StudyMed医師国家試験

「歩くこと」は守りの一手―Virchowの三徴で解く肺血栓塞栓症の危険因子

第99回医師国家試験 E問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第22問

肺血栓塞栓症の危険因子でないのはどれか。

  1. a.肥満
  2. b.外科手術
  3. c.早期離床
  4. d.経口避妊薬
  5. e.中心静脈カテーテル留置

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は肺血栓塞栓症の危険因子を問う問題だ。「危険因子でないもの」を選ぶ形式なので、一つずつ覚えた知識と照らし合わせるより、血栓ができる仕組みから考えると迷わない。まず、肺血栓塞栓症の血栓はどこから来るか覚えているかな。
医学生医学生
多くは下肢の深部静脈にできた血栓がはがれて、肺動脈に詰まるんですよね。
ドクタードクター
その通り。だから深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症はひと続きの病気と考えて、まとめて静脈血栓塞栓症と呼ぶ。そして静脈に血栓ができる条件を整理するのがVirchowの三徴だ。
医学生医学生
基礎の病理学で習いました。血流のうっ滞、血管内皮の障害、血液凝固能の亢進の3つですね。
ドクタードクター
完璧だ。選択肢がこのどれかを強めるなら危険因子、打ち消すなら予防策と考えればいい。まず肥満はどうだろう。
医学生医学生
体を動かす量が減って、血流がうっ滞しやすいからでしょうか。
ドクタードクター
それに加えて、腹圧が上がることで下肢からの静脈還流が滞りやすく、脂肪組織から出る炎症性物質などで凝固能も高まりやすい。肥満は周術期の予防策を決めるリスク評価にも含まれる、れっきとした危険因子だ。
医学生医学生
外科手術は、三徴が全部そろいそうですね。
ドクタードクター
まさにそう。組織の損傷で凝固系が活性化し、手術操作で血管内皮が障害され、麻酔中や術後の安静で血流が滞る。とくに人工股関節・人工膝関節置換術、股関節骨折の手術、骨盤内の悪性腫瘍の手術はリスクが高いんだ。
医学生医学生
臨床実習で整形外科を回ったとき、術後の患者さんがみんな弾性ストッキングを履いて、足にフットポンプを付けていました。
ドクタードクター
それが予防策だね。弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、そしてリスクに応じて抗凝固薬を組み合わせる。では経口避妊薬はどうかな。
医学生医学生
エストロゲンが入っているので、凝固能の亢進ですか。
ドクタードクター
正解。エストロゲンは肝臓での凝固因子の産生を増やし、プロテインSなど凝固を抑える因子を減らす。喫煙者、35歳以上、肥満の人ではとくに注意が必要で、大きな手術の前には一時的に中止する。中心静脈カテーテルはどう考える?
医学生医学生
血管の中に異物が入っているので、内皮障害でしょうか。でも下肢ではないので、肺塞栓とは関係が薄い気もします。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。カテーテルは内皮を傷つけ、表面にフィブリンが付着し、血流も部分的に妨げる。上肢や頸部の静脈に血栓ができ、それが肺に飛ぶこともあるから、立派な危険因子なんだ。担癌患者や長期留置例ではとくに注意が要る。
医学生医学生
となると、残る早期離床が答えですね。むしろ寝たきりのほうが危険因子です。
ドクタードクター
その通り。早く歩き始めると下肢の筋肉が収縮して、ふくらはぎの筋ポンプ作用が働く。静脈血が心臓へ戻りやすくなって、うっ滞が解消されるんだ。早期離床は危険因子ではなく予防策で、逆に長期臥床が危険因子になる。
医学生医学生
エコノミークラス症候群も、長時間座りっぱなしで筋ポンプが働かないことが原因でしたね。
ドクタードクター
よくつながったね。ここで臨床での注意点を一つ。肺血栓塞栓症は、術後に初めて歩いたときやトイレに立ったときに発症することが多い。動き出した瞬間に血栓がはがれるんだ。突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、失神が出たら、まず疑ってほしい。
医学生医学生
早期離床は予防なのに、そのタイミングで起きやすいというのは少し不思議です。
ドクタードクター
それまでの安静中にできていた血栓が、離床で流れ出すからなんだ。だから離床を遅らせるのではなく、術前からリスクを評価して予防を組み合わせ、離床時は症状の変化をよく観察することが大切だ。検査ではD-ダイマーが上昇し、検査前確率が低ければ陰性でほぼ否定できる。血液ガスでは低酸素血症と低二酸化炭素血症、確定診断は造影CTでの肺動脈の造影欠損が中心だ。
医学生医学生
治療は抗凝固療法が基本で、ショックなどの重症例では血栓溶解療法を考えるんですね。
ドクタードクター
そう。ヘパリンやDOAC、ワルファリンによる抗凝固療法が柱で、重症ならカテーテル治療や外科的血栓摘除術、抗凝固療法が使えなければ下大静脈フィルターも検討する。危険因子を三徴で理解しておけば、予防も治療も一本の筋で考えられるよ。

まとめ

肺血栓塞栓症の多くは下肢深部静脈の血栓が肺動脈に詰まって起こり、深部静脈血栓症とあわせて静脈血栓塞栓症と呼ばれます。危険因子はVirchowの三徴(血流のうっ滞・血管内皮の障害・凝固能の亢進)で整理でき、肥満、外科手術、経口避妊薬、中心静脈カテーテル留置はいずれかを強めるため危険因子です。一方、早期離床はふくらはぎの筋ポンプ作用で静脈うっ滞を解消する予防策であり、危険因子ではありません。予防には早期離床に加えて弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、抗凝固薬をリスクに応じて組み合わせ、術後の初回歩行時などに突然の呼吸困難や胸痛が出たら本症を疑います。仕組みから危険因子を理解することは、周術期管理や病棟での急変対応の基本となります。

