皮膚は内臓を映す鏡―黒色表皮腫が知らせる「隠れた癌」
第120回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
内臓悪性腫瘍の合併を想起すべきなのはどれか。
- a.亜鉛欠乏症候群
- b.黒色表皮腫
- c.弾性線維性仮性黄色腫
- d.Ehlers-Danlos症候群
- e.Fabry病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
皮膚には内臓の悪性腫瘍を反映した病変(腫瘍随伴皮膚症)が現れることがあり、その代表が黒色表皮腫です。黒色表皮腫は間擦部のビロード状の黒褐色色素沈着が特徴で、多くは肥満・インスリン抵抗性に伴う良性型ですが、中高年で急速に出現し粘膜や手掌に及ぶ悪性型は胃癌などの腹部腺癌に伴い、悪性腫瘍の検索が必要です。弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群、Fabry病は遺伝性疾患、亜鉛欠乏症候群は栄養欠乏によるもので、腫瘍随伴の皮膚症状ではありません。Leser-Trélat徴候、成人の皮膚筋炎、Sweet病、腫瘍随伴性天疱瘡なども併せて覚えておくと、皮膚所見から隠れた悪性腫瘍に気づく力が養われます。
解答・解説
正解はbです
問われていること
皮膚には、体内のどこかにある悪性腫瘍が産生する物質(増殖因子やサイトカインなど)や腫瘍に対する免疫反応を反映して、特徴的な皮膚病変が現れることがある。これをデルマドローム(内臓疾患の皮膚表現)のうち、とくに悪性腫瘍に関係するものとして「腫瘍随伴皮膚症(paraneoplastic dermatoses)」と呼ぶ。本問は、選択肢の中からその代表を選ばせる問題である。
考え方
選択肢を性質で分けると、 ・栄養素の欠乏による皮膚病変: 亜鉛欠乏症候群 ・遺伝性の結合組織疾患: 弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群 ・遺伝性の代謝異常症(ライソゾーム病): Fabry病 ・後天性に生じ、内臓悪性腫瘍を伴いうる皮膚疾患: 黒色表皮腫 となる。遺伝性疾患は生まれつきの遺伝子異常で説明され、悪性腫瘍が皮膚病変を引き起こすという関係にはない。中高年で急に出現・拡大する黒色表皮腫は、胃癌をはじめとする腺癌の存在を示す重要なサインであり、正解は黒色表皮腫である。
選択肢考察
- ×a. 亜鉛欠乏症候群
亜鉛の不足により、口や肛門の周囲など開口部、外陰部、手足の末端に境界明瞭な紅斑・びらん・痂皮を生じ、脱毛、下痢、味覚障害、創傷治癒の遅れなどを伴う。先天性のもの(腸性肢端皮膚炎: 亜鉛の腸管吸収に関わる遺伝子の異常)と、低栄養・吸収障害・長期の静脈栄養などによる後天性のものがある。原因は亜鉛の摂取・吸収の問題であり、内臓悪性腫瘍を想起させる皮膚症状ではない。
- ○b. 黒色表皮腫
頸部、腋窩、鼠径部などの間擦部(皮膚どうしがこすれる部位)に、表面がビロード状でざらざらした黒褐色の色素沈着と乳頭状の小隆起を生じる疾患である。肥満やインスリン抵抗性に伴う良性型が多いが、中高年で急速に出現し、広い範囲や口唇・口腔粘膜、手掌(tripe palms: 手掌の皺が目立ち厚くなる所見)にまで及ぶものは悪性型で、胃癌を中心とする腹部の腺癌に伴う腫瘍随伴皮膚症である。腫瘍が産生する TGF-α などの増殖因子が表皮の増殖を促すと考えられている。このため悪性腫瘍の検索が必要となる。
- ×c. 弾性線維性仮性黄色腫
