赤血球が「大きい」ときに足りないもの―英語で問われる巨赤芽球性貧血の基本
第120回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
Which deficiency is suspected in patients with macrocytic anemia?
- a.Erythropoietin
- b.Folic acid
- c.Potassium
- d.Sodium
- e.Vitamin D
対話形式の解説
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医学生まとめ
貧血はMCVによって小球性・正球性・大球性に分類するのが基本で、大球性貧血(macrocytic anemia)ではまず巨赤芽球性貧血、すなわちビタミンB12欠乏と葉酸欠乏を疑います。両者はDNA合成に必須であり、欠乏すると核と細胞質の成熟解離が起こって大型の赤芽球が生じ、好中球過分葉や無効造血によるLD・間接ビリルビン上昇を伴います。エリスロポエチン欠乏による腎性貧血は正球性であり、カリウム・ナトリウム・ビタミンDの欠乏は貧血の原因とはなりません。神経症状があればビタミンB12欠乏を考え、葉酸の単独投与で神経障害を悪化させないよう原因を確定してから補充することが重要です。英語で出題されても、基本となる分類と機序を押さえていれば迷わず解ける問題です。
解答・解説
正解はbです
設問の意味
英文は「大球性貧血(macrocytic anemia)の患者で欠乏が疑われるものはどれか」という意味である。macrocytic は「大球性の」、deficiency は「欠乏」を指す。
考え方
貧血はまず平均赤血球容積(MCV: mean corpuscular volume)で小球性(MCV 80 fL 未満)、正球性(80〜100 fL)、大球性(100 fL 超)に分けて原因を絞り込むのが基本である。 大球性貧血の代表は巨赤芽球性貧血であり、その原因はビタミンB12または葉酸の欠乏である。両者はいずれも DNA 合成(とくにチミジン合成)に必須であるため、欠乏すると細胞核の分裂・成熟が遅れる。一方、RNA やヘモグロビンの合成は比較的保たれるので細胞質の成熟は進み、「核と細胞質の成熟のずれ(核・細胞質成熟解離)」が生じる。その結果、骨髄には大型の赤芽球(巨赤芽球)が出現し、末梢血では大球性の赤血球が増える。 したがって選択肢のうち、欠乏によって大球性貧血を来すのは葉酸(folic acid)である。他の選択肢は、欠乏しても貧血を来さないか、来しても正球性である。
選択肢考察
- ×a. Erythropoietin
エリスロポエチン(EPO)は主に腎臓の尿細管周囲間質細胞で産生され、赤芽球系前駆細胞の増殖・分化を促す造血因子である。慢性腎臓病などで産生が低下すると腎性貧血となるが、赤血球をつくる材料や DNA 合成は障害されないため、通常は正球性正色素性貧血を呈する。大球性貧血で最初に疑う欠乏ではない。
- ○b. Folic acid
葉酸は活性型(テトラヒドロ葉酸)として一炭素単位の転移を担い、DNA の構成成分であるチミジンやプリン塩基の合成に欠かせない。欠乏すると DNA 合成が障害されて核の成熟が遅れる一方、細胞質の成熟は進むため、赤芽球が大型化した巨赤芽球性貧血(大球性貧血)となる。ビタミンB12欠乏と並び、大球性貧血で最初に疑うべき欠乏である。
- ×c. Potassium
カリウムは細胞内液の主要な陽イオンで、静止膜電位の維持に関わる。欠乏(低カリウム血症)では筋力低下、麻痺、便秘・腸閉塞、不整脈(心電図で U 波の出現、T 波平低化)などを来すが、赤血球の大きさ(MCV)や造血に直接影響することはない。
- ×d. Sodium
ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンで、浸透圧と循環血漿量の維持に働く。欠乏(低ナトリウム血症)では倦怠感、食欲不振、頭痛、意識障害、けいれんなど主に中枢神経症状が出るが、大球性貧血の原因にはならない。
- ×e. Vitamin D
ビタミンDは腸管からのカルシウム・リン吸収を促進し、骨の石灰化に関与する。欠乏すると小児ではくる病、成人では骨軟化症を来し、低カルシウム血症によるテタニーを生じることもある。大球性貧血の原因となる欠乏ではない。
MCV による貧血の分類
・小球性(MCV 80 fL 未満): 鉄欠乏性貧血、サラセミア、慢性疾患に伴う貧血(一部)、鉄芽球性貧血 ・正球性(MCV 80〜100 fL): 腎性貧血、溶血性貧血、再生不良性貧血、急性出血、慢性疾患に伴う貧血 ・大球性(MCV 100 fL 超): 巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏)、骨髄異形成症候群、アルコール多飲、肝疾患、甲状腺機能低下症、網赤血球増加(溶血や出血後の回復期)、一部の薬剤(メトトレキサートなど)
巨赤芽球性貧血の検査所見
・MCV 高値の大球性正色素性貧血で、汎血球減少を伴うこともある ・好中球の過分葉(核が 5〜6 分葉以上) ・骨髄では巨赤芽球が増えるが、骨髄内で壊れてしまう(無効造血)ため、LD(乳酸脱水素酵素)と間接ビリルビンが上昇し、ハプトグロビンが低下する
葉酸欠乏とビタミンB12欠乏の比較
・葉酸欠乏: 体内の貯蔵量が少なく、数か月の摂取不足で欠乏しうる。原因は偏食・低栄養、アルコール多飲、妊娠・授乳(需要増大)、溶血性貧血(需要増大)、小腸の吸収不良、葉酸拮抗薬(メトトレキサート、ST 合剤など) ・ビタミンB12欠乏: 肝臓に数年分の貯蔵があるため、欠乏には長期間を要する。原因は悪性貧血(内因子に対する自己免疫)、胃全摘後、回腸末端切除、菜食主義など ・神経症状の有無が鑑別の要点で、ビタミンB12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症(深部感覚障害など)や末梢神経障害を来すが、葉酸欠乏では通常みられない ・ビタミンB12欠乏の患者に葉酸だけを投与すると、貧血は改善しても神経障害が進行するおそれがあるため、原因を確定してから補充する
POINT
・大球性貧血(MCV 100 fL 超)では、まずビタミンB12欠乏と葉酸欠乏(巨赤芽球性貧血)を疑う ・機序は DNA 合成障害による核・細胞質の成熟解離 ・腎性貧血(EPO 欠乏)は正球性、鉄欠乏は小球性 ・神経症状があればビタミンB12欠乏を考え、葉酸単独投与は避ける ・英単語: macrocytic=大球性、microcytic=小球性、normocytic=正球性、deficiency=欠乏、folic acid=葉酸
