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視覚路は脳幹を通らない―経路をたどって解く脳幹障害の症候

第99回医師国家試験 B問題 第22問

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第99回 B問題 第22問

脳幹に病変がある患者でみられないのはどれか。

  1. a.視野異常
  2. b.表在反射の低下
  3. c.聴力障害
  4. d.表在感覚の低下
  5. e.自律神経の障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳幹の病変で「みられない」症候を選ぶ問題だ。暗記で解くより、各症候を担う神経経路が脳幹を通るかどうかをたどるのがコツ。まず、脳幹にはどんな構造が詰まっているか思い出してみよう。
医学生医学生
中脳・橋・延髄で、脳神経の核がたくさんあるところですよね。
ドクタードクター
そう、第III〜XII脳神経の核と線維が出入りする場所だ。それに加えて、大脳と脊髄を結ぶ錐体路や脊髄視床路、内側毛帯といった長い経路がすべて通過する。さらに呼吸・循環の中枢や自律神経の下行路もある。狭い場所に重要な構造が密集しているんだ。
医学生医学生
そうなると、ほとんど何でも起こりそうな気がします。逆に脳幹と関係ない脳神経はありましたっけ。
ドクタードクター
いい問いだね。第I脳神経の嗅神経と第II脳神経の視神経だけは脳幹に核をもたず、前脳、つまり大脳や間脳に直接つながっている。
医学生医学生
解剖の講義で「IとIIは中枢神経の一部」と習いました。ということは、視覚に関係する症状は脳幹では起こらないんですか。
ドクタードクター
その通り。視覚路は網膜から視神経、視交叉、視索、視床の外側膝状体、視放線を経て後頭葉の一次視覚野へ至る。この経路は脳幹を経由しないので、脳幹病変だけでは半盲や四分盲のような視野異常は生じない。だから正解は視野異常だ。
医学生医学生
でも、中脳の病変で目の症状が出ることはありますよね。脳神経内科の実習で複視の患者さんを見ました。
ドクタードクター
そこは混同しやすいポイントだね。中脳には動眼神経と滑車神経の核があるから、眼球運動障害による複視は起こる。それに、視索から分かれて中脳の視蓋前域へ向かう線維が対光反射の求心路だから、対光反射の異常も起こりうる。でもこれらは「見え方の範囲」が欠ける視野異常とは別の症候なんだ。
医学生医学生
なるほど、目が動かないのと見える範囲が欠けるのは別物ですね。では表在反射の低下はどうでしょう。反射なら脊髄の話では。
ドクタードクター
確かに腹壁反射や挙睾筋反射の反射弓は脊髄分節にある。ただ、その発現には上位からの錐体路の働きが必要で、錐体路が障害されると腱反射は亢進する一方、表在反射は低下・消失する。錐体路は中脳の大脳脚、橋底部、延髄の錐体と脳幹の腹側を下行するから、脳幹病変でも表在反射は低下しうる。
医学生医学生
腱反射と逆向きになるのは、CBTの前に何度も間違えたところです。
ドクタードクター
よくある混乱だね。加えて、角膜反射は三叉神経から顔面神経、咽頭反射は舌咽神経と迷走神経というふうに、反射弓そのものが脳幹にある表在反射もある。これは脳幹病変で直接障害されるよ。
医学生医学生
聴力障害は第VIII脳神経なので、脳幹で起こりますね。
ドクタードクター
そう。蝸牛神経は橋と延髄の境界付近で脳幹に入り、蝸牛神経核から上オリーブ核、外側毛帯、中脳の下丘へと聴覚路の大部分が脳幹を上行する。前下小脳動脈領域の梗塞で蝸牛神経核が障害されると、病変側の感音難聴が出る。ただ、蝸牛神経核より上は両側性に投射するから、片側の上位脳幹病変では高度な難聴にはなりにくい点も押さえておこう。
医学生医学生
表在感覚と自律神経は、Wallenberg症候群を思い出せば説明できそうです。
ドクタードクター
まさにその代表例だ。延髄外側の病変では、三叉神経脊髄路核と脊髄視床路が障害されて、病変側の顔面と反対側の頸部以下に温痛覚障害が出る。交代性感覚障害だね。さらに視床下部から脊髄側角へ下る交感神経路が脳幹外側を通るので、病変側にHorner症候群が起こる。
医学生医学生
縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下ですね。副交感神経も脳幹から出ていたはずです。
ドクタードクター
そう、動眼神経、顔面神経、舌咽神経、迷走神経に副交感線維が乗っていて、その節前ニューロンの核は脳幹にある。延髄には呼吸・循環中枢もあるから、自律神経障害は脳幹病変で十分起こりうる。
医学生医学生
結局、脳神経症状、麻痺や反射異常、感覚障害、自律神経障害はどれも脳幹で起こり、視覚路だけが通っていない、ということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。臨床で役立つ発展として、脳幹病変の局在診断も覚えておこう。まず障害された脳神経で高さを決める。中脳ならIIIとIV、橋ならVからVIII、延髄ならIXからXII。次に横断面で、片麻痺があれば腹側、温痛覚障害があれば外側、深部感覚障害があれば内側寄りと考える。
医学生医学生
病変側の脳神経麻痺と反対側の片麻痺が組み合わさる交代性片麻痺も、脳幹ならではですね。
ドクタードクター
その通り。中脳のWeber症候群、橋のMillard-Gubler症候群などが代表だ。逆に、視野異常があれば病変は脳幹より上、視神経なら一眼の視野欠損、視交叉なら両耳側半盲、視索より後ろなら反対側の同名半盲と、視野の形で部位が推定できる。症候から経路を逆算する習慣をつけておくと、救急で脳卒中を診るときにも役立つよ。

