「量やカロリーが大切なんですかね」―何気ない一言に芽生えた治療への関心を聴き取る
第99回医師国家試験 C問題 第30問
国試問題にチャレンジ
53歳の男性。健康診断で耐糖能異常を指摘され,内科外来を受診した。糖尿病に対する知識と簡単な食事指導とを受けた。身長176 cm,体重88 kg。2回目の受診時の医療面接でのやり取りを示す。 医師 「この1か月,いかがでしたか」 患者 「あまり変わったことはないです」 医師 「食事や体重,身の回りのことで,小さな変化でもありませんか」 患者 「毎日暑くてね」 医師 「そうですね,残暑がきびしいですね」 患者① 「そうです。私は水を飲んでも太る体質ですし,この時期はちょっと」 医師 「じゃあ,体重にも変化はないですか」 患者② 「標準体重より大分重いですが,困ったことはないです」 医師 「なにか工夫をされているのですか」 患者③ 「ないですね,食事を減らすと元気が出ないでしょう」 医師 「そうですか。食事について考えることはありますか」 患者④ 「年齢や糖尿病ということからは,好みより量やカロリーが大切なんですかね」 医師 「食事量は多いのですか」 患者⑤ 「そんなに多くはないですよ」 この患者の会話①〜⑤で治療への関心が生まれつつあると考えられるのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
生活習慣病の患者指導では、行動変容ステージモデル(無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期)に沿って、患者がどの段階にいるかを見極めることが重要です。原因を体質や季節のせいにする、困っていないと言う、食事制限への抵抗を示す、摂取量の多さを否定するといった発言は、問題を自分ごととして捉えていない無関心期のサインです。一方、自分の病気と食生活を結びつけて「量やカロリーが大切なのか」と問いかける発言は、関心期へ移りつつある兆しであり、動機づけ面接でいうチェンジトークにあたります。医師はこうした発言を見逃さず肯定的に受け止め、段階に応じた情報提供や達成可能な目標設定へとつなげることが求められます。患者の言葉から心の段階を読み取る力は、糖尿病や肥満に限らずあらゆる生活習慣病の診療の基盤になります。
解答・解説
正解はdです
患者背景の整理
・53歳男性。健康診断で耐糖能異常(血糖値が正常より高いが糖尿病の基準には至らない、あるいは糖尿病の初期段階)を指摘され、初回受診で糖尿病の知識と簡単な食事指導を受けた。 ・身長176 cm、体重88 kg。BMI(body mass index:体重kg÷身長mの2乗)は 88÷(1.76×1.76)=88÷3.10≒28.4 で、日本肥満学会の基準(BMI 25以上)で肥満(1度)にあたる。標準体重(BMI 22となる体重)は 22×3.10≒68 kg であり、約20 kg上回っている。 ・耐糖能異常と肥満があり、食事療法・運動療法による減量が治療の中心となる状況である。
設問の考え方
生活習慣の改善を必要とする患者では、本人が「変わろう」とする気持ちがどの段階にあるかを見極め、その段階に合った働きかけをすることが重要である。これを整理したのが行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)で、無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期と進む。 本例の会話では、患者①〜③および⑤は、体質や季節のせいにしたり、困っていないと述べたり、食事量が多いことを否定したりしており、問題を自分のこととして受け止めていない(無関心期に相当する)。一方④では、初回に受けた指導内容を自分なりに解釈し、「量やカロリーが大切なのか」と医師に問いかけている。これは自分の病気と食事とを結びつけて考え始めたことを示し、治療への関心が芽生えつつある(関心期へ移行しつつある)発言と読み取れる。 医師はこの発言を見逃さず、肯定的に受け止めたうえで具体的な情報提供や目標設定へと話を進めるのが望ましい。
選択肢考察
- ×a. ①
「水を飲んでも太る体質」「この時期はちょっと」という発言は、体重増加の原因を体質や季節(暑さ)といった自分では変えられない要因に求めるものである。自分の食生活や活動量を振り返る姿勢はみられず、行動を変える必要性を認めていない。治療への関心を示すものとはいえない。
- ×b. ②
標準体重より重いことは自覚しているが、「困ったことはない」と述べており、肥満を解決すべき問題として受け止めていない。自覚症状の乏しい耐糖能異常や肥満でよくみられる病識の乏しさを示す発言であり、減量や治療への意欲はうかがえない。
- ×c. ③
工夫は「ない」と答え、さらに「食事を減らすと元気が出ない」と食事制限をしない理由を挙げている。食事療法に対する抵抗感を表す発言であり、治療への関心が生まれているとはいえない。
- ○d. ④
「年齢や糖尿病ということからは」と自分の年齢や病気を前提に置き、「好みより量やカロリーが大切なんですかね」と、前回の食事指導の内容を自分なりに咀嚼して医師に確認を求めている。自分の病気と食事との関係を主体的に考え始めたことを示しており、会話①〜⑤の中で唯一、治療への関心が生まれつつあると判断できる発言である。行動変容ステージでいえば無関心期から関心期へ移りつつある段階と考えられ、医師はこの問いかけをきっかけに具体的な食事療法の説明へつなげるとよい。
- ×e. ⑤
食事量が多いかという医師の問いに対し、「そんなに多くはない」と否定している。標準体重を約20 kg上回る肥満があることを考えると、自分の摂取量を過小に評価している可能性があり、食事を見直そうとする姿勢はみられない。④で芽生えかけた関心がまだ行動の見直しにまでは結びついていないことを示す発言でもある。
行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)
Prochaskaらが提唱した、健康行動の変化を段階的にとらえるモデルである。 ・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変える気がない。問題を認識していない、または否認している。 ・関心期(熟考期):6か月以内に行動を変えようと考えているが、まだ実行していない。 ・準備期:1か月以内に行動を変える意思があり、何らかの小さな取り組みを始めている。 ・実行期:行動を変えて6か月未満。 ・維持期:行動の変化が6か月以上続いている。 ステージごとに有効な働きかけが異なる。無関心期には問題への気づきを促す情報提供や、本人の気持ちへの共感が中心となり、関心期には変化の利点と不利益を一緒に整理して動機を強める。準備期以降は具体的で達成可能な目標設定、自己モニタリング(体重・食事記録など)、成功体験への称賛が有効である。
動機づけ面接
患者自身の中にある「変わりたい気持ち」と「変わりたくない気持ち」の両価性に焦点を当て、開かれた質問・是認・聞き返し・要約などの技法を用いて、患者自らが変化の理由を語るよう導く面接法である。患者が変化に向けた発言(チェンジトーク)をしたときに、それを捉えて強化することが重要とされる。本例の④はまさにそうした発言にあたる。
肥満と2型糖尿病の食事療法
・肥満の判定:BMI 25以上。標準体重(目標体重)はBMI 22をもとに算出されることが多い。 ・2型糖尿病や耐糖能異常では、エネルギー摂取量の適正化による減量が血糖改善に有効である。まず現体重の3%程度の減量を目安とするなど、達成可能な目標から始めることが勧められる。
POINT
・生活習慣病の患者指導では、行動変容ステージ(無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期)を見極め、段階に応じて働きかける。 ・原因を体質や環境のせいにする、困っていないと言う、問題を否定する発言は無関心期のサイン。 ・自分の病気と生活習慣を結びつけて質問・確認する発言は関心の芽生えであり、そこを捉えて具体的な支援へつなげる。 ・BMI=体重(kg)÷身長(m)の2乗。25以上が肥満。
