StudyMed医師国家試験

力はあるのに、うまく動けない―小脳は運動の「調整役」

第99回医師国家試験 B問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第99回 B問題 第23問

小脳に病変がある患者でみられるのはどれか。

  1. a.筋力低下
  2. b.深部感覚障害
  3. c.協調運動障害
  4. d.深部(腱)反射亢進
  5. e.病的反射

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小脳が障害されたときにどんな症候が出るかを問う問題だ。選択肢には神経診察でおなじみの所見が並んでいるけれど、ポイントは「その症候はどの経路の障害で起こるのか」を一つずつ考えること。まず、小脳は何をしている臓器か、説明できるかな。
医学生医学生
運動の調節をしている、とは習いました。でも具体的に何を調節しているのかと聞かれると、少し自信がないです。
ドクタードクター
大事なところだから丁寧にいこう。大脳皮質からは「こう動かすつもりだ」という運動指令が出る。一方、脊髄小脳路などを通って「実際に体はいまこう動いている」という情報が小脳に届く。小脳はこの2つを照合して、ずれを補正し、動きを滑らかで正確にしているんだ。いわば運動のナビゲーターだね。
医学生医学生
ということは、運動を起こす力そのものは小脳が作っているわけではないんですね。
ドクタードクター
その通り。力を出す命令を筋に伝えるのは錐体路と下位運動ニューロンだ。だから小脳が障害されても力は保たれ、感覚も正常。それなのに動きの方向や距離、速さ、タイミングがずれて、複数の筋をうまく協調させられなくなる。これが協調運動障害、つまり運動失調で、小脳病変の中核症状なんだ。正解は協調運動障害だね。
医学生医学生
OSCEの練習で指鼻試験をやったとき、小脳障害だと指が鼻を行き過ぎると習いました。
ドクタードクター
それが測定障害だね。ほかにも、目標に近づくほど揺れが強くなる企図振戦、手の回内・回外を素早く繰り返せない反復拮抗運動不能、動作がぎこちなく分解される運動分解、酔ったような断綴性言語、眼振などがある。では、ほかの選択肢を見ていこう。筋力低下はどうかな。
医学生医学生
小脳梗塞の患者さんでも、ふらついて立てないことがあるので、筋力も落ちているように見えてしまいます。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいポイントだね。立てないのは平衡や協調がうまくいかないからで、徒手筋力テストをすると力自体は保たれていることが多い。筋力低下は錐体路、前角細胞や末梢神経、神経筋接合部、筋のどこかの障害で起こる。ただし小脳病変では筋緊張の低下がみられることがあって、これは筋力低下とは別物として区別しておこう。
医学生医学生
深部感覚障害はどうでしょう。小脳にも固有感覚の情報が入っているので、関係がありそうに思えます。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。確かに小脳には脊髄小脳路を通って固有感覚が入るけれど、それは意識にのぼらない運動調節用の情報だ。関節の位置や振動を「感じる」のは、後索から内側毛帯、視床、大脳感覚野へ向かう別の経路。だから小脳病変で深部感覚そのものは低下しない。
医学生医学生
神経内科の実習で、感覚性の失調はRomberg徴候が陽性になると教わりました。
ドクタードクター
そう、そこが鑑別の要になる。後索や末梢神経の障害による感覚性失調は、目で位置を補っているから、閉眼すると急に悪化してRomberg徴候が陽性になる。小脳性失調は開眼の時点ですでに不安定で、閉眼しても大きくは変わらないからRomberg徴候は陰性と判断する。残りの腱反射亢進と病的反射はどう考える?
医学生医学生
どちらも錐体路障害のサインなので、小脳とは系統が違うということですね。
ドクタードクター
正解。錐体路が障害されると脊髄反射への抑制が外れて腱反射が亢進し、Babinski反射などの病的反射が出る。小脳病変では腱反射は正常か、筋緊張低下を反映してむしろ低下しやすい。膝蓋腱反射で下腿が何度も振り子のように揺れる振子様反射も、亢進ではなく筋緊張低下による所見だよ。
医学生医学生
もし小脳症状に病的反射が一緒に出ていたら、小脳だけの病変ではないと考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
その発想はとても大切だ。脳幹病変や多系統萎縮症、脊髄小脳変性症の一部など、錐体路にも障害が及ぶ病態を考える。もう一つ臨床で覚えておきたいのは病変の部位と症状の出方。小脳半球の病変では病変と同じ側の手足に失調が出て、虫部の病変では体幹失調が目立ち、開脚してふらふら歩くようになる。
医学生医学生
虫部の病変だと、手足の検査では異常が少ないこともあるんですか。
ドクタードクター
そうなんだ。指鼻試験も踵膝試験もそれなりにできて、訴えは「ふらつく」だけ、ということがある。だから歩行や立位の観察を省略すると見逃してしまう。めまいやふらつきで来院した人には、必ず歩かせて体幹失調を確認する習慣をつけよう。
医学生医学生
症候ごとに担当する経路を思い浮かべれば、選択肢を整理できますね。
ドクタードクター
その通り。筋力は運動路、感覚は感覚路、反射の亢進と病的反射は錐体路、そして協調は小脳。この対応を押さえれば、神経診察の所見から病変部位を推定する力がぐっと伸びるよ。

