雑音は「血流の行き先」で鳴る―大動脈弁狭窄症の最強点が胸骨右縁にある理由
第119回医師国家試験 B問題 第9問
国試問題にチャレンジ
胸部の模式図を下に示す。 大動脈弁狭窄症で聴取される収縮期雑音の最強点はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
大動脈弁狭窄症の駆出性収縮期雑音は、第2肋間胸骨右縁(大動脈弁領域)で最強となり、頸部へ放散します。心雑音の最強点は弁の解剖学的位置ではなく、弁を通過した血流が向かう方向で胸壁に近づく部位に現れるため、上行大動脈に沿って右上へ向かう血流を反映して胸骨右縁上部で聴かれるのです。第2肋間胸骨左縁は肺動脈弁、第3肋間胸骨左縁(Erb領域)は大動脈弁閉鎖不全症、第4肋間胸骨左縁は三尖弁、心尖部は僧帽弁の雑音をそれぞれ聴く部位として整理しておきましょう。模式図は向かって左が患者の右側である点にも注意が必要です。「血流の向き」で最強点を理解しておくと、暗記に頼らず多くの心雑音を論理的に整理でき、ベッドサイドでの聴診にも直結します。
解答・解説
正解はaです
図の読み方
模式図は患者を正面から見たものであり、図の左側が患者の右側、図の右側が患者の左側になる。胸骨(図中央の縦線)を基準にすると、 ・①:胸骨右縁の上部(第2肋間胸骨右縁) ・②:胸骨左縁の上部(第2肋間胸骨左縁) ・③:胸骨右縁の下部 ・④:胸骨左縁の下部(第3〜4肋間胸骨左縁) ・⑤:左鎖骨中線付近の左下方、すなわち心尖部 に相当する。
心雑音の最強点の考え方
心雑音の最強点は、弁の解剖学的位置そのものではなく、その弁を通過した血流(乱流)が向かう方向で胸壁に最も近づく部位に現れる。大動脈弁は解剖学的には胸骨のほぼ中央、第3肋間の高さの奥にあるが、狭窄した弁口から噴出した血流は上行大動脈に沿って右上方へ向かう。上行大動脈は胸骨の右縁寄りを上行して前胸壁に近づくため、大動脈弁狭窄症(AS)の収縮期雑音は第2肋間胸骨右縁で最もよく聴取され、さらに血流の方向に沿って頸部(頸動脈)へ放散する。したがって正解は①である。
選択肢考察
- ○a. ①
第2肋間胸骨右縁で、大動脈弁領域(大動脈弁の聴診部位)と呼ばれる。大動脈弁狭窄症では、狭い弁口を通過する収縮期の高速血流が上行大動脈内で乱流を生じ、粗く大きな駆出性収縮期雑音(収縮中期にピークをもつ漸増・漸減型、ダイヤモンド型の雑音)としてここで最強に聴取される。雑音は血流方向に一致して頸部へ放散するのが特徴である。重症になるとピークが収縮後期にずれ、大動脈弁の閉鎖音(II音大動脈成分)が減弱する。
- ×b. ②
第2肋間胸骨左縁で、肺動脈弁領域と呼ばれる。肺動脈弁狭窄症の駆出性収縮期雑音の最強点である。また、心房中隔欠損症では右室から肺動脈への血流量が増えるため、器質的な狭窄がなくても相対的肺動脈弁狭窄による収縮期駆出性雑音がここで聴かれる。動脈管開存症の連続性雑音(機械様雑音)は、この部位からやや外上方の左鎖骨下(第1〜2肋間胸骨左縁)で最強となる。
- ×c. ③
