StudyMed医師国家試験

弁が壊れるか、支えが崩れるか―「僧帽弁複合体」で読み解く僧帽弁閉鎖不全症の原因

第119回医師国家試験 D問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第15問

僧帽弁閉鎖不全症の原因となるのはどれか。3つ選べ。

  1. a.高安動脈炎
  2. b.拡張型心筋症
  3. c.急性心筋梗塞
  4. d.感染性心内膜炎
  5. e.急性大動脈解離

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、僧帽弁閉鎖不全症を起こす疾患を選ぶ問題だ。暗記で解くこともできるけれど、「僧帽弁はどんな仕組みで閉じているのか」を考えると、迷わずに答えにたどり着ける。まず、僧帽弁がきちんと閉じるには何が必要だと思う?
医学生医学生
弁尖がしっかりしていること……でしょうか。弁そのものが壊れたら逆流しそうです。
ドクタードクター
それも大事だね。ただ、弁尖だけでは足りないんだ。弁尖の付け根の弁輪、弁尖を引っ張る腱索、腱索をつなぎとめる乳頭筋、そして乳頭筋が付いている左室壁。これら全体を「僧帽弁複合体」と呼び、どこか一か所が障害されても、収縮期に左室から左房へ血液が逆流する。
医学生医学生
解剖実習で心臓を開いたとき、腱索がパラシュートの紐みたいに見えたのを思い出しました。紐が切れても、紐を持つ手がずれても、傘はうまく開かないということですね。
ドクタードクター
うまいたとえだね。その視点で原因を2つに分けよう。弁尖や腱索そのものが壊れる「一次性(器質性)」と、弁は正常なのに左室の拡大や変形で弁が合わさらなくなる「二次性(機能性)」だ。では、拡張型心筋症はどちらに入るかな。
医学生医学生
心筋の病気なので、弁自体は正常ですよね。二次性でしょうか。
ドクタードクター
その通り。拡張型心筋症では左室が大きくなって弁輪も広がり、弁尖同士が届かなくなる。さらに乳頭筋が外側・心尖方向にずれるので、腱索を介して弁尖が心尖側へ引っ張られる。これをテザリングと呼ぶ。弁に病変がなくても逆流が起こる、機能性MRの代表だ。
医学生医学生
逆流があると左室にさらに容量負荷がかかって、もっと拡大しそうです。
ドクタードクター
鋭いね。逆流が左室拡大を進め、拡大がさらに逆流を増やすという悪循環になり、心不全の増悪につながる。次は急性心筋梗塞。これはどう関わると思う?
医学生医学生
循環器内科の実習で、心筋梗塞の機械的合併症として乳頭筋断裂を習いました。乳頭筋が壊死して切れるんですよね。
ドクタードクター
そう。乳頭筋の虚血による機能不全や、壊死した乳頭筋の断裂で僧帽弁閉鎖不全症が起こる。断裂は発症後数日以内に起こることが多く、突然の重症MRで急性肺水腫や心原性ショックに陥る。ちなみに断裂しやすいのは前と後ろ、どちらの乳頭筋かな。
医学生医学生
えっと、前乳頭筋のほうが大きいので負担がかかって切れやすい……ですか?
ドクタードクター
そこは逆なんだ。前乳頭筋は左前下行枝と左回旋枝の二重支配を受けるけれど、後乳頭筋は右冠動脈(または左回旋枝)の単独支配。血流の逃げ道がない後乳頭筋のほうが断裂しやすく、下壁梗塞に合併しやすいんだ。
医学生医学生
二重支配だと片方が詰まっても持ちこたえられる、ということですね。では感染性心内膜炎は一次性ですか。
ドクタードクター
そう、一次性の代表のひとつだ。弁や腱索に疣腫ができて組織を破壊し、弁尖の穿孔や腱索断裂を起こす。急速に進めば急性の重症MRとなり心不全をきたす。逆流による心不全や制御できない感染、塞栓リスクの高い大きな疣腫は手術を考える材料になる。
医学生医学生
残りの高安動脈炎と急性大動脈解離は、どちらも大動脈の病気ですね。CBTの勉強では、高安動脈炎で大動脈弁閉鎖不全症が出ると覚えました。
ドクタードクター
その整理で正しい。高安動脈炎は大動脈とその主要分枝の大型血管炎で、上行大動脈や大動脈基部が拡張すると大動脈弁輪が引き伸ばされ、大動脈弁閉鎖不全症を合併することがある。急性大動脈解離もStanford A型で解離が基部に及ぶと、弁の支持が失われて大動脈弁閉鎖不全症をきたしうる。でも僧帽弁閉鎖不全症の原因としては挙げられない。
医学生医学生
「大動脈の病気なら大動脈弁、左室や僧帽弁複合体の病気なら僧帽弁」と対応させればいいんですね。だから答えは拡張型心筋症、急性心筋梗塞、感染性心内膜炎の3つです。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床で大事なことを足しておこう。急性MRと慢性MRでは経過がまったく違う。慢性MRでは左房・左室が徐々に拡大して適応するから長く無症状のこともあるけれど、急性MRでは左房が広がる時間がなく、左房圧が急上昇して肺水腫に直結する。
医学生医学生
だから乳頭筋断裂や感染性心内膜炎の腱索断裂は、一気に重症化するんですね。聴診ではどこに注目すればいいですか。
ドクタードクター
心尖部を最強点として腋窩へ放散する汎収縮期雑音が基本だ。心筋梗塞の数日後に新しい収縮期雑音が出てきて急に呼吸が苦しくなったら、乳頭筋断裂を疑ってすぐに心エコーで確認する。カラードプラで逆流の重症度だけでなく、原因が弁尖の病変なのか左室の拡大なのかまで評価することが、治療方針を決めるカギになるよ。
医学生医学生
OSCEの心音聴取で何となく聞いていた雑音も、背景の病態を考えながら聞くと意味が変わりそうです。
ドクタードクター
その姿勢が大切だね。ほかにも一次性には僧帽弁逸脱症やリウマチ性弁膜症、二次性には心房細動による弁輪拡大などもあるから、一緒に整理しておこう。

