焼肉の焼け具合が分からない―兄弟に共通する「見え方」から先天色覚異常を見抜く
第119回医師国家試験 D問題 第20問
国試問題にチャレンジ
26歳の男性。見え方の不安を主訴に来院した。焼肉の焼け具合が分からなかったり,買い物で水色を選んだつもりが友人にピンクだと指摘されたことがある。弟も同じような経験があるという。 診断に有用な検査はどれか。
- a.色覚検査
- b.視野検査
- c.両眼視機能検査
- d.視覚誘発電位〈VEP〉
- e.網膜電図検査〈ERG〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
色の取り違えだけを訴え、本人が他人の指摘で気づき、男性の兄弟に同じ症状がある場合は、X連鎖潜性遺伝をとる先天赤緑色覚異常を考えます。診断には色覚検査を用い、石原色覚検査表などの仮性同色表でスクリーニング、パネルD-15で程度と型の判定、アノマロスコープで確定診断と1型・2型の区別を行います。先天色覚異常では視力・視野・両眼視機能は正常で、錐体細胞の機能や視路の伝導も保たれるため、VEPやERGも通常は異常を示しません。後天色覚異常は視神経疾患や黄斑疾患、エタンブトールなどの薬剤で起こり、左右差や経過での変化、他の視機能障害を伴う点が鑑別の手がかりです。症状が示す視機能を見極めて、それを直接評価する検査を選ぶという考え方は、眼科の検査選択全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・26歳の男性。視力低下や視野欠損の訴えではなく「見え方の不安」が主訴である。 ・焼肉の焼け具合が分からない:生肉の赤と焼けた肉の茶褐色・灰色の違いが判別しにくい。赤〜茶〜緑系の色の区別が難しいことを示す。 ・水色を選んだつもりが友人にピンクと指摘された:明るさがほぼ同じで色相だけが違う色の組み合わせを取り違えている。本人は気づいておらず、他人の指摘で初めて分かっている。 ・弟にも同様の経験がある:兄弟がともに男性で同じ症状をもつことから、家族性・遺伝性の疾患が疑われる。
診断へのプロセス
色の弁別だけが障害され、ほかの視機能の訴えはない。生まれつきその見え方なので本人に異常の自覚がなく、成長してから他人に指摘されて気づくのは先天性の色覚異常によくある経過である。男性の兄弟がともに罹患している点はX連鎖潜性(伴性劣性)遺伝と矛盾せず、先天赤緑色覚異常(1型色覚または2型色覚)が最も考えやすい。 一方、色覚異常は網膜(特に黄斑)疾患、視神経疾患、緑内障、大脳病変、薬剤(エタンブトールなど)、心因性といった後天性の原因でも起こる。本問では眼底所見などが示されていないので後天性を完全に否定はできないが、どちらであっても最初に行うべきは「色を正しく見分けられるか」を直接評価する検査である。
設問の考え方
問われているのは「診断に有用な検査」である。症状の中心は色の判別障害なので、色覚そのものを評価する色覚検査を選ぶ。視野・両眼視・電気生理検査は、それぞれ別の視機能や視路の異常を調べる検査であり、先天色覚異常では原則として異常が出ない。
選択肢考察
- ○a. 色覚検査
色の判別障害が主症状なので、色覚を直接評価する色覚検査が診断に直結する。まず石原色覚検査表や標準色覚検査表(SPP:Standard Pseudoisochromatic Plates)などの仮性同色表でスクリーニングを行い、型と程度の判定にはパネルD-15(色相配列検査)を用いる。確定診断には、赤と緑の混色光を黄色光と等色させるアノマロスコープを用いる。これらで1型・2型の区別や、2色覚か異常3色覚かを評価できる。
- ×b. 視野検査
