StudyMed医師国家試験

かぜのあとに出た全身の点状出血―元気な1歳児に潜む血小板の減少

第119回医師国家試験 E問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第38問

1歳の男児。全身の皮疹を主訴に母親に連れられて来院した。2週間前に感冒様症状があり,その後,感冒様症状は改善したが,1週間前から下肢の皮疹が出現した。2日前から全身に皮疹を認めるようになったため受診した。腹痛および関節痛は認めない。関節内出血や筋肉内出血の既往はない。家族歴に特記すべきことはない。身長80cm,体重10kg。体温36.5℃。脈拍120/分,整。呼吸数32/分。顔色良好,眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。咽頭に発赤を認めない。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。皮疹は上からガラス板で圧迫しても退色しない。頰部,腹部および左下腿の皮疹の写真(A)~(C)を下に示す。  予想される血液検査値はどれか。

第119回 E問題 第38問の問題画像
  1. a.PT延長
  2. b.APTT延長
  3. c.血小板数低値
  4. d.Dダイマー高値
  5. e.フィブリノゲン低値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は小児の紫斑から、どの止血機構が破綻しているかを推論する問題だ。注目点は二つ。皮疹がどんな性状の出血なのか、そして出血以外の全身状態がどうか、だよ。まず、ガラス板で押しても色が消えないという所見はどう解釈する?
医学生医学生
硝子圧法ですね。皮膚科の講義で、紅斑なら押すと消えるけど、紫斑は消えないと習いました。
ドクタードクター
その通り。紅斑は血管の拡張による赤みなので、圧迫すると血液が押し出されて退色する。退色しないのは、血液が血管の外、つまり皮膚の中に漏れ出ているからだ。写真では頰部・腹部・下腿に1〜2mmほどの小さな出血斑が散らばっていて、盛り上がりのない点状出血と読める。
医学生医学生
点状出血だと、血小板の問題と考えていいんでしょうか。
ドクタードクター
いい方向だね。止血は、血小板と血管壁が担う一次止血と、凝固因子がフィブリンをつくる二次止血に分けて考える。点状出血や鼻出血、歯肉出血のような皮膚・粘膜の表在性出血は一次止血の異常を、関節内出血や筋肉内出血のような深部出血は二次止血の異常を示唆するんだ。
医学生医学生
血友病だと関節内出血が典型なので、深部出血の既往も家族歴もないこの子では考えにくいですね。
ドクタードクター
そう。では血小板が減る原因として、真っ先に除外したい病気は何かな。
医学生医学生
白血病です。小児科の実習で、紫斑をきっかけに急性リンパ性白血病が見つかった子を担当しました。
ドクタードクター
大事な経験だね。白血病なら骨髄で血小板がつくれなくなり、発熱や貧血、リンパ節腫大、肝脾腫を伴うことが多い。この子は無熱で顔色も良く、結膜にも異常がなく、リンパ節も肝脾も触れない。紫斑以外はとても元気な子どもなんだ。そこにウイルス感染の1〜2週間後に急に発症したという経過が加わると、小児の免疫性血小板減少症、ITPが最も考えやすい。
医学生医学生
昔は特発性血小板減少性紫斑病と呼んでいた病気ですよね。
ドクタードクター
そう。自己免疫が関わることが分かり、紫斑を伴わない例もあることから、今は免疫性血小板減少症と呼ぶ。略称はITPのままだ。血小板膜糖蛋白に対する自己抗体ができ、抗体の付いた血小板が主に脾臓のマクロファージに貪食されて壊される。骨髄での産生も抑えられる。だから予想される検査値は血小板数低値だ。
医学生医学生
凝固因子は関係ないので、PTやAPTTは正常ということですね。
ドクタードクター
その通り。PTはビタミンK欠乏や肝障害、ワルファリン内服で延長し、APTTは血友病やvon Willebrand病、ヘパリン投与で延長する。どちらもITPでは正常だ。Dダイマーは安定化フィブリンが分解されてできる産物だから、DICや深部静脈血栓症で上がる。フィブリノゲンはDICでの消費や重症肝障害で下がる。ITPでは凝固も線溶も活性化しないので、これらも正常なんだ。
医学生医学生
DICなら重い感染症などの基礎疾患があって、ぐったりしているはずですもんね。この子の元気さとは合いません。
ドクタードクター
そう、全身状態の評価はとても大切だよ。もう一つ、先行感染後の下肢の紫斑で迷いやすいのがIgA血管炎だ。どう区別する?
医学生医学生
IgA血管炎は血管炎なので血小板数は正常で、紫斑は触れると盛り上がっていて、腹痛や関節痛を伴うことが多い……今回はどれも当てはまりません。
ドクタードクター
完璧だね。ITPの検査所見としては、血小板数の単独減少、凝固・線溶検査は正常、骨髄巨核球は正常〜増加、という組み合わせを押さえておこう。発熱や貧血、白血球の異常、肝脾腫など非典型的な所見があれば、骨髄検査で白血病などを除外する。
医学生医学生
治療はすぐにステロイドを使うんですか。
ドクタードクター
小児ITPの多くは数週〜数か月で自然に回復するので、出血症状が軽ければ血小板数が低くても経過観察とすることが多い。出血が強い場合や重い出血のリスクが高い場合には、免疫グロブリン大量静注療法や副腎皮質ステロイドを使う。生活面では、アスピリンのような抗血小板作用をもつ薬を避けること、頭部打撲に気をつけることを家族に伝えておきたい。一方、成人ITPは発症が緩やかで慢性化しやすく、ピロリ菌陽性なら除菌で血小板が増えることがある。小児との違いもセットで覚えておこう。

