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「優位側」が決める房室結節の血流―下壁梗塞で房室ブロックが起こる理由

第99回医師国家試験 D問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第36問

房室結節への血流供給をすることが多いのはどれか。

  1. a.右冠動脈
  2. b.左回旋枝
  3. c.中隔枝
  4. d.左前下行枝
  5. e.対角枝

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、刺激伝導系の房室結節がどの冠動脈から血流を受けているかを問う問題だ。ポイントは、房室結節が心臓のどこにあるかと、「冠動脈の優位性」という考え方。まず、房室結節の位置から確認しよう。
医学生医学生
右心房の下のほう、心房中隔の基部ですよね。右心房にあるので、右冠動脈から血流を受けると考えました。
ドクタードクター
結論は合っているけれど、理由はもう少し正確にしておきたい。房室結節はKochの三角の頂点付近、冠静脈洞の開口部の近くにある。ここを栄養する房室結節枝は、心臓の後面で房室間溝と後室間溝が交わる点、いわゆる心臓十字(crux)の付近から分岐するんだ。
医学生医学生
心臓十字というのは、解剖実習で心臓を裏返したときに見える交差点のことですね。
ドクタードクター
そう。そして大事なのは、この交差点まで到達して後下行枝を出す冠動脈を「優位側」と呼ぶこと。房室結節枝は優位側の冠動脈から出るんだ。
医学生医学生
優位側って、人によって違うんですか。
ドクタードクター
違うんだ。日本人を含め多くの人、およそ80〜90%は右冠動脈が後下行枝を出す右冠動脈優位型だ。だから房室結節は右冠動脈から血流を受けることが最も多い。これが正解の右冠動脈だね。
医学生医学生
では、左回旋枝が優位な人もいるということですね。
ドクタードクター
その通り。約10%前後は左冠動脈優位型で、その場合は回旋枝が後下行枝と房室結節枝を出す。だから回旋枝も房室結節を栄養することはあるけれど、少数派なので「多い」とは言えない。回旋枝は普段は左室の側壁から後壁を灌流している。
医学生医学生
中隔枝は心室中隔に入るので、房室結節に近い気がしてちょっと迷いました。
ドクタードクター
いい迷い方だね。中隔枝は主に左前下行枝から出て心室中隔の前方約2/3を灌流する。刺激伝導系でいえば、His束の一部や右脚、左脚前枝といった房室結節より下流の部分に血流を送っているんだ。房室結節そのものの主な栄養血管ではない。
医学生医学生
左前下行枝と対角枝はどうでしょう。循環器内科の実習でカテーテル室に入ったとき、LADとかD1とか呼ばれていました。
ドクタードクター
左前下行枝は前室間溝を下って左室前壁、心室中隔前方、心尖部を灌流する。対角枝はそこから左室前側壁へ斜めに出る枝で、刺激伝導系には関与しない。どちらも房室結節の主な血流源ではないよ。
医学生医学生
ここまでで、房室結節は優位側から、多くは右冠動脈から、と整理できました。これは臨床ではどう効いてくるんですか。
ドクタードクター
心筋梗塞と房室ブロックの関係でとても重要になる。右冠動脈が閉塞する下壁梗塞では、房室結節の虚血によって房室ブロックを合併しやすい。I度やWenckebach型のII度、ときに完全房室ブロックまで起こりうる。
医学生医学生
下壁梗塞で徐脈になっている患者さんにアトロピンを使う、と救急の講義で聞きました。
ドクタードクター
そうだね。下壁梗塞のブロックは房室結節レベルで、迷走神経の緊張も関わっているから、補充調律は幅の狭いQRSで心拍数も比較的保たれ、多くは一過性でアトロピンに反応しやすい。一方で前壁梗塞、つまり左前下行枝の閉塞で起こる房室ブロックはHis束以下のレベルで起こる。広範な梗塞を示唆し、補充調律はQRS幅が広くて高度の徐脈になりやすく、恒久的ペースメーカが必要になることも多い。予後が悪いんだ。
医学生医学生
同じ房室ブロックでも、どの冠動脈の梗塞かで重みがまるで違うんですね。
ドクタードクター
その通り。おまけに洞結節も確認しておこう。洞結節枝は右冠動脈から出ることが約55〜60%、回旋枝から出ることが約40%で、房室結節ほど右冠動脈に偏っていない。また左脚後枝は左前下行枝と後下行枝の二重支配で、虚血に強いとされる。こうした血流の知識が、心電図所見から責任血管を推定する力につながるよ。

まとめ

房室結節を栄養する房室結節枝は、心臓後面の心臓十字付近で後下行枝を出す「優位側」の冠動脈から分岐します。約80〜90%の人は右冠動脈優位型であるため、房室結節は右冠動脈から血流を受けることが最も多く、左冠動脈優位型の約10%前後では回旋枝が担います。中隔枝はHis束以下の伝導路、左前下行枝は前壁と中隔前方、対角枝は前側壁を灌流し、房室結節の主な血流源ではありません。臨床的には、右冠動脈閉塞による下壁梗塞では房室結節レベルの一過性の房室ブロックが多く、前壁梗塞ではHis束以下のブロックが起こりやすく重篤になりやすいという違いが重要です。刺激伝導系の血流支配を理解しておくことは、心筋梗塞に伴う不整脈の予測と対応に直結します。

