StudyMed医師国家試験

しこりの正体は年齢が教える―線維腺腫・乳腺症・葉状腫瘍・乳癌を整理する

第99回医師国家試験 E問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第21問

乳腺腫瘍について正しいのはどれか。

  1. a.乳房に腫瘤を触知した際にはまず胸部単純CTを行う。
  2. b.乳腺症は高頻度に悪性化する。
  3. c.線維腺腫は乳癌に比べ若年で発生する。
  4. d.葉状腫瘍の大半は悪性である。
  5. e.我が国の乳癌死亡者数は減少傾向にある。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳腺腫瘍の総合問題だ。検査の進め方、良性疾患の性質、乳癌の疫学と、幅広く問われている。整理のカギは「好発年齢」と「良性か悪性か」。まずは乳房にしこりを触れた人が来たら、最初に何をするか考えてみよう。
医学生医学生
しこりなら全体像を見たいので、CTを撮りたくなってしまいます。
ドクタードクター
そう考える人は意外と多いんだ。でも乳房のしこりで最初に行う画像検査は、マンモグラフィと乳房超音波検査だよ。マンモグラフィは微細な石灰化や構築の乱れを見つけるのが得意で、超音波は被曝がなく、しこりの形や境界、内部の様子をよく評価できる。乳腺の密度が高い若い女性でも使いやすいんだ。
医学生医学生
CTはどんなときに使うんですか。
ドクタードクター
胸部CTは乳腺の中の病変を詳しく見るのには向かないし、被曝もある。乳癌と診断がついた後に、リンパ節転移や遠隔転移を調べる病期診断で使うのが基本だ。流れとしては、問診・視触診、マンモグラフィと超音波、そして穿刺吸引細胞診や針生検で病理診断、癌ならMRIで広がりを見てCTや骨シンチで転移を探す、という順番になる。
医学生医学生
OSCEの乳房診察の練習で、視診・触診のあとに画像検査を組み立てるように習いました。ではCTが最初というのは誤りですね。次に乳腺症ですが、「症」とつくので病気が進んで癌になりそうなイメージがあります。
ドクタードクター
名前で誤解しやすいところだね。乳腺症はエストロゲンを中心とした女性ホルモンのバランスの乱れで起こる、乳腺の増殖と退行性変化が混ざった状態で、腫瘍ではないんだ。30〜40歳代に多く、月経周期に合わせて強くなる乳房痛や硬結が特徴だ。基本的に前癌病変ではなく、悪性化はまれだよ。
医学生医学生
「高頻度に悪性化する」は言いすぎということですね。ただ、まったくリスクがないわけでもないんでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。組織で異型乳管過形成のような異型を伴う過形成があると、将来の乳癌リスクは高まるとされている。だから乳腺症全体としては悪性化はまれ、でも組織像によっては注意が要る、と理解しておこう。では正解の線維腺腫について話そう。
医学生医学生
病理の講義で、乳管上皮と間質の両方が増える良性腫瘍だと習いました。若い人に多いイメージです。
ドクタードクター
その通り。線維腺腫は10歳代後半〜30歳代、ピークは20歳代の若い女性に多い。乳癌の好発年齢は40歳代後半〜60歳代だから、線維腺腫は乳癌より明らかに若年で発生する。触診では表面が滑らかで境界明瞭、よく動く弾性硬のしこりで、超音波では境界明瞭な楕円形の低エコー腫瘤として見える。閉経後は小さくなることが多いんだ。
医学生医学生
乳癌は硬くて境界がはっきりせず、動きにくいしこりでしたよね。触診でもかなり違いますね。
ドクタードクター
そう。乳癌ではえくぼ症状や乳頭陥凹、腋窩リンパ節腫大を伴うこともある。続いて葉状腫瘍。線維腺腫と同じ線維上皮性腫瘍だけど、間質の増殖が目立ち、40歳代前後に多く、短期間で大きくなりやすいのが特徴だ。
医学生医学生
急に大きくなるなら、悪性のことが多いのかと思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。葉状腫瘍は組織学的に良性・境界病変・悪性に分けられるけれど、大半は良性で、悪性はおよそ1〜2割とされている。ただし良性でも切除が不十分だと局所再発しやすいので、周囲の正常組織を含めて広く切除するのが原則だ。悪性のものは主に血行性に肺などへ転移する。
医学生医学生
最後は疫学ですね。欧米では乳癌の死亡率が下がっていると聞いたことがあります。
ドクタードクター
欧米では検診の普及や薬物療法の進歩で死亡率が低下してきた。一方、日本では乳癌は女性の癌の罹患数第1位で、死亡数も長く増加傾向が続き、年間1万5千人前後に達している。検診受診率が欧米より低いことも背景にあるとされ、減少傾向とはいえないんだ。
医学生医学生
まとめると、検査はマンモグラフィと超音波から、乳腺症は腫瘍ではなく悪性化はまれ、葉状腫瘍は大半が良性、日本の乳癌死亡は増えている、そして線維腺腫は乳癌より若い、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での視点を加えておこう。乳癌のリスク因子は、初経が早い、閉経が遅い、出産経験がないか初産が高齢、授乳経験がない、閉経後の肥満、飲酒、ホルモン補充療法、BRCA1/2変異などの家族歴。多くはエストロゲンにさらされる期間が長くなるという共通点があるんだ。
医学生医学生
エストロゲン曝露という軸で覚えれば、乳腺症がホルモンで変動するのともつながりますね。
ドクタードクター
いいつなげ方だね。また、乳頭から血の混じった分泌が出る場合は乳管内乳頭腫が代表的だけど、乳癌との鑑別が重要になる。若い女性の線維腺腫らしいしこりでも、急に大きくなれば葉状腫瘍を考える、というように、年齢と経過を組み合わせて判断する習慣をつけておこう。

