StudyMed医師国家試験

「最新」も「医師の発信」も根拠にならない?―胆管炎の方針決定で頼るべき情報源

第120回医師国家試験 B問題 第50問(連問)

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第50問

連問の共通文

次の文を読み,49,50の問いに答えよ。 50歳の女性。腹痛と発熱とを主訴に来院した。 現病歴:昨夜,①夕食後しばらくしてから右上腹部に痛みを感じ,悪寒戦慄を伴う発熱が出現した。市販のアセトアミノフェンを服用したが改善せず,②朝になっても痛みと発熱が続くため受診した。③右肩への痛みの広がりは認めない。 既往歴:40歳時に胆石症と指摘されていたが,④胆石発作歴はない。⑤インフルエンザワクチンは毎年接種しており,新型コロナウイルスワクチンの最終接種は1年前である。 生活歴:夫と2人暮らし。専業主婦。喫煙歴はない。飲酒は機会飲酒。 家族歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。身長162cm,体重58kg。体温37.2℃。脈拍72/分,整。血圧120/64mmHg。呼吸数12/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜に貧血を認めない。眼球結膜に軽度黄染を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,右上腹部に圧痛を認める。四肢に異常を認めない。 検査所見:血液所見:赤血球410万,Hb 12.8g/dL,Ht 39%,白血球15,200,血小板21万。血液生化学所見:総蛋白6.5g/dL,アルブミン3.2g/dL,総ビリルビン3.2mg/dL,AST 98U/L,ALT 120U/L,LD 180U/L(基準124~222),ALP 360U/L(基準38~113),γ-GT 240 U/L(基準9~32),尿素窒素14mg/dL,クレアチニン0.7mg/dL,Na 135mEq/L,K 3.4 mEq/L,Cl 101mEq/L。CRP 7.8mg/dL。

この患者の今後の方針を担当医が判断するために最も適切な情報源はどれか。

  1. a.診療ガイドライン
  2. b.他の患者の体験記
  3. c.研究会での症例報告
  4. d.最新の単施設研究の論文
  5. e.医師が発信するソーシャル・メディア

対話形式の解説

ドクタードクター
前の問題に続いて同じ患者さんだけれど、今回問われているのは病気そのものではなく、方針を決めるときに何を根拠にするか、つまりEBMの考え方だ。並んでいる情報源の信頼性を比べることが着眼点だよ。まず、この患者さんの状態をひとことで言うと?
医学生医学生
Charcot 3徴がそろっていて、胆石の既往もあるので、総胆管結石による急性胆管炎が疑われる状態です。
ドクタードクター
そうだね。これから画像で胆管拡張や結石を確認し、重症度を評価して、抗菌薬や胆道ドレナージの要否と時期を決めていくことになる。その判断の拠り所として、どの情報源が最も適切だと思う?
医学生医学生
正直、最新の論文がいちばん正しいのかなと思いました。医学はどんどん新しくなると言われますし。
ドクタードクター
そう考える人は多いんだ。でも「新しい」ことと「信頼できる」ことは別の話なんだよ。単施設研究は症例数が限られやすく、その施設の患者層や診療体制に特有の偏り、たとえば選択バイアスを含みうる。だから結果を目の前の患者さんにそのまま当てはめられるとは限らない。査読を経た論文なら一定の信頼性はあるけれど、一本の論文だけで方針を決めるのは危ういね。
医学生医学生
公衆衛生学の講義でエビデンスレベルのピラミッドを習いました。一番上がメタアナリシスやシステマティックレビューでしたよね。
ドクタードクター
その通り。治療効果については一般に、RCTのシステマティックレビュー・メタアナリシス、個々のRCT、非ランダム化比較試験、コホート研究や症例対照研究、症例報告やケースシリーズ、そして専門家個人の意見、の順に信頼性が下がると整理される。では研究会での症例報告はどこに位置づけられる?
医学生医学生
1例か少数例の記述研究なので、かなり下のほうですね。
ドクタードクター
そう。症例報告は比較対照群をもたないから、ある治療が有効かどうかを一般化できない。まれな病気や新しい副作用を見つけるきっかけとしては価値があるけれど、急性胆管炎のようによく知られた疾患の方針決定には向かない。研究会の発表は査読を経ていないことも多いしね。
医学生医学生
医師が発信しているSNSなら、専門家の意見なので参考にしてもよさそうな気もします。
ドクタードクター
気持ちはわかるけれど、エビデンスの階層では専門家の意見は最も下位なんだ。さらにSNSの情報は、根拠となるデータや解釈の妥当性が第三者に検証されていない。発信者が医師であることは、内容の正確さを保証しないんだよ。
医学生医学生
他の患者さんの体験記はもっと根拠としては弱いですね。病状も背景も違うはずですし。
ドクタードクター
その通り。体験記はひとりの主観的な経験で、比較対照もなく正確性の検証もない。患者さんの気持ちを理解したり、患者同士の支え合いに役立ったりすることはあるけれど、担当医が治療方針を決める根拠にはならない。
医学生医学生
となると、診療ガイドラインが正解ですね。臨床実習の消化器内科でも、指導医の先生がTokyo Guidelinesを開いて重症度を確認していました。
ドクタードクター
正解。診療ガイドラインは、臨床上の疑問であるクリニカルクエスチョンごとに文献を系統的に集めて評価し、益と害のバランスや患者さんの価値観も踏まえて、専門家集団が推奨をまとめたものだ。多数の研究を統合し、合議や外部評価を経ているから、単一の研究や個人の経験よりも偏りが小さい。急性胆管炎ならTokyo Guidelines 2018に、診断基準、重症度判定、重症度に応じた抗菌薬やドレナージの方針が整理されている。
医学生医学生
ガイドラインに書いてあることには、必ず従わないといけないんでしょうか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。ガイドラインは医師の判断を縛る規則ではなく、標準的な患者を想定した推奨なんだ。高齢で合併症が多い、本人が特定の治療を望まない、施設で実施できる手技が限られる、といった事情があれば、ガイドラインと異なる判断をすることもありうる。それに医学の進歩に合わせて改訂されるから、最新版を参照することも忘れないでほしい。
医学生医学生
EBMはエビデンスだけで決めるのではなくて、患者さんの希望や臨床の状況と組み合わせて判断する、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれがEBMの本質だ。手順としては、まず患者さんの問題をPICO、つまり患者、介入、比較対照、結果の形で定式化し、情報を検索し、批判的に吟味し、患者さんへの適用を検討し、最後にその過程を振り返る。この5つのステップは覚えておこう。日本ではMindsがガイドラインの作成支援や公開を担っているから、実習中に一度のぞいてみるといいよ。

