皮膚は内臓を映す鏡―デルマドロームの「正しいペア」を見抜く
第114回医師国家試験 C問題 第8問
国試問題にチャレンジ
皮膚病変と疑うべき疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.Sweet病 ―― 慢性膵炎
- b.環状肉芽腫 ―― 甲状腺機能亢進症
- c.壊疽性膿皮症 ―― Fabry病
- d.浮腫性硬化症 ―― 糖尿病
- e.脛骨前粘液水腫 ―― 潰瘍性大腸炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
内臓疾患や全身性疾患に伴って現れる皮膚病変をデルマドロームといい、皮膚所見から背景疾患に気づくことは診断の糸口になります。浮腫性硬化症は項部から上背部の硬い非圧痕性浮腫で、糖尿病(特にコントロール不良の2型)、先行感染、単クローン性γグロブリン血症を背景とします。Sweet病は骨髄異形成症候群や白血病、壊疽性膿皮症は炎症性腸疾患や高安動脈炎、汎発型環状肉芽腫は糖尿病、脛骨前粘液水腫はBasedow病と対応させて覚えることが重要です。Fabry病では被角血管腫、膵炎では膵性脂肪織炎がみられるなど、紛らわしい組合せも整理しておきましょう。皮膚から全身を読む視点は、内科・皮膚科を問わず早期診断に役立つ臨床力の土台になります。
解答・解説
正解はdです
問われているテーマ
内臓疾患や全身性疾患に関連して現れる皮膚病変をデルマドローム(dermadrome)という。皮膚症状から背景にある全身疾患に気づくことは診断の糸口として重要であり、国家試験でも繰り返し問われている。本問は、5つの皮膚病変について、それぞれ背景として疑うべき疾患との組合せが正しいものを選ぶ。
考え方
各皮膚病変について、代表的な基礎疾患を対応させておく必要がある。 ・Sweet病 → 骨髄異形成症候群(MDS)、急性骨髄性白血病などの造血器疾患 ・環状肉芽腫 → 糖尿病(特に汎発型) ・壊疽性膿皮症 → 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、Crohn病)、高安動脈炎、関節リウマチ、造血器疾患 ・浮腫性硬化症 → 糖尿病、先行感染(溶連菌など)、単クローン性γグロブリン血症 ・脛骨前粘液水腫 → Basedow病(甲状腺機能亢進症) このうち設問の組合せと一致するのは「浮腫性硬化症 ― 糖尿病」だけである。他の選択肢は、皮膚病変と疾患の対応が入れ替えられていたり(環状肉芽腫と脛骨前粘液水腫の相手、壊疽性膿皮症の相手など)、関連の乏しい疾患が組み合わされたりしている。
選択肢考察
- ×a. Sweet病 ―― 慢性膵炎
Sweet病(急性熱性好中球性皮膚症)は、発熱と末梢血好中球増多を伴い、顔面・頸部・四肢などに有痛性で境界明瞭な隆起性紅斑(浮腫性紅斑や偽水疱を伴う局面)が急に出現する疾患で、真皮に密な好中球浸潤がみられる。上気道感染が先行することが多く、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの造血器腫瘍に合併しやすい点が重要である。ほかに固形癌、Behçet病、炎症性腸疾患、G-CSF製剤などの薬剤との関連も知られる。慢性膵炎との関連は乏しい。膵疾患(膵炎や膵腺房細胞癌)に関連する皮膚病変としては、皮下脂肪組織が膵酵素で壊死する膵性脂肪織炎が知られる。
- ×b. 環状肉芽腫 ―― 甲状腺機能亢進症
環状肉芽腫は、手背・指・肘・足背などに常色~淡紅色の小丘疹が環状に配列して拡大する良性の肉芽腫性疾患で、組織学的には膠原線維の変性を組織球が柵状に取り囲む柵状肉芽腫を示す。多くは原因不明の限局型であるが、全身に多発する汎発型は糖尿病との関連が指摘されている。ほかにHIV感染症やウイルス性肝炎(B型・C型)などとの関連も報告されている。甲状腺機能亢進症に特徴的な皮膚病変ではない。
- ×c. 壊疽性膿皮症 ―― Fabry病
