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胎児の「肺」は胎盤にある―酸素の流れを追えば答えは臍静脈

第116回医師国家試験 E問題 第7問

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第116回 E問題 第7問

正常の胎児循環において最も酸素分圧の高い血液が流れている部位はどれか。

  1. a.臍静脈
  2. b.肺静脈
  3. c.動脈管
  4. d.上大静脈
  5. e.内腸骨動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胎児循環の問題だ。ポイントは「胎児はどこで酸素を受け取っているのか」という一点。そこさえ押さえれば、あとは血液が流れる順番に酸素がどう薄まっていくかを追うだけだよ。まず、胎児のガス交換はどこで行われているかな。
医学生医学生
胎児の肺は羊水で満たされていて呼吸していないので、胎盤ですよね。
ドクタードクター
その通り。胎盤で母体血から酸素を受け取った血液が、臍帯を通って胎児に戻ってくる。その血管は何だったかな。
医学生医学生
臍帯には動脈2本と静脈1本があって……胎児に戻る方なので臍静脈です。でも「静脈」なのに酸素が多いというのは、なんだか違和感があります。
ドクタードクター
そこが大事な引っかけポイントだ。動脈・静脈という名前は「心臓から出るか、心臓に戻るか」で決まっていて、酸素の多さとは関係ない。臍静脈は胎児の心臓へ向かうから静脈だけど、中身は胎盤で酸素化されたばかりの血液。逆に臍動脈は、胎児の組織で酸素を使い終えた血液を胎盤へ送り返している。成人の肺動脈・肺静脈と同じ関係だね。
医学生医学生
解剖学の講義で、肺静脈は「静脈なのに動脈血」と習ったのを思い出しました。臍帯でも同じことが起きているんですね。
ドクタードクター
そう。胎児の体内で一番酸素分圧が高いのは、胎盤を出た直後の臍静脈血で、ここから先は全身から戻った酸素の乏しい血液と混ざって、だんだん酸素分圧が下がっていく。つまり正解は臍静脈だ。では、ほかの選択肢がなぜ低いのかを流れに沿って確認しよう。まず肺静脈はどうかな。
医学生医学生
成人だと肺静脈が一番酸素の多い血液を運ぶので、つい選びたくなります。
ドクタードクター
その誤解を狙った選択肢だね。胎児の肺は換気していないから、肺に流れ込んだ少量の血液は酸素を受け取るどころか、肺組織に酸素を使われてから肺静脈に戻る。だから胎児の肺静脈血は酸素が少ないんだ。出生して呼吸が始まって、初めて肺静脈が主役になる。
医学生医学生
なるほど。動脈管は「動脈」と名前がついていますけど、どうですか。
ドクタードクター
動脈管は肺動脈と下行大動脈をつなぐ短絡路だ。胎児期は肺血管抵抗が高いから、右心室から出た血液の大部分は肺を通らずに動脈管を抜けて下行大動脈へ流れる。右心室に入るのは主に上大静脈から戻ってきた酸素の乏しい血液だから、動脈管の血液も酸素分圧は低い。
医学生医学生
上大静脈は、頭や腕で酸素を使ったあとの血液を集めているから、むしろ胎児の中でかなり低い方ですね。
ドクタードクター
その理解でいい。特に脳は酸素消費が多いから、上大静脈は胎児循環の中で最も酸素分圧の低い部位の一つだ。最後に内腸骨動脈。ここには下行大動脈からの血液が流れるけれど、下行大動脈には動脈管からの低酸素の血液が合流しているから、上行大動脈よりも酸素は少ない。ちなみに臍動脈は内腸骨動脈から枝分かれして胎盤へ向かうんだ。
医学生医学生
整理すると、胎盤から胎児に向かう血管ほど酸素が多くて、胎児の組織を通ったあとの血液ほど少ない、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。ここで発展知識として、胎児循環の3つの短絡路を押さえておこう。臍静脈の血液の多くは静脈管、いわゆるArantius管を通って肝臓を迂回し下大静脈に入る。右心房に届いたその比較的酸素の多い血液は、卵円孔を通って左心房・左心室へ優先的に流れ、上行大動脈から冠動脈と脳を灌流する。一方、上大静脈からの血液は右心室・肺動脈・動脈管を経て下半身と胎盤へ向かう。
医学生医学生
大事な脳と心臓に、酸素の多い血液が優先的に届く仕組みになっているんですね。よくできているなあ。
ドクタードクター
そうなんだ。そして出生すると、第一呼吸で肺血管抵抗が急に下がり、臍帯結紮で胎盤循環が途絶える。左心房圧が右心房圧を上回って卵円孔が閉じ、動脈管も酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下で収縮・閉鎖する。それぞれ卵円窩、動脈管索、静脈管索として名残をとどめるよ。
医学生医学生
小児科の実習で、動脈管開存症の赤ちゃんにインドメタシンを使うと聞いたのは、プロスタグランジンを抑えて閉じさせるためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。逆に、動脈管に依存して体循環や肺循環を保っている先天性心疾患では、プロスタグランジン製剤で動脈管を開いたままにすることもある。もう一つ、胎児は酸素分圧が低い環境でも、胎児ヘモグロビンが2,3-BPGと結合しにくく酸素親和性が高いことや、ヘモグロビン濃度が高いことで、組織に十分な酸素を届けているんだ。胎児循環の理解は、出生後の循環の切り替えや先天性心疾患を学ぶ土台になるから、流れを図に描けるようにしておこう。

