羊水はアルカリ、臍帯は羊膜で包まれる―胎児付属物の「構造」と「流れ」を整理する
第114回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
胎児付属物について正しいのはどれか。
- a.羊水は弱酸性である。
- b.臍帯動脈は1本である。
- c.臍帯表面は絨毛膜で覆われる。
- d.羊膜はWharton膠質からなる。
- e.臍帯静脈の血液は胎児側に向かって流れる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胎児付属物は胎盤・臍帯・卵膜・羊水からなり、羊水はpH約7.0〜7.5の弱アルカリ性で、酸性の腟内との差がBTB試験紙による破水診断に利用されます。臍帯は動脈2本・静脈1本を含み、血管のまわりをWharton膠質が埋め、外表面は羊膜が覆います。臍帯静脈は胎盤で酸素と栄養を受け取った血液を胎児へ運び、静脈管・卵円孔を経て脳や心臓へ優先的に届けられ、臍帯動脈は酸素の少ない血液を胎盤へ戻します。単一臍帯動脈は合併奇形の検索が必要であり、卵膜のうち母体由来は脱落膜だけであることも重要です。構造と血流の向きを立体的に理解しておくことは、破水の判定や胎児超音波の評価など産科臨床の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
胎児付属物とは、胎児が子宮内で発育するために必要な組織・器官の総称で、胎盤、臍帯、卵膜(羊膜・絨毛膜・脱落膜)、羊水をまとめた呼び名である。本問はそれぞれの基本的な構造と性質を問うている。 考え方のポイントは次の3点である。 1. 羊水の性状:pHはおよそ7.0〜7.5の弱アルカリ性で、酸性の腟内とは性質が異なる。 2. 臍帯の構造:血管は動脈2本と静脈1本の3本で、まわりをWharton膠質(ワルトンゼリー)という粘液性の結合組織が埋め、いちばん外側を羊膜が包む。 3. 臍帯の血流の向き:血管の名前は「心臓から出るか、心臓へ戻るか」で決まる。臍帯動脈は胎児の内腸骨動脈から出て、酸素の少ない血液を胎盤へ送る。臍帯静脈は胎盤で酸素と栄養を受け取った血液を胎児へ戻す。つまり成人とは逆で、臍帯静脈を流れるのが酸素の多い血液である。 この3点を押さえれば、各選択肢の正誤はすぐに判定できる。
選択肢考察
- ×a. 羊水は弱酸性である。
誤り。羊水のpHはおよそ7.0〜7.5で弱アルカリ性である。一方、正常な腟内は乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)がつくる乳酸によってpH4.5前後の酸性に保たれている。破水すると羊水が腟内に流れ込んでpHがアルカリ側に傾くため、BTB(ブロモチモールブルー)試験紙が黄色から青色に変われば破水を疑う。この原理は前期破水の診断に使われる。ただし、血液・精液・尿の混入や細菌性腟症でも腟内pHが上がり、偽陽性になることがある。
- ×b. 臍帯動脈は1本である。
誤り。正常な臍帯動脈は2本で、静脈1本と合わせて3本の血管が通る(2A1V)。臍帯動脈が1本しかない状態は単一臍帯動脈(single umbilical artery:SUA)と呼ばれ、出生のおよそ1%にみられる異常である。単独なら予後は良いことが多いが、心奇形・腎尿路奇形などの合併奇形、染色体異常、胎児発育不全を伴うことがあるため、超音波検査で見つかった場合は胎児を詳しく評価する。
- ×c. 臍帯表面は絨毛膜で覆われる。