まとめ

患者の方針を決める際には、エビデンスレベルが高く偏りの少ない情報源を優先して用いるのがEBMの基本であり、その代表が診療ガイドラインです。診療ガイドラインはクリニカルクエスチョンごとにシステマティックレビューを行い、益と害のバランスや患者の価値観を踏まえて推奨を示したもので、急性胆管炎ではTokyo Guidelines 2018が診断・重症度判定・治療方針を整理しています。最新の単施設研究は症例数や施設特有のバイアスの問題から一般化に限界があり、症例報告は比較対照をもたない記述研究、医師のSNSや患者の体験記は検証を経ておらずエビデンスとしての価値はほとんどありません。ただしガイドラインは標準的な推奨であり、個々の患者の状態や希望、臨床状況と統合して適用することが求められます。情報源の信頼性を見極める力は、膨大な医療情報があふれる現代の臨床で正しい判断を下すための土台になります。

解答・解説

正解はaです

症例の整理

胆石症の既往がある50歳の女性が、夕食後からの右上腹部痛と悪寒戦慄を伴う発熱で受診した。眼球結膜の黄染(黄疸)、右上腹部圧痛があり、血液検査では白血球15,200/μL、CRP 7.8mg/dLと炎症反応が高く、総ビリルビン3.2mg/dL、ALP・γ-GTの著明な上昇とAST・ALTの上昇を認める。右上腹部痛・発熱・黄疸のCharcot(シャルコー)3徴がそろい、総胆管結石による急性胆管炎が最も疑われる。今後は画像検査で胆管拡張や結石を確認し、重症度を評価したうえで、抗菌薬投与や胆道ドレナージの要否・時期を決めることになる。

設問の考え方

本問は疾患そのものではなく、根拠に基づく医療(EBM:evidence-based medicine)の考え方を問うている。目の前の患者の方針を決めるときには、信頼性(エビデンスレベル)が高く、偏りの少ない情報を優先して用いるべきである。一般に、ランダム化比較試験(RCT)やそれらを統合したシステマティックレビュー・メタアナリシスは信頼性が高く、症例報告や専門家個人の意見は信頼性が低い。個人の体験談や、検証を経ていないSNS上の発信はエビデンスとしての価値はほとんどない。 診療ガイドラインは、臨床上の重要な疑問(クリニカルクエスチョン:CQ)ごとに文献を系統的に収集・評価(システマティックレビュー)し、益と害のバランスや患者の価値観も踏まえて、専門家集団が推奨を作成したものである。急性胆管炎については、診断基準・重症度判定・重症度別の治療指針を示した国際的なガイドライン(Tokyo Guidelines 2018)があり、担当医が方針を判断する情報源として最も適切である。ただし、ガイドラインは標準的な患者を想定した推奨であり、個々の患者の状態・希望や施設の条件を考慮して適用する必要がある点も押さえておきたい。

