StudyMed医師国家試験

皮膚は内臓を映す鏡―黒色表皮腫が知らせる「隠れた癌」

第120回医師国家試験 F問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第12問

内臓悪性腫瘍の合併を想起すべきなのはどれか。

  1. a.亜鉛欠乏症候群
  2. b.黒色表皮腫
  3. c.弾性線維性仮性黄色腫
  4. d.Ehlers-Danlos症候群
  5. e.Fabry病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚の病変から体の中の悪性腫瘍を疑えるか、という問題だ。皮膚には内臓の病気が表に現れることがあって、これをデルマドロームと呼ぶ。そのうち悪性腫瘍に関係するものが腫瘍随伴皮膚症だ。選択肢を「何が原因でその皮膚病変が起きるのか」という視点で分けてみるのがコツだよ。
医学生医学生
デルマドローム、皮膚科の講義で出てきました。でも選択肢がばらばらで、どこから手をつければいいか迷います。
ドクタードクター
では分類してみよう。まず弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群、Fabry病。この3つに共通するのは何だろう。
医学生医学生
どれも遺伝性の疾患ですね。生まれつきの遺伝子異常が原因です。
ドクタードクター
その通り。遺伝子異常そのもので説明できる病気だから、「どこかに隠れた癌が皮膚病変を起こしている」という関係にはならない。亜鉛欠乏症候群は栄養素の欠乏による皮膚病変だ。残る黒色表皮腫だけが、後天性に生じて内臓悪性腫瘍を伴いうる皮膚疾患なんだ。
医学生医学生
黒色表皮腫って、肥満の人の首が黒っぽくなるものですよね。小児科実習で、肥満の中学生の首にみられるのを教わりました。悪性腫瘍と結びつくイメージがなかったです。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。実際、黒色表皮腫の大部分は肥満やインスリン抵抗性に伴う良性型なんだ。頸部や腋窩、鼠径部などのこすれる部位に、ビロード状でざらざらした黒褐色の色素沈着と小さな乳頭状の隆起ができる。問題は悪性型のほうで、中高年で急に出現して広い範囲に広がり、口唇や口腔粘膜、手掌にまで及ぶことがある。
医学生医学生
同じ見た目でも、年齢や出方で意味が変わるということですか。
ドクタードクター
その通り。悪性型は胃癌を中心とする腹部の腺癌に伴うことが多い。腫瘍がつくるTGF-αなどの増殖因子が表皮の増殖を促すと考えられているんだ。手掌の皺が目立って厚くなるtripe palmsという所見もある。中高年で急に黒色表皮腫が出てきたら、上部消化管内視鏡などで悪性腫瘍を検索する必要がある。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。亜鉛欠乏症候群は、口の周りや手足にびらんができるものでしたよね。
ドクタードクター
そう。開口部周囲や外陰部、四肢末端に境界明瞭な紅斑・びらん・痂皮ができ、脱毛、下痢、味覚障害を伴う。先天性の腸性肢端皮膚炎と、低栄養や長期の静脈栄養などによる後天性のものがある。原因はあくまで亜鉛の摂取・吸収の問題だ。
医学生医学生
弾性線維性仮性黄色腫は、首に黄色い丘疹が敷石状に並ぶ病気で、眼底の網膜色素線条とセットで覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。ABCC6遺伝子の異常で弾性線維が変性・石灰化し、皮膚・眼・血管の3つが障害される。血管の石灰化による消化管出血や間欠性跛行も起こる。Ehlers-Danlos症候群はコラーゲン関連の遺伝子異常で、皮膚の過伸展性と脆弱性、関節の過可動性が特徴。Fabry病はα-ガラクトシダーゼA欠損によるX連鎖性のライソゾーム病で、四肢末端痛、低汗症、被角血管腫、角膜混濁、そして腎・心・脳血管障害が進行する。
医学生医学生
どれも皮膚に症状が出るけれど、原因は遺伝子や代謝の異常で、腫瘍が引き起こしているわけではないんですね。
ドクタードクター
そういうこと。ここからは発展知識だ。腫瘍随伴皮膚症は黒色表皮腫だけではない。脂漏性角化症が短期間に多発・増大するLeser-Trélat徴候も消化器癌のサインで、黒色表皮腫と併存することもある。
医学生医学生
成人の皮膚筋炎も悪性腫瘍を探すべきだと、膠原病内科で教わりました。
ドクタードクター
大事なポイントだ。特に抗TIF1-γ抗体陽性例は悪性腫瘍の合併率が高い。ほかにも、Sweet病は骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの血液腫瘍、腫瘍随伴性天疱瘡は悪性リンパ腫や胸腺腫、壊死性遊走性紅斑はグルカゴノーマに関連する。壊死性遊走性紅斑は亜鉛欠乏症候群と外観が似るから、鑑別で混同しないよう注意しよう。
医学生医学生
皮膚科の外来で「急に出てきた」「広がるのが速い」という病歴を聞いたら、全身を調べるきっかけになるんですね。
ドクタードクター
その通り。悪性型の黒色表皮腫は原因腫瘍を治療すると軽快することがあり、再燃すれば腫瘍の再発を疑う手がかりにもなる。皮膚の所見が、内臓の病気の経過を映す鏡になるわけだ。