まとめ

硝子圧法で退色しない皮疹は皮膚内の出血、すなわち紫斑であり、点状出血などの表在性出血は一次止血(血小板・血管)の異常を、関節内・筋肉内出血などの深部出血は凝固因子の異常を示唆します。ウイルス感染の1〜数週間後に点状出血だけが急に出現し、発熱・貧血・リンパ節腫大・肝脾腫を欠く元気な幼児では、小児の免疫性血小板減少症(ITP)が最も考えられます。ITPは自己抗体による血小板の破壊と産生障害で血小板数のみが低下し、PT・APTT・フィブリノゲン・Dダイマーは正常で、骨髄巨核球は正常〜増加します。血小板数正常で触知性紫斑・腹痛・関節痛を伴うIgA血管炎、凝固・線溶異常を示すDIC、骨髄での産生低下による白血病との鑑別が重要です。小児ITPの多くは自然軽快するため、出血の程度に応じて経過観察か免疫グロブリン大量療法などを選ぶという判断は、小児の紫斑を診るうえでの基本となります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・1歳男児。2週間前に感冒様症状(ウイルス感染が先行したと推定される)。 ・1週間前に下肢から皮疹が出現し、2日前には全身へ広がった。 ・皮疹はガラス板で押しても色が消えない(硝子圧法で退色しない)。これは血管の拡張による紅斑ではなく、皮膚内への出血、すなわち紫斑であることを意味する。 ・写真では頰部・腹部・下腿に直径1~2mm程度の小さな出血斑が散在しており、点状出血である。隆起(触知できる盛り上がり)を伴う紫斑ではない。 ・腹痛・関節痛はない。関節内出血や筋肉内出血の既往がなく、家族歴もない。 ・発熱なし、顔色良好で貧血・黄疸を示す結膜所見なし、リンパ節腫大なし、肝脾腫なし。

診断へのプロセス

出血症状は、どこから出血するかで原因の見当がつく。点状出血や鼻出血・歯肉出血などの皮膚・粘膜の表在性出血は、一次止血(血小板と血管壁による止血)の異常を示唆する。一方、関節内出血や筋肉内出血といった深部出血は、二次止血(凝固因子による止血)の異常、代表的には血友病を示唆する。本児は点状出血のみで深部出血の既往も家族歴もないため、一次止血の異常、とりわけ血小板減少を第一に考える。 次に、血小板減少の原因として、白血病などの骨髄疾患による産生低下を考える必要があるが、本児は発熱がなく、顔色良好で貧血を思わせる所見がなく、リンパ節腫大や肝脾腫も認めない。つまり紫斑以外は元気な子どもである。ウイルス感染の1~数週間後に、出血症状だけを伴って急に発症するという経過は、小児の免疫性血小板減少症(ITP)に典型的である。 鑑別として、IgA血管炎も先行感染後に下肢優位の紫斑を生じるが、こちらは血管炎であるため血小板数は正常で、紫斑はやや盛り上がって触れる(触知性紫斑)ことが多く、腹痛や関節痛を伴いやすい。本児はこれらを欠くため否定的である。

設問の考え方

ITPは、自己抗体が結合した血小板が主に脾臓で破壊されることで血小板だけが減る病態であり、凝固因子や線溶系には異常がない。したがって予想される検査異常は血小板数の低値のみで、凝固・線溶検査(PT、APTT、フィブリノゲン、Dダイマー)は正常範囲となる。

選択肢考察

  1. ×a.  PT延長

    PT(プロトロンビン時間)は外因系と共通系の凝固因子(第VII・X・V・II因子、フィブリノゲン)の働きを反映する。延長するのはビタミンK欠乏、肝障害、ワルファリン内服、DIC(播種性血管内凝固)などである。ITPは血小板だけの異常で凝固因子は保たれるため、PTは正常である。本児にはビタミンK欠乏をきたす背景(新生児期・乳児早期、長期の抗菌薬投与、胆道閉鎖など)もうかがえない。

  2. ×b.  APTT延長

    APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)は内因系と共通系の凝固因子(第XII・XI・IX・VIII因子など)を反映し、血友病A(第VIII因子欠乏)・血友病B(第IX因子欠乏)やvon Willebrand病、ヘパリン投与などで延長する。血友病では関節内出血や筋肉内出血といった深部出血が特徴で、X連鎖遺伝のため母方家系の男性に患者がいることが多い。本児は深部出血の既往も家族歴もなく、症状は点状出血のみであるため、APTT延長は予想されない。ITPではAPTTは正常である。

