エアコンを切った部屋で倒れた独居高齢者―退院指導は「室温28℃」から始まる
第120回医師国家試験 C問題 第47問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。意識障害のため救急車で搬入された。独居。外気温35℃の中で,自宅居室で動けなくなっているところを町内会の迎えに来た知人に発見された。居室に設置してあるエアコンの電源は入っておらず,室内は高温であったという。意識レベルはJCSⅠ-2。身長158cm,体重70kg。体温37.2℃。心拍数108/分,整。血圧96/54mmHg。呼吸数18/分。皮膚,口腔粘膜,舌および腋窩は乾燥している。頸静脈の虚脱を認める。輸液とクーリングにより症状は軽快し,2日後に退院予定となった。 退院時の指導で適切なのはどれか。
- a.「お風呂のお湯は42℃以上にしましょう」
- b.「1日5リットルを目標に水分を摂りましょう」
- c.「息が上がる程度の速さのジョギングを始めましょう」
- d.「身体に扇風機の風が直接あたるようにして就寝しましょう」
- e.「室内の気温が28℃を超えないようにエアコンで調整しましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
高温環境への曝露、意識障害、脱水所見がそろえば、搬入時の体温が高くなくても熱中症を考え、日常生活中に室内で発症した高齢者は非労作性(古典的)熱中症の典型です。再発予防の柱は、エアコンで室温が28℃を超えないよう管理すること、のどが渇く前のこまめな水分・塩分補給、そして独居高齢者への見守りです。一方、42℃以上の熱い湯での入浴、1日5Lのような過量の飲水、息が上がる強度の運動、高温の室内で扇風機の風を直接当て続けることは、脱水・低ナトリウム血症・熱産生増加などを招くため勧められません。高齢者は暑さや渇きを感じにくく放熱機能も低下していることを踏まえ、発症要因を一つずつ断つ具体的な指導を行うことが、熱中症の再発予防と地域での高齢者支援につながります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
78歳の独居男性が、外気温35℃の日に、エアコンを使っていない高温の自宅居室で動けなくなっているところを発見された。意識レベルはJCS(Japan Coma Scale)Ⅰ-2(刺激しなくても覚醒しているが、見当識障害がある)と軽度の意識障害がある。頻脈(108/分)と血圧低下(96/54mmHg)、皮膚・口腔粘膜・舌・腋窩の乾燥、頸静脈の虚脱がみられ、高度の脱水による循環血液量減少の状態である。搬入時の体温は37.2℃とそれほど高くないが、発見から搬送までの間に体温が下がった可能性があり、体温だけで熱中症を否定してはならない。
診断
高温環境への曝露、意識障害、脱水所見がそろっており、輸液とクーリングで改善したことから熱中症と診断できる。運動などの労作を伴わず、日常生活の中で高温環境に置かれて発症しており、高齢者に多い非労作性(古典的)熱中症の典型像である。日本救急医学会の重症度分類では、意識障害などの中枢神経症状を伴うため重症のⅢ度に相当する。
設問の考え方
退院時指導の目的は再発予防である。本例の発症要因は、(1) エアコンを使わず室内が高温だったこと、(2) 高齢のため暑さやのどの渇きを感じにくく、体温調節機能も低下していること、(3) 独居で異変に気づかれにくいこと、である。したがって指導の中心は、エアコンを用いた室温の管理(28℃を目安に超えないようにする)、のどが渇く前からのこまめな水分・塩分補給、周囲による見守りである。入浴・運動・扇風機の使い方・飲水量については、高齢者にとって過剰な負荷や別の危険をもたらさないかを考えて判断する。
選択肢考察
- ×a. 「お風呂のお湯は42℃以上にしましょう」
42℃以上の熱い湯は、体温を上昇させて発汗による脱水を助長し、熱中症の危険を高める。また、急な血圧変動(いわゆるヒートショック)や、入浴中ののぼせ・意識障害による溺水の原因にもなり、高齢者では特に危険である。高齢者の入浴は41℃以下のぬるめの湯で、長湯を避け、入浴前後に水分を摂るよう指導するのが一般的である。
