StudyMed医師国家試験

心尖部で鳴り続ける高い音―「いつ・どこで・どんな音」で僧帽弁閉鎖不全症を聴き分ける

第120回医師国家試験 E問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第120回 E問題 第19問

身体診察で,心尖部に全収縮期にわたる高調な雑音が聴取されたときに最も考えられる疾患はどれか。

  1. a.心室中隔欠損症
  2. b.大動脈弁狭窄症
  3. c.肺動脈弁狭窄症
  4. d.三尖弁閉鎖不全症
  5. e.僧帽弁閉鎖不全症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心雑音の聴診所見から疾患を推定する問題だ。心雑音を聴いたら、タイミング、性状、そして最強点の3つを整理するのが基本。この問題ではその3つがすべて文章で与えられているから、一つずつ意味を考えていこう。まず「全収縮期にわたる」というのはどういう雑音だと思う?
医学生医学生
Ⅰ音のすぐ後からⅡ音まで、収縮期の間ずっと鳴っている雑音ですよね。
ドクタードクター
その通り。全収縮期雑音、汎収縮期雑音とも呼ぶ。収縮期を通して「圧の高い腔から低い腔へ」血液が漏れ続けるときに生じるんだ。では、収縮期にずっと血液が漏れ続ける病態にはどんなものがあるかな。
医学生医学生
房室弁の逆流、つまり僧帽弁閉鎖不全症と三尖弁閉鎖不全症ですね。あと心室中隔欠損症もそうだったと思います。
ドクタードクター
完璧だね。この3つが全収縮期雑音の代表だ。どれも圧較差のある腔の間で、狭い隙間を血液が高速で通過するから、高調な雑音になりやすい。一方で大動脈弁狭窄症はどうだろう。
医学生医学生
収縮期雑音なので、全収縮期雑音に入るのかと思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。大動脈弁狭窄症や肺動脈弁狭窄症のような半月弁の狭窄では、心室から血液が駆出されるタイミングに合わせて雑音が強まり、また弱まる。漸増漸減型、ダイヤモンド型と呼ばれる収縮期駆出性雑音で、Ⅰ音直後や収縮末期には途切れるんだ。逆流性の全収縮期雑音がほぼ一定の強さで続くのとは形が違う。
医学生医学生
なるほど、心音図で描くとダイヤモンド型と長方形くらいの違いがあるんですね。
ドクタードクター
いいイメージだ。さらに最強点も大動脈弁狭窄症は胸骨右縁第2肋間で頸部に放散、肺動脈弁狭窄症は胸骨左縁第2肋間だから、心尖部とは場所も合わない。では全収縮期雑音の3疾患を、最強点でどう区別する?
医学生医学生
OSCEの練習で聴診部位を覚えました。心尖部は僧帽弁領域、胸骨左縁下部は三尖弁領域です。心室中隔欠損症は……胸骨左縁でしたっけ。
ドクタードクター
そう、心室中隔欠損症は欠損孔に近い胸骨左縁第3〜4肋間あたりで最も強く聴こえる。欠損孔が小さいほど圧較差が保たれて粗く大きな雑音になり、スリルを触れることも多い。三尖弁閉鎖不全症は胸骨左縁下部で、吸気で静脈還流が増えると雑音が強くなるRivero-Carvallo徴候が鑑別のポイントだ。
医学生医学生
ということは、心尖部で全収縮期・高調なら僧帽弁閉鎖不全症ですね。
ドクタードクター
正解。収縮期全体を通じて左室から左房へ血液が逆流し、その発生源である僧帽弁に近い心尖部で最強となる。典型的には左腋窩へ放散するのも特徴だよ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、指導医の先生に「MRは腋窩まで聴診器を滑らせて追いかけろ」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
良い指導医だね。放散方向は大きな手がかりで、僧帽弁閉鎖不全症なら左腋窩、大動脈弁狭窄症なら頸部へ響く。ただし高齢者の大動脈弁狭窄症では、雑音が心尖部に伝わって聴こえるGallavardin現象もあるから、性状と放散方向を合わせて判断することが大切だ。
医学生医学生
場所だけで決めつけず、雑音の形と放散も確認する必要があるんですね。体位で聴きやすくなる工夫もありましたよね。
ドクタードクター
ある。僧帽弁の雑音は左側臥位で聴きやすく、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音は前傾座位で息を吐いて止めると聴きやすい。呼吸では吸気で右心系、呼気で左心系の雑音が相対的に強まる。それから高度の僧帽弁閉鎖不全症ではⅢ音を伴うことがあるし、雑音の大きさや持続時間は重症度を反映することもあるから、気になったら心エコーで逆流の程度を必ず確認しよう。
医学生医学生
聴診で当たりをつけて、エコーで確かめる流れですね。
ドクタードクター
その通り。拡張期雑音や連続性雑音も含めて、「いつ・どんな音が・どこで・どこへ響くか」を一覧で整理しておくと、国試でも病棟でも迷わなくなるよ。