胸骨右縁下部で、通常の弁膜症の雑音の最強点として挙げられる部位ではない。ただし、上行大動脈の拡張(大動脈弁輪拡張症、大動脈解離など)により大動脈基部が右方に偏位した病態では、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音が胸骨左縁より胸骨右縁で強く聴かれることがあり、大動脈基部病変を疑う手がかりとなる。
- ×d. ④
胸骨左縁下部(第3〜4肋間胸骨左縁)である。第3肋間胸骨左縁はErb領域と呼ばれ、大動脈弁閉鎖不全症の高調な拡張期逆流性雑音がよく聴かれる(肺動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音もこの付近で聴かれる)。また、心室中隔欠損症では左室から右室へのシャント血流により、この付近で強い汎収縮期雑音を聴取する。第4肋間胸骨左縁は三尖弁領域であり、三尖弁閉鎖不全症の汎収縮期雑音が聴取され、吸気で増強する(Rivero-Carvallo徴候)。大動脈弁狭窄症の雑音もこの付近まで伝わることはあるが、最強点ではない。
- ×e. ⑤
心尖部(第5肋間左鎖骨中線付近)で、僧帽弁領域と呼ばれる。僧帽弁閉鎖不全症の汎収縮期雑音(左腋窩へ放散)や、僧帽弁狭窄症の拡張中期のランブル(低調で「ゴロゴロ」と表現される雑音、左側臥位でベル型聴診器を用いると聴きやすい)の最強点である。高齢者の大動脈弁狭窄症では、雑音の高調成分が心尖部でよく聴かれ、僧帽弁閉鎖不全症と紛らわしいことがある(Gallavardin現象)が、本来の最強点は①である。
主な聴診部位
・大動脈弁領域:第2肋間胸骨右縁 ・肺動脈弁領域:第2肋間胸骨左縁 ・Erb領域:第3肋間胸骨左縁 ・三尖弁領域:第4肋間胸骨左縁(胸骨下端付近) ・僧帽弁領域:心尖部(第5肋間左鎖骨中線付近)
代表的な心雑音と最強点
・大動脈弁狭窄症:収縮期駆出性雑音、第2肋間胸骨右縁、頸部へ放散 ・肺動脈弁狭窄症:収縮期駆出性雑音、第2肋間胸骨左縁 ・大動脈弁閉鎖不全症:拡張期灌水様雑音(高調・漸減型)、第3肋間胸骨左縁(Erb領域)、前傾座位・呼気止めで聴きやすい ・心室中隔欠損症:汎収縮期雑音、第3〜4肋間胸骨左縁 ・三尖弁閉鎖不全症:汎収縮期雑音、第4肋間胸骨左縁、吸気で増強 ・僧帽弁閉鎖不全症:汎収縮期雑音、心尖部、左腋窩へ放散 ・僧帽弁狭窄症:拡張中期ランブル(前収縮期増強を伴うことがある)、心尖部 ・動脈管開存症:連続性雑音、第1〜2肋間胸骨左縁(左鎖骨下)
大動脈弁狭窄症の概要
原因は高齢者の加齢性(動脈硬化性)石灰化が最も多く、若年〜中年では先天性二尖弁が重要である(リウマチ性は減少)。狭窄により左室に圧負荷がかかり、求心性左室肥大をきたす。狭心症・失神・心不全が三大症状で、症状が出現すると予後が急速に悪化するため、弁置換術(外科的大動脈弁置換術または経カテーテル大動脈弁植込み術:TAVI)を検討する。身体所見では、駆出性収縮期雑音のほか、遅脈・小脈、II音の減弱や奇異性分裂、IV音などがみられる。
POINT
・模式図は向かって左が患者の右側である。 ・大動脈弁狭窄症の収縮期駆出性雑音は第2肋間胸骨右縁で最強、頸部へ放散する。 ・最強点は弁の位置ではなく、弁を通過した血流が向かう方向で決まる。 ・第2肋間胸骨左縁は肺動脈弁、第3肋間胸骨左縁(Erb領域)は大動脈弁閉鎖不全症、第4肋間胸骨左縁は三尖弁、心尖部は僧帽弁の雑音を聴く部位である。