壊疽性膿皮症は、膿疱や結節で始まり、急速に拡大して周囲が暗紫色で堀れ込むような辺縁をもつ有痛性の潰瘍を形成する好中球性皮膚症で、下腿に好発する。軽微な外傷を契機に悪化する(パテルギー)ことがある。患者の多く(約7割)が基礎疾患をもち、潰瘍性大腸炎やCrohn病などの炎症性腸疾患、高安動脈炎〈大動脈炎症候群〉、関節リウマチ、白血病・骨髄異形成症候群などの造血器疾患が代表的である。皮膚病変の活動性は腸病変の活動性と必ずしも並行しない。Fabry病はα-ガラクトシダーゼA欠損によるX連鎖性のライソゾーム病で、皮膚病変としては被角血管腫(びまん性体幹被角血管腫)や発汗低下がみられるが、壊疽性膿皮症とは関連しない。
- ○d. 浮腫性硬化症 ―― 糖尿病
浮腫性硬化症(Buschke浮腫性硬化症)は、項部(後頸部)から上背部・肩にかけての皮膚が、圧しても圧痕を残さない硬い浮腫状に肥厚する疾患で、真皮が肥厚し膠原線維間にムチン(ヒアルロン酸など)が沈着する。発症の背景は、①溶連菌感染症などの急性感染症に続いて主に小児・若年者に急性に生じ、数か月~2年程度で自然軽快することが多い型、②単クローン性γグロブリン血症(多発性骨髄腫など)に伴う型、③糖尿病に伴う型に大別される。糖尿病に伴う型は、肥満を伴う中年以降の男性で、長期にわたり血糖コントロール不良の2型糖尿病患者に多く、先行感染なく緩徐に発症して慢性に経過する。したがって浮腫性硬化症をみたら糖尿病を疑うのは正しい。
- ×e. 脛骨前粘液水腫 ―― 潰瘍性大腸炎
脛骨前粘液水腫は、下腿伸側(脛骨前面)に、毛孔が目立ちオレンジの皮様を呈する、境界明瞭な非圧痕性の隆起性局面・結節が生じる病変で、真皮にムコ多糖(ヒアルロン酸)が沈着する。Basedow病(甲状腺機能亢進症)の甲状腺外症状として知られ、甲状腺眼症(眼球突出など)を伴うことが多い。TSH受容体抗体が線維芽細胞を刺激することが関与すると考えられている。頻度は低いが橋本病などで甲状腺機能低下症の状態でもみられることがある。潰瘍性大腸炎とは関連しない。潰瘍性大腸炎に伴う皮膚病変としては、壊疽性膿皮症や結節性紅斑が代表的である。
主なデルマドロームと疑うべき疾患
・Sweet病:骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病 ・壊疽性膿皮症:潰瘍性大腸炎、Crohn病、高安動脈炎、関節リウマチ、造血器疾患 ・結節性紅斑:溶連菌感染症、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病、結核 ・浮腫性硬化症:糖尿病、先行感染(溶連菌など)、単クローン性γグロブリン血症 ・環状肉芽腫(汎発型):糖尿病 ・リポイド類壊死症(下腿前面の黄色調萎縮性局面):糖尿病 ・糖尿病性水疱、前脛骨部色素斑(糖尿病性皮膚障害):糖尿病 ・脛骨前粘液水腫:Basedow病 ・黒色表皮腫(悪性型):胃癌などの内臓悪性腫瘍(腺癌)。良性型は肥満・インスリン抵抗性 ・Leser-Trélat徴候(脂漏性角化症の急激な多発):内臓悪性腫瘍(胃癌など) ・皮膚筋炎:内臓悪性腫瘍の合併に注意 ・膵性脂肪織炎:膵炎、膵腺房細胞癌 ・壊死性遊走性紅斑:グルカゴノーマ ・被角血管腫(びまん性体幹被角血管腫):Fabry病 ・Gottron徴候、ヘリオトロープ疹:皮膚筋炎 ・手掌紅斑、くも状血管腫:肝硬変
好中球性皮膚症
Sweet病、壊疽性膿皮症、Behçet病の皮膚症状などは、感染によらない好中球浸潤を主体とする「好中球性皮膚症」としてまとめられ、いずれも造血器疾患や炎症性腸疾患などの全身疾患を背景にもつことが多い。パテルギー(針反応)陽性となりうる点も共通する。
皮膚のムチン沈着症
浮腫性硬化症と脛骨前粘液水腫は、いずれも真皮にムチン(ヒアルロン酸などのムコ多糖)が沈着する疾患である。前者は項部・上背部、後者は下腿伸側と好発部位が異なり、背景疾患も前者は糖尿病、後者はBasedow病と異なる。
POINT
・浮腫性硬化症 → 糖尿病(項部~上背部の硬い非圧痕性浮腫)。ほかに先行感染、単クローン性γグロブリン血症。 ・Sweet病 → 骨髄異形成症候群・白血病。 ・壊疽性膿皮症 → 炎症性腸疾患、高安動脈炎、関節リウマチ、造血器疾患。 ・環状肉芽腫(汎発型) → 糖尿病。 ・脛骨前粘液水腫 → Basedow病。 ・Fabry病の皮膚症状は被角血管腫と発汗低下。