まとめ

胎児は肺で呼吸をしておらず、ガス交換の場は胎盤であるため、胎児循環で最も酸素分圧が高い血液は胎盤から胎児へ戻る臍静脈を流れます。臍帯では静脈が動脈血を、動脈が静脈血を運ぶ点が成人と逆で、肺静脈も胎児期には換気がないため酸素が少ない点に注意が必要です。臍静脈血は静脈管で肝臓を迂回し、下大静脈・右心房から卵円孔を通って左心系へ入り、上行大動脈から脳と心臓へ優先的に届けられる一方、上大静脈からの低酸素の血液は右心室・肺動脈・動脈管を経て下行大動脈へ向かいます。出生後は肺血管抵抗の低下と胎盤循環の途絶により、卵円孔・動脈管・静脈管が閉鎖して成人型循環へ移行します。血液の流れに沿って酸素がどう薄まるかを追う考え方は、新生児の循環適応や先天性心疾患を理解するための基礎となります。

解答・解説

正解はaです

本問は胎児循環の血流経路を理解し、どこで血液が酸素化され、どこで低酸素の血液と混ざっていくかを追えるかを問う問題である。

基本となる考え方

胎児の肺は羊水で満たされており換気をしていないため、ガス交換の場は肺ではなく胎盤である。母体血から酸素を受け取った血液は、臍静脈を通って胎児に戻る。したがって、胎児体内で最も酸素分圧(PO2)の高い血液は、胎盤を出た直後の臍静脈血である。そこから先は、下大静脈・右心房・左右の心室などで、全身から戻ってきた酸素の乏しい静脈血と順次混ざるため、酸素分圧は次第に低下していく。

血流の順序と酸素分圧

胎盤 → 臍静脈(最も高い)→ 大部分は静脈管を経て下大静脈へ(一部は門脈系を経て肝臓へ)→ 下大静脈で下半身からの静脈血と合流 → 右心房 → 卵円孔を通って左心房・左心室 → 上行大動脈 → 冠動脈・頭頸部・上肢 上大静脈から戻る低酸素の血液は主に右心房から右心室へ向かい、肺動脈 → 動脈管 → 下行大動脈 → 下半身・臍動脈 → 胎盤へと流れる。 このように、「胎盤から胎児へ向かう血管ほど酸素が多く、胎児の組織を通った後の血液ほど酸素が少ない」と整理すれば、正解は臍静脈となる。

選択肢考察

  1. ○a.  臍静脈

    正しい。臍静脈は胎盤で酸素化された血液を胎児に運ぶ唯一の血管(通常1本)であり、胎児循環のなかで酸素分圧・酸素飽和度が最も高い(酸素飽和度はおおむね80%前後とされる)。臍帯内では「静脈」が動脈血を運び、「動脈」が静脈血を運ぶ点が成人と逆になっていることに注意する。臍静脈血の大部分は静脈管(Arantius管)を通って肝臓を迂回し下大静脈に流入し、一部は門脈と合流して肝臓を灌流する。

