「できない」は異常か?―発達の物差しで見抜く機能訓練の適応
第99回医師国家試験 D問題 第116問
国試問題にチャレンジ
小児で機能訓練の適応となるのはどれか。
- a.1歳でひとり歩きができない。
- b.1歳半ではさみが使えない。
- c.2歳でボタンをかけることができない。
- d.3歳で夜尿がある。
- e.4歳で言葉の数が20以下である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の発達には個人差があり、ある年齢で「できない」ことがあっても、その能力を多くの子どもが獲得する時期を過ぎていなければ正常範囲と考えます。ひとり歩きは1歳6か月までに大部分が獲得し、はさみは3歳頃、ボタンかけは3〜4歳頃、夜尿症は5歳以上で定義されるため、1歳の歩行未獲得や1歳半のはさみ、2歳のボタンかけ、3歳の夜尿はいずれも年齢相応です。一方、二語文は2歳頃に出現し語彙は50語以上に達するため、4歳で20語以下は明らかな言語発達遅滞であり、言語聴覚士による言語訓練の適応となります。言葉の遅れでは、まず聴力検査で難聴を除外し、知的障害や自閉スペクトラム症などの原因検索を並行して行うことが重要です。発達の平均時期だけでなく「ここを過ぎたら遅れ」という上限を押さえることが、乳幼児健診や外来で適切に判断する力につながります。
解答・解説
正解はeです
テーマ
小児の発達には個人差があり、ある月齢で「できない」ことがあっても、それだけで異常とはいえない。機能訓練(理学療法・作業療法・言語聴覚療法などの療育)が必要かどうかは、その能力を多くの子ども(おおむね90%)が獲得している時期(通過率の上限)を過ぎても獲得できていないか、すなわち明らかな遅れがあるかで判断する。
考え方
各選択肢について、その能力の標準的な獲得時期と比較する。 ・ひとり歩き:多くは1歳〜1歳3か月頃に可能となり、1歳6か月までにほぼ全員が獲得する。1歳の時点で歩けないのは正常範囲内。 ・はさみの使用:3歳頃。1歳半では使えなくて当然である。 ・ボタンかけ:3〜4歳頃。2歳でできないのは正常。 ・夜尿:5歳頃までは生理的にみられることが多く、夜尿症として扱うのは5歳以降である。 ・言葉:1歳頃に意味のある単語(有意語)が出始め、2歳頃には語彙が増えて二語文を話す。4歳で語彙が20語以下というのは2歳にも満たない水準であり、明らかな言語発達遅滞である。 したがって機能訓練(言語療法)の適応となるのは「4歳で言葉の数が20以下」である。なお実際には、訓練の前に聴覚障害、知的障害、自閉スペクトラム症などの原因検索を行う。
選択肢考察
- ×a. 1歳でひとり歩きができない。
ひとり歩きは平均して1歳〜1歳3か月頃に可能となるが個人差が大きく、1歳の時点で歩けない子どもは珍しくない。多くの子どもが1歳6か月までに獲得するため、1歳6か月を過ぎても歩けない場合に運動発達遅滞として精査(脳性麻痺、筋疾患、知的障害などの検索)や機能訓練を検討する。1歳でつかまり立ちや伝い歩きができていれば経過観察でよい。
- ×b. 1歳半ではさみが使えない。
はさみで紙を切るといった両手の協調を要する微細運動は3歳頃に可能となる。1歳半の微細運動の目安は、積み木を2〜3個積む、なぐり書きをする、スプーンを使おうとする程度であり、はさみが使えないのは正常である。
- ×c. 2歳でボタンをかけることができない。
ボタンをかける動作は指先の細かい操作を必要とし、3〜4歳頃にできるようになる。2歳では靴や帽子を自分で脱ぐ、スプーンで食べるといった段階であり、ボタンをかけられないのは年齢相応である。
- ×d. 3歳で夜尿がある。
夜間の排尿のコントロールは膀胱容量の増大や夜間の抗利尿ホルモン分泌のリズムの成熟とともに確立し、昼間の排尿自立より遅れる。3歳での夜尿はごく普通にみられる生理的なものである。夜尿症は、5歳以上で月1回以上の夜尿が3か月以上続く場合と定義され、5歳でもおよそ1割強の子どもにみられる。年齢とともに自然に減少し、治療を行う場合も生活指導、アラーム療法、薬物療法(デスモプレシンなど)であって、機能訓練の対象ではない。
- ○e. 4歳で言葉の数が20以下である。
言語発達の目安は、1歳で意味のある単語(有意語)を1〜数語、1歳半で数語〜十数語程度、2歳で語彙が数十〜数百語となり二語文(「ママ、きた」など)を話し始める。二語文が出る頃には語彙はおよそ50語以上に達している。3歳では三語文や簡単な会話、4歳では日常会話がほぼ可能となり、経験したことを話せるようになる。4歳で語彙が20語以下というのは1歳半〜2歳前の水準で、2年以上の明らかな遅れであり、言語聴覚士による言語訓練(機能訓練)の適応となる。訓練と並行して、聴力検査による難聴の除外、知的障害や自閉スペクトラム症の評価、養育環境の確認などの原因検索を行うことが重要である。
主な発達のマイルストーン(目安)
粗大運動:首すわり3〜4か月、寝返り5〜6か月、おすわり7〜8か月、つかまり立ち9〜10か月、ひとり歩き1歳〜1歳3か月(1歳6か月までに大部分が獲得)、階段を一段ずつ足をそろえて昇る2歳頃、片足立ち3歳頃、スキップ5歳頃。 微細運動:物を握る4〜5か月、持ち替え6〜7か月、親指と人差し指でつまむ9〜10か月、積み木を積む・なぐり書き1歳半頃、円を描く3歳頃、はさみを使う3歳頃、ボタンをかける3〜4歳頃、四角形を描く4歳頃、三角形を描く5歳頃。 言語:喃語6か月頃、有意語1歳頃、二語文2歳頃、三語文・名前や年齢を言う3歳頃、経験を話す・日常会話4歳頃。 排泄:昼間の排尿自立は3歳頃、夜間の自立はそれより遅れ、5歳頃までに大部分が確立する。
発達評価の考え方
乳幼児健診(1歳6か月児健診、3歳児健診など)では、多くの子どもが獲得している時期を過ぎても未獲得の項目がないかを確認する。遠城寺式乳幼児分析的発達検査、DENVER II(デンバー発達判定法)などの検査が用いられる。
言語発達遅滞の原因
聴覚障害(難聴)、知的障害(知的発達症)、自閉スペクトラム症、発達性言語障害(特異的言語発達障害)、構音器官の異常、不適切な養育環境などがある。まず聴力評価で難聴を除外することが重要である。
POINT
・機能訓練の適応は「正常範囲を明らかに超えた発達の遅れ」があるかで判断する。 ・ひとり歩きは1歳6か月までに獲得、はさみは3歳頃、ボタンかけは3〜4歳頃。 ・夜尿症は5歳以上で定義され、3歳の夜尿は生理的。 ・二語文は2歳頃(語彙は約50語以上)。4歳で20語以下は明らかな言語発達遅滞で、言語訓練の適応となる。 ・言語発達の遅れではまず難聴を除外する。
