その症状は「どの機能」の障害か―もうろう状態から読み解く精神症候学の基本
第99回医師国家試験 D問題 第52問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。
- a.意識障害で幻覚は現れない。
- b.偽認知症は思考の障害で起こる。
- c.感情失禁はうつ病の特徴である。
- d.解離症状は見当識の障害で起こる。
- e.もうろう状態は意識の障害で起こる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
精神症状は、意識、知能、記憶、見当識、思考、感情、自我意識などの機能領域に分けて理解することが基本です。意識障害は、清明度が低下する意識混濁、意識の範囲が狭まる意識狭窄、意識混濁に幻覚や興奮が加わる意識変容に分類され、もうろう状態は意識狭窄の代表としててんかん発作後や病的酩酊、解離性障害などでみられます。せん妄のように意識障害に幻覚を伴うことはまれではなく、偽認知症はうつ病やGanser症候群でみられる見かけ上の知能障害、感情失禁は脳血管性認知症など器質性疾患の特徴、解離は意識や自我同一性の統合の障害と整理できます。特に高齢者の急な精神症状では、まずせん妄を疑う姿勢が重要です。用語を正しい機能領域に結びつけて理解することは、精神科の診察記録を読み書きし、症状の背景にある病態を見抜く力につながります。
解答・解説
正解はeです
本問は精神症候学(精神症状の記述と分類)の基本を問う問題である。精神症状は、意識・知能(認知)・記憶・見当識・思考・感情・意欲・自我意識・知覚などの領域に分けて整理され、ある症状が「どの精神機能の障害として位置づけられるか」を正しく対応づけることが求められる。 特に重要なのは意識障害の分類である。意識障害は大きく次の3つに分けられる。 ・意識混濁: 意識の清明度(明るさ)が全体的に低下するもの。傾眠、昏迷、昏睡などの段階がある。 ・意識狭窄: 意識の範囲(意識野)が狭くなるもの。代表がもうろう状態である。 ・意識変容: 軽度〜中等度の意識混濁に、幻覚・錯覚・興奮などの異常な精神活動が加わるもの。代表がせん妄である。 この枠組みで考えると、もうろう状態は意識障害の一型であり、せん妄のように意識障害に幻覚を伴うことはむしろよくある。また、感情失禁は器質性脳疾患、偽認知症は認知機能の「見かけ上の」障害、解離は意識・自我同一性の統合の障害として位置づけられる。各症状を正しい機能領域に結びつけられれば、正解はeと決まる。
選択肢考察
- ×a. 意識障害で幻覚は現れない。
意識障害でも幻覚は現れる。代表例がせん妄で、軽度〜中等度の意識混濁を背景に意識変容が生じ、錯覚、幻覚(特に幻視)、不安、精神運動興奮などがみられる。アルコール離脱せん妄(振戦せん妄)での小動物幻視は典型である。もうろう状態でも幻覚が出現しうる。したがって「現れない」という記述は誤りである。
- ×b. 偽認知症は思考の障害で起こる。
偽認知症(仮性認知症)とは、器質的な認知症がないにもかかわらず、記憶障害や見当識障害などの認知症のような症状(見かけ上の知能障害)を示す状態をいう。高齢者のうつ病や、拘禁反応でみられるGanser症候群(的外れ応答が特徴)などで生じ、背景にあるのは気分障害や心因である。精神症候学上は知能(認知機能)の障害として現れる症状であり、思考の障害(思路障害や妄想など)によって起こるものと定義されるわけではない。原因となる病態が改善すれば認知機能も回復する点が真の認知症との違いである。
- ×c. 感情失禁はうつ病の特徴である。
感情失禁(情動失禁)とは、わずかな刺激で泣いたり笑ったり怒ったりと、感情表出の制御ができなくなる状態で、脳血管性認知症や脳血管障害後、多発性脳梗塞など器質性脳疾患に特徴的である。うつ病の特徴は抑うつ気分、興味・喜びの喪失、思考制止、意欲低下、罪業感、希死念慮などであり、感情失禁ではない。
- ×d. 解離症状は見当識の障害で起こる。
解離とは、本来まとまっているはずの意識・記憶・自己同一性・知覚などの統合が失われる現象であり、意識および自我意識(自分が自分であるという感覚)の障害として位置づけられる。解離性健忘、解離性同一性障害、離人感・現実感消失などがその例である。見当識(時間・場所・人物を正しく把握する能力)の障害によって起こるものではない。
- ○e. もうろう状態は意識の障害で起こる。
もうろう状態は意識障害の一型で、意識の範囲が狭まる意識狭窄を主体とし、軽度の意識混濁を伴う。狭まった範囲内ではある程度まとまった行動がとれるため一見普通に振る舞うが、周囲の状況を全体として把握できず、不安、錯覚、幻覚、衝動的・突発的な行動がみられることがある。回復後には健忘を残すことが多い。てんかん(発作後もうろう状態など)、病的酩酊、解離性障害などでみられる。
意識障害の分類
・意識混濁(量的障害): 清明度の低下。軽い順に明識困難状態、昏蒙、傾眠、昏迷、半昏睡、昏睡。臨床ではJapan Coma Scale(JCS)やGlasgow Coma Scale(GCS)で評価する。 ・意識狭窄: 意識野の狭小化。もうろう状態が代表。 ・意識変容(質的障害): 意識混濁に異常体験が加わる。せん妄、アメンチア(軽い意識混濁に思考のまとまりのなさ・困惑が加わる状態)、夢幻状態など。
せん妄の特徴
急性に発症し、1日のうちで症状が変動(夜間に増悪しやすい)、注意障害、見当識障害、幻視・錯視、精神運動興奮または活動低下がみられる。高齢者、脳器質疾患、薬剤(抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系など)、感染、脱水、術後などが誘因となる。
うつ病性仮性認知症と認知症の鑑別
仮性認知症では、発症時期が比較的はっきりしている、本人が物忘れを強く訴える(自覚的訴えが目立つ)、質問に「わからない」と答えがちで努力しない、抑うつ気分が先行する、などの特徴がある。認知症(特にAlzheimer型)では、発症が緩徐で、本人は障害を否認・取り繕うことが多い。
感情の障害の用語
・感情失禁: 感情表出の調節障害(脳血管性認知症など) ・感情鈍麻: 感情の平板化(統合失調症の陰性症状など) ・両価性: 同一対象に相反する感情を同時に抱く(統合失調症) ・多幸: 根拠のない爽快感(前頭葉障害、進行麻痺など)
POINT
・意識障害は、意識混濁(清明度の低下)、意識狭窄(もうろう状態)、意識変容(せん妄など)に分けられる。 ・もうろう状態は意識障害であり、てんかん・病的酩酊・解離性障害などでみられる。 ・意識障害(せん妄)ではしばしば幻覚(特に幻視)を伴う。 ・感情失禁は脳血管性認知症など器質性疾患の特徴。 ・偽認知症はうつ病やGanser症候群でみられる見かけ上の知能障害。 ・解離は意識・自我意識(同一性)の統合の障害。