まとめ

小脳は大脳からの運動指令と体の実際の動きの情報を照合し、誤差を補正して運動を滑らかにする「調整役」であり、その障害では力や感覚は保たれたまま協調運動障害(運動失調)が生じます。具体的には測定障害、企図振戦、反復拮抗運動不能、運動分解、断綴性言語、眼振、体幹失調などがみられ、半球病変では同側四肢、虫部病変では体幹の失調が目立ちます。筋力低下は運動路、深部感覚障害は後索–内側毛帯路、腱反射亢進と病的反射は錐体路の障害による症候で、小脳病変ではむしろ筋緊張低下や腱反射の低下がみられます。感覚性失調との鑑別にはRomberg徴候が有用で、小脳性では陰性、感覚性では陽性となります。症候と担当する神経経路を対応づけて理解することは、神経診察から病変部位を推定する臨床推論の基本です。

解答・解説

正解はcです

本問は、小脳病変で出現する症候を選ぶ問題である。 小脳は、大脳皮質からの運動指令(どう動かすつもりか)と、脊髄小脳路などから届く身体の位置・動きの情報(実際にどう動いているか)を照合し、その誤差を補正して運動を滑らかで正確にする器官である。いわば運動の「調整役」であり、運動を起こす力そのもの(錐体路)や、意識にのぼる感覚(後索–内側毛帯路・脊髄視床路)を担うわけではない。 そのため小脳が障害されると、力は保たれ感覚も正常なのに、運動の方向・距離・速さ・タイミングがずれ、複数の筋を協調させることができなくなる。これが協調運動障害(運動失調)であり、小脳病変の中核症状である。 一方、筋力低下、深部感覚障害、腱反射亢進、病的反射は、それぞれ運動路(錐体路・下位運動ニューロン・筋)、感覚路、錐体路の障害で生じる症候であり、小脳病変の徴候ではない。各症候を担う経路を思い浮かべ、それが小脳の機能に属するかどうかで判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  筋力低下

    筋力低下(麻痺)は、上位運動ニューロン(錐体路)、下位運動ニューロン(脊髄前角細胞・末梢神経)、神経筋接合部、筋のいずれかの障害で生じる。末梢神経障害では遠位筋優位、筋疾患では近位筋優位の筋力低下をとることが多い。小脳は運動の協調・調節を担うが運動出力そのものには関与しないため、小脳病変では徒手筋力テストで明らかな筋力低下は生じない。小脳病変では筋緊張低下(筋トーヌスの低下)がみられるが、これは筋力低下とは別の所見である。

  2. ×b.  深部感覚障害

    意識される深部感覚(関節位置覚・振動覚)は、末梢神経→脊髄後索→延髄の後索核→内側毛帯→視床→大脳の感覚野という経路で伝わり、この経路の障害で深部感覚障害が起こる(脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症、末梢神経障害など)。小脳にも脊髄小脳路を介して固有感覚情報が入るが、これは意識にのぼらない運動調節用の情報であり、小脳病変で深部感覚の低下は生じない。深部感覚障害でも運動失調(感覚性運動失調)が起こるが、閉眼で増悪しRomberg徴候が陽性になる点が小脳性運動失調との鑑別点である。

