「浅く、連続し、大腸だけ」―Crohn病と対比で解く潰瘍性大腸炎の4つの論点
第99回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
潰瘍性大腸炎で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.大腸癌発生のリスクは低い。
- b.腸管外合併症として原発性硬化性胆管炎がある。
- c.下痢の回数は重症度判定に重要である。
- d.肛門病変の合併が多い。
- e.手術適応の多くは腸管狭窄である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
潰瘍性大腸炎は直腸から口側へ連続性・びまん性に広がる大腸限局の粘膜〜粘膜下層の炎症で、全層性炎症をきたすCrohn病とは異なり、狭窄・瘻孔・肛門病変は少なく、手術理由も狭窄ではなく内科治療抵抗例や大量出血、穿孔、中毒性巨大結腸症、癌合併などです。代表的な腸管外合併症は原発性硬化性胆管炎で、合併例では大腸癌や胆管癌のリスクがさらに高まります。重症度分類は排便回数・顕血便・発熱・頻脈・貧血・赤沈(CRP)で判定し、排便回数と顕血便は重症判定の必須項目です。長期経過例や全大腸炎型ではcolitic cancerのリスクが高く、定期的な内視鏡サーベイランスが欠かせません。Crohn病との対比で病変部位・炎症の深さ・合併症を整理する考え方は、炎症性腸疾患全般の理解と日常診療の判断の土台になります。
解答・解説
正解はb, cです
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の基本的な特徴を、同じ炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)であるCrohn病と対比しながら理解しているかを問う問題である。 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜(主に粘膜層〜粘膜下層)に、直腸から口側へ連続性・びまん性に炎症が広がる原因不明の慢性炎症性疾患である。病変は大腸に限局し、炎症が浅い層にとどまるため、瘻孔形成・腸管狭窄・肛門病変は少ない。これに対してCrohn病は、口腔から肛門までの消化管のどこにでも非連続性(skip lesion)に全層性の炎症を起こし、狭窄・瘻孔・肛門病変(痔瘻・肛門周囲膿瘍など)が多い。 本問の各選択肢は、次の4つの観点から判断する。 ・長期経過での発癌(colitic cancer) ・腸管外合併症(原発性硬化性胆管炎など) ・重症度分類の指標(排便回数、血便、発熱、頻脈、貧血、赤沈) ・肛門病変・狭窄・手術適応がUCとCrohn病のどちらに特徴的か これらを整理すると、原発性硬化性胆管炎の合併と、下痢(排便)回数が重症度判定に用いられることの2つが正しい記述となる。
選択肢考察
- ×a. 大腸癌発生のリスクは低い。
潰瘍性大腸炎では、慢性炎症を背景に大腸癌(colitic cancer)の発生リスクが一般人口より高い。とくに発症から8〜10年以上の長期経過例、病変範囲の広い全大腸炎型、原発性硬化性胆管炎の合併例、若年発症例でリスクが上昇する。そのため長期経過例では、定期的な大腸内視鏡検査によるサーベイランスで異形成(dysplasia)や癌を早期発見することが推奨されている。したがって「リスクは低い」は誤りである。
- ○b. 腸管外合併症として原発性硬化性胆管炎がある。
原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は、肝内・肝外胆管に線維性の狭窄が多発する原因不明の慢性胆道疾患であり、潰瘍性大腸炎の代表的な腸管外合併症である。UC患者の数%に合併し、逆にPSC患者の側からみるとIBD、特にUCを合併する割合が高い(欧米では約7割、日本でもおよそ3〜4割)。PSC合併例は大腸癌や胆管癌のリスクがさらに高く、胆汁うっ滞を示す肝胆道系酵素(ALP・γ-GTP)の上昇に注意する。したがって本選択肢は正しい。
- ○c. 下痢の回数は重症度判定に重要である。
