ぼやけたままでは脳が育たない―遠視と不同視が招く小児の弱視
第120回医師国家試験 D問題 第15問
国試問題にチャレンジ
小児の弱視の原因になるのはどれか。2つ選べ。
- a.遠視
- b.近視
- c.不同視
- d.偽内斜視
- e.間欠性外斜視
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
弱視は、およそ8歳ごろまでの感受性期に網膜へ鮮明な像が届かない状態が続くことで、眼に器質的異常がなくても矯正視力が出なくなる状態です。強い遠視は遠くも近くもピントが合わないため両眼の屈折異常弱視を、不同視は屈折異常の強い方の眼の像が抑制されて片眼の不同視弱視をきたします。近視は近くにピントが合うため強度でなければ弱視になりにくく、偽内斜視は見かけだけ、間欠性外斜視は両眼視の時間が保たれるため、通常は弱視の原因になりません。治療は調節麻痺下屈折検査に基づく完全矯正眼鏡と健眼遮閉が基本で、感受性期内の早期開始が成否を分けます。3歳児健診などでの早期発見の意義を理解することは、小児の視機能を守る臨床医の基本姿勢につながります。
解答・解説
正解はa, cです
弱視とは
ここでいう弱視(医学的弱視)とは、視力が発達する時期に、網膜にくっきりした像が映らない状態が続いたために、眼球そのものに病気がなくても、眼鏡で矯正しても視力が十分に出ない状態をいう。視覚は生後まもなくから急速に発達し、およそ8歳ごろまでの「感受性期(臨界期)」に、はっきりした像で刺激を受けることが脳の視覚系の発達に必要である。この時期に視覚刺激が妨げられると弱視になる。
原因による分類
①屈折異常弱視:両眼とも強い遠視や乱視があり、両眼とも鮮明な像が得られない ②不同視弱視:左右の屈折度数の差が大きく、屈折異常の強い方の眼の像がぼやける ③斜視弱視:片眼の視線がずれ、ずれた方の眼が使われなくなる ④形態覚遮断弱視:先天白内障、眼瞼下垂、角膜混濁、長期の眼帯などで網膜に像が届かない
考え方
選択肢の中で「網膜に鮮明な像が映らない状態が続くかどうか」で判断する。遠視は遠くも近くもピントが合わないため弱視の原因となる。近視は近くでピントが合うので、強度でなければ弱視になりにくい。不同視は片眼の弱視の原因となる。偽内斜視は見た目だけの問題であり、間欠性外斜視は両眼で見ている時間があるため、どちらも通常は弱視の原因とならない。
選択肢考察
- ○a. 遠視
遠視では、調節(水晶体を厚くしてピントを合わせる働き)をしないかぎり、遠くを見ても近くを見ても網膜の後方に像が結ぶ。軽度なら子どもの強い調節力で補えるが、強度の遠視では補いきれず、どの距離でもぼやけた像しか見えない状態が続く。そのため両眼の屈折異常弱視の原因となる。また、強い調節に伴って眼が内側に寄りやすく、調節性内斜視を介して斜視弱視を起こすこともある。
- ×b. 近視
近視では遠くは見えにくいが、近くにはピントが合う。乳幼児は主に近くの物を見て生活しているため、網膜に鮮明な像が得られる機会があり、視覚系は発達する。このため、ごく強い近視の場合や左右差が大きい場合を除き、近視は弱視の原因になりにくい。
- ○c. 不同視
不同視とは、左右の眼の屈折度数(遠視・近視・乱視の程度)に大きな差がある状態である。両眼で見ていると、屈折異常の強い方の眼の像はぼやけたままとなり、脳はその眼からの情報を抑えてしまう(抑制)。その結果、屈折異常の強い方の眼が片眼性に弱視となる(不同視弱視)。特に遠視性の不同視は、遠視の強い眼がどの距離でもぼやけるため弱視になりやすい。片眼は良く見えているため本人も家族も気づきにくく、健診での発見が重要である。
- ×d. 偽内斜視
乳幼児は鼻根部が低く幅広いうえ、内眼角贅皮(目頭を覆う皮膚のひだ)があるため、鼻側の白目が隠れて内斜視のように見えることがある。これが偽内斜視である。実際の眼の位置は正常であり、角膜反射法(ペンライトの光の反射が両眼とも瞳孔中央にある)や遮閉試験(片眼を隠しても眼が動かない)で真の斜視と区別できる。両眼で正常に見ているため弱視の原因にはならず、成長とともに目立たなくなる。
- ×e. 間欠性外斜視
疲れたときや遠くを見たとき、ぼんやりしているときなどに片眼が外側にずれるが、それ以外の時間は眼の位置が正常に保たれている斜視である。日本の小児の斜視の中で最も多い。両眼でそろって見ている時間があるため、視覚系の発達は保たれ、通常は弱視の原因とならない。斜視弱視は、常に同じ眼がずれている恒常性の斜視(特に乳児内斜視などで片眼ばかりがずれる場合)で起こりやすい。
弱視の治療
感受性期内に治療を始めるほど効果が高い。 ・屈折矯正:調節を麻痺させる点眼薬(アトロピン、シクロペントラートなど)を用いて正確な屈折度数を測り(調節麻痺下屈折検査)、完全矯正の眼鏡を常にかける。 ・健眼遮閉(アイパッチ):視力の良い方の眼を一定時間覆い、弱視眼を使わせる。 ・ペナリゼーション:視力の良い方の眼にアトロピンを点眼してあえて見えにくくし、弱視眼を使わせる。 ・形態覚遮断弱視では、原因(先天白内障など)に対する早期の手術が必要である。
早期発見
3歳児健康診査での視力検査が重要であり、近年は屈折異常や斜視を短時間で検出できる屈折検査機器(フォトスクリーナー)の導入が進められている。
屈折異常と弱視のなりやすさ
・遠視:遠くも近くもピントが合わない→弱視になりやすい ・近視:近くにはピントが合う→強度でなければ弱視になりにくい ・乱視:どの距離でもぼやける成分があり、強いと弱視の原因となる ・不同視:左右差が大きいと屈折異常の強い方の眼が弱視になる
偽内斜視と真の斜視の見分け方
・角膜反射法(Hirschberg法):光の反射が両眼とも瞳孔中央にあれば正位 ・遮閉試験(カバーテスト):片眼を隠したとき、隠していない眼が動けば斜視
POINT
・弱視は、感受性期(およそ8歳まで)に網膜へ鮮明な像が映らないことで起こる。 ・原因は屈折異常(特に強い遠視・乱視)、不同視、恒常性の斜視、形態覚遮断(先天白内障・眼瞼下垂など)。 ・近視は近くにピントが合うため弱視になりにくい。 ・偽内斜視は見かけだけ、間欠性外斜視は両眼視の時間があるため、通常は弱視の原因とならない。 ・治療は完全矯正眼鏡+健眼遮閉を早期に開始する。