まとめ

僧帽弁は弁尖・弁輪・腱索・乳頭筋・左室壁からなる「僧帽弁複合体」で閉じており、そのどこが障害されても僧帽弁閉鎖不全症が起こります。弁尖や腱索自体が壊れる一次性には感染性心内膜炎・僧帽弁逸脱症・リウマチ性弁膜症が、左室拡大で弁が合わさらなくなる二次性には拡張型心筋症や虚血性心疾患が含まれ、急性心筋梗塞では単独支配の後乳頭筋の断裂による急性重症MRが重要です。一方、高安動脈炎や急性大動脈解離などの大動脈病変が合併しやすいのは大動脈弁閉鎖不全症です。急性MRは左房が適応できず肺水腫・ショックに直結するため、心筋梗塞後の新たな収縮期雑音には特に注意が必要です。弁膜症を「どの構造が壊れたか」で考える習慣は、聴診や心エコーの解釈、治療方針の理解に直結します。

解答・解説

正解はb, c, dです

僧帽弁がきちんと閉じるためには、弁尖、弁輪、腱索、乳頭筋、そして乳頭筋が付着する左室壁という「僧帽弁複合体」全体が正常に働く必要がある。このどこかが障害されると、収縮期に血液が左室から左房へ逆流する僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)が生じる。 原因は大きく2つに分けて考えるとよい。 ・一次性(器質性)MR:弁そのもの(弁尖・腱索)の病変による。僧帽弁逸脱症(粘液腫様変性)、リウマチ性弁膜症、感染性心内膜炎による弁穿孔・腱索断裂など。 ・二次性(機能性)MR:弁自体は正常だが、左室の拡大や変形によって弁がうまく合わさらなくなる。拡張型心筋症、陳旧性心筋梗塞(虚血性MR)など。 このほか、急性心筋梗塞による乳頭筋断裂は、弁を支える構造が突然壊れることで重篤な急性MRを起こす。 この視点で選択肢を見ると、拡張型心筋症(左室拡大による二次性MR)、急性心筋梗塞(乳頭筋の虚血・断裂)、感染性心内膜炎(弁尖・腱索の破壊)が僧帽弁閉鎖不全症の原因となる。一方、高安動脈炎と急性大動脈解離は大動脈の病変であり、合併しやすい弁膜症は大動脈弁閉鎖不全症である。「大動脈の病気→大動脈弁閉鎖不全症、左室・僧帽弁複合体の病気→僧帽弁閉鎖不全症」と対応づけて整理するとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  高安動脈炎

    誤り。高安動脈炎(大動脈炎症候群)は、大動脈とその主要分枝(頸動脈、鎖骨下動脈、腎動脈など)に原因不明の肉芽腫性炎症が起こり、狭窄・閉塞・拡張をきたす大型血管炎である。若年女性に多く、脈拍の左右差や減弱(脈なし病)、血圧の左右差、血管雑音、上肢の易疲労感などを示す。上行大動脈や大動脈基部が拡張すると大動脈弁輪が引き伸ばされて大動脈弁閉鎖不全症を合併することがあり、これは予後に関わる重要な合併症である。しかし炎症は僧帽弁には波及しにくく、僧帽弁閉鎖不全症の原因としては挙げられない。

  2. ○b.  拡張型心筋症

    正しい。拡張型心筋症では左室が拡大し、収縮能が低下する。左室拡大に伴って僧帽弁輪が拡張すると、弁尖が覆うべき面積が広がり弁尖同士が十分に接合できなくなる。さらに乳頭筋が外側・心尖方向へ偏位するため、腱索を介して弁尖が心尖方向へ引っ張られ(テザリング)、弁尖が弁輪の高さまで閉じなくなる。このように弁自体に病変がなくても逆流が起こる機能性(二次性)MRの代表である。逆流は左室の容量負荷をさらに増やして左室拡大を進めるため、心不全の増悪につながる悪循環を形成する。