まとめ

皮膚には内臓の悪性腫瘍を反映した病変(腫瘍随伴皮膚症)が現れることがあり、その代表が黒色表皮腫です。黒色表皮腫は間擦部のビロード状の黒褐色色素沈着が特徴で、多くは肥満・インスリン抵抗性に伴う良性型ですが、中高年で急速に出現し粘膜や手掌に及ぶ悪性型は胃癌などの腹部腺癌に伴い、悪性腫瘍の検索が必要です。弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群、Fabry病は遺伝性疾患、亜鉛欠乏症候群は栄養欠乏によるもので、腫瘍随伴の皮膚症状ではありません。Leser-Trélat徴候、成人の皮膚筋炎、Sweet病、腫瘍随伴性天疱瘡なども併せて覚えておくと、皮膚所見から隠れた悪性腫瘍に気づく力が養われます。

解答・解説

正解はbです

問われていること

皮膚には、体内のどこかにある悪性腫瘍が産生する物質(増殖因子やサイトカインなど)や腫瘍に対する免疫反応を反映して、特徴的な皮膚病変が現れることがある。これをデルマドローム(内臓疾患の皮膚表現)のうち、とくに悪性腫瘍に関係するものとして「腫瘍随伴皮膚症(paraneoplastic dermatoses)」と呼ぶ。本問は、選択肢の中からその代表を選ばせる問題である。

考え方

選択肢を性質で分けると、 ・栄養素の欠乏による皮膚病変: 亜鉛欠乏症候群 ・遺伝性の結合組織疾患: 弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群 ・遺伝性の代謝異常症(ライソゾーム病): Fabry病 ・後天性に生じ、内臓悪性腫瘍を伴いうる皮膚疾患: 黒色表皮腫 となる。遺伝性疾患は生まれつきの遺伝子異常で説明され、悪性腫瘍が皮膚病変を引き起こすという関係にはない。中高年で急に出現・拡大する黒色表皮腫は、胃癌をはじめとする腺癌の存在を示す重要なサインであり、正解は黒色表皮腫である。

選択肢考察

  1. ×a.  亜鉛欠乏症候群

    亜鉛の不足により、口や肛門の周囲など開口部、外陰部、手足の末端に境界明瞭な紅斑・びらん・痂皮を生じ、脱毛、下痢、味覚障害、創傷治癒の遅れなどを伴う。先天性のもの(腸性肢端皮膚炎: 亜鉛の腸管吸収に関わる遺伝子の異常)と、低栄養・吸収障害・長期の静脈栄養などによる後天性のものがある。原因は亜鉛の摂取・吸収の問題であり、内臓悪性腫瘍を想起させる皮膚症状ではない。

  2. ○b.  黒色表皮腫

    頸部、腋窩、鼠径部などの間擦部(皮膚どうしがこすれる部位)に、表面がビロード状でざらざらした黒褐色の色素沈着と乳頭状の小隆起を生じる疾患である。肥満やインスリン抵抗性に伴う良性型が多いが、中高年で急速に出現し、広い範囲や口唇・口腔粘膜、手掌(tripe palms: 手掌の皺が目立ち厚くなる所見)にまで及ぶものは悪性型で、胃癌を中心とする腹部の腺癌に伴う腫瘍随伴皮膚症である。腫瘍が産生する TGF-α などの増殖因子が表皮の増殖を促すと考えられている。このため悪性腫瘍の検索が必要となる。

