胃がなく、食道も通らない―進行胃癌の食道狭窄で「栄養の道」をどう選ぶか
第99回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
67歳の女性。2年前に胃癌に対して胃全摘術を受けた。6か月前に両側肺,縦隔リンパ節および腹膜に転移病変を認めた。1か月前から胸水の貯留が認められ増加してきている。3日前から,縦隔リンパ節転移による食道の狭窄が強くなり入院した。 この患者に最も適した栄養ルートはどれか。
- a.末梢静脈路
- b.中心静脈路
- c.経鼻経管カテーテル
- d.腸瘻造設
- e.経口摂取
対話形式の解説
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ドクターまとめ
栄養ルートは「腸が使えれば経腸、使えなければ静脈」を原則とし、さらに必要な期間で短期・長期を使い分けます。本問では、食道狭窄で経口摂取や経鼻経管が難しく、胃全摘後で胃瘻がつくれず、腹膜転移のため腸瘻も腸閉塞や腹水、手術侵襲の点で適しにくいことから、長期に必要エネルギーを確実に補える中心静脈栄養が最適です。末梢静脈栄養は静脈炎のため投与できる濃度とエネルギーに限りがあり、おおむね2週間以内の短期用にとどまります。中心静脈栄養ではカテーテル関連血流感染症やビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスに注意し、終末期で胸水・腹水がある患者では過剰輸液が苦痛を強めうるため量の調整が欠かせません。原則に沿って「使えない道」を順に除外する考え方と、QOLを踏まえた緩和ケアの視点の両方を身につけることが、臨床での栄養管理の基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
67歳の女性。2年前に胃癌で胃全摘術を受け、現在は胃がない(通常は食道と空腸を吻合して再建されている)。6か月前から両側肺・縦隔リンパ節・腹膜に転移があり、根治の望めない進行・再発胃癌(遠隔転移を伴うStage IV相当)である。1か月前から胸水が増え続けており、さらに3日前から縦隔リンパ節転移が食道を外から圧迫して狭窄が強まり、入院に至った。
考え方
栄養ルートを選ぶ基本原則は「腸が使えるなら腸を使う(経腸栄養を優先する)」ことであり、腸管が使えない、または経腸ルートの確保が難しい場合に静脈栄養を選ぶ。さらに、必要な栄養期間が短期(おおむね2週間以内)か長期かで、末梢静脈か中心静脈かを使い分ける。 本例では、 ・食道狭窄が強く、経口摂取はできない。 ・狭窄部を越えてチューブを通すことも難しく、胃全摘後のため胃瘻もつくれない。 ・腹膜転移(腹膜播種)があり、腸閉塞・腹水・腸管運動の低下が起こりやすく、開腹による腸瘻造設は侵襲・合併症の点から適しにくい。 ・一方で狭窄は長期にわたって持続・進行すると予想され、末梢静脈からの輸液だけでは必要なエネルギーを長く補えない。 したがって、侵襲が比較的少なく、確実に長期間の栄養を補給できる中心静脈路による高カロリー輸液(中心静脈栄養、TPN:total parenteral nutrition)が最も適している。
選択肢考察
- ×a. 末梢静脈路
末梢静脈は血流が少ないため、浸透圧の高い輸液を入れると静脈炎を起こす。そのため投与できるのはブドウ糖濃度10%前後までの輸液で、1日に補えるエネルギーはおおむね1,000 kcal前後にとどまる。末梢静脈栄養(PPN)は、おおむね2週間以内の短期の栄養補給に用いる方法であり、経口摂取が長期にわたって見込めない本例の主たる栄養ルートとしては不十分である。
- ○b. 中心静脈路