  3. ○c.  急性心筋梗塞

    正しい。急性心筋梗塞では、乳頭筋の虚血による機能不全や、壊死した乳頭筋の断裂によって僧帽弁閉鎖不全症が生じる。乳頭筋断裂は心筋梗塞の機械的合併症の一つで、発症後数日以内(多くは1週間以内)に起こり、突然の重症MRにより急性肺水腫や心原性ショックをきたす。前乳頭筋が左前下行枝と左回旋枝の二重支配を受けるのに対し、後乳頭筋は右冠動脈(または左回旋枝)の単独支配であるため、後乳頭筋が断裂しやすく、下壁(・後壁)梗塞に合併することが多い。新たに出現した収縮期雑音が手がかりとなり、心エコーで診断し、緊急手術(僧帽弁置換術など)が必要となる。また慢性期には梗塞部の左室リモデリングによって乳頭筋が偏位し、虚血性(二次性)MRをきたすこともある。

  4. ○d.  感染性心内膜炎

    正しい。感染性心内膜炎では、弁や腱索に細菌などが付着して疣腫(ゆうしゅ、vegetation)を形成し、組織を破壊する。僧帽弁に感染が起こると、弁尖の穿孔や腱索断裂によって弁が閉じなくなり、僧帽弁閉鎖不全症が生じる。急速に進行すると急性の重症MRとなり、心不全をきたす。弁輪周囲膿瘍を形成することもある。逆流による心不全、抗菌薬で制御できない感染、大きな可動性の疣腫による塞栓の危険などは手術適応の判断材料となる。なお、既存の僧帽弁逸脱症などによる逆流ジェットは感染性心内膜炎の素地にもなる。

  5. ×e.  急性大動脈解離

    誤り。急性大動脈解離のうち上行大動脈に解離が及ぶもの(Stanford A型)では、解離が大動脈基部に進展すると、弁尖を支える交連部の支持が失われて弁尖が落ち込んだり、弁輪が拡大したり、解離した内膜(フラップ)が弁口に脱出したりして、大動脈弁閉鎖不全症をきたすことがある。また冠動脈への解離の進展による心筋虚血、心タンポナーデなども重要な合併症である。しかし、解離が直接僧帽弁閉鎖不全症を起こすことはまれであり、原因としては挙げられない。

僧帽弁閉鎖不全症の原因

一次性(器質性):僧帽弁逸脱症(粘液腫様変性、Marfan症候群などの結合組織疾患を含む)、リウマチ性弁膜症(僧帽弁狭窄症を合併しやすい)、感染性心内膜炎(弁穿孔・腱索断裂)、先天性(僧帽弁裂隙など)、特発性腱索断裂 二次性(機能性):拡張型心筋症、虚血性心疾患(陳旧性心筋梗塞による左室リモデリング)、心房細動などによる左房・弁輪の拡大(心房性機能性MR) 急性MRの主な原因:腱索断裂、感染性心内膜炎、急性心筋梗塞による乳頭筋断裂

急性MRと慢性MRの違い

慢性MRでは左房・左室が徐々に拡大して容量負荷に適応するため、長期間無症状で経過しうる。急性MRでは左房が拡大して適応する時間がなく、左房圧が急上昇して急性肺水腫・心原性ショックとなる。

身体所見・検査

心尖部を最強点とし腋窩へ放散する汎収縮期雑音、III音、I音の減弱がみられる。心エコー(カラードプラ)で逆流の重症度と原因(弁尖病変か、左室拡大か)を評価する。慢性例では心房細動を合併しやすい。

大動脈疾患と大動脈弁閉鎖不全症

大動脈基部の拡張や大動脈弁輪の障害は大動脈弁閉鎖不全症を起こす。原因として、高安動脈炎、大動脈解離、Marfan症候群(大動脈弁輪拡張症)、梅毒性大動脈炎、強直性脊椎炎、Behçet病などがある。拡張期灌水様雑音、脈圧の増大が特徴である。

POINT

・僧帽弁閉鎖不全症は弁尖・弁輪・腱索・乳頭筋・左室のいずれの障害でも起こる。 ・一次性(器質性):僧帽弁逸脱症、リウマチ性、感染性心内膜炎。二次性(機能性):拡張型心筋症、虚血性心疾患。 ・急性心筋梗塞の乳頭筋断裂は後乳頭筋に多く、下壁梗塞に合併しやすい。急性重症MRで肺水腫・ショックとなる。 ・高安動脈炎・大動脈解離など大動脈の病変は大動脈弁閉鎖不全症を起こす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。