  3. ×c.  弾性線維性仮性黄色腫

    ABCC6 遺伝子の異常による常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、全身の弾性線維が変性・石灰化する。頸部や腋窩などに黄色の小丘疹が集まって敷石状の外観を呈するほか、眼底の網膜色素線条、動脈の石灰化による消化管出血・間欠性跛行・心血管障害を来す。皮膚・眼・血管の三つを押さえる疾患であり、内臓悪性腫瘍とは関係がない。

  4. ×d.  Ehlers-Danlos症候群

    コラーゲンやその修飾酵素の遺伝子異常による先天性の結合組織疾患群である。皮膚の過伸展性と脆弱性(傷つきやすく、治ると薄い瘢痕が残る)、関節の過可動性が三大特徴で、血管型では動脈や腸管の破裂を来しうる。遺伝子異常そのものが原因であり、悪性腫瘍を示唆する皮膚病変ではない。

  5. ×e.  Fabry病

    X連鎖性遺伝のライソゾーム病で、α-ガラクトシダーゼA の欠損によりグロボトリアオシルセラミド(Gb3)が血管内皮などに蓄積する。小児期からの四肢末端の発作性疼痛、低汗症、体幹下部の被角血管腫(暗赤色の小丘疹)、角膜混濁がみられ、年齢とともに蛋白尿・腎不全、左室肥大・不整脈、脳梗塞が進行する。酵素補充療法などの治療がある。皮膚症状は代謝異常によるものであり、悪性腫瘍の合併を想起させるものではない。

主な腫瘍随伴皮膚症と関連する腫瘍

・黒色表皮腫(悪性型): 胃癌をはじめとする腹部の腺癌 ・Leser-Trélat 徴候: 脂漏性角化症(老人性疣贅)が短期間に多発・増大するもの。胃癌など消化器癌。黒色表皮腫と併存することがある ・皮膚筋炎: 成人例では悪性腫瘍の合併が多く、日本では胃癌、肺癌、卵巣癌、乳癌などが知られる。ヘリオトロープ疹、Gottron 徴候が特徴。抗 TIF1-γ 抗体陽性例はとくに悪性腫瘍の合併率が高い ・Bazex 症候群(腫瘍随伴性肢端角化症): 耳介、鼻、手足の指先の角化性紅斑。上気道・上部消化管(咽頭・喉頭・食道)の扁平上皮癌 ・Sweet 病(急性熱性好中球性皮膚症): 発熱と有痛性の隆起性紅斑、好中球増多。骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病など血液腫瘍 ・壊疽性膿皮症: 急速に拡大する潰瘍。潰瘍性大腸炎などに加え、白血病・骨髄異形成症候群・多発性骨髄腫など ・腫瘍随伴性天疱瘡: 難治性の口腔粘膜びらん。悪性リンパ腫、Castleman 病、胸腺腫など ・壊死性遊走性紅斑: グルカゴノーマ(膵神経内分泌腫瘍)。開口部周囲や間擦部に環状に広がる紅斑とびらんで、亜鉛欠乏症候群と外観が似るので鑑別に注意する ・匍行性迂回状紅斑(erythema gyratum repens): 木目状に移動する紅斑。肺癌など ・後天性魚鱗癬: Hodgkin リンパ腫など ・紅皮症: 皮膚 T 細胞リンパ腫(Sézary 症候群)などが原因となることがある

黒色表皮腫の分類

・良性型: 遺伝性、肥満・インスリン抵抗性(2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群など)や内分泌疾患、薬剤に伴うもの。頻度は良性型が大部分を占める ・悪性型: 中高年に急速に発症し、皮疹が広範で、粘膜や手掌にも及び、瘙痒を伴うことがある。原因腫瘍の治療で皮疹が軽快することがあり、再燃は腫瘍の再発を示唆する

POINT

・急速に出現・拡大する黒色表皮腫は、胃癌などの内臓悪性腫瘍を疑う ・脂漏性角化症が急に多発すれば Leser-Trélat 徴候(消化器癌) ・成人の皮膚筋炎では悪性腫瘍を検索する ・弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群、Fabry病は遺伝性疾患であり、悪性腫瘍の随伴症状ではない ・亜鉛欠乏症候群は開口部周囲・四肢末端の皮疹と味覚障害、脱毛が特徴で、グルカゴノーマの壊死性遊走性紅斑との鑑別に注意

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。