眼鏡で治る斜視―調節麻痺薬が暴く「隠れた遠視」と調節性内斜視
第114回医師国家試験 A問題 第27問
国試問題にチャレンジ
3歳の女児。3歳児健康診査で眼位異常を指摘されて来院した。視力は右0.3(0.5×+3.0D),左0.4(0.8×+3.5D)。眼位写真を別に示す。調節麻痺薬点眼後の矯正視力は右(0.5×+6.0D),左(0.9×+6.0D)であった。 治療として適切なのはどれか。

- a.右+6.0D,左+6.0Dの眼鏡処方
- b.右+3.0D,左+3.0Dの眼鏡処方
- c.右+3.0D,左+6.0Dの眼鏡処方
- d.近方注視訓練
- e.斜視手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幼児期に発症した内斜視で、調節麻痺薬点眼後に強い遠視が明らかになった場合は、屈折性調節性内斜視を考えます。小児は調節力が強いため通常の検査では遠視が過小評価され、アトロピンやシクロペントラートによる調節麻痺下の屈折検査で真の遠視量を測る必要があります。治療はその値に基づく完全矯正眼鏡の常用で、低矯正では調節とそれに連動する輻湊が残って眼位が改善せず、近方注視訓練は悪化を招き、眼鏡で正位化する症例に斜視手術は行いません。眼鏡は屈折異常弱視や斜視弱視の治療も兼ね、左右差が残れば健眼遮閉などを追加します。視覚の感受性期のうちに発見し適切に矯正することが子どもの将来の視機能を左右するため、近見反応の生理から治療を理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・3歳女児。3歳児健康診査で眼位異常を指摘された。乳児期早期からの斜視ではなく、幼児期に気付かれた斜視である。 ・眼位写真:左眼は正面を向き、右眼が鼻側(内側)に偏位している。角膜反射でみると、右眼では光の反射が瞳孔中心より耳側に位置しており、右眼の内斜視と判断できる。 ・通常の屈折検査(調節麻痺なし):右0.3(0.5×+3.0D)、左0.4(0.8×+3.5D)。両眼とも遠視で、矯正しても視力が十分に出ていない。 ・調節麻痺薬点眼後:右(0.5×+6.0D)、左(0.9×+6.0D)。調節を麻痺させると遠視の度数が両眼とも+6.0Dまで増加した。
診断へのプロセス
小児は調節力が非常に強いため、ふだんは水晶体の厚みを増す(調節する)ことで遠視の一部を打ち消しており、通常の検査では遠視が実際より小さく測定される(潜伏遠視)。調節麻痺薬(シクロペントラート、アトロピンなど)で調節を除くと、真の遠視量が明らかになる。本例の真の遠視は両眼とも+6.0Dと強い。 強い遠視があると、遠くを見るときでさえ常に強く調節しなければならない。調節と輻湊(寄り目)は連動しているため、過剰な調節に伴って過剰な輻湊が生じ、内斜視となる。これが屈折性調節性内斜視である。発症は1歳半〜3歳頃が多く、3歳児健診で発見されるという経過も合致する。 鑑別としては、生後6か月以内に発症し斜視角が大きい乳児内斜視、外転障害を伴う外転神経麻痺やDuane症候群などが挙がるが、発症時期と強い遠視の存在から調節性内斜視が最も考えられる。
設問への考え方
調節性内斜視の治療の基本は、調節麻痺下で測定した屈折値に基づく遠視の完全矯正眼鏡の常用である。遠視を完全に矯正すれば過剰な調節が不要となり、それに伴う過剰な輻湊も消えて眼位が改善する。眼鏡は同時に、遠視による屈折異常弱視の治療にもなる。本例では両眼とも+6.0Dの眼鏡を処方する。
選択肢考察
- ○a. 右+6.0D,左+6.0Dの眼鏡処方
調節麻痺薬点眼後に得られた屈折値(真の遠視量)は両眼とも+6.0Dである。この値で遠視を完全矯正すれば、遠視を補うための調節が不要となり、調節に連動した過剰な輻湊が消失して内斜視が改善する。また、網膜に鮮明な像が結ばれるようになるため、視力の発達が促され弱視の治療にもなる。調節性内斜視の第一選択の治療である。
- ×b. 右+3.0D,左+3.0Dの眼鏡処方
