吐き出せない空気、壊れた肺胞―肺気腫の呼吸機能は「増えるもの」と「減るもの」で読む
第99回医師国家試験 G問題 第14問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。労作時呼吸困難を主訴に来院した。20本/日,40年間の喫煙歴がある。身体所見では,両側肺野で呼吸音の減弱を認めるが,ラ音は聴取しない。胸部エックス線写真(A)と胸部単純CT(B)とを別に示す。 低下が予想されるのはどれか。2つ選べ。

- a.残気量
- b.1秒率
- c.全肺気量
- d.肺拡散能
- e.機能的残気量
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
重喫煙歴のある高齢者で労作時呼吸困難、呼吸音の減弱、画像上の過膨張と多発低吸収域があれば、肺気腫優位のCOPDを考えます。肺気腫では肺の弾性収縮力が失われて呼気時に末梢気道が虚脱するため、1秒率が低下し、エアトラッピングによって残気量・機能的残気量は増加、全肺気量は正常〜増加します。さらに肺胞壁と毛細血管床の破壊でガス交換面積が減り、肺拡散能が低下する点が、拡散能の保たれやすい気管支喘息との鑑別に役立ちます。拘束性障害では肺気量がすべて減少し1秒率は保たれるという対比とあわせ、病態から検査値の向きを導く考え方は、呼吸機能検査全般を理解する土台になります。
解答・解説
正解はb, dです
所見の整理
・72歳男性。主訴は労作時呼吸困難。 ・喫煙歴は20本/日×40年で、喫煙指数(Brinkman指数)は800、パック・イヤーでは40に相当する重喫煙者である。 ・聴診で両側肺野の呼吸音が減弱しているが、ラ音(副雑音)は聴取しない。 ・胸部エックス線写真では、両肺野の透過性亢進と横隔膜の低位・平坦化など、肺の過膨張を示す所見がみられる。 ・胸部単純CTでは、両肺に明瞭な壁をもたない低吸収域(気腫性変化)が多発している。
診断へのプロセス
長期の重喫煙歴をもつ高齢者が労作時呼吸困難を訴え、画像で肺の過膨張と肺胞の破壊を示す低吸収域がみられることから、肺気腫優位型の慢性閉塞性肺疾患(COPD: chronic obstructive pulmonary disease)と考えられる。呼吸音の減弱は、過膨張した肺と破壊された肺胞で音の伝達が低下するためであり、ラ音がないことは間質性肺炎(捻髪音)や心不全・肺炎(水泡音)を示唆しない。
設問の考え方
肺気腫では、肺胞壁の破壊によって肺の弾性収縮力が失われ、呼気時に末梢気道が早く虚脱する(エアトラッピング)。このため次の変化が生じる。 ・呼気の流速が低下する → 1秒量・1秒率が低下する(閉塞性換気障害)。 ・吐き出せない空気が肺内に残る → 残気量・機能的残気量が増加し、全肺気量も正常〜増加する(過膨張)。 ・肺胞壁と毛細血管床が破壊され、ガス交換に使える面積が減る → 肺拡散能(DLCO)が低下する。 したがって、低下が予想されるのは1秒率と肺拡散能であり、残気量・全肺気量・機能的残気量はいずれも増加する方向に変化する。
選択肢考察
- ×a. 残気量
残気量(RV: residual volume)は、最大限に息を吐き出した後も肺内に残る空気の量である。肺気腫では弾性収縮力の低下により呼気時に末梢気道が早期に閉塞し、空気が肺胞内に閉じ込められる(エアトラッピング)。その結果、残気量は増加し、残気量/全肺気量比も上昇する。低下ではなく増加が予想される。
- ○b. 1秒率
1秒率(FEV1/FVC)は、努力肺活量のうち最初の1秒間に吐き出せる割合で、70%未満を閉塞性換気障害とする。COPDの診断基準も、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であることである。肺気腫では肺の弾性収縮力が低下して呼気を押し出す力が弱まり、さらに呼気時に末梢気道が虚脱するため、呼気流速が低下して1秒率が低下する。本例でも低下が予想される。
