StudyMed医師国家試験

赤血球が「大きい」ときに足りないもの―英語で問われる巨赤芽球性貧血の基本

第120回医師国家試験 F問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第11問

Which deficiency is suspected in patients with macrocytic anemia?

  1. a.Erythropoietin
  2. b.Folic acid
  3. c.Potassium
  4. d.Sodium
  5. e.Vitamin D

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語で出題された問題だけど、中身は血液内科の基本中の基本だ。「macrocytic anemia」つまり大球性貧血で、何の欠乏を疑うかが問われている。まずは英単語を正しく読み取るところから始めよう。
医学生医学生
macrocyticが「大球性」、deficiencyが「欠乏」ですね。英語問題はまず単語で止まらないようにと、CBTの勉強仲間とよく言い合っていました。
ドクタードクター
その通り。ついでにmicrocyticが小球性、normocyticが正球性もセットで覚えておくといい。では、貧血をみたとき最初に何で分類するかな。
医学生医学生
平均赤血球容積、MCVですね。80 fL未満が小球性、80〜100 fLが正球性、100 fLを超えると大球性だったと思います。
ドクタードクター
完璧だ。MCVで3つに分けるだけで、原因の候補がぐっと絞れる。では、大球性貧血の代表といえば?
医学生医学生
巨赤芽球性貧血です。ビタミンB12と葉酸の欠乏が原因でした。
ドクタードクター
そう。だから選択肢の中では葉酸が正解になる。ここで大事なのは「なぜ大きくなるのか」という機序だ。葉酸もビタミンB12も、DNAの材料、特にチミジンの合成に欠かせない。欠乏すると核の分裂・成熟が遅れる一方で、RNAやヘモグロビンの合成は比較的保たれるから、細胞質だけが先に成熟していく。
医学生医学生
核と細胞質の成熟がずれる、いわゆる核・細胞質成熟解離ですね。病理の講義で、骨髄に大きな赤芽球が並ぶスライドを見た記憶があります。
ドクタードクター
それが巨赤芽球だ。分裂が追いつかないぶん、細胞が大きいまま残ってしまう。では、ほかの選択肢も確認しよう。エリスロポエチンが足りないとどうなる?
医学生医学生
腎性貧血になります。慢性腎臓病の患者さんで……でも、造血因子が足りないなら赤血球が大きくなることもあるのかなと少し迷いました。
ドクタードクター
迷うポイントだね。エリスロポエチンは主に腎臓でつくられ、赤芽球系前駆細胞の増殖・分化を促す。不足すると「つくる量」は減るけれど、材料やDNA合成そのものは障害されないから、赤血球のサイズは保たれる。つまり腎性貧血は正球性正色素性貧血なんだ。
医学生医学生
量の問題か、材料の問題か、で考えればいいんですね。カリウムやナトリウムはどうでしょう。
ドクタードクター
どちらも電解質で、造血やMCVに直接は関わらない。低カリウム血症なら筋力低下や不整脈、心電図のU波、低ナトリウム血症なら倦怠感や意識障害、けいれんといった症状が中心だ。ビタミンDも、欠乏すればくる病や骨軟化症、低カルシウム血症によるテタニーが問題になるけれど、貧血の原因にはならない。
医学生医学生
なるほど、葉酸以外は「欠乏しても赤血球の大きさは変わらない」ものばかりなんですね。
ドクタードクター
その整理で十分だ。ここからは臨床で役立つ発展知識。巨赤芽球性貧血では、好中球の過分葉、つまり核が5〜6分葉以上に分かれる所見がみられる。さらに骨髄で巨赤芽球が壊れてしまう無効造血のため、LDや間接ビリルビンが上がり、ハプトグロビンが下がる。
医学生医学生
溶血に似た検査値になるんですね。内科実習で、LDがすごく高い貧血の患者さんがいて、最初は溶血を疑ったと指導医の先生が話していました。
ドクタードクター
まさにそういう落とし穴がある。それから、葉酸欠乏とビタミンB12欠乏の見分け方も大切だ。葉酸は体内の貯蔵が少なく、数か月の摂取不足で欠乏しうる。アルコール多飲、妊娠・授乳、溶血性貧血での需要増大、メトトレキサートなどの葉酸拮抗薬が原因になる。一方ビタミンB12は肝臓に数年分の貯蔵があるから、欠乏までには時間がかかる。悪性貧血や胃全摘後が代表的だ。
医学生医学生
神経症状があればビタミンB12欠乏、でしたよね。亜急性連合性脊髄変性症で深部感覚が障害される。
ドクタードクター
その通り。そして臨床で特に注意したいのは、ビタミンB12欠乏の人に葉酸だけを補充すると、貧血は良くなっても神経障害が進行するおそれがあること。だから「大球性貧血だから葉酸」と短絡せず、原因を確かめてから補充することが大切なんだ。また、大球性貧血には骨髄異形成症候群、アルコール多飲、肝疾患、甲状腺機能低下症、網赤血球の増加なども含まれるから、ビタミン値が正常なら次の鑑別に進もう。
医学生医学生
MCVで分類して、機序から原因を考えて、治療の前に原因を確定する。英語問題でもやることは同じですね。

まとめ

貧血はMCVによって小球性・正球性・大球性に分類するのが基本で、大球性貧血(macrocytic anemia)ではまず巨赤芽球性貧血、すなわちビタミンB12欠乏と葉酸欠乏を疑います。両者はDNA合成に必須であり、欠乏すると核と細胞質の成熟解離が起こって大型の赤芽球が生じ、好中球過分葉や無効造血によるLD・間接ビリルビン上昇を伴います。エリスロポエチン欠乏による腎性貧血は正球性であり、カリウム・ナトリウム・ビタミンDの欠乏は貧血の原因とはなりません。神経症状があればビタミンB12欠乏を考え、葉酸の単独投与で神経障害を悪化させないよう原因を確定してから補充することが重要です。英語で出題されても、基本となる分類と機序を押さえていれば迷わず解ける問題です。