視野検査は見える範囲の狭窄や暗点を調べる検査で、緑内障、網膜色素変性、視神経疾患、視路の病変(半盲など)の評価に用いる。本例には視野欠損を示す訴えがなく、先天色覚異常では視野は正常なので診断には役立たない。
- ×c. 両眼視機能検査
両眼視機能検査は、左右の眼に映った像を脳が一つにまとめる働き(同時視・融像・立体視)を調べる検査である。斜視、弱視、眼球運動障害を疑う場合に行う。色覚異常では両眼視機能は障害されないため、診断の役には立たない。
- ×d. 視覚誘発電位〈VEP〉
VEP(visual evoked potential)は、閃光や白黒の市松模様(パターン反転)で眼を刺激し、後頭葉の視覚野に生じる電位を頭皮上で記録する検査である。視神経から後頭葉までの視路の伝導障害(視神経炎など)の評価や、心因性視覚障害・詐病で他覚的に視機能を確かめたいときに使う。先天色覚異常では視路の伝導は正常であり、診断には使わない。
- ×e. 網膜電図検査〈ERG〉
ERG(electroretinogram)は、網膜に光刺激を与えて網膜全体が発生する電位変化を記録する検査で、網膜色素変性などの網膜変性疾患や、錐体ジストロフィのように網膜全体の機能が落ちる病気の評価に用いる。先天赤緑色覚異常は特定の錐体の視物質(光を吸収する色素)の違いによるもので、錐体細胞そのものの機能は保たれており、ERGは通常正常である。したがって本例の診断には有用でない。
色覚のしくみ
網膜の錐体細胞には、長波長(赤)に感度のピークをもつL錐体、中波長(緑)のM錐体、短波長(青)のS錐体の3種類がある。3種類の錐体の興奮の比率を脳で比べることで色を区別している(3色説)。
先天色覚異常の分類
・異常のある錐体の種類による分類:1型色覚(L錐体の異常)、2型色覚(M錐体の異常)、3型色覚(S錐体の異常)。 ・程度による分類:1色覚(錐体が1種類しか働かないか、まったく働かない)、2色覚(3種類のうち1種類が欠けている)、異常3色覚(3種類あるが、そのうち1種類の感度特性がずれている)。 ・一般に「色覚異常」と呼ぶものの大部分は1型・2型の2色覚または異常3色覚で、まとめて先天赤緑色覚異常という。L・M錐体の視物質の遺伝子はX染色体上にあるため、X連鎖潜性遺伝をとる。日本人での頻度は男性で約5%(20人に1人)、女性で約0.2%と、男性にはるかに多い。保因者の女性は日本人女性の約10%とされる。 ・色の見分けにくさ以外の視機能(視力・視野など)は正常で、進行もしない。根本的な治療法はない。 ・混同しやすい色:赤と緑、茶と緑、ピンクと水色(灰色)、紫と青など。焼肉の焼け具合、黒板の赤チョーク、信号や地図の色分けなどで困ることが多い。
後天色覚異常
黄斑疾患、視神経炎などの視神経疾患、緑内障、大脳性色覚異常、薬剤性(エタンブトールなど)、心因性などで起こる。片眼性のことや左右差があること、経過とともに変化すること、視力低下や視野異常を伴いやすいことが先天性との違いである。
色覚検査の種類
・仮性同色表(石原色覚検査表、標準色覚検査表SPP):スクリーニング。 ・パネルD-15:色のついたキャップを色相順に並べさせ、程度(強度か中等度以下か)と型を判定する。 ・アノマロスコープ:赤と緑の光を混ぜて黄色と同じ色に合わせさせる。先天赤緑色覚異常の確定診断と、1型・2型、2色覚・異常3色覚の判定に用いる。
POINT
・色の判別障害+男性の兄弟例(X連鎖潜性遺伝)+他人の指摘で気づく → 先天赤緑色覚異常を考える。 ・診断は色覚検査:仮性同色表(石原表など)でスクリーニング、パネルD-15で程度判定、アノマロスコープで確定診断。 ・先天色覚異常では視力・視野・両眼視機能・VEP・ERGは原則正常。 ・頻度は日本人男性約5%、女性約0.2%。進行せず、治療法はない。