まとめ

乳腺疾患は好発年齢で整理すると理解しやすく、線維腺腫は10歳代後半〜30歳代(20歳代がピーク)、乳腺症は30〜40歳代、葉状腫瘍は40歳代前後、乳癌は40歳代後半〜60歳代に多いため、線維腺腫は乳癌より若年で発生します。乳房腫瘤の初期検査はマンモグラフィと乳房超音波で、針生検などで病理診断を行い、CTは主に乳癌の病期診断に用います。乳腺症はホルモンバランスの乱れによる非腫瘍性の変化で悪性化はまれであり、葉状腫瘍は大半が良性ですが局所再発しやすいため広範囲に切除します。日本の乳癌は罹患数・死亡数とも増加傾向にあり、エストロゲン曝露期間の長さに関わるリスク因子とあわせて理解しておくことが、検診や外来でのしこりの評価に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

乳腺腫瘍について、次の4点をまとめて確認する問題である。 ・乳房に腫瘤を触れたときの検査の順番 ・代表的な良性疾患(乳腺症、線維腺腫、葉状腫瘍)の性質 ・乳癌の疫学 乳腺疾患では、まず好発年齢を押さえると整理しやすい。 ・線維腺腫:10歳代後半〜30歳代の若い女性 ・乳腺症:30〜40歳代の性成熟期〜閉経前後 ・乳癌:40歳代後半〜60歳代 乳房の腫瘤を見るときは、この年齢の違いを手がかりに鑑別を考える。 検査は、まず体への負担が小さく乳腺をよく描き出せるマンモグラフィと乳房超音波検査を行う。そのうえで、穿刺吸引細胞診や針生検(コア針生検、吸引式組織生検)で病理診断をつける。CTやMRIは病変の広がりや遠隔転移を調べるための追加検査である。 疫学では、日本の乳癌は女性の癌の中で罹患数が最も多く、死亡数も長く増え続けてきた。この流れを押さえておけば、各選択肢の正誤を判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  乳房に腫瘤を触知した際にはまず胸部単純CTを行う。

    乳房の腫瘤を調べる最初の画像検査は、マンモグラフィ(乳房X線撮影)と乳房超音波検査である。マンモグラフィは微細な石灰化や構築の乱れを見つけやすい。超音波は被曝がなく、腫瘤の形・境界・内部エコーをよく評価でき、乳腺の密度が高い若い女性でも使いやすい。胸部単純CTは乳腺内の病変を詳しく見るのに向かず、被曝もある。そのため最初の検査にはせず、乳癌と診断した後の病期診断(リンパ節転移や遠隔転移の検索)に使う。

