーは感度が高く除外に有用で、確定診断には造影CTが第一選択となり、肺動脈内の造影欠損が直接所見、閉塞より中枢側の肺動脈拡大が圧上昇と右心負荷を反映する所見です。血栓は静脈系から右心系を経て肺動脈に至るため大動脈瘤や大動脈解離の所見は生じず、胸水は肺梗塞を合併したときにみられることはあっても必発ではありません。ショックを伴う高リスク例では抗凝固療法に加え血栓溶解療法などを考慮し、日常診療では早期離床や弾性ストッキングなどによる予防が重要です。突然の胸痛・呼吸困難の鑑別と画像所見の意味づけを結びつけて理解することは、救急や病棟での急変対応の基盤になります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・背景:40歳男性、文筆業で本日は一日中座って作業していた。身長156cm、体重85kgでBMIは約35の高度肥満である。長時間の座位(下肢静脈のうっ滞)と肥満は、いずれも下肢の深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)の危険因子である。 ・発症様式:椅子から立ち上がった直後に突然の呼吸困難と胸痛。立ち上がりや歩行開始、排便などで下肢の筋ポンプが働くと、静脈内にできた血栓が遊離して肺へ流れやすい。いわゆるエコノミークラス症候群と同じ機序である。 ・重症度:脈拍120/分の頻脈、血圧90/50mmHgの低血圧、意識の軽度混濁、顔面蒼白があり、ショックに近い循環不全の状態である。 ・検査:FDP(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)とDダイマー(安定化フィブリンの分解産物)が著明に高値で、体内で血栓が形成され線溶系が働いていることを示す。CKは基準範囲内で、急性心筋梗塞を積極的に示唆しない。白血球やCRPの軽度上昇は、肺梗塞や急性ストレス反応でもみられる程度の非特異的変化である。
診断
危険因子・典型的な発症状況・Dダイマー高値から急性肺血栓塞栓症が最も考えられる。胸部造影CTでは肺動脈内に造影剤で染まらない血栓(造影欠損)がみられ、診断が確定する。血圧低下を伴うことから、大きな血栓が肺動脈の中枢側を閉塞し、肺血管抵抗の急上昇による急性右心負荷(急性肺性心)をきたした広範型(高リスク)の肺血栓塞栓症と考えられる。
鑑別
突然の胸痛とショックでは、急性心筋梗塞、急性大動脈解離、緊張性気胸も必ず鑑別に挙げる。本例はCK正常、造影CTで大動脈に解離や瘤がないこと、肺の虚脱がないことからこれらは否定的である。
設問の考え方
本問は造影CTで実際にみられる所見を選ぶ。肺血栓塞栓症に特徴的な直接所見は肺動脈内の造影欠損であり、閉塞より中枢側の肺動脈には圧上昇による拡大がみられる。
選択肢考察
- ×a. 上行大動脈瘤
下肢静脈で生じた血栓は右心系を経て肺動脈に詰まるため、病変は右心系と肺動脈に生じ、大動脈など左心系・体循環側には及ばない。本例の造影CTでも上行大動脈に瘤状の拡張はみられない。大動脈瘤は多くが無症状で、突然の呼吸困難を説明する所見でもない。
- ×b. 下行大動脈解離
急性大動脈解離は突然の胸背部痛とショックをきたしうるため鑑別には重要だが、造影CTで下行大動脈に内膜フラップ(真腔と偽腔を隔てる膜)や偽腔はみられない。長時間座位・肥満という背景やDダイマー高値に加え、肺動脈内の血栓像が確認できることから、本例の病態は肺血栓塞栓症で説明される。
- ○c. 肺動脈拡大
肺動脈が血栓で閉塞すると肺血管抵抗が急激に上昇し、閉塞部より中枢側の肺動脈の内圧が高まって拡張する。本例の造影CTでも肺動脈幹から中枢側の肺動脈の拡大が認められる。急性の右心負荷を反映する所見で、右室拡大や心室中隔の左室側への偏位を伴うこともある。
- ○d. 肺動脈内造影欠損
造影CTでは、造影剤で白く染まった肺動脈内に、血栓が染まらない低吸収域(造影欠損)として描出される。本例でも肺動脈内に造影欠損が確認でき、肺血栓塞栓症の診断を確定する直接所見である。現在、造影CTは肺血栓塞栓症の画像診断の第一選択とされる。
- ×e. 胸水貯留
肺血栓塞栓症では、肺梗塞を合併した場合などに少量の胸水がみられることはある。しかし本例の造影CTでは胸腔内に液体貯留は認められない。発症直後であり、肺梗塞や胸膜反応が生じる前の段階であることとも合う。
肺血栓塞栓症の概要
・機序:塞栓源の大部分(約9割)は下肢や骨盤内の深部静脈血栓である。血栓が遊離して下大静脈→右心房→右心室→肺動脈へと流れ、肺動脈を閉塞する。 ・危険因子(Virchowの3徴):血流のうっ滞(長時間座位、長期臥床、肥満、妊娠、心不全)、血管内皮障害(手術、外傷、カテーテル)、血液凝固能亢進(悪性腫瘍、経口避妊薬・エストロゲン製剤、抗リン脂質抗体症候群、先天性血栓性素因(アンチトロンビン・プロテインC・プロテインS欠乏症))。 ・症状:突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、失神、血痰。重症例ではショック。
検査所見
・血液ガス:低酸素血症と、過換気による低二酸化炭素血症(呼吸性アルカローシス)。肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大する。 ・Dダイマー:感度が高く、正常であれば肺血栓塞栓症の可能性を低くできる(除外に有用)。一方、特異度は低い。 ・心電図:洞性頻脈が最多。右心負荷所見としてSⅠQⅢTⅢパターン、右脚ブロック、右側胸部誘導(V1〜V3)の陰性T波など。 ・心エコー:右心室の拡大、心室中隔の扁平化、三尖弁逆流による推定肺動脈圧の上昇。 ・胸部エックス線写真:正常のことも多い。肺動脈中枢部の拡張(Knuckle sign)、末梢肺血管影の減少(Westermark sign)、胸膜に接する楔状陰影(Hampton's hump)などがみられることがある。 ・造影CT:肺動脈内の造影欠損(直接所見)。同時に下肢静脈まで撮影して深部静脈血栓を探すこともできる。 ・肺換気血流シンチグラフィ:換気は保たれるが血流が欠損する「換気血流ミスマッチ」。
治療
・呼吸・循環の管理(酸素投与、必要に応じ昇圧薬、重症例では経皮的心肺補助)。 ・抗凝固療法(未分画ヘパリンなど、その後ワルファリンや直接経口抗凝固薬)。 ・ショックを伴う高リスク例では血栓溶解療法、禁忌例や無効例ではカテーテル治療や外科的血栓摘除術を考慮する。 ・再発予防の一環として、抗凝固療法が行えない例では下大静脈フィルターが検討される。
予防
長時間の座位・臥床では、こまめな下肢の運動、十分な水分摂取、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法、リスクに応じた抗凝固薬の予防投与が行われる。
POINT
・長時間座位・肥満+立ち上がり直後の突然の呼吸困難・胸痛 → 肺血栓塞栓症を考える。 ・Dダイマー高値は血栓の存在を示唆する(正常値なら除外に有用)。 ・造影CTの所見:肺動脈内の造影欠損(直接所見)、中枢側肺動脈の拡大、右心負荷。 ・血栓は静脈系→右心系→肺動脈に及ぶので、大動脈瘤や大動脈解離の所見は生じない。 ・ショックを伴えば高リスク(広範型)として血栓溶解療法などを考慮する。