まとめ

脳幹(中脳・橋・延髄)には第III〜XII脳神経の核、錐体路や脊髄視床路・内側毛帯などの長経路、交感神経下行路や呼吸・循環中枢が集まっており、脳神経症状、表在反射の低下、聴力障害、表在感覚の低下、自律神経障害のいずれも起こりえます。一方、視覚路は網膜→視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉と前脳内で完結して脳幹を通らないため、視野異常は脳幹病変の症候になりません。中脳病変での複視や対光反射異常は、視野異常とは別の症候である点に注意が必要です。Wallenberg症候群の交代性感覚障害とHorner症候群、錐体路障害で腱反射は亢進し表在反射は低下することもあわせて押さえましょう。「脳神経で高さ、長経路で横断面の位置」を決める考え方は、脳幹病変の局在診断と脳卒中診療の基礎になります。

解答・解説

正解はaです

本問は、脳幹(中脳・橋・延髄)の病変で「出現し得ない」症候を一つ選ぶ問題である。 脳幹は、①第III〜XII脳神経の神経核とその線維が出入りする場所であり、②大脳と脊髄を結ぶ長い上行路・下行路(錐体路=皮質脊髄路、脊髄視床路、内側毛帯など)がすべて通過する通路であり、③呼吸・循環などの生命維持中枢や自律神経の下行路を含む部位である。したがって脳幹病変では、脳神経症状、運動麻痺・反射異常、感覚障害、自律神経障害のいずれもが起こり得る。 考え方としては、各選択肢の症候を担う神経経路をたどり、その経路が脳幹を通るかどうかを判断すればよい。第I脳神経(嗅神経)と第II脳神経(視神経)だけは脳幹に核をもたず、嗅覚路・視覚路はいずれも前脳(大脳・間脳)の範囲で完結する。特に視覚路は、網膜→視神経→視交叉→視索→外側膝状体(視床)→視放線→後頭葉の一次視覚野(鳥距溝周囲)という経路で、脳幹を経由しない。よって視野異常は脳幹病変の症候とはならず、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ○a.  視野異常

    視野異常を起こす病変は、視神経、視交叉、視索、外側膝状体(視床)、視放線、後頭葉視覚野のいずれかに存在する。これらはすべて脳幹より上位の前脳(大脳・間脳)に属し、視覚情報の主経路は脳幹を通過しない。したがって、脳幹病変単独で視野欠損(半盲や四分盲など)は生じない。なお、視索から分かれて中脳の視蓋前域へ向かう線維は対光反射の求心路であり、中脳病変で対光反射の異常や眼球運動障害(動眼神経・滑車神経の障害による複視など)は起こり得るが、これらは視野異常とは別の症候である。

  2. ×b.  表在反射の低下

    表在反射とは、皮膚や粘膜への刺激で筋が収縮する反射で、腹壁反射、挙睾筋反射などが代表である。反射弓そのものは脊髄の分節にあるが、その発現には上位からの錐体路(皮質脊髄路)の働きが必要とされ、錐体路障害では腱反射が亢進するのとは逆に、表在反射は低下・消失する。錐体路は大脳皮質から内包を経て中脳の大脳脚、橋底部、延髄の錐体を下行するため、脳幹腹側の病変でも表在反射は低下し得る。さらに、角膜反射(求心路:三叉神経、遠心路:顔面神経)や咽頭反射(舌咽神経・迷走神経)のように反射弓そのものが脳幹にある表在反射もあり、脳幹病変で直接障害される。したがって脳幹病変でみられる症候である。