解答・解説

正解はbです

設問の意味

英文は「大球性貧血(macrocytic anemia)の患者で欠乏が疑われるものはどれか」という意味である。macrocytic は「大球性の」、deficiency は「欠乏」を指す。

考え方

貧血はまず平均赤血球容積(MCV: mean corpuscular volume)で小球性(MCV 80 fL 未満)、正球性(80〜100 fL)、大球性(100 fL 超)に分けて原因を絞り込むのが基本である。 大球性貧血の代表は巨赤芽球性貧血であり、その原因はビタミンB12または葉酸の欠乏である。両者はいずれも DNA 合成(とくにチミジン合成)に必須であるため、欠乏すると細胞核の分裂・成熟が遅れる。一方、RNA やヘモグロビンの合成は比較的保たれるので細胞質の成熟は進み、「核と細胞質の成熟のずれ(核・細胞質成熟解離)」が生じる。その結果、骨髄には大型の赤芽球(巨赤芽球)が出現し、末梢血では大球性の赤血球が増える。 したがって選択肢のうち、欠乏によって大球性貧血を来すのは葉酸(folic acid)である。他の選択肢は、欠乏しても貧血を来さないか、来しても正球性である。

選択肢考察

  1. ×a.  Erythropoietin

    エリスロポエチン(EPO)は主に腎臓の尿細管周囲間質細胞で産生され、赤芽球系前駆細胞の増殖・分化を促す造血因子である。慢性腎臓病などで産生が低下すると腎性貧血となるが、赤血球をつくる材料や DNA 合成は障害されないため、通常は正球性正色素性貧血を呈する。大球性貧血で最初に疑う欠乏ではない。

  2. ○b.  Folic acid

    葉酸は活性型(テトラヒドロ葉酸)として一炭素単位の転移を担い、DNA の構成成分であるチミジンやプリン塩基の合成に欠かせない。欠乏すると DNA 合成が障害されて核の成熟が遅れる一方、細胞質の成熟は進むため、赤芽球が大型化した巨赤芽球性貧血(大球性貧血)となる。ビタミンB12欠乏と並び、大球性貧血で最初に疑うべき欠乏である。

  3. ×c.  Potassium

    カリウムは細胞内液の主要な陽イオンで、静止膜電位の維持に関わる。欠乏(低カリウム血症)では筋力低下、麻痺、便秘・腸閉塞、不整脈(心電図で U 波の出現、T 波平低化)などを来すが、赤血球の大きさ(MCV)や造血に直接影響することはない。

  4. ×d.  Sodium

    ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンで、浸透圧と循環血漿量の維持に働く。欠乏(低ナトリウム血症)では倦怠感、食欲不振、頭痛、意識障害、けいれんなど主に中枢神経症状が出るが、大球性貧血の原因にはならない。

  5. ×e.  Vitamin D

    ビタミンDは腸管からのカルシウム・リン吸収を促進し、骨の石灰化に関与する。欠乏すると小児ではくる病、成人では骨軟化症を来し、低カルシウム血症によるテタニーを生じることもある。大球性貧血の原因となる欠乏ではない。

MCV による貧血の分類

・小球性(MCV 80 fL 未満): 鉄欠乏性貧血、サラセミア、慢性疾患に伴う貧血(一部)、鉄芽球性貧血 ・正球性(MCV 80〜100 fL): 腎性貧血、溶血性貧血、再生不良性貧血、急性出血、慢性疾患に伴う貧血 ・大球性(MCV 100 fL 超): 巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏)、骨髄異形成症候群、アルコール多飲、肝疾患、甲状腺機能低下症、網赤血球増加(溶血や出血後の回復期)、一部の薬剤(メトトレキサートなど)

巨赤芽球性貧血の検査所見

・MCV 高値の大球性正色素性貧血で、汎血球減少を伴うこともある ・好中球の過分葉(核が 5〜6 分葉以上) ・骨髄では巨赤芽球が増えるが、骨髄内で壊れてしまう(無効造血)ため、LD(乳酸脱水素酵素)と間接ビリルビンが上昇し、ハプトグロビンが低下する

葉酸欠乏とビタミンB12欠乏の比較

・葉酸欠乏: 体内の貯蔵量が少なく、数か月の摂取不足で欠乏しうる。原因は偏食・低栄養、アルコール多飲、妊娠・授乳(需要増大)、溶血性貧血(需要増大)、小腸の吸収不良、葉酸拮抗薬(メトトレキサート、ST 合剤など) ・ビタミンB12欠乏: 肝臓に数年分の貯蔵があるため、欠乏には長期間を要する。原因は悪性貧血(内因子に対する自己免疫)、胃全摘後、回腸末端切除、菜食主義など ・神経症状の有無が鑑別の要点で、ビタミンB12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症(深部感覚障害など)や末梢神経障害を来すが、葉酸欠乏では通常みられない ・ビタミンB12欠乏の患者に葉酸だけを投与すると、貧血は改善しても神経障害が進行するおそれがあるため、原因を確定してから補充する

POINT

・大球性貧血(MCV 100 fL 超)では、まずビタミンB12欠乏と葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)を疑う ・機序は DNA 合成障害による核・細胞質の成熟解離 ・腎性貧血(EPO 欠乏)は正球性、鉄欠乏は小球性 ・神経症状があればビタミンB12欠乏を考え、葉酸単独投与は避ける ・英単語: macrocytic=大球性、microcytic=小球性、normocytic=正球性、deficiency=欠乏、folic acid=葉酸

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。