カテーテル先端を上大静脈などの太い静脈に置くと、大量の血流で輸液がすぐに薄まるため、高濃度のブドウ糖・アミノ酸・脂肪乳剤を含む高カロリー輸液を投与でき、必要エネルギーを全量まかなうことができる。食道狭窄で経口・経管ルートがとれず、腹膜転移のため腸瘻も適しにくい本例では、長期に確実な栄養補給ができる中心静脈栄養が最も適している。皮下埋め込み型ポート(CVポート)を用いれば、在宅での管理も可能である。
- ×c. 経鼻経管カテーテル
経鼻経管栄養は、嚥下障害はあるが消化管の通過が保たれている場合の短期の経腸栄養法である。本例では縦隔リンパ節転移による食道狭窄のためチューブを狭窄部より先に進めることが難しい。また、鼻から常にチューブが入っている状態は咽頭の不快感が強く、終末期の生活の質(QOL)を損なうため望ましくない。
- ×d. 腸瘻造設
腸瘻(空腸瘻)は腸管を使った長期栄養のルートであり、胃全摘後で胃瘻が作れない場合の選択肢にはなりうる。しかし本例は腹膜転移を伴い、今後、腹水の増加、腸閉塞、腸管の運動低下などが起こりやすく、経腸栄養を続けられない可能性が高い。さらに全身状態の悪い終末期の患者に手術的な造設を行う侵襲も大きいため、最も適したルートとはいえない。
- ×e. 経口摂取
食道狭窄が強くなり入院していることから、食物の通過が困難で経口摂取では十分な栄養をとれない状態である。無理に摂取させると、つかえや嘔吐、誤嚥性肺炎の危険もある。
栄養ルート選択の原則
1.腸が機能していれば経腸栄養を優先する(腸管粘膜の萎縮予防、感染症の減少、生理的でコストも低い)。 ・短期(おおむね4週間以内):経鼻胃管・経鼻腸管 ・長期(4週間以上):胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)、腸瘻 2.腸が使えない、または経腸ルートが確保できない場合は静脈栄養を選ぶ。 ・短期(おおむね2週間以内):末梢静脈栄養(PPN) ・長期:中心静脈栄養(TPN)
末梢静脈栄養と中心静脈栄養の違い
・末梢静脈栄養:浸透圧の高い輸液は静脈炎を起こすため、血漿浸透圧のおよそ3倍までが限度とされる。エネルギー補給量は限られ、主に短期間の補助に用いる。 ・中心静脈栄養:高濃度の糖・アミノ酸を投与でき、必要エネルギーを全量補える。合併症として、挿入時の気胸・動脈穿刺、カテーテル関連血流感染症、高血糖、長期の脂肪乳剤不使用による必須脂肪酸欠乏、ビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシス(ビタミンB1を必ず添加する)などがある。
悪性腫瘍による食道狭窄への対応
栄養ルートの確保とは別に、食道の悪性狭窄に対しては自己拡張型金属ステントの留置で経口摂取を一時的に回復させる方法もある。状態や予後に応じて検討される。
終末期の輸液の注意
終末期のがん患者では、胸水・腹水・浮腫がある場合、過剰な輸液がこれらを悪化させ、呼吸困難などの苦痛を強めることがある。本例のように胸水が増加している患者では、輸液量を患者の状態に合わせて調整し、延命だけでなく苦痛の緩和とQOLを重視して方針を決めることが大切である。
POINT
・栄養ルートは「腸が使えれば経腸、使えなければ静脈」、期間で短期・長期を使い分ける。 ・末梢静脈栄養は投与できる濃度・エネルギーに限界があり(静脈炎)、短期(約2週間以内)用である。 ・経口・経鼻経管が困難な食道狭窄、胃全摘後(胃瘻不可)、腹膜転移(腸瘻に不適)が重なる場合は中心静脈栄養を選ぶ。 ・中心静脈栄養ではカテーテル関連血流感染症とビタミンB1欠乏(乳酸アシドーシス)に注意する。 ・終末期で胸水・腹水がある患者では輸液過多が症状を悪化させうるため、量の調整が必要である。
