皮膚・腸・肝臓―ドナーT細胞が狙う「三大標的」で急性GVHDを読み解く
第99回医師国家試験 D問題 第110問
国試問題にチャレンジ
急性GVHDでみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.紅皮症
- b.下痢
- c.肝障害
- d.腎障害
- e.中枢神経障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性GVHDは、同種造血幹細胞移植などで移入されたドナーT細胞が患者の組織を攻撃する病態で、皮膚・消化管・肝臓が三大標的臓器です。皮膚では手掌・足底などの紅斑から紅皮症、消化管では陰窩上皮の傷害による大量の水様性下痢、肝臓では小葉間胆管の傷害による胆汁うっ滞型の肝障害(黄疸、胆道系酵素上昇)がみられ、重症度は皮疹面積・下痢量・ビリルビン値で評価します。一方、移植後の腎障害や中枢神経障害(PRESなど)は、GVHD予防に使うシクロスポリンやタクロリムスなどカルシニューリン阻害薬の副作用や血栓性微小血管症、感染症をまず考えます。治療の第一選択はステロイドで、輸血後GVHDは血液製剤への放射線照射で予防します。「病態そのものの症状」と「治療薬の副作用」を区別する視点は、移植医療に限らず臨床推論全般で役立ちます。
解答・解説
正解はa, b, cです
GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)は、同種造血幹細胞移植などで移入されたドナー由来のT細胞が、レシピエント(患者)の組織を「異物」と認識して攻撃する病態である。通常の拒絶反応とは攻撃の向きが逆で、移植片(ドナーの免疫細胞)が宿主(患者)を傷害する。 急性GVHDの標的臓器は、皮膚・消化管(腸管)・肝臓の3つが代表的であり、これが本問の核心である。これらの臓器には抗原提示を担う樹状細胞などが豊富で、さらに移植前処置(大量化学療法・全身放射線照射)で上皮が傷害されて炎症性サイトカインが放出されやすい。その結果、ドナーT細胞が活性化され、皮膚では皮疹〜紅皮症、腸管では下痢、肝臓では胆管上皮の傷害による黄疸・肝障害が生じる。 一方、腎障害や中枢神経障害は急性GVHDそのものの典型的な症状ではない。移植後にこれらがみられた場合は、GVHD予防に用いるカルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)の副作用や、移植関連血栓性微小血管症、感染症などをまず考える。この「GVHDの症状」と「GVHD治療・予防薬の副作用」を区別することが解答のポイントである。
選択肢考察
- ○a. 紅皮症
みられる。皮膚は急性GVHDで最も頻度が高く、初発症状となることが多い標的臓器である。典型的には生着前後から、手掌・足底、耳介、頸部などにそう痒や灼熱感を伴う紅斑・斑状丘疹が出現し、体幹へ広がる。重症化すると全身の紅皮症となり、さらに水疱形成や表皮剝離(中毒性表皮壊死症に似た像)に至る。皮膚病変の重症度は、皮疹の面積(体表面積の割合)で評価され、水疱・表皮剝離を伴う全身紅皮症が最重症(stage 4)である。
- ○b. 下痢
みられる。消化管も急性GVHDの主要な標的臓器であり、腸管上皮(陰窩の上皮細胞)がアポトーシスに陥ることで大量の水様性下痢が生じる。重症例では血性下痢となり、腹痛、悪心・嘔吐、食欲不振、麻痺性イレウスを伴うこともある。消化管病変の重症度は1日の下痢量で評価され、高度の腹痛やイレウスを伴うものが最重症である。上部消化管のGVHDでは持続する食欲不振・悪心が主症状となる。
- ○c. 肝障害
みられる。肝臓も急性GVHDの主要な標的臓器である。主に小葉間胆管の上皮が傷害されるため、胆汁うっ滞型の肝障害となり、血清ビリルビン値の上昇(黄疸)とALP・γ-GTPなど胆道系酵素の上昇が目立つ。肝病変の重症度は血清総ビリルビン値で評価される。移植後早期の肝障害には、肝中心静脈閉塞症/類洞閉塞症候群(VOD/SOS)、薬剤性肝障害、ウイルス性肝炎などもあり、鑑別が必要である。
- ×d. 腎障害
急性GVHDの典型的な症状ではない。移植後の腎障害は、GVHD予防に用いられるシクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬の副作用(腎血管収縮による腎機能低下)としてよく知られている。そのほか、移植関連血栓性微小血管症、抗菌薬・抗ウイルス薬による薬剤性腎障害、敗血症なども原因となる。
- ×e. 中枢神経障害
急性GVHDの典型的な症状ではない。移植後の中枢神経障害(けいれん、意識障害、視覚障害など)は、カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)の副作用として起こることが知られ、代表例が可逆性後頭葉白質脳症(PRES)である。副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)との併用時や小児例に起こりやすいとされる。そのほか、日和見感染(ヒトヘルペスウイルス6型脳炎など)や電解質異常も原因となる。
GVHDの発症機序
①移植前処置による組織傷害と炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1など)の放出 → ②レシピエントの抗原提示細胞がドナーT細胞を活性化 → ③活性化T細胞やサイトカインによる標的臓器の傷害、という3段階で説明される。HLA不一致が大きいほど起こりやすい。
急性GVHDと慢性GVHD
急性GVHD: かつては移植後100日以内に発症するものと定義されたが、現在は時期ではなく臨床像で区別する(NIH基準)。皮膚(斑状丘疹〜紅皮症)、消化管(下痢)、肝臓(胆汁うっ滞性肝障害)が三大標的。 慢性GVHD: 自己免疫疾患に似た多彩な症状を示す。皮膚硬化(強皮症様)、扁平苔癬様皮疹、口腔・眼の乾燥(シェーグレン症候群様)、閉塞性細気管支炎、関節拘縮、筋膜炎など。
重症度評価
皮膚(皮疹の面積)、肝(血清総ビリルビン値)、消化管(下痢量)の3臓器それぞれをstage 0〜4で評価し、その組み合わせで全体のgrade(I〜IV)を決める。
予防と治療
予防: カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)+短期メトトレキサートが代表的。移植後シクロホスファミドや抗胸腺細胞グロブリンが用いられることもある。 治療: 第一選択は全身性副腎皮質ステロイド。ステロイド抵抗性ではJAK阻害薬(ルキソリチニブ)などが用いられる。
輸血後GVHD
輸血製剤中のドナーリンパ球が患者組織を攻撃する病態で、発熱・紅斑・下痢・肝障害に加え、骨髄無形成による汎血球減少をきたし、致死率はきわめて高い。血液製剤への放射線照射で予防する。
GVL効果
ドナーT細胞は残存白血病細胞も攻撃する(移植片対白血病効果:GVL効果)。適度なGVHDは再発率低下と関連する。
POINT
・急性GVHDの三大標的臓器は皮膚・消化管・肝臓 → 皮疹〜紅皮症、下痢、胆汁うっ滞性肝障害(黄疸) ・重症度は皮疹面積・下痢量・ビリルビン値で評価 ・腎障害・中枢神経障害(PRESなど)は主にカルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス)の副作用として考える ・治療の第一選択はステロイド、輸血後GVHDの予防は血液製剤への放射線照射