まとめ

心尖部で聴取される高調な全収縮期雑音は、僧帽弁閉鎖不全症の典型的な所見です。全収縮期雑音は収縮期を通して高圧腔から低圧腔へ血液が漏れ続ける病態で生じ、僧帽弁閉鎖不全症・三尖弁閉鎖不全症・心室中隔欠損症が代表で、最強点が心尖部ならMR、胸骨左縁第3〜4肋間ならVSD、胸骨左縁下部で吸気増強ならTRと区別します。大動脈弁狭窄症や肺動脈弁狭窄症は漸増漸減型の収縮期駆出性雑音で、最強点もそれぞれ胸骨右縁・左縁第2肋間です。MRの雑音は左腋窩へ、ASの雑音は頸部へ放散し、体位や呼吸による変化も鑑別に役立ちます。雑音のタイミング・性状・最強点・放散方向を組み合わせて考える習慣は、身体診察から弁膜症を推定する力の基礎となります。

解答・解説

正解はeです

【テーマ】心雑音の性状と最強点からの疾患推定 心雑音を聴いたら、少なくとも次の3点を整理する。 1. タイミング: 収縮期か拡張期か(あるいは連続性か) 2. 性状: 駆出性(漸増漸減型、ダイヤモンド型)か、逆流性(全収縮期にわたりほぼ一定の強さ)か、高調か低調か 3. 最強点と放散方向: 雑音の発生源に近い部位で最も強く聴こえる

全収縮期雑音の考え方

全収縮期雑音(汎収縮期雑音)は、Ⅰ音の直後からⅡ音まで収縮期全体にわたって持続する雑音である。収縮期を通じて「圧の高い腔から低い腔へ」血液が漏れ続ける病態で生じ、代表は房室弁(僧帽弁・三尖弁)の逆流と心室中隔欠損症である。圧較差が大きく、狭い孔を高速で血液が通過するため、高調な雑音になりやすい。 これに対し、大動脈弁狭窄症や肺動脈弁狭窄症のような半月弁の狭窄では、心室から血液が駆出される時期に一致して強くなり弱まる収縮期駆出性雑音となり、Ⅰ音直後や収縮末期には雑音が途切れる。

最強点で絞り込む

全収縮期雑音を生じる3疾患は、最強点で区別する。 ・心尖部(左第5肋間鎖骨中線付近): 僧帽弁閉鎖不全症 ・胸骨左縁第3〜4肋間: 心室中隔欠損症 ・胸骨左縁下部(第4〜5肋間): 三尖弁閉鎖不全症 したがって、「心尖部」「全収縮期」「高調」という3つの手がかりがそろう本問では、僧帽弁閉鎖不全症が最も考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  心室中隔欠損症

    心室中隔欠損症(VSD)では、収縮期を通じて左室から右室へ血液が短絡(左右シャント)するため、全収縮期雑音を聴取する。ただし最強点は欠損孔に近い胸骨左縁第3〜4肋間であり、心尖部ではない。欠損孔が小さいほど圧較差が保たれて粗く大きな雑音となり、しばしば振戦(スリル)を触れる。