ABCC6 遺伝子の異常による常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患で、全身の弾性線維が変性・石灰化する。頸部や腋窩などに黄色の小丘疹が集まって敷石状の外観を呈するほか、眼底の網膜色素線条、動脈の石灰化による消化管出血・間欠性跛行・心血管障害を来す。皮膚・眼・血管の三つを押さえる疾患であり、内臓悪性腫瘍とは関係がない。
- ×d. Ehlers-Danlos症候群
コラーゲンやその修飾酵素の遺伝子異常による先天性の結合組織疾患群である。皮膚の過伸展性と脆弱性(傷つきやすく、治ると薄い瘢痕が残る)、関節の過可動性が三大特徴で、血管型では動脈や腸管の破裂を来しうる。遺伝子異常そのものが原因であり、悪性腫瘍を示唆する皮膚病変ではない。
- ×e. Fabry病
X連鎖性遺伝のライソゾーム病で、α-ガラクトシダーゼA の欠損によりグロボトリアオシルセラミド(Gb3)が血管内皮などに蓄積する。小児期からの四肢末端の発作性疼痛、低汗症、体幹下部の被角血管腫(暗赤色の小丘疹)、角膜混濁がみられ、年齢とともに蛋白尿・腎不全、左室肥大・不整脈、脳梗塞が進行する。酵素補充療法などの治療がある。皮膚症状は代謝異常によるものであり、悪性腫瘍の合併を想起させるものではない。
主な腫瘍随伴皮膚症と関連する腫瘍
・黒色表皮腫(悪性型): 胃癌をはじめとする腹部の腺癌 ・Leser-Trélat 徴候: 脂漏性角化症(老人性疣贅)が短期間に多発・増大するもの。胃癌など消化器癌。黒色表皮腫と併存することがある ・皮膚筋炎: 成人例では悪性腫瘍の合併が多く、日本では胃癌、肺癌、卵巣癌、乳癌などが知られる。ヘリオトロープ疹、Gottron 徴候が特徴。抗 TIF1-γ 抗体陽性例はとくに悪性腫瘍の合併率が高い ・Bazex 症候群(腫瘍随伴性肢端角化症): 耳介、鼻、手足の指先の角化性紅斑。上気道・上部消化管(咽頭・喉頭・食道)の扁平上皮癌 ・Sweet 病(急性熱性好中球性皮膚症): 発熱と有痛性の隆起性紅斑、好中球増多。骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病など血液腫瘍 ・壊疽性膿皮症: 急速に拡大する潰瘍。潰瘍性大腸炎などに加え、白血病・骨髄異形成症候群・多発性骨髄腫など ・腫瘍随伴性天疱瘡: 難治性の口腔粘膜びらん。悪性リンパ腫、Castleman 病、胸腺腫など ・壊死性遊走性紅斑: グルカゴノーマ(膵神経内分泌腫瘍)。開口部周囲や間擦部に環状に広がる紅斑とびらんで、亜鉛欠乏症候群と外観が似るので鑑別に注意する ・匍行性迂回状紅斑(erythema gyratum repens): 木目状に移動する紅斑。肺癌など ・後天性魚鱗癬: Hodgkin リンパ腫など ・紅皮症: 皮膚 T 細胞リンパ腫(Sézary 症候群)などが原因となることがある
黒色表皮腫の分類
・良性型: 遺伝性、肥満・インスリン抵抗性(2型糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群など)や内分泌疾患、薬剤に伴うもの。頻度は良性型が大部分を占める ・悪性型: 中高年に急速に発症し、皮疹が広範で、粘膜や手掌にも及び、瘙痒を伴うことがある。原因腫瘍の治療で皮疹が軽快することがあり、再燃は腫瘍の再発を示唆する
POINT
・急速に出現・拡大する黒色表皮腫は、胃癌などの内臓悪性腫瘍を疑う ・脂漏性角化症が急に多発すれば Leser-Trélat 徴候(消化器癌) ・成人の皮膚筋炎では悪性腫瘍を検索する ・弾性線維性仮性黄色腫、Ehlers-Danlos症候群、Fabry病は遺伝性疾患であり、悪性腫瘍の随伴症状ではない ・亜鉛欠乏症候群は開口部周囲・四肢末端の皮疹と味覚障害、脱毛が特徴で、グルカゴノーマの壊死性遊走性紅斑との鑑別に注意