解答・解説

正解はcです

肺血栓塞栓症(PTE: pulmonary thromboembolism)は、下肢や骨盤の深部静脈にできた血栓(深部静脈血栓症、DVT: deep vein thrombosis)がはがれ、血流に乗って肺動脈を詰まらせる病気である。PTEとDVTはひと続きの病気と考え、まとめて静脈血栓塞栓症(VTE: venous thromboembolism)と呼ぶ。 危険因子を整理するには、Virchowの三徴を使うとよい。静脈に血栓ができやすくなる条件は次の3つである。 ・血流のうっ滞:長期臥床、長時間の座位(エコノミークラス症候群)、肥満、妊娠、下肢麻痺、心不全など ・血管内皮の障害:手術(とくに股関節・膝関節・骨盤・腹部の手術)、外傷・骨折、カテーテル留置、静脈炎など ・血液凝固能の亢進:悪性腫瘍、経口避妊薬やエストロゲン製剤、妊娠・産褥、脱水、先天性の凝固異常(アンチトロンビン・プロテインC・プロテインSの欠乏症)、抗リン脂質抗体症候群など 選択肢のうち、この三徴のどれかを強める要素は危険因子である。逆に、三徴を打ち消す方向にはたらくものは危険因子ではなく、予防策である。これを見分けることが本問の考え方になる。

選択肢考察

  1. ×a.  肥満

    肥満では、腹圧が上がって下肢から戻る静脈血の流れが滞りやすく、体を動かす量も減りがちである。さらに脂肪組織から出る炎症性物質などによって、凝固能が高まりやすい。これらの理由から肥満はVTEの危険因子であり、周術期の予防策を決めるときのリスク評価にも含まれる。

  2. ×b.  外科手術

    手術では、組織が傷つくことで凝固系が活性化し、手術操作によって血管内皮も障害される。さらに麻酔中・術後の安静で血流が滞る。つまりVirchowの三徴すべてがそろいやすく、外科手術は代表的な危険因子である。とくに人工股関節・人工膝関節置換術、股関節骨折の手術、骨盤内の悪性腫瘍の手術はリスクが高い。そのため、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、抗凝固薬による予防を行う。

  3. ○c.  早期離床

    術後や病気のときに早くベッドから離れて歩くこと(早期離床)は、下肢の筋肉を収縮させてふくらはぎのポンプ作用(筋ポンプ作用)を働かせる。これにより静脈血が心臓へ戻りやすくなり、血流のうっ滞が解消される。そのため早期離床はDVT・PTEの予防策であり、危険因子ではない。逆に、長期臥床や安静が続くことが危険因子である。危険因子でないものを選ぶ本問の正解である。

  4. ×d.  経口避妊薬

    経口避妊薬に含まれるエストロゲンは、肝臓での凝固因子の産生を増やし、プロテインSなどの凝固を抑える因子を減らす。その結果、凝固能が高まり、VTEの危険が上がる。喫煙している人、35歳以上の人、肥満の人、手術を控えている人では、とくに注意が必要である。大きな手術の前には一時的に服用を中止する。

  5. ×e.  中心静脈カテーテル留置

    中心静脈カテーテルは血管の中に置かれた異物である。血管内皮を傷つけ、カテーテルの表面にはフィブリンが付着する。さらに血流を部分的に妨げる。これらによって上肢や頸部の静脈に血栓ができやすくなり、PTEの原因にもなる。とくに担癌患者や長期留置例では注意が必要である。

静脈血栓塞栓症(VTE)の要点

・症状:DVTでは片側の下肢の腫れ・痛み・色の変化が起こる。PTEでは急に起こる呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、失神などが起こる。術後に初めて歩いた時や、トイレに立った時に発症することが多い ・検査:D-ダイマーは上昇する。陰性であれば、検査前の可能性が低い例ではVTEをほぼ否定できる。動脈血ガスでは低酸素血症と低二酸化炭素血症が見られる。確定診断には造影CT(肺動脈の造影欠損)、肺換気血流シンチグラフィ(換気と血流の不一致)、下肢静脈超音波を用いる。心エコーでは右室の拡大が見られることがある ・治療:抗凝固療法(ヘパリン、直接作用型経口抗凝固薬〔DOAC〕、ワルファリン)を行う。血圧が保てないなど重症の場合は、血栓溶解療法、カテーテル治療、外科的血栓摘除術を考える。抗凝固療法が使えない場合には、下大静脈フィルターを検討する

予防法

・早期離床・積極的な下肢の運動 ・弾性ストッキング ・間欠的空気圧迫法(フットポンプ) ・抗凝固薬(低用量未分画ヘパリン、低分子量ヘパリン、フォンダパリヌクスなど) リスクの程度に応じて、これらを組み合わせる。

POINT

・VTEの危険因子はVirchowの三徴(血流のうっ滞・血管内皮の障害・凝固能の亢進)で整理する ・肥満、手術、経口避妊薬、中心静脈カテーテル、長期臥床、悪性腫瘍、妊娠は危険因子である ・早期離床は危険因子ではなく、DVT・PTEの予防策である

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。