誤り。臍帯の表面を覆うのは羊膜である。羊膜は卵膜のなかでいちばん内側(胎児側)にあり、羊水に接している。この羊膜が胎盤の胎児面を覆い、そのまま臍帯の外周まで続いている。絨毛膜は羊膜の外側(母体側)にある層で、臍帯の表面を覆うことはない。
- ×d. 羊膜はWharton膠質からなる。
誤り。Wharton膠質は臍帯の内部にあり、3本の臍帯血管のまわりを埋める粘液性の結合組織である。ヒアルロン酸などに富むゼリー状の組織で、臍帯血管が圧迫されたりねじれたりして閉塞するのを防ぐクッションの役割をもつ。羊膜は1層の上皮(羊膜上皮)と、その下のコラーゲンに富む薄い結合組織層からなる半透明の膜であり、Wharton膠質でできているわけではない。羊膜と臍帯の位置関係(羊膜が外側を包み、内部をWharton膠質が満たす)を混同させる選択肢である。
- ○e. 臍帯静脈の血液は胎児側に向かって流れる。
正しい。臍帯静脈は1本で、胎盤で母体血との間でガス交換と物質交換を済ませた、酸素と栄養に富む血液を胎児へ運ぶ。臍帯静脈は臍から胎児の体内に入り、肝臓に向かう。血液の一部は静脈管(Arantius管)を通って肝臓を迂回し、下大静脈から右心房へ入る。右心房に入った血液は主に卵円孔を通って左心系へ流れ、脳や心筋など重要な臓器に優先して届けられる。胎児循環で最も酸素飽和度が高いのはこの臍帯静脈の血液である。
胎児付属物の構成と由来
・胎盤:胎児由来の絨毛(繁生絨毛膜)と、母体由来の基底脱落膜からなる。 ・臍帯:胎児と胎盤をつなぐ索状物。妊娠末期の長さは約50cm、太さは1〜2cm程度である。 ・卵膜:内側から羊膜、絨毛膜、脱落膜の3層。羊膜と絨毛膜は胎児(受精卵)由来、脱落膜は子宮内膜が妊娠で変化したもので母体由来である。胎児付属物のうち母体由来なのは脱落膜(および胎盤の基底脱落膜部分)だけである。 ・羊水:妊娠初期は主に羊膜からの分泌や母体血漿の濾出液でつくられる。妊娠中期以降は胎児尿が主な供給源で、胎児の嚥下と肺液の出入りによって量が調節される。羊水量は妊娠30〜35週ごろに最大(約700〜800mL)となり、その後は減っていく。
臍帯の構造
・臍帯動脈2本:胎児の内腸骨動脈から分かれる。酸素の少ない血液(静脈血に近い性状)を胎盤へ運ぶ。 ・臍帯静脈1本:酸素と栄養に富む血液(動脈血に近い性状)を胎児へ運ぶ。 ・Wharton膠質:血管のまわりを埋めるゼリー状の結合組織。血管を圧迫やねじれから守る。 ・表面:羊膜で覆われる。
胎児循環の流れ
胎盤 → 臍帯静脈 → (静脈管)→ 下大静脈 → 右心房 → 卵円孔 → 左心房 → 左心室 → 大動脈(脳・心臓へ) 右心室から肺動脈に出た血液の多くは、動脈管を通って下行大動脈へ流れる → 内腸骨動脈 → 臍帯動脈 → 胎盤 出生後は、臍帯静脈が肝円索、静脈管が静脈管索、臍帯動脈が臍動脈索(内側臍ヒダ)となって遺残する。
羊水の機能
胎児を外からの衝撃から守る、胎児が動ける空間を保つ、肺の発達を助ける、臍帯が圧迫されるのを防ぐ、分娩時に頸管を開大させる、などの働きがある。
POINT
・羊水は弱アルカリ性(pH 約7.0〜7.5)。腟内は酸性なので、BTB試験紙が青変すれば破水を疑う。 ・臍帯は動脈2本・静脈1本(2A1V)。単一臍帯動脈は合併奇形の検索が必要。 ・臍帯の表面は羊膜が覆い、血管のまわりはWharton膠質が埋める。 ・臍帯静脈は酸素の多い血液を胎児へ、臍帯動脈は酸素の少ない血液を胎盤へ運ぶ。 ・胎児付属物のうち母体由来なのは脱落膜だけ。