選択肢考察

  1. ○a.  診療ガイドライン

    診療ガイドラインは、CQごとにシステマティックレビューを行ってエビデンスの質を評価し、その結果に益と害のバランスなどを加味して推奨を示した文書である。多数の研究を統合し、多職種・多施設の専門家による合議と外部評価を経ているため、単一の研究や個人の経験に比べてバイアスが小さく信頼性が高い。急性胆管炎では重症度に応じた治療方針(抗菌薬、胆道ドレナージの時期など)がガイドラインで整理されており、この患者の方針決定に最も適した情報源である。

  2. ×b.  他の患者の体験記

    他の患者の体験記は、ひとりの患者の主観的な経験を記したものである。病状や背景が本患者と同じとは限らず、比較対照もなく、記載内容の正確性も検証されていない。患者の心理面を理解したり、患者同士の支え合いに役立つことはあるが、医学的なエビデンスとはいえず、担当医が治療方針を決める根拠にはならない。

  3. ×c.  研究会での症例報告

    症例報告は、1例あるいは少数例の経過を記述した研究(記述研究)であり、比較対照群をもたない。まれな疾患や新しい副作用の発見には価値があるが、ある治療が有効かどうかを一般化して判断することはできず、エビデンスレベルは低い。また研究会での発表は論文としての査読を経ていないことも多い。よく知られた疾患である急性胆管炎の方針決定に用いる情報源としては適切でない。

  4. ×d.  最新の単施設研究の論文

    最新の研究であること自体は、信頼性が高いことを意味しない。単施設研究は症例数が限られやすく、患者層や診療体制など施設特有の条件による偏り(選択バイアスなど)を含みうるため、結果を他の患者にそのまま一般化できるとは限らない。査読を経た論文であれば一定の信頼性はあるが、複数の研究を系統的に評価して作られたガイドラインには及ばない。単一の論文だけで方針を決めるのは不適切である。

  5. ×e.  医師が発信するソーシャル・メディア

    医師による発信であっても、ソーシャル・メディア上の情報は個人の意見や経験にとどまることが多く、根拠となるデータの有無や解釈の妥当性が第三者によって検証されていない。エビデンスの階層では「専門家の意見」は最も下位に位置づけられ、SNSではさらに情報の正確性の担保がない。方針を判断するための情報源として適切でない。

エビデンスレベルの階層(治療効果に関する一般的な序列)

高い 1.ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビュー・メタアナリシス 2.1つ以上のRCT 3.非ランダム化比較試験 4.分析疫学的研究(コホート研究、症例対照研究) 5.記述研究(症例報告、ケースシリーズ) 6.患者データに基づかない専門委員会や専門家個人の意見 低い 研究デザインだけでなく、研究の質(バイアスのリスク、結果の一貫性、精確さなど)によってもエビデンスの確実性は変わる。GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムでは、エビデンスの確実性を「高・中・低・非常に低」の4段階で評価し、推奨の強さ(強い推奨・弱い推奨)と分けて示す。

EBMの5つのステップ

1.患者の問題を定式化する(PICO:Patient 患者、Intervention 介入、Comparison 比較対照、Outcome 結果) 2.情報を検索する 3.得られた情報を批判的に吟味する 4.患者への適用を検討する(エビデンス、患者の価値観・希望、臨床状況、医師の専門性を統合する) 5.一連の過程を評価する EBMは「エビデンスだけで決める」ことではなく、エビデンスを患者の意向や臨床の状況と統合して判断することである。

診療ガイドラインの特徴と注意点

・CQに対しシステマティックレビューを行い、エビデンスの確実性と益・害のバランスに基づいて推奨を示す。 ・日本ではMinds(医療情報サービス)がガイドライン作成の手引きや公開を担っている。 ・ガイドラインは医師の裁量を縛る規則ではなく、標準的な推奨である。個々の患者の状態や希望に応じて、ガイドラインと異なる判断をすることもありうる。 ・医学の進歩に合わせて定期的に改訂されるため、最新版を参照する。

急性胆管炎とガイドライン

急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインとしてTokyo Guidelines(最新はTG18)があり、診断基準、重症度判定(Grade Ⅰ~Ⅲ)、重症度に応じた治療(抗菌薬、胆道ドレナージの適応と時期など)が示されている。

POINT

・患者の方針決定には、信頼性の高い情報源を用いる。第一に参照すべきは診療ガイドラインである。 ・診療ガイドラインは、CQごとのシステマティックレビューに基づき推奨を示したものである。 ・エビデンスレベル:メタアナリシス・システマティックレビュー>RCT>非ランダム化比較試験>コホート・症例対照研究>症例報告・ケースシリーズ>専門家の意見。 ・「最新」「医師の発信」であることは信頼性の保証にならない。単施設研究は症例数や施設特有のバイアスに注意する。 ・患者の体験記やSNSはエビデンスとしての価値がほとんどない。 ・ガイドラインを適用する際は、個々の患者の状態と希望を考慮する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。