  2. ×b.  大動脈弁狭窄症

    大動脈弁狭窄症(AS)では、狭くなった大動脈弁を左室からの血液が通過する際に、漸増漸減型(ダイヤモンド型)の収縮期駆出性雑音が生じる。最強点は胸骨右縁第2肋間(大動脈弁領域)で、頸部(頸動脈)へ放散する。全収縮期雑音ではなく、最強点も心尖部ではない。なお高齢者では雑音が心尖部へ伝わって聴こえること(Gallavardin現象)があるが、典型的な所見ではない。

  3. ×c.  肺動脈弁狭窄症

    肺動脈弁狭窄症(PS)では、右室から肺動脈への駆出時に漸増漸減型の収縮期駆出性雑音を生じる。最強点は胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域)であり、全収縮期雑音でも心尖部の雑音でもない。狭窄が強いと雑音のピークが収縮後期へずれ、Ⅱ音の肺動脈成分が遅れて分裂が広がる。

  4. ×d.  三尖弁閉鎖不全症

    三尖弁閉鎖不全症(TR)では、収縮期に右室から右房へ逆流が起こるため全収縮期雑音を聴取するが、最強点は胸骨左縁下部(第4〜5肋間)である。吸気時に静脈還流が増えて右心系の血流量が増すため雑音が強くなる(Rivero-Carvallo徴候)ことが、僧帽弁閉鎖不全症との鑑別点となる。

  5. ○e.  僧帽弁閉鎖不全症

    僧帽弁閉鎖不全症(MR)では、収縮期全体を通じて左室から左房へ血液が逆流する。左室と左房の間には大きな圧較差があるため、高調で、収縮期全体にわたりほぼ一定の強さの全収縮期雑音となる。発生源である僧帽弁に近い心尖部で最も強く聴取され、左腋窩へ放散するのが典型である。心尖部・全収縮期・高調という本問の所見すべてに合致する。

主な弁膜症・先天性心疾患の雑音の整理

・僧帽弁閉鎖不全症: 全収縮期雑音、心尖部、左腋窩へ放散。高度ではⅢ音を伴うことがある。 ・三尖弁閉鎖不全症: 全収縮期雑音、胸骨左縁下部、吸気で増強(Rivero-Carvallo徴候)。 ・心室中隔欠損症: 全収縮期雑音、胸骨左縁第3〜4肋間、スリルを伴うことが多い。 ・大動脈弁狭窄症: 収縮期駆出性雑音(漸増漸減型)、胸骨右縁第2肋間、頸部へ放散。 ・肺動脈弁狭窄症: 収縮期駆出性雑音、胸骨左縁第2肋間。 ・心房中隔欠損症: 胸骨左縁第2肋間の収縮期駆出性雑音(相対的肺動脈弁狭窄)とⅡ音の固定性分裂。 ・大動脈弁閉鎖不全症: 拡張期灌水様雑音(高調・漸減型)、胸骨左縁第3肋間(Erb領域)。 ・僧帽弁狭窄症: 拡張期ランブル(低調)、心尖部、僧帽弁開放音(OS)とⅠ音亢進を伴う。 ・動脈管開存症: 連続性雑音、胸骨左縁第2肋間(左鎖骨下)。

聴診部位

大動脈弁領域は胸骨右縁第2肋間、肺動脈弁領域は胸骨左縁第2肋間、Erb領域は胸骨左縁第3肋間、三尖弁領域は胸骨左縁第4〜5肋間、僧帽弁領域は心尖部(左第5肋間鎖骨中線付近)である。

聴診の補助

体位や呼吸による変化も診断に役立つ。吸気では右心系の雑音が強まり、呼気では左心系の雑音が相対的に強まる。僧帽弁の雑音は左側臥位で、大動脈弁閉鎖不全症の雑音は前傾座位・呼気止めで聴きやすくなる。また雑音の大きさや持続時間は重症度を反映することがある。

POINT

・全収縮期雑音を生じる代表疾患: 僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、心室中隔欠損症。 ・最強点で区別: 心尖部ならMR、胸骨左縁第3〜4肋間ならVSD、胸骨左縁下部で吸気増強ならTR。 ・半月弁狭窄(AS、PS)は全収縮期雑音ではなく収縮期駆出性雑音(漸増漸減型)である。 ・MRの雑音は左腋窩へ、ASの雑音は頸部へ放散する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。