StudyMed医師国家試験

介護に疲れた妻を救うのは何か―退院後の在宅療養に「入院の工程表」は要らない

第99回医師国家試験 C問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第99回 C問題 第28問

71歳の男性。リハビリテーション施設退院後の診療を依頼された。3か月前,隣町に外出した時に脳卒中を発症し,右片麻痺となり入院治療を受けた。自宅の受け入れ準備がないまま,2週前に急に退院となり自宅で療養している。意識は清明であるが,入浴や排泄などの日常生活動作〈ADL〉に介助が必要である。65歳の妻が一人で介護をしていたが,体力と気力とに限界を感じている。 この患者の療養に必要性の少ないのはどれか。

  1. a.短期入院先を紹介する。
  2. b.クリニカルパスを作成する。
  3. c.ケアマネジャーを紹介する。
  4. d.訪問介護ステーションを紹介する。
  5. e.福祉用具を借りられるよう援助する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳卒中の後に準備が整わないまま退院した患者さんの在宅療養を、どう支えるかという問題だ。医学的な急性期治療はもう終わっていて、課題は「介助が必要な高齢者が自宅で安全に暮らし続けるには」と「一人で介護する妻の負担をどう減らすか」の2つ。設問は必要性の少ないものを選ぶ形式だから、そこにも注意しよう。
医学生医学生
意識は清明でも、入浴や排泄に介助が必要なんですね。奥さんも高齢なので、かなり大変そうです。
ドクタードクター
そうなんだ。介護者が倒れてしまうと在宅生活そのものが成り立たなくなる。だから本人へのサービスと同時に、介護者を休ませる手立てが欠かせない。まずは制度の土台から確認しよう。71歳だと、介護保険ではどういう位置づけになるかな。
医学生医学生
65歳以上なので第1号被保険者です。公衆衛生の講義で、原因を問わず要介護認定を受ければサービスを使えると習いました。
ドクタードクター
正解。40〜64歳の第2号被保険者だと、脳血管疾患などの特定疾病が原因の場合に限られるけれど、この患者さんは年齢的にその制限もない。市町村に申請して、訪問調査と主治医意見書をもとに介護認定審査会で要介護度が決まる。その後の窓口になるのは誰だろう。
医学生医学生
ケアマネジャーですね。ケアプランを作ってくれる人だと思います。
ドクタードクター
そう、介護支援専門員だ。申請の手続きを手伝い、本人と家族の状態や希望を評価して、どのサービスをどう組み合わせるかを一元的に調整してくれる。奥さんが一人で抱え込んでいる今の状況では、まずケアマネジャーにつなぐことが在宅支援の出発点になるよ。
医学生医学生
訪問介護も必要ですよね。入浴や排泄をヘルパーさんが手伝ってくれれば、奥さんの負担がかなり減りそうです。
ドクタードクター
その通り。訪問介護ではホームヘルパーが身体介護や生活援助を担う。ちなみに、看護師が訪問して病状観察や医療処置をするのは訪問看護ステーションで、ヘルパーを派遣する訪問介護事業所とは別物だ。どちらも在宅療養を支える大事なサービスで、状況に応じて両方使うことも考えられる。
医学生医学生
福祉用具はどうでしょう。片麻痺だと車椅子や手すりがあると助かりそうです。
ドクタードクター
大いに必要だね。介護保険では車椅子、介護ベッド、手すり、スロープ、歩行器などを1〜3割の自己負担で借りられる。ポータブルトイレや入浴用いすのように貸し借りになじまない物は購入費が支給されるし、手すりの設置や段差解消の住宅改修費も出る。移乗や排泄がしやすくなれば、本人の自立度も上がって介護者も楽になるんだ。
医学生医学生
短期入院先を紹介するのは、せっかく退院したのに逆戻りのような気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
そう感じるのは無理もないけれど、これも必要性が高いんだ。いわゆるレスパイト入院やショートステイで、介護者がまとまった休息をとれる。しかもその間に、福祉用具の準備やサービスの調整など、受け入れ体制を整えられる。準備不足のまま退院したこの事例にはぴったりの手段だよ。
医学生医学生
となると、必要性が少ないのはクリニカルパスですね。でも脳卒中のパスって病院実習で見た気がします。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。クリニカルパスは、特定の疾患や手術で入院する患者について、入院から退院までの検査・処置・リハビリ・説明などを日ごとに並べた診療計画表だ。医療の標準化や在院日数の短縮、チームの情報共有に役立つけれど、基本は定型的な経過をたどる入院診療、とくに急性期で使う道具なんだ。
医学生医学生
脳神経内科を回ったとき、急性期病院から回復期リハビリ病院へつなぐ地域連携パスというのも見ました。
ドクタードクター
脳卒中や大腿骨頸部骨折では、急性期から回復期、かかりつけ医へと複数の医療機関が共通の計画を共有する地域連携クリニカルパスがあるね。ただ、これは転院や退院の際に医療機関同士で使うもので、自宅での介護負担というこの患者さんの課題を直接解決するものではない。だから今の場面で作成する必要性は少ないんだ。
医学生医学生
医療の工程を管理する道具と、生活を支えるサービスを区別して考えるということですね。
ドクタードクター
その通り。退院後の在宅療養で問われるのは、ケアマネジャーを窓口にした介護保険サービスの導入と、介護者のレスパイトの確保だ。臨床で覚えておきたいのは、介護者の疲弊を放置すると燃え尽きや虐待につながりかねないということ。デイサービスやショートステイを計画的に組み込んで、介護者が休める仕組みを最初から作っておくことが、長く在宅生活を続ける秘訣なんだ。
医学生医学生
患者さんだけでなく、家族の状態にも目を配るのが在宅医療の主治医の役割なんですね。
ドクタードクター
まさにそう。主治医意見書を書くのも医師の大切な仕事だから、生活の視点で患者さんを見る力をぜひ身につけてほしい。