- ×b. 「1日5リットルを目標に水分を摂りましょう」
こまめな水分補給は大切だが、1日5Lは過量である。一般に食事以外に飲み物として摂る水分は1日約1.2Lが目安とされ、暑い日や発汗が多いときはこれに上乗せする。高齢者が大量の水分を摂ると、心不全の悪化や、水だけを大量に摂ることによる低ナトリウム血症(水中毒)をきたすおそれがある。量を一律に決めるより、のどの渇きを感じる前に少量ずつ、発汗が多いときは塩分も含めて補給するよう指導する。
- ×c. 「息が上がる程度の速さのジョギングを始めましょう」
息が上がる強度の運動は体内での熱産生を大きく増やし、特に暑い時期には労作性熱中症を起こす危険がある。熱中症から回復したばかりの高齢者に勧める内容ではない。体力維持のための運動は、暑い時間帯を避け、会話ができる程度の軽い強度から行うのが望ましい。
- ×d. 「身体に扇風機の風が直接あたるようにして就寝しましょう」
扇風機は空気を循環させるだけで室温そのものは下げない。室温が高いときは熱い空気を身体に当て続けることになり、冷却効果が乏しいうえに、発汗を促して脱水を進めるおそれがある。さらに就寝中に長時間直接風が当たると体温調節に影響し、体調を崩す原因にもなる。扇風機はエアコンと併用して室内の空気を循環させる目的で使い、身体に直接当て続けないようにする。
- ○e. 「室内の気温が28℃を超えないようにエアコンで調整しましょう」
本例はエアコンを使わない高温の室内で発症しており、再発予防の最重要点は室温の管理である。高齢者は暑さを感じにくく、自覚がないまま室温が上がりやすいため、温度計で室温を確かめながら、28℃を超えないようにエアコンを使うよう指導する。28℃は環境省などが示す室温の目安である。夜間も含めてエアコンを適切に使うこと、電気代などを理由に使用を控えないことも併せて伝える。
熱中症の分類
日本救急医学会の重症度分類 Ⅰ度(軽症):めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむら返りなど。意識障害はない。現場での対応(冷所での安静、冷却、経口での水分・塩分補給)で改善しうる。 Ⅱ度(中等症):頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力・判断力の低下(JCS 1以下)など。医療機関での診察が必要。 Ⅲ度(重症):中枢神経症状(JCS 2以上の意識障害、小脳症状、痙攣発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常(DIC)のいずれかを認めるもの。入院・集中治療を要する。 2024年の改訂では、Ⅲ度のうち深部体温40℃以上かつGCS 8以下の最重症例をⅣ度とする区分が加えられた。
労作性と非労作性
労作性熱中症:スポーツや肉体労働など、熱産生の増加が主因。若年〜中年に多い。 非労作性(古典的)熱中症:日常生活中に高温環境にさらされて発症。高齢者、乳幼児、慢性疾患患者に多く、室内で数日かけて進行することも多い。発見が遅れやすく、重症化しやすい。
高齢者が熱中症になりやすい理由
・体内の水分量が少ない(加齢により細胞内液が減る)。 ・暑さやのどの渇きを感じにくい。 ・発汗や皮膚血流の増加による放熱機能が低下している。 ・腎臓の尿濃縮能が低下している。 ・利尿薬などの内服薬の影響、認知機能低下、独居による発見の遅れ。
予防の要点
エアコンによる室温管理(28℃を目安)、温度計・湿度計による室温の見える化、のどが渇く前のこまめな水分・塩分補給、暑さ指数(WBGT)や熱中症警戒アラートの活用、家族・近隣・行政による見守りや声かけ、日中の暑い時間帯の外出・労作を避けること、が挙げられる。
POINT
・高温環境・意識障害・脱水所見があれば、体温が高くなくても熱中症を考える。 ・高齢者の室内発症は非労作性(古典的)熱中症の典型であり、意識障害(JCS 2以上)があればⅢ度。 ・再発予防の柱はエアコンによる室温管理(28℃を超えないように)と、こまめな水分・塩分補給、独居高齢者の見守り。 ・熱い湯の入浴、過量の飲水、強い運動、高温室内での扇風機の直風は推奨されない。