  3. ○c.  血小板数低値

    ウイルス感染後に急に出現した全身の点状出血で、ほかに異常所見がない幼児であり、小児の急性ITPが最も考えられる。ITPでは血小板に対する自己抗体が産生され、抗体が結合した血小板が脾臓のマクロファージに貪食されて破壊されるほか、骨髄での血小板産生も抑えられる。その結果、血小板数が低下する(ITPの定義は血小板数10万/μL未満)。点状出血のような皮膚・粘膜出血が目立つのは一次止血が障害されるためで、血小板数が2万/μLを下回るような場合には全身に点状出血が多発しやすい。赤血球・白血球は通常正常である。

  4. ×d.  Dダイマー高値

    Dダイマーは、一度できたフィブリン(安定化フィブリン)がプラスミンで分解されたときに生じる産物であり、体内で血栓が形成され、それが溶かされていることを示す。DIC、深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症などで高値となる。ITPでは凝固・線溶の活性化は起こらないため、Dダイマーは正常である。

  5. ×e.  フィブリノゲン低値

    フィブリノゲンは肝臓で合成される凝固因子で、DICでの消費、重症肝障害による合成低下、先天性フィブリノゲン欠乏症などで低下する。敗血症などの重症感染症に伴うDICであれば発熱や全身状態の悪化がみられるはずだが、本児は無熱で全身状態は良好である。ITPではフィブリノゲンは正常に保たれる。

免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)

・かつては「特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)」と呼ばれた。病態に自己免疫が関与すること、紫斑を伴わない例もあることから、現在は免疫性血小板減少症と呼ばれる(略称はITPのまま)。 ・病態:血小板膜糖蛋白(GPIIb/IIIaなど)に対する自己抗体が産生され、抗体の結合した血小板が主に脾臓で破壊される。加えて、骨髄巨核球からの血小板産生も障害される。 ・定義と経過分類:血小板数10万/μL未満で、ほかに血小板減少をきたす原因がないもの(除外診断)。診断から3か月未満を新規診断、3~12か月を持続性、12か月以上を慢性と分類する。

小児ITPと成人ITPの違い

・小児:2~5歳ころに多く、ウイルス感染や予防接種の後に急に発症することが多い。大部分は数週~数か月で自然に回復し、慢性化するのは一部にとどまる。 ・成人:20~40歳代の女性と高齢者に多く、発症は緩やかで慢性化しやすい。Helicobacter pylori陽性例では除菌療法で血小板が増えることがある。

検査所見

・血小板数の単独減少。赤血球・白血球は通常正常(出血が多ければ貧血を伴いうる)。 ・PT・APTT・フィブリノゲン・Dダイマーは正常。 ・骨髄では巨核球数が正常~増加している(産生の場は保たれている)。小児で典型的でない所見(発熱、貧血、白血球の異常、肝脾腫・リンパ節腫大など)があれば、白血病などとの鑑別のため骨髄検査を行う。 ・PA-IgG(血小板結合IgG)は高値となることが多いが、ほかの疾患でも上昇するため特異性は低い。

小児ITPの治療

・出血症状が軽ければ、血小板数が低くても無治療で経過観察とすることが多い。 ・出血症状が強い場合や重症出血のリスクが高い場合には、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)や副腎皮質ステロイドを用いる。 ・慢性化例ではトロンボポエチン受容体作動薬、リツキシマブ、脾臓摘出などが検討される。 ・抗血小板作用のある薬剤(アスピリンなど)は避け、頭部打撲など外傷にも注意する。

出血症状からみた止血異常の鑑別

・一次止血異常(血小板減少・血小板機能異常・血管の異常):点状出血、斑状出血、鼻出血、歯肉出血、月経過多など表在性の出血。 ・二次止血異常(凝固因子異常):関節内出血、筋肉内出血など深部の出血、外傷後の遅れて起こる再出血。 ・IgA血管炎:血小板数・凝固検査は正常。下肢から臀部の触知性紫斑、腹痛、関節痛、腎炎(血尿・蛋白尿)が特徴。

POINT

・硝子圧法で退色しない皮疹は紫斑(皮内出血)である。 ・点状出血などの皮膚・粘膜出血は一次止血異常(血小板の異常)、関節内・筋肉内出血は凝固因子異常(血友病など)を示唆する。 ・ウイルス感染後に紫斑だけが急に出現し、全身状態良好・肝脾腫やリンパ節腫大なしの幼児では、小児ITPを考える。 ・ITPでは血小板数のみ低下し、PT・APTT・フィブリノゲン・Dダイマーは正常。骨髄巨核球は正常~増加。 ・小児ITPは多くが自然軽快する。IgA血管炎は血小板数正常で、腹痛・関節痛・触知性紫斑を伴う点で区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。