高齢者の初めてのけいれん―傷ついた皮質が発作の火種になる
第120回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
高齢者における初発のけいれんの原因で最も多いのはどれか。
- a.うつ病
- b.脳腫瘍
- c.脳卒中
- d.Parkinson病
- e.脊髄小脳変性症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
てんかんの発症率は小児期と高齢期の二峰性を示し、高齢期では脳に後から生じた器質的病変による症候性てんかんが大部分を占めます。高齢者の初発けいれん・新規発症てんかんの原因として最も多いのは脳卒中で、皮質を含む病変や出血性脳卒中で起こりやすく、発症7日を過ぎてからの遅発発作は再発しやすい脳卒中後てんかんとして治療の対象になります。脳腫瘍も原因になりますが頻度は脳卒中に及ばず、皮質を主座としないParkinson病や脊髄小脳変性症、精神疾患であるうつ病は代表的な原因ではありません。高齢者のてんかんは非けいれん性の焦点発作として現れることが多く、認知症や失神と誤診されやすい点に注意が必要です。年齢ごとの原因の違いと高齢者特有の発作の現れ方を知っておくことは、治療可能な病態を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はcです
年齢で変わるけいれん・てんかんの原因
てんかんの発症率は年齢によって二峰性を示す。小児期と高齢期(65歳以上)に多く、高齢期ではさらに年齢とともに増える。 ・小児期:遺伝的素因による特発性てんかん、周産期の脳障害、先天奇形、熱性けいれんなどが中心である。 ・高齢期:脳に後から生じた病変(器質的病変)による症候性てんかんが大部分を占める。
高齢者に多い原因
高齢者の新規発症てんかんの原因として最も多いのは脳血管障害(脳卒中)で、全体の3〜4割程度を占める。次いで、神経変性疾患(とくにAlzheimer型認知症)、脳腫瘍、頭部外傷(硬膜下血腫を含む)が続く。原因を特定できないものも少なくない。急性の全身性の原因(低血糖、電解質異常、薬剤、アルコール離脱、感染など)による急性症候性発作も、高齢者では頻度が高い。
考え方
選択肢のなかで、脳の皮質に直接傷を残し、しかも高齢者の罹患数が圧倒的に多いのは脳卒中である。脳腫瘍もけいれんの原因になるが、頻度は脳卒中に及ばない。うつ病、Parkinson病、脊髄小脳変性症は、けいれんの代表的な原因ではない。
選択肢考察
- ×a. うつ病
誤り。うつ病は高齢者に多い精神疾患だが、それ自体がけいれんを起こすことはない。ただし、てんかんの患者はうつ病を合併しやすい。また、一部の抗うつ薬(三環系抗うつ薬、ブプロピオンなど)は過量になるとけいれん閾値を下げることがある。治療法である電気けいれん療法(ECT)を、うつ病の症状と取り違えないこと。
- ×b. 脳腫瘍
誤り。脳腫瘍もけいれんの原因になる。とくに大脳皮質に近いテント上の腫瘍(神経膠腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍など)は、焦点発作で発症することがある。高齢者では転移性脳腫瘍や膠芽腫も考える必要があり、初発のけいれんでは頭部MRIで腫瘍を除外する。しかし高齢発症てんかんの原因に占める割合は1割前後にとどまり、脳卒中より少ない。
- ○c. 脳卒中
正しい。脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)は、高齢者の初発けいれん・新規発症てんかんの原因として最も多い。皮質を含む病変ほどけいれんが起こりやすく、脳梗塞よりも出血性脳卒中(とくに皮質下出血)や、皮質を巻き込む大きな梗塞で多い。発症後7日以内の早期発作は、急性期の脳障害による急性症候性発作として扱う。7日を過ぎてから起こる遅発発作は、瘢痕となった病巣がてんかん原性をもったことを示し、再発しやすいため、脳卒中後てんかんとして抗てんかん発作薬の適応となる。麻痺が軽くても皮質病変があれば起こりうる。脳アミロイド血管症による皮質下出血も高齢者に多い。
- ×d. Parkinson病
誤り。Parkinson病は、中脳黒質のドパミン神経細胞が変性して黒質線条体系が障害される疾患である。大脳皮質の病変ではないため、てんかんの原因にはならない。主症状は安静時振戦、筋強剛(筋固縮)、無動、姿勢保持障害である。安静時振戦は意識が保たれたまま規則的に起こるふるえで、けいれんとは区別される。
- ×e. 脊髄小脳変性症
誤り。脊髄小脳変性症は、小脳とその入出力路が変性して運動失調をきたす疾患群である。主な症状は体幹失調、構音障害、企図振戦などで、けいれんは代表的な症状ではない。企図振戦は目標に近づくほど強くなるふるえで、指鼻指試験などの診察でけいれんと区別できる。なお、病型の一つである歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は、若年で発症するとミオクローヌスやてんかん発作を伴うことがある。しかし、高齢者の初発けいれんの原因として多いものではない。
用語の整理
・けいれん:自分の意思と関係なく筋肉が発作的に収縮する現象。てんかん以外の原因(低血糖、電解質異常、失神に伴うけいれんなど)でも起こる。 ・てんかん発作:脳の神経細胞が過剰に同期して興奮することで生じる一過性の症状。けいれんを伴わない発作もある。 ・てんかん:誘因なく発作をくり返す慢性の脳疾患。誘因のない発作が1回だけでも、再発の可能性が高い(今後10年で60%以上)と判断されればてんかんと診断できる(国際抗てんかん連盟〈ILAE〉の実用的定義)。脳卒中後の遅発発作はこれに当たる。
高齢者てんかんの特徴
・焦点発作(とくに側頭葉起源)が多い。全身けいれんよりも、動作の停止、反応の低下、口をもぐもぐさせるなどの自動症、発作後のもうろう状態として現れることが多い。 ・そのため「ぼんやりしている」「物忘れ」と受け取られ、認知症や一過性脳虚血発作(TIA)、失神と誤診されやすい。非けいれん性てんかん重積状態が意識障害の原因になることもある。 ・抗てんかん発作薬がよく効き、少量で発作が止まることが多い。腎・肝機能、併用薬との相互作用、認知機能や転倒への影響を考えて薬を選ぶ(レベチラセタム、ラモトリギン、ラコサミドなどがよく用いられる)。
初発けいれんの評価
血糖・電解質(Na、Ca、Mg)・腎肝機能などの血液検査、服薬歴とアルコール歴、頭部CT・MRI、脳波を行う。急性症候性発作(原因を治せば再発しない発作)と、てんかんの発症とを区別する。
POINT
・てんかんの発症は小児期と高齢期に多い(二峰性)。 ・高齢発症てんかんの原因で最も多いのは脳卒中(3〜4割程度)で、次いで神経変性疾患(Alzheimer型認知症)、脳腫瘍、頭部外傷である。 ・皮質を含む病変、出血性脳卒中ではけいれんが起こりやすい。脳卒中後7日を過ぎてからの遅発発作は再発しやすい(脳卒中後てんかん)。 ・高齢者のてんかんは、非けいれん性の焦点意識減損発作が多く、認知症と間違えられやすい。