- ×c. 全肺気量
全肺気量(TLC: total lung capacity)は、最大吸気位で肺内に含まれる空気の総量である。肺気腫では肺の弾性収縮力が低下して肺が膨らみやすく(コンプライアンスの増大)、残気量も増えるため、全肺気量は正常から増加する。胸部エックス線写真での肺野透過性亢進や横隔膜の平坦化はこの過膨張を反映している。低下は予想されない。
- ○d. 肺拡散能
肺拡散能(DLCO: 一酸化炭素肺拡散能)は、肺胞気から肺毛細血管血へのガスの移行しやすさを示す指標で、肺胞と毛細血管の接触面積や肺胞壁の厚さなどに依存する。肺気腫では肺胞壁が破壊され、それに伴って肺毛細血管床も失われるため、ガス交換面積が減少し、肺拡散能は低下する。CTで低吸収域が広範に見られる本例では、拡散能の低下が予想される。なお、気道病変が主体で肺胞破壊の乏しい慢性気管支炎型や気管支喘息では、拡散能は保たれることが多く、鑑別に役立つ。
- ×e. 機能的残気量
機能的残気量(FRC: functional residual capacity)は、安静呼気位で肺内に残っている空気の量で、残気量と予備呼気量の和である。安静呼気位は、肺が縮もうとする力と胸郭が広がろうとする力のつり合いで決まる。肺気腫では肺の縮む力が弱まるためつり合いの位置が高くなり、エアトラッピングも加わって、機能的残気量は増加する。低下は予想されない。
COPDの概要
COPDは、たばこ煙を主とする有害物質の長期吸入によって生じる肺の炎症性疾患で、完全には可逆的でない気流閉塞を特徴とする。肺胞の破壊が主体の気腫性病変(肺気腫)と、末梢気道病変が主体の非気腫性病変があり、両者がさまざまな割合で混在する。
診断
気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーで1秒率(FEV1/FVC)が70%未満であり、ほかの気流閉塞をきたす疾患を除外して診断する。重症度(病期)は、予測1秒量に対する割合(%FEV1)で分類する(80%以上:I期、50〜80%未満:II期、30〜50%未満:III期、30%未満:IV期)。
身体所見
・ビア樽状胸郭、呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)の発達、口すぼめ呼吸 ・呼吸音の減弱、呼気延長 ・Hoover徴候(吸気時に下部肋間が内側へ引き込まれる) ・進行例では肺高血圧から右心不全(肺性心)をきたす
画像所見
・胸部エックス線:肺野透過性亢進、横隔膜の低位・平坦化、滴状心、肋間腔の開大、胸骨後腔の拡大 ・胸部CT:明瞭な壁をもたない低吸収域(LAA: low attenuation area)の散在・融合
呼吸機能検査の変化のまとめ
・低下するもの:1秒量、1秒率、肺拡散能(肺気腫型)、肺弾性収縮力 ・増加するもの:残気量、機能的残気量、残気量/全肺気量比、全肺気量(正常〜増加)、静肺コンプライアンス ・肺活量は残気量の増加により低下することがある
拘束性障害との対比
間質性肺炎などの拘束性障害では、%肺活量が80%未満に低下し、全肺気量・機能的残気量・残気量はいずれも減少、肺コンプライアンスは低下、拡散能も低下する。1秒率は正常かむしろ高値となる。
治療の基本
禁煙が最も重要である。薬物療法は長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)の吸入が中心で、呼吸リハビリテーション、インフルエンザ・肺炎球菌ワクチン接種、慢性呼吸不全には在宅酸素療法を行う。
POINT
・重喫煙歴+労作時呼吸困難+呼吸音減弱+肺過膨張・CTの低吸収域 → COPD(肺気腫)。 ・閉塞性換気障害:1秒率70%未満。 ・肺気腫では肺胞破壊により肺拡散能(DLCO)が低下する。 ・エアトラッピングにより残気量・機能的残気量は増加し、全肺気量は正常〜増加する。 ・肺胞破壊の乏しい気管支喘息・慢性気管支炎型では拡散能が保たれやすい点が鑑別に役立つ。