まとめ

脳卒中後に要介護状態となって在宅療養に移った高齢者では、ケアマネジャーを窓口に介護保険サービスを導入し、訪問介護や訪問看護、福祉用具の貸与、住宅改修などで生活を支えることが基本です。介護者が疲弊している場合は、短期入院(レスパイト入院)やショートステイで休息を確保し、その間に受け入れ体制を整えることも重要です。一方、クリニカルパスは入院から退院までの検査・処置などを時系列で示す入院診療の計画表であり、地域連携パスも医療機関間で共有するものなので、在宅での介護負担という課題には直結せず、必要性は低いといえます。65歳以上は原因を問わず介護保険の第1号被保険者となる点もあわせて押さえ、医療の工程管理と生活支援のサービスを区別して考えることが、在宅医療や地域包括ケアを理解する土台になります。

解答・解説

正解はbです

状況の整理

・71歳男性。3か月前に脳卒中を発症し、右片麻痺が残った。 ・入院・リハビリテーション後、自宅の受け入れ準備が整わないまま2週前に退院し、在宅療養中である。 ・意識は清明だが、入浴・排泄などの日常生活動作(ADL:activities of daily living、食事・排泄・入浴・更衣・移動など日常の基本動作)に介助を要する。 ・介護者は65歳の妻ひとりで、体力的にも精神的にも限界に近い(介護負担・介護疲れの状態)。

何が問題か

本例は、医学的な急性期治療はすでに終わっており、課題は「要介護状態の高齢者が在宅生活をどう安全に続けるか」と「介護者の負担をどう軽くするか」である。したがって必要なのは、介護保険を中心とする在宅支援サービスの導入(ケアプラン作成、訪問系サービス、福祉用具)と、介護者の休息(レスパイト)を確保する手段である。

考え方

71歳であり、介護保険の第1号被保険者(65歳以上)にあたるため、要介護認定を受ければ原因疾患を問わず介護保険サービスを利用できる。ケアマネジャーを窓口として、訪問介護・訪問看護・通所サービス・短期入所・福祉用具貸与などを組み合わせ、在宅療養の体制を整えるのが基本方針である。一方、選択肢のうち「クリニカルパス」は入院診療の工程管理の道具であり、在宅療養中の本例の支援とは結びつかない。設問は「必要性の少ないもの」を問うているので、これを選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  短期入院先を紹介する。

    必要性がある。自宅の受け入れ準備が不十分なまま退院しており、唯一の介護者である妻は疲弊している。このまま在宅介護を続ければ介護者が倒れ、在宅生活そのものが破綻するおそれがある。一時的に入院(いわゆるレスパイト入院)や短期入所(ショートステイ)を利用すれば、介護者が休息をとれるとともに、その間に住宅改修や福祉用具の準備、サービス調整などの受け入れ体制を整えることができる。

