飲み込む腸、生み出す腎―羊水の「出入り口」を見極める
第99回医師国家試験 D問題 第57問
国試問題にチャレンジ
羊水の産生源でないのはどれか。
- a.胎児皮膚
- b.胎児肺
- c.胎児腸管
- d.胎児腎臓
- e.羊膜
対話形式の解説
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ドクターまとめ
羊水は妊娠初期には羊膜からの分泌・漏出と角化前の胎児皮膚を介した移行で、妊娠中期以降は胎児尿(最大の供給源)と胎児肺の肺胞液によって産生されます。一方、胎児腸管は嚥下した羊水を吸収する側の臓器であり、産生源ではありません。この産生と吸収のバランスが崩れると、食道閉鎖・十二指腸閉鎖・無脳症などの嚥下・通過障害では羊水過多、腎無形成や下部尿路閉塞では羊水過少(Potterシークエンス)が生じます。羊水の「出入り口」を理解しておくことは、超音波で羊水量異常を見たときに胎児の原因疾患を推定する土台になります。
解答・解説
正解はcです
羊水がどこでつくられ、どこへ消えていくのか(産生と吸収の経路)を問う問題である。「産生源でないもの」を選ぶので、吸収側にはたらく臓器を見抜けばよい。 羊水の由来は妊娠時期によって変化する。 ・妊娠初期:胎児の腎臓や肺はまだ十分に機能していない。この時期の羊水は、母体血漿や胎児血漿が羊膜・絨毛膜を通って滲み出したもの(漏出液)と、羊膜上皮からの分泌が主体である。また、胎児の皮膚は角化が完成する妊娠20週台前半ごろまで水や溶質を自由に通すため、胎児の体液が皮膚を通して羊水腔に移行し、羊水の一部となる。 ・妊娠中期以降:胎児の腎臓が尿を産生し始め(妊娠10週前後から)、妊娠後半には胎児尿が羊水の最大の供給源となる。これに胎児肺から分泌される肺胞液(肺水)が加わる。一方、皮膚の角化が進むと皮膚を介した移動はほとんどなくなる。 羊水の吸収(除去)経路としては、胎児の嚥下(飲み込んだ羊水を消化管から吸収する)が最も重要であり、ほかに羊膜から胎盤表面の胎児血管へ直接移行する経路(膜内経路)がある。つまり胎児の消化管は羊水を「つくる」側ではなく「取り込む」側の臓器である。 この産生と吸収のバランスによって羊水量が保たれている。産生が減れば羊水過少、吸収が妨げられれば羊水過多となるため、本問の知識は羊水量異常の原因疾患を理解するうえでの土台となる。
選択肢考察
- ×a. 胎児皮膚
角化が完成する前(妊娠20週台前半ごろまで)の胎児皮膚は透過性が高く、胎児の体液が皮膚を通過して羊水腔へ移行する。妊娠初期から中期前半の羊水の供給源の一つであり、産生源に含まれる。角化が進んだ妊娠後半には寄与はほぼなくなる。
- ×b. 胎児肺
胎児の肺胞上皮は肺胞液を分泌しており、その一部が気道から口腔を経て羊水中へ流出する。妊娠後半の重要な産生源で、胎児尿に次ぐ供給量をもつ。肺サーファクタント(肺表面活性物質)が羊水中に含まれるのはこのためであり、羊水中のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比)などが胎児肺成熟度の指標として用いられてきた根拠でもある。
- ○c. 胎児腸管
胎児は羊水を嚥下し、消化管(主に小腸)でその水分を吸収して胎児循環へ戻している。胎児腸管は羊水の吸収(除去)を担う臓器であり、産生源ではない。このため食道閉鎖や十二指腸閉鎖などの上部消化管閉鎖、あるいは無脳症などで嚥下が障害されると羊水が除去されず羊水過多となる。
- ×d. 胎児腎臓
胎児の腎臓は妊娠10週前後から尿の産生を始め、妊娠後半には胎児尿が羊水の最大の供給源となる。そのため両側腎無形成や下部尿路閉塞などで尿が羊水腔に出ないと高度の羊水過少となり、肺低形成や特有の顔貌・四肢変形を伴うPotter(ポッター)シークエンスをきたす。
- ×e. 羊膜
羊膜上皮からの分泌や、母体・胎児血漿の羊膜を介した漏出は、胎児の腎臓や肺が十分に機能していない妊娠初期の羊水の主要な供給源である。羊膜は羊水の産生源に含まれる。
羊水の産生と吸収の整理
産生(供給) ・妊娠初期:羊膜(分泌・血漿の漏出)、胎児皮膚(角化前) ・妊娠中期以降:胎児尿(最大の供給源)、胎児肺の肺胞液 吸収(除去) ・胎児の嚥下と消化管からの吸収(主経路) ・羊膜から胎盤表面の胎児血管への移行(膜内経路)
羊水量の推移
羊水量は妊娠経過とともに増加し、妊娠30週台前半ごろに最大(約700〜800mL)となり、その後は妊娠末期にかけてやや減少する。羊水は産生と吸収によって絶えず入れ替わっている。
羊水の役割
・外部からの衝撃を和らげ胎児を保護する ・胎児が自由に動ける空間を確保し、四肢・筋骨格系の発達を助ける ・胎児が羊水を呼吸様運動で出し入れすることで肺の発育を促す ・臍帯の圧迫を防ぐ ・分娩時には胎胞を形成して子宮頸管の開大を助け、破水後は産道を潤す
羊水量異常の主な原因
羊水過少(産生低下・流出) ・胎児の腎・尿路異常(両側腎無形成、多嚢胞性異形成腎、後部尿道弁などの下部尿路閉塞) ・胎盤機能不全による胎児発育不全(腎血流低下により尿量が減る) ・前期破水 ・過期妊娠 ・母体へのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)投与 羊水過多(吸収障害・産生増加) ・胎児の嚥下障害:食道閉鎖、十二指腸閉鎖、無脳症、神経筋疾患など ・胎児尿の増加:母体糖尿病(胎児の高血糖による浸透圧利尿)、双胎間輸血症候群の受血児 ・原因不明の特発性も少なくない
羊水量の評価
超音波検査で、羊水ポケット(最大垂直深度、正常は2〜8cm)や羊水インデックス(AFI、子宮を4分割して各区画の最大深度を合計したもの、正常は5〜24cm程度)を用いて評価する。
POINT
・羊水の産生源:羊膜・胎児皮膚(妊娠初期)、胎児腎(尿)・胎児肺(妊娠中期以降)。 ・妊娠後半の最大の産生源は胎児尿。 ・胎児腸管は嚥下した羊水を吸収する臓器であり、産生源ではない。 ・嚥下・消化管通過の障害(食道閉鎖、十二指腸閉鎖、無脳症)→羊水過多。 ・尿産生の障害(腎無形成、下部尿路閉塞)→羊水過少(Potterシークエンス)。