わが国の潰瘍性大腸炎の臨床的重症度分類(厚生労働省研究班)では、排便回数、顕血便の程度、発熱、頻脈、貧血、赤沈(またはCRP)が指標として用いられる。このうち排便回数と顕血便の程度は重症と判定するための必須項目であり、排便回数は1日4回以下が軽症、6回以上が重症の条件となる(その中間が中等症)。したがって、下痢(排便)の回数は重症度判定に重要であり、本選択肢は正しい。
- ×d. 肛門病変の合併が多い。
潰瘍性大腸炎の炎症は粘膜〜粘膜下層にとどまる浅いものであり、痔瘻・肛門周囲膿瘍・裂肛・皮垂などの難治性肛門病変を合併することは少ない。肛門病変が多いのは全層性炎症を特徴とするCrohn病であり、肛門病変がCrohn病の初発症状として発見の契機になることもある。したがって本選択肢は誤りである。
- ×e. 手術適応の多くは腸管狭窄である。
潰瘍性大腸炎の手術適応には、絶対的適応として大量出血、穿孔、中毒性巨大結腸症、大腸癌(または高度異形成)の合併、重症・劇症で内科治療が無効な例があり、相対的適応として内科治療抵抗性の難治例、ステロイドの副作用が問題となる例、腸管外合併症などがある。実際の手術理由として多いのは内科的治療に反応しない難治例であり、狭窄は手術理由としてはまれである。UCは炎症が浅いため線維性狭窄をきたしにくく、狭窄がみられた場合はむしろ癌の合併を疑う。狭窄が手術適応の主な理由となるのはCrohn病である。したがって本選択肢は誤りである。
潰瘍性大腸炎とCrohn病の比較
・病変部位:UCは大腸に限局し直腸から連続性に口側へ広がる。Crohn病は口腔〜肛門のどこにでも生じ、回盲部に好発し非連続性(skip lesion)。 ・炎症の深さ:UCは粘膜〜粘膜下層。Crohn病は全層性。 ・内視鏡所見:UCは血管透見像の消失、びまん性の発赤・びらん、偽ポリポーシス。Crohn病は縦走潰瘍、敷石像、アフタ。 ・病理:UCは陰窩膿瘍、杯細胞の減少。Crohn病は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫。 ・狭窄・瘻孔・肛門病変:UCでは少なく、Crohn病で多い。 ・症状:UCは粘血便が主体。Crohn病は腹痛・下痢・体重減少、発熱。 ・喫煙:UCでは喫煙者で発症が少なく、Crohn病では喫煙が増悪因子。
潰瘍性大腸炎の臨床的重症度分類の概要
・指標:排便回数、顕血便、発熱(37.5℃以上)、頻脈(90/分以上)、貧血(Hb 10 g/dL以下)、赤沈亢進(30 mm/時以上)またはCRP上昇。 ・重症:排便6回以上かつ顕血便(+++)を満たし、さらに発熱または頻脈を含む全身症状を伴い、6項目中4項目以上を満たすもの。 ・軽症:排便4回以下、血便は(+)〜(−)で、全身症状や貧血・赤沈亢進を伴わないもの。 ・中等症:軽症と重症の中間。 ・劇症:重症のうち、1日15回以上の血性下痢、38℃以上の持続する高熱、白血球増多、強い腹痛などを伴うもの。
潰瘍性大腸炎の主な腸管外合併症
原発性硬化性胆管炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、関節炎・強直性脊椎炎、虹彩炎・ぶどう膜炎、アフタ性口内炎、血栓症など。
治療の概要
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が基本であり、中等症以上や寛解導入困難例では副腎皮質ステロイド、免疫調節薬(チオプリン製剤)、血球成分除去療法、カルシニューリン阻害薬、生物学的製剤(抗TNF-α抗体など)、JAK阻害薬などが用いられる。手術は大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術が標準である。
POINT
・潰瘍性大腸炎は長期経過(8〜10年以上)・全大腸炎型・PSC合併で大腸癌リスクが高く、定期的な内視鏡サーベイランスが必要 ・代表的な腸管外合併症は原発性硬化性胆管炎(PSC) ・重症度分類は排便回数・顕血便・発熱・頻脈・貧血・赤沈で判定(排便6回以上+顕血便(+++)が重症の必須条件) ・肛門病変・狭窄・瘻孔はCrohn病に多い ・UCの手術適応:大量出血、穿孔、中毒性巨大結腸症、癌・高度異形成、内科治療抵抗例(実際には難治例が多い)