  3. ○c.  協調運動障害

    小脳は運動の誤差を補正して複数の筋を協調させる中枢であり、その障害で協調運動障害(運動失調)が生じる。具体的には、目標に正確に到達できない測定障害(dysmetria:指鼻試験・踵膝試験での行き過ぎ)、目標に近づくほど揺れが強まる企図振戦、手の回内・回外などの交互運動が拙劣になる反復拮抗運動不能(dysdiadochokinesis、変換運動障害)、運動を構成する要素がばらばらになる運動分解、酩酊様の断綴性言語などがみられる。小脳半球の病変では病変と同側の四肢に失調が出現し、小脳虫部の病変では体幹失調(起立・歩行時のふらつき、開脚歩行)が目立つ。虫部病変は四肢の検査で異常が乏しく「ふらつき」の訴えだけのこともあり、見逃されやすい。

  4. ×d.  深部(腱)反射亢進

    腱反射の亢進は、錐体路(上位運動ニューロン)の障害により脊髄反射弓への抑制が外れることで生じる。小脳病変では腱反射は正常か、筋緊張低下を反映してむしろ低下する傾向がある。また、膝蓋腱反射で下腿が振り子のように何度も揺れる振子様反射がみられることがあり、これは亢進ではなく筋緊張低下による所見である。

  5. ×e.  病的反射

    Babinski反射やChaddock反射などの病的反射は、錐体路障害を示す徴候である。健常成人では錐体路の作用で抑制されているが、錐体路が障害されると出現する。小脳は錐体路とは別の系統であり、小脳に限局した病変では病的反射は出現しない。小脳症状に病的反射を伴う場合は、脳幹病変や多系統萎縮症、脊髄小脳変性症の一部など、錐体路にも障害が及ぶ病態を考える。

小脳の機能区分と障害

・前庭小脳(片葉小節葉):平衡・眼球運動の調節。障害で体幹の平衡障害、眼振。 ・脊髄小脳(虫部・傍虫部):体幹・四肢近位の姿勢と歩行の調節。障害で体幹失調、開脚歩行。アルコール性小脳変性症では虫部上部が障害されやすい。 ・大脳小脳(小脳半球外側部):四肢の精緻な運動の計画・調節。障害で同側上下肢の測定障害、企図振戦、反復拮抗運動不能、構音障害。

小脳症状のまとめ

・測定障害(dysmetria)、企図振戦、反復拮抗運動不能(dysdiadochokinesis)、運動分解 ・筋緊張低下、振子様反射、反跳現象(Stewart-Holmes徴候:抵抗を急に外すと手が止まらず体に当たる) ・断綴性言語・爆発性言語 ・眼振、体幹失調、開脚歩行(酩酊様歩行) ・小脳半球病変の症状は病変と同側に出る(小脳からの出力が交叉して対側大脳に向かい、錐体路で再び交叉するため)。

運動失調の鑑別

・小脳性:開眼・閉眼で失調の程度がほぼ変わらない。Romberg徴候陰性(開眼時から立位が不安定)。 ・感覚性(後索・末梢神経障害):視覚による代償が効くため閉眼で著明に悪化。Romberg徴候陽性。深部感覚障害を伴う。 ・前庭性:回転性めまい、眼振を伴い、一方向へ偏倚する。

錐体路障害の徴候(参考)

筋力低下(痙性麻痺)、筋緊張亢進(痙縮)、腱反射亢進、クローヌス、病的反射(Babinski反射など)陽性、表在反射(腹壁反射など)低下。

POINT

・小脳病変の中核症状は協調運動障害(運動失調):測定障害、企図振戦、反復拮抗運動不能、運動分解、断綴性言語、眼振、体幹失調。 ・小脳病変では筋力低下・感覚障害は起こらず、腱反射は正常〜低下、筋緊張は低下する。 ・腱反射亢進と病的反射は錐体路障害の徴候。 ・小脳半球病変は同側四肢の失調、虫部病変は体幹失調(ふらつき)。 ・小脳性失調はRomberg徴候陰性、感覚性失調はRomberg徴候陽性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。