  2. ×b.  肺静脈

    誤り。胎児の肺は換気していないためガス交換を行わない。肺へは肺動脈から少量の血液が流れるだけで、その血液は肺組織で酸素を消費された後に肺静脈から左心房へ戻る。したがって肺静脈血の酸素分圧は低い。出生後に肺呼吸が始まって初めて、肺静脈は最も酸素の多い血液を運ぶ血管となる。

  3. ×c.  動脈管

    誤り。動脈管(Botallo管)は肺動脈と下行大動脈をつなぐ短絡路で、肺血管抵抗が高い胎児期には右心室から駆出された血液の大部分がここを通って肺を迂回し下行大動脈へ流れる。右心室に入る血液は主に上大静脈由来の低酸素の血液であり、動脈管を流れる血液の酸素分圧は低い。出生後、動脈血酸素分圧の上昇やプロスタグランジン濃度の低下によって収縮・閉鎖し、動脈管索となる。

  4. ×d.  上大静脈

    誤り。上大静脈は、酸素消費量の多い脳を含む頭頸部や上肢で酸素を使い終えた血液を集めて右心房へ戻す血管であり、胎児循環のなかで最も酸素分圧の低い部位の一つである。この血液は右心房から主に三尖弁を通って右心室へ流れ、肺動脈・動脈管を経て下行大動脈へ向かう。

  5. ×e.  内腸骨動脈

    誤り。内腸骨動脈には下行大動脈からの血液が流れる。下行大動脈には、上行大動脈から続く比較的酸素の多い血液に加えて、動脈管から低酸素の血液が合流するため、酸素分圧は上行大動脈より低い。胎児では臍動脈(通常2本)が内腸骨動脈から分岐し、胎児の組織を通って酸素の乏しくなった血液を胎盤へ送り返す。出生後、臍動脈は遠位部が閉鎖して内側臍索となる。

胎児循環の3つの短絡路

①静脈管(Arantius管): 臍静脈と下大静脈をつなぎ、酸素の多い血液を肝臓を迂回させて心臓へ送る。出生後は閉鎖して静脈管索となる。 ②卵円孔: 右心房から左心房への短絡路。下大静脈から流入する比較的酸素の多い血液を左心系へ優先的に導き、上行大動脈から冠動脈と脳へ届ける。出生後、左心房圧が右心房圧を上回ると弁が閉じ、のちに癒合して卵円窩となる。 ③動脈管(Botallo管): 肺動脈から下行大動脈への短絡路。高い肺血管抵抗のため肺を通れない血液を下半身と胎盤へ送る。出生後に閉鎖して動脈管索となる。

酸素分圧のおおまかな順位

臍静脈 > 静脈管 > 下大静脈(静脈管合流後)≒ 左心房・左心室・上行大動脈 > 下行大動脈 > 右心室・肺動脈・動脈管 > 上大静脈 脳や心臓(冠動脈)は上行大動脈から分岐する血管で灌流されるため、下半身よりも酸素の多い血液を受け取る仕組みになっている。

出生後の変化

第一呼吸で肺が拡張すると肺血管抵抗が急低下して肺血流が増え、肺静脈から左心房への還流が増加する。臍帯の結紮で胎盤循環がなくなると体血管抵抗が上昇し、下大静脈への還流が減って右心房圧が低下する。その結果、卵円孔が機能的に閉鎖し、動脈管も血中酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下によって収縮・閉鎖する。

胎児の酸素運搬を支える仕組み

胎児の血中酸素分圧は成人よりはるかに低いが、胎児ヘモグロビン(HbF)は2,3-BPG(2,3-ビスホスホグリセリン酸)と結合しにくいため酸素親和性が高く(酸素解離曲線が左方移動)、さらに胎児はヘモグロビン濃度も高いことで、十分な酸素を組織に運べる。

POINT

・胎児のガス交換の場は胎盤であり、最も酸素分圧が高い血液は臍静脈を流れる。 ・臍静脈は動脈血を、臍動脈は静脈血を運ぶ(成人と逆)。 ・臍静脈 → 静脈管 → 下大静脈 → 右心房 → 卵円孔 → 左心系 → 上行大動脈 → 脳・心臓、という酸素の多い血液の流れを押さえる。 ・上大静脈 → 右心室 → 肺動脈 → 動脈管 → 下行大動脈は酸素の少ない流れである。 ・胎児の肺静脈血は肺でガス交換が行われないため酸素分圧が低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。