+3.0Dは調節が働いた状態で測定された値に近く、真の遠視量(+6.0D)に比べて両眼とも低矯正である。残りの約3Dの遠視を補うために患児は調節し続けることになり、それに伴う輻湊も残るため、内斜視は十分に改善しない。調節性内斜視では調節麻痺下の屈折値で完全矯正することが重要である。
- ×c. 右+3.0D,左+6.0Dの眼鏡処方
左眼は完全矯正であるが、右眼は+3.0Dと低矯正である。右眼の遠視が残るため、調節とそれに伴う輻湊が完全には除かれず、斜視の改善が不十分となる。また、斜視眼である右眼の矯正視力は0.5と左眼より不良で弱視が疑われ、その右眼を低矯正にすると網膜像がぼやけたままとなり、弱視の治療としても不適切である。左右で根拠なく度数を変える理由はない。
- ×d. 近方注視訓練
近くを見つめる訓練は調節と輻湊をかえって促すことになり、調節性内斜視では眼位を悪化させる方向に働く。調節性内斜視の原因は未矯正の遠視であり、訓練では遠視そのものは解消しない。輻湊訓練などの視能訓練は、主に輻湊不全や間欠性外斜視などで検討されるものである。
- ×e. 斜視手術
調節性内斜視は、遠視の完全矯正眼鏡で眼位が正位またはそれに近い状態まで改善するため、手術は不要である。眼鏡で矯正できる内斜視に対して手術を行うと、眼鏡装用時に外斜視となる(過矯正)おそれがあり、行ってはならない。完全矯正眼鏡を装用しても内斜視が残る部分調節性内斜視では、眼鏡で矯正しきれない残余の斜視角に対して手術が検討される。
小児の主な内斜視
・乳児内斜視:生後6か月以内に発症する。斜視角が大きく(およそ30プリズム以上)、変動が少ない。屈折異常は年齢相応の軽度遠視程度である。両眼視機能の獲得のため、早期(おおむね2歳まで)の斜視手術が勧められる。 ・調節性内斜視:1歳半〜3歳頃の発症が多い。初期は斜視角が小さく間欠的で、成長とともに恒常化・増大する傾向がある。 ①屈折性調節性内斜視:中等度〜強度の遠視が原因。調節麻痺下屈折値による完全矯正眼鏡で眼位が正位化する。 ②非屈折性調節性内斜視:遠視は軽いが、調節に対する輻湊の割合(AC/A比)が高く、近見時に内斜視が強くなる。遠近両用(二重焦点)眼鏡などで対応する。 ③部分調節性内斜視:完全矯正眼鏡で斜視角は減るが内斜視が残る。眼鏡装用を続けたうえで、残余の斜視角に対して手術を行う。 ・その他:外転神経麻痺、Duane眼球後退症候群(外転障害、内転時の眼球後退と瞼裂狭小)、知覚性内斜視(片眼の高度視力障害による)など。網膜芽細胞腫などの器質的疾患による視力障害が斜視で発見されることもあり、眼底検査は必須である。
調節麻痺薬と屈折検査
小児は調節力が強く、調節麻痺なしの屈折検査では遠視が過小評価される。調節性内斜視が疑われる場合は、アトロピン(調節麻痺作用が最も強く、数日間点眼して検査する)やシクロペントラート(作用が速く、外来で使用しやすい)を点眼して屈折を測定する。
弱視の治療との関係
弱視は視覚の感受性期(おおむね8歳頃まで)に鮮明な網膜像が得られないことで生じる視力発達の障害である。遠視による屈折異常弱視や、斜視眼が使われないことによる斜視弱視がある。治療の第一歩は適切な屈折矯正眼鏡の常用であり、それでも視力の左右差が残る場合には、健眼を遮閉して弱視眼の使用を促す健眼遮閉(アイパッチ)や、アトロピン点眼によるペナリゼーションを併用する。本例では斜視眼である右眼の矯正視力が左眼より不良であり、眼鏡装用後の視力の経過を観察し、必要に応じて健眼遮閉を加える。
3歳児健康診査の意義
視覚の感受性期の中で弱視・斜視を早期に発見し治療につなげることが目的である。近年は屈折検査機器(フォトスクリーナー)を導入する自治体が増えている。
POINT
・幼児期発症の内斜視+調節麻痺下で強い遠視 → 屈折性調節性内斜視。 ・小児は調節力が強いため、屈折検査は調節麻痺薬(アトロピン、シクロペントラート)点眼下で行う。 ・治療は調節麻痺下屈折値による遠視の完全矯正眼鏡の常用。低矯正では眼位が改善しない。 ・眼鏡で正位化する調節性内斜視に斜視手術は行わない(部分調節性内斜視の残余斜視角は手術の対象)。 ・乳児内斜視(生後6か月以内発症、大角度)は早期手術の適応であり、調節性内斜視と区別する。 ・眼鏡装用は弱視治療も兼ね、左右差が残れば健眼遮閉を追加する。