解答・解説

正解はaです

本問は刺激伝導系の各部位がどの冠動脈から血流を受けているかを問う一般問題である。 房室結節(atrioventricular node:AV node)は右心房の下部、心房中隔の基部で冠静脈洞開口部の近く(Kochの三角の頂点付近)に位置する。この部位には、心臓の後面で左右の房室間溝と後室間溝が交わる点(crux cordis:心臓十字)付近から分岐する房室結節枝(房室結節動脈)が分布する。 房室結節枝はcruxに到達して後下行枝(posterior descending artery:PDA)を出す冠動脈、すなわち「優位(dominant)側」の冠動脈から分岐する。日本人を含め多くの人(およそ80〜90%)は右冠動脈優位型であるため、房室結節は右冠動脈から血流を受けることが最も多い。残りの約10%前後は左冠動脈回旋枝が優位で、この場合は回旋枝から房室結節枝が出る。 したがって「多いのはどれか」と問われれば右冠動脈が正解となる。臨床的には、右冠動脈の閉塞による下壁心筋梗塞で房室ブロックが起こりやすい理由として重要である。

選択肢考察

  1. ○a.  右冠動脈

    房室結節枝は心臓十字(crux)付近で優位側の冠動脈から分岐する。約80〜90%の人は右冠動脈が後下行枝を出す右冠動脈優位型であり、房室結節枝も右冠動脈から出る。このため右冠動脈の閉塞(下壁梗塞)では房室結節の虚血による房室ブロック(Ⅰ度、Wenckebach型Ⅱ度、完全房室ブロック)を合併しやすい。

  2. ×b.  左回旋枝

    左冠動脈主幹部から分かれて左房室間溝を走行し、左室側壁〜後壁(後側壁)を灌流する。左冠動脈優位型(約10%前後)では回旋枝が後下行枝と房室結節枝を出すため房室結節を栄養するが、少数派であり「多い」とはいえない。なお洞結節枝は約40%で回旋枝から出る。

  3. ×c.  中隔枝

    中隔枝(中隔穿通枝)は主に左前下行枝から分岐し、心室中隔の前方約2/3を灌流する。刺激伝導系ではHis束の一部や右脚・左脚前枝など、房室結節より下位(His束以下)の伝導路に血流を送るが、房室結節そのものの主な栄養血管ではない。

  4. ×d.  左前下行枝

    左冠動脈主幹部から前室間溝を下行し、左室前壁・心室中隔前方2/3・心尖部を灌流する。中隔枝を介して脚(特に右脚と左脚前枝)を栄養するため、前壁梗塞では脚ブロックやHis束以下の房室ブロック(MobitzⅡ型・補充調律の幅が広い完全房室ブロック)が生じることがあるが、房室結節への主な血流源ではない。

  5. ×e.  対角枝

    対角枝は左前下行枝から左室側壁方向へ斜めに分岐し、左室前側壁を灌流する。刺激伝導系への血流供給には関与しない。

冠動脈の主な灌流域

・右冠動脈(RCA):右房・右室、左室下壁(右冠動脈優位型の場合)、心室中隔後方1/3(後下行枝を介して)、洞結節(約55〜60%)、房室結節(約80〜90%) ・左前下行枝(LAD):左室前壁、心室中隔前方2/3、心尖部。分枝に中隔枝・対角枝 ・左回旋枝(LCX):左房、左室側壁〜後壁。分枝に鈍縁枝。洞結節(約40%)、左冠動脈優位型では下壁・房室結節

冠動脈の優位性(dominance)

後下行枝を出す冠動脈を優位側と呼ぶ。右冠動脈優位型が最も多く、左冠動脈優位型、両者が均等に分布するバランス型がそれに続く。房室結節枝は後下行枝の起始部付近から出るため、優位側の冠動脈から供給される。

梗塞部位と房室ブロック

・下壁梗塞(主に右冠動脈):房室結節レベルのブロック。迷走神経緊張の関与もあり、補充調律は幅の狭いQRSで心拍数も比較的保たれ、多くは一過性でアトロピンに反応しやすい。 ・前壁梗塞(左前下行枝):His束以下(脚レベル)のブロック。広範な梗塞を示唆し、補充調律はQRS幅が広く徐脈が高度で、恒久的ペースメーカが必要になりやすく予後不良である。

刺激伝導系の血流

・洞結節:洞結節枝(右冠動脈約55〜60%、回旋枝約40%) ・房室結節:房室結節枝(右冠動脈約80〜90%) ・His束:房室結節枝と左前下行枝中隔枝の二重支配 ・右脚・左脚前枝:主に左前下行枝の中隔枝 ・左脚後枝:左前下行枝と後下行枝の二重支配で虚血に強い

POINT

・房室結節枝は心臓十字付近で優位側の冠動脈から出る。右冠動脈優位型が多いため、房室結節は右冠動脈に栄養されることが多い(約80〜90%)。 ・右冠動脈閉塞(下壁梗塞)では房室結節レベルの房室ブロックを合併しやすく、多くは一過性。 ・前壁梗塞(左前下行枝)での房室ブロックはHis束以下で起こり、重篤で予後不良。 ・洞結節枝は右冠動脈約55〜60%、回旋枝約40%。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。