  2. ×b.  乳腺症は高頻度に悪性化する。

    乳腺症は、女性ホルモン(とくにエストロゲン)のバランスが崩れることで起こる、乳腺の増殖と退行性の変化が混ざった状態である。腫瘍ではない。月経周期に合わせて強くなる乳房痛・硬結・乳頭分泌などが特徴である。基本的に前癌病変ではなく、悪性化することはまれである。ただし組織で異型を伴う過形成(異型乳管過形成など)を認める場合は、将来の乳癌リスクが高まるとされる。

  3. ○c.  線維腺腫は乳癌に比べ若年で発生する。

    線維腺腫は乳管上皮と間質の両方が増える良性腫瘍で、10歳代後半〜30歳代(20歳代にピーク)の若い女性に多い。乳癌の好発年齢(40歳代後半〜60歳代)より明らかに若い。表面が滑らかで境界がはっきりし、よく動く弾性硬の腫瘤として触れる。超音波では境界明瞭な楕円形の低エコー腫瘤として見える。閉経後は小さくなることが多い。

  4. ×d.  葉状腫瘍の大半は悪性である。

    葉状腫瘍は間質が目立って増える線維上皮性腫瘍で、40歳代前後に多い。短い期間で大きくなりやすい。組織学的には良性・境界病変・悪性に分類され、大半は良性である(悪性はおよそ1〜2割とされる)。ただし良性でも、切除範囲が不十分だと局所で再発しやすい。そのため周囲の正常組織を含めて広く切除する。悪性の葉状腫瘍は、リンパ行性ではなく主に血行性に肺などへ転移する。

  5. ×e.  我が国の乳癌死亡者数は減少傾向にある。

    日本の女性の乳癌は罹患数・死亡数ともに長く増加傾向にある。現在では女性の癌の罹患数第1位で、年間の死亡数は1万5千人前後に達する。欧米では検診の普及や薬物療法の進歩で死亡率が下がってきたのに対し、日本は検診受診率が低いこともあり、減少傾向とはいえない。

主な乳腺疾患の整理

・線維腺腫:好発は10歳代後半〜30歳代。境界明瞭で可動性が良く、弾性硬の腫瘤。良性で、多くは経過観察する ・葉状腫瘍:好発は40歳代前後。急に大きくなり、巨大になることがある。良性・境界病変・悪性に分けられ、大半は良性。治療は正常組織を含めて広く切除する ・乳腺症:好発は30〜40歳代。月経周期に合わせた痛みや硬結があり、腫瘍ではない。悪性化はまれ ・乳管内乳頭腫:乳頭から血の混じった分泌(血性乳頭分泌)が出る。乳癌との鑑別が重要 ・乳癌:好発は40歳代後半〜60歳代。硬く境界がはっきりしない、動きにくい腫瘤。えくぼ症状(皮膚の陥凹)、乳頭陥凹、腋窩リンパ節腫大を伴うことがある

乳房腫瘤の診断の流れ

問診・視診・触診 → マンモグラフィ・乳房超音波 → 穿刺吸引細胞診・針生検で確定診断 → 乳癌であればMRIで広がりを評価し、CT・骨シンチグラフィなどで転移を検索する

乳癌のリスク因子

初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない・初産が高齢、授乳経験がない、閉経後の肥満、家族歴(BRCA1/2遺伝子変異など)、飲酒、ホルモン補充療法など。いずれもエストロゲンにさらされる期間が長くなることが共通点である。

POINT

・乳房腫瘤の最初の検査はマンモグラフィと超音波である(CTではない) ・線維腺腫は若年者(20歳代がピーク)に多い良性腫瘍である ・乳腺症は腫瘍ではなく、悪性化はまれである ・葉状腫瘍の大半は良性だが、局所で再発しやすいので広く切除する ・日本の乳癌は罹患数・死亡数とも増加傾向にある

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。