  3. ×c.  聴力障害

    聴覚を伝える第VIII脳神経(内耳神経の蝸牛神経)は、橋と延髄の境界付近で脳幹に入り、蝸牛神経核に終わる。その後の聴覚路は、上オリーブ核、外側毛帯を経て中脳の下丘へ上行し、さらに視床の内側膝状体を経て側頭葉の聴覚野に至る。このように聴覚路の大部分は脳幹を通るため、脳幹病変で聴力障害が起こり得る。特に、蝸牛神経の進入部や蝸牛神経核を含む病変(例:前下小脳動脈〈AICA〉領域の梗塞)では、病変側の感音難聴が生じる。なお、蝸牛神経核より上位の聴覚路は左右両側性に投射するため、片側の上位脳幹病変では高度な難聴は生じにくい。

  4. ×d.  表在感覚の低下

    表在感覚(温度覚・痛覚・触覚)は、体幹・四肢では脊髄視床路(温痛覚と粗大な触覚)と後索–内側毛帯路(識別性の触覚と深部感覚)を上行し、いずれも脳幹を通過して視床に至る。顔面の感覚は三叉神経が担い、その感覚核(主感覚核・三叉神経脊髄路核)は橋から延髄・上位頸髄にわたって存在する。したがって脳幹病変では表在感覚の低下が起こる。代表例が延髄外側症候群(Wallenberg症候群)で、病変側の顔面と反対側の頸部以下に温痛覚障害がみられる(交代性感覚障害)。

  5. ×e.  自律神経の障害

    視床下部から起こる交感神経の下行路は脳幹の外側部を通って脊髄側角へ向かうため、脳幹病変で交感神経が障害される。延髄外側症候群(Wallenberg症候群)で病変側にHorner症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下)が生じるのがその典型である。また、副交感神経の節前ニューロンは脳幹の神経核にあり、第III脳神経(瞳孔括約筋・毛様体筋)、第VII脳神経(涙腺・顎下腺・舌下腺)、第IX脳神経(耳下腺)、第X脳神経(胸腹部内臓)を通って出ていく。さらに延髄には呼吸・循環を調節する中枢がある。したがって脳幹病変では自律神経障害が起こり得る。

脳幹に関係する脳神経の整理

・中脳:第III脳神経(動眼神経)、第IV脳神経(滑車神経) ・橋:第V脳神経(三叉神経)、第VI脳神経(外転神経)、第VII脳神経(顔面神経)、第VIII脳神経(内耳神経) ・延髄:第IX脳神経(舌咽神経)、第X脳神経(迷走神経)、第XI脳神経(副神経、延髄根)、第XII脳神経(舌下神経) ・第I脳神経(嗅神経)と第II脳神経(視神経)は脳幹に核をもたず、終脳・間脳に直接つながる。

脳幹を通過する主な長経路

・錐体路(皮質脊髄路):大脳脚→橋底部→延髄錐体→錐体交叉(延髄下端)。脳幹の腹側を走る。 ・脊髄視床路:脳幹の外側部を上行する(温痛覚)。 ・内側毛帯:脳幹の正中寄りを上行する(識別性触覚・深部感覚)。 ・交感神経下行路:脳幹外側部を下行する。

脳幹病変の局在診断の考え方

1)高さの決定:障害された脳神経から中脳・橋・延髄のいずれかを推定する。 2)横断面での位置:錐体路障害(片麻痺)があれば腹側、温痛覚障害があれば外側、深部感覚障害があれば内側寄りの病変を考える。 3)交代性症候:病変側の脳神経麻痺と反対側の片麻痺・感覚障害の組み合わせは脳幹病変に特徴的である(例:Weber症候群〈中脳〉、Millard-Gubler症候群〈橋〉、Wallenberg症候群〈延髄外側〉)。

視覚路の障害と視野異常

・視神経:患側眼の視力低下・視野欠損 ・視交叉:両耳側半盲(下垂体腺腫など) ・視索・外側膝状体・視放線・後頭葉:反対側の同名半盲(部位により四分盲、黄斑回避など) いずれも脳幹より上位の病変である。

POINT

・視覚路(網膜→視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉)は脳幹を通らない。視野異常は脳幹病変の症候ではない。 ・脳幹には第III〜XII脳神経核、錐体路・感覚路の長経路、自律神経の中枢・下行路が集まっており、脳神経症状、麻痺・反射異常、感覚障害、自律神経障害のいずれも起こり得る。 ・錐体路障害では腱反射は亢進し、表在反射(腹壁反射など)は低下・消失する。 ・Wallenberg症候群:病変側の顔面温痛覚障害とHorner症候群、反対側の頸部以下の温痛覚障害が特徴。 ・脳幹病変の局在は「脳神経で高さ、長経路で腹側・背側・内外側」を決める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。