  2. ○b.  クリニカルパスを作成する。

    必要性が少ない(正解)。クリニカルパス(クリティカルパス)とは、特定の疾患や手術で入院する患者について、入院から退院までに行う検査・処置・投薬・リハビリテーション・患者指導などを日ごとに時系列で一覧化した診療計画表である。医療の標準化、在院日数の短縮、チーム内の情報共有、患者への説明などに役立つが、基本的には定型的な経過をたどる入院診療(主に急性期)で用いられる。本例はすでに退院して在宅療養中であり、入院を前提とした工程表を作る場面ではない。なお脳卒中では急性期病院から回復期病院・かかりつけ医へとつなぐ地域連携クリニカルパスもあるが、これは転院・退院の際に医療機関の間で共有するものであり、在宅での介護負担という本例の問題を解決する手段にはならない。

  3. ×c.  ケアマネジャーを紹介する。

    必要性がある。ケアマネジャー(介護支援専門員)は、要介護認定の申請手続きの支援、本人・家族の希望や心身の状態の評価(アセスメント)、それに基づくケアプラン(居宅サービス計画)の作成、サービス事業者との連絡調整を担う職種である。本例のように介護者が一人で抱え込んでいる状況では、まずケアマネジャーにつなぎ、どの在宅サービスをどう組み合わせるかを一元的に調整してもらうことが在宅支援の出発点となる。

  4. ×d.  訪問介護ステーションを紹介する。

    必要性がある。訪問介護(ホームヘルプサービス)では、ホームヘルパー(訪問介護員)が自宅を訪れ、入浴・排泄・食事などの身体介護や、掃除・調理などの生活援助を行う。本例で介助を要する入浴や排泄を専門職が一部担えば、妻の身体的・精神的負担は大きく軽くなる。なお、看護師が訪問して病状観察や医療処置を行う事業所は訪問看護ステーションであり、ホームヘルパーを派遣する事業所(訪問介護事業所)とは別物であるが、いずれも在宅療養を支える重要なサービスであり、本例では状況に応じて両方の利用が考えられる。

  5. ×e.  福祉用具を借りられるよう援助する。

    必要性がある。介護保険では、車椅子、特殊寝台(介護ベッド)、手すり、スロープ、歩行器などを福祉用具貸与として1〜3割の自己負担で借りることができ、入浴用いすやポータブルトイレなど貸与になじまない物品は特定福祉用具販売の対象となる。片麻痺の患者ではこうした用具を用いることで移乗・入浴・排泄がしやすくなり、本人の自立度が上がるとともに介護者の負担も軽くなる。あわせて手すりの設置や段差解消などの住宅改修費の支給も利用できる。

クリニカルパス(クリティカルパス)

・もともとは工業分野の工程管理手法を医療に応用したもの。 ・対象疾患・手術ごとに、入院日から退院日までの検査・治療・看護・リハビリ・食事・説明などを時間軸に沿って示す。 ・医療者用のほか、患者に経過を説明するための患者用パスもある。 ・経過が標準から外れた場合を「バリアンス(変動)」として記録・分析し、医療の質の改善に用いる。 ・地域連携クリニカルパス:脳卒中や大腿骨頸部骨折などで、急性期病院→回復期リハビリテーション病院→かかりつけ医・在宅といった複数の医療機関が共通の診療計画を共有するもの。

介護保険制度の要点

・保険者は市町村(特別区を含む)。 ・第1号被保険者:65歳以上。原因を問わず要介護・要支援状態であれば給付を受けられる。 ・第2号被保険者:40〜64歳の医療保険加入者。脳血管疾患など16の特定疾病による場合に限り給付を受けられる。 ・利用の流れ:市町村へ申請→訪問調査と主治医意見書→介護認定審査会で要支援1・2、要介護1〜5を判定→ケアマネジャー(要支援では地域包括支援センター等)がケアプランを作成→サービス利用。 ・居宅サービスの例:訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問入浴介護、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ)、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、住宅改修など。

介護者支援(レスパイトケア)

在宅介護を長く続けるには、介護者の休息を計画的に確保することが欠かせない。ショートステイやレスパイト入院、デイサービスの利用は、介護者の燃え尽きや虐待の予防にもつながる。

POINT

・クリニカルパスは入院診療(主に定型的な経過をたどる急性期)の工程表であり、在宅療養の支援には用いない。 ・退院後の要介護高齢者には、ケアマネジャーを窓口に介護保険サービス(訪問介護・訪問看護・通所サービス・福祉用具・住宅改修など)を導入する。 ・介護者の疲弊にはショートステイやレスパイト入院などで休息を確保する。 ・65歳以上は原因を問わず介護保険の給付対象(第1